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週刊isologue(イソログ)
2009.04.20(第3号)
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■ソフトバンクは「大丈夫」なのか?
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本号の図表付きウェブページは、
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今回は、ソフトバンクさんについて取り上げさせていただきます。
ソフトバンクは、3年前の2006年4月24日、英国のボーダフォン・グループ等が保有していたボーダフォン日本法人(以下「ボーダフォン」)の株式をTOB(株式公開買付け)により取得、子会社化して、「携帯電話事業者」へと変身を遂げました。
「犬のお父さん」のCMが全CM中の好感度第1位で、契約者の純増数でも1位をキープしつづけており、主力の携帯電話事業の営業面は絶好調のように見えます。
一方で、先日4月10日にCDOの損失で750億円の特別損失を計上することが発表されました。また、巷では、その時に調達した1兆4000億円の資金に付随する「コベナンツ(財務制限条項)」により、ソフトバンクの経営は大きな制約を受けているのではないかと心配する人もいらっしゃるようです。
絶好調に見えるソフトバンクに不安材料は無いのでしょうか?
今月4月30日に行われる予定の「2009年3月期決算」の発表を控え、今回は、有価証券報告書、決算発表会ビデオその他ソフトバンクが開示している各種の資料から、ソフトバンクの現状をどこまで読み解くことができるのか、来週の決算報告会のどのへんに注目して見ればいいのか、一緒に考えてみましょう。
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■ソフトバンクの成長過程
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まず最初に、「ソフトバンク」という企業がどういう企業なのか、簡単に振り返ってみましょう。
ソフトバンクは、昭和56年9月にパソコン用パッケージソフトの流通を行う「ソフトウエアの卸売業」として設立されますが、その後、パソコン関係の雑誌などを出版する「出版業」へと変わっていきます。
平成8年には、米国のYahoo!社とのジョイントベンチャー「ヤフー株式会社」を設立するとともに、米国のYahoo!社にも投資を行い、今度は「インターネット企業」へ変身していくことになります。
そして平成13年には、ブロードバンド(ADSL)サービス「Yahoo! BB」を立ち上げ、「通信事業者」へと変貌します。
さらに平成16年には日本テレコム株式会社を買収、平成17年にはケーブル・アンド・ワイヤレスIDC株式会社を買収します。「Yahoo! BB」は、顧客に直接接続する物理的な回線は自分では持たず、電話会社の既存の電話回線を借りて、その上で高速なインターネットサービスを提供するものでしたが、自ら回線設備等の物理的設備を持つ、設備投資型の「電話屋」さんに変身していったわけです。
そして、平成18年4月にはボーダフォンを買収し、より多額の投資を必要とする「携帯電話事業者」への変貌を遂げました。
このときのソフトバンクとボーダフォンの財政状態を比較したものが、下の図です。
図表1 ボーダフォンとソフトバンクの貸借対照表と時価総額の比較(有価証券報告書等より作成)
図表2 ボーダフォンとソフトバンクの損益計算書の比較(有価証券報告書より作成)
このようにソフトバンクは、計上利益が275億円「しか」なく欠損金も残る会社だったのに対し、ボーダフォンは経常利益が744億円もあり、自己資本もはるかに大きい企業であって、まさに「小が大を飲む」買収だったわけです。
このときの買収スキームの概要を示したものが、下図になります。
図表3 ボーダフォン買収スキームの概要(開示資料等より作成)
この買収スキームのポイントは、ソフトバンクが「自らの体力で」ボーダフォンを買うのではなく、いわば「ボーダフォンの事業自体を担保にしたローン」でボーダフォンを購入し、仮に携帯電話事業がうまくいかなくてもソフトバンク自体がその借金を代わりに返済する必要がないようにしたところにあります。
上記の図は買収当時のものですが、この後2006年11月にBBモバイル社が借りていたローンを、WBS(Whole Business Securitization:事業証券化)を使ったスキームで借り換えています。
また、ソフトバンクは、万が一携帯電話事業がうまくいかなくても自分がその借金を背負うことにはならない代わりに、携帯電話事業の経営を完全な自由意志で行えるわけではなく、各種の制約が儲けられています。これが後述する「財務制限条項」(コベナンツ)です。
2006年10月24日から実施された「MNP」(Mobile Number Portability=番号ポータビリティ。携帯電話事業者を変えても電話番号を変更しなくて済む制度のこと)の半年前というタイミングは、営業面から見て「今しかない」というタイミングだったかも知れません。
加えて、こうした大掛かりなスキームでの1兆円を超える資金調達というのは、3年前だからこそできたのであって、少なくとも米国金融危機後の現在の金融環境ではとても無理だったであろうと考えると、資金調達面から見ても、ボーダフォン買収のタイミングというのは、絶妙だったと言えるのではないかと思います。
ここ10年のソフトバンクの売上高と利益の推移を振り返ってみると、下のグラフのように、平成13年に「Yahoo! BB」事業を開始した以降、ものすごい赤字がずっと続いており(経常利益ベースでは、平成15年3月期に最大の1098億円の赤字を記録)、日本テレコムやIDCなど、固定電話事業を買収したあたりから売上げが積み上がり、平成18年4月のボーダフォン買収以降、売上げが一気に2兆円の大台に乗るとともに、連結の経常利益も大幅な黒字に転じています。
図表4 連結売上高及び計上利益の推移(有価証券報告書より作成)
まとめますと、ソフトバンクは創業以来ずっと、自分がやっている事業の現状には満足せず、常にリスクのある新しい事業に参入し、自らを大きく変身させてきたと言えます。
ADSLのサービスに参入した初期には、駅前で加入セットを配るといった派手なプロモーションや激安の料金で話題を集める一方、サービスの不調などのごたごたも多く批判を浴びましたが、一方で、閉鎖的だった通信業界に高速なインターネットサービスを提供し、市場に競争を持ち込むことで、先進国の中でも高いとは言えなかった日本のブロードバンド普及率を一気に世界のトップクラスに引き上げる効果も果たしました。
当初、「ソフトの卸売業」「出版業」だったソフトバンクは、ヤフーなどのインターネット事業を取り込み、現在の主力事業は、ADSLなどの「ブロードバンド事業」、「固定電話事業」と「携帯電話事業」の3本柱となっています。
IT産業はイノベーションが極めて頻繁に発生する市場ですので、ソフトバンクの歴史を振り返って、「もしあのとき現状に満足して途中で立ち止まっていたら今、どうなっていただろう?」と考えると、どこで止まったとしても、今では時価総額たかだか数十億円から数百億円程度どまりの企業になっていたのではないかと思われます。
図表5 平成20年3月期のセグメント情報(有価証券報告書より)
ソフトバンクは、「大赤字なのに、IR(インベスター・リレーションズ)だけでうまいこと乗り切っている企業」といったイメージが強かったかも知れませんが、今や、会計上もキャッシュフロー上も、どの主力事業も黒字を計上する事業に育って来たと言えるかと思います。
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■決算説明会ビデオから知る、最近のソフトバンクの経営状況
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そんなソフトバンクの最近の概要を知る最もわかりやすい方法は、決算説明会とアナリスト説明会の「ビデオ」を見ることでしょう。
本日現在最新の2009年3月期第3四半期決算説明会のビデオは、下記のURLから見ることができます。
http://www.softbank.co.jp/ja/irinfo/investor/presentation_review/index.html
「決算説明会」のビデオは、孫社長直々に説明をしていて、大変わかりやすくなってます。
また、より詳細な経営指標についての説明は、同じページの「アナリスト説明会」のビデオで説明されています。
こちらは孫社長は登場しませんが、ソフトバンクの経理や財務の責任者に、証券会社等のアナリストの方々がかなり突っ込んだ質問をされているので、「どんなことを念頭に置きながら質問しているのか?」と考えながら見ると、非常に参考になるのではないかと思います。
(ただし、「決算説明会」のビデオは2時間ちょっと、「アナリスト説明会」も1時間20分ほどになり、両方見ると3時間20分を超しますので、念のため。)
特に、孫社長が直接説明されている「決算説明会」の説明は、ソフトバンクの事業の構造の大枠や、事業の「いい点」を知るのに大変参考になります。この説明を聞くと、ソフトバンクの携帯事業が、破竹の勢いで伸びているように思えてきます。
例えば、
- グループ全体のキャッシュフローが好転していること。
- 携帯事業買収に伴う借り入れ残高は、財務制限条項で定められたスケジュールよりも大幅に前倒しで返済が進んでいること。
- 携帯事業、ソフトバンク本体とも、格付けが安定的に推移していること。
- 携帯事業の契約数も2009年1月に2000万件を突破し、契約の純増数でも、ドコモ、auを常に上回っていること。
- 「犬のお父さん」等が出演するCMは高い好感度を得ており、(携帯事業者だけでなく)、全CMの中で1位を獲得し続けていること。
- 利用者の平均利用期間が3年を超えたこと。
- 「短期解約数」が大幅に減少し、これに伴って貸倒関連のコストが大幅に減って来ていること。
- データARPU(1人あたりのデータ通信料)も増加してきていること。
等、明るいニュースが前面に押し出されて話されています。

図表6 携帯事業買収に伴う借入残高の推移(決算説明会資料より)
「短期解約数」というと、それほど悪い概念に聞こえないかも知れませんが、ソフトバンクでは割賦販売を利用して代金を払わずに携帯端末を持って帰れることから、これが不正に利用され、6ヶ月以内に解約する「短期解約」した人に対する債権のほとんどが貸倒れになってしまった、とのことです。
ソフトバンクモバイルの貸借対照表には、平成20年9月30日現在で810億円もの貸倒引当金が計上されています。売上が1兆円を超える企業ではありますが、それにしても、ビックリするような額です。この対策として、本人確認その他の審査を非常に厳格にしたところ、「短期解約」は急速に減り、貸倒関連費用も急速に減少したとのことです。

図表7 割賦債権貸倒引当金・損失額(P/L計上額)(決算説明会資料より)
また、ソフトバンクは、携帯端末を割賦で購入した顧客に、「月月割」という通信料の割引を行っているので、 24ヶ月の割賦期間を超えて利用者の平均利用期間が伸びるということは通信収益の好転につながるわけですが、この利用者の平均利用期間が延びているという説明もありました。

図表8 1人当たり通信料と端末利用期間の推移(決算説明会資料より)
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■懸念材料
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一方で、(ソフトバンクさんは、非常に真面目で積極的な開示を行ってらっしゃるのは確かですが)、こうした説明会は限られた時間の中で会社側がアピールしたい点を中心に話されるので、会社側の説明だけを聞いて会社の全貌がわかったことにならないのは当然です。
以下では、ソフトバンクの経営に懸念材料が無いのかどうか、考えてみます。
■財務制限条項
まず、ソフトバンクの経営にちょっとした知識のある人が最も懸念しているのは、「財務制限条項」(=covenants=コベナンツ)が経営の首を絞めることがないのか?ということでしょう。
この財務制限条項については、有価証券報告書の連結貸借対照表の注記11「財務制限条項」(平成20年3月31日期の有価証券報告書の場合89ページ)に開示されていますが、制限となる金額の具体的な数値イメージまでは開示されていないようです。
財務制限条項は、大きく、「携帯電話事業」のものと「それ以外のソフトバンク・グループのもの」に分かれますが、携帯電話事業に対する財務制限条項の具体的条件のイメージについて最も参考になるのは、2006年11月25日号の週刊東洋経済の特集記事ではないかと思います。
ソフトバンクから開示されている財務諸表の注記によると、制限が加わっているのは、累積負債償還額、修正EBITDA、レバレッジ・レシオや契約者数とされていますが、この3年前の記事に書かれているグラフと現時点での数値を比較すると、
- 「契約者数」については、経営陣が最低限守らなければならないミニマムケースが1600万人ちょっと、マネジメント側が当時想定したマネジメントケースが1800万人ちょっとなのに対し、すでに2000万人を超える契約者を獲得している。
- 「負債償還目標」(借金の返済目標)については、ミニマムケースでは現時点ではまだほとんど返済しなくていいことになっており、マネジメントケースでも目標を3000億円程度としているのに対し、実績としても同程度の返済を行っている。
など、一応、順調に進んでいるように見えます。
決算説明会でも、この財務制限条項に抵触している事実はないとしていますし、連結貸借対照表の注記にも、
「なお、平成20年3月31日現在、当該財務制限条項には抵触しておりません。」
とあるので、少なくとも昨年の3月時点で財務制限条項へ抵触していないことは、第三者である監査法人のチェックも入っていると言えるかと思います。
■ネットワーク設備は大丈夫か?
週刊東洋経済の記事にあるデータで最も制約がキツそうなのが、「半期毎の設備投資額の累計」に関する制限ではないかと思われます。
上記の東洋経済の記事のグラフを見ると、2009年9月末までの累計で5000億円ほどの投資しか認められていません。
後述のソフトバンクモバイルの財務諸表から単純な投資キャッシュフローを見ると2008年3月期で既にこの金額をオーバーしてますが、財務制限条項に抵触している事実はないとされていますので、契約書に定義された投資の範囲には収まっていると考えられますが、それでも投資制限の上限ギリギリまで投資をしていることが想像されます。
旧ボーダフォンに対しては「つながらないエリアが多い」という不満が強かったわけですが、携帯電話が繋がりにくいなどの「品質」が低ければ、いくらCMで新規の顧客を獲得しても、中長期的には客離れを招いてしまいますので、設備への投資は非常に重要です。
同記事によると、
「ただし、事業が順調で契約者数や累積負債返済額がマネジメントケースを上回ったり、利益が上向くなどの諸条件を満たせば、余剰のキャッシュフローを利用して、上限以上の設備投資ができる自由度もある。」
とのコメントが書かれています。
マネジメントケースを上回る契約者獲得や早期の返済を行っているのも、「早く、設備投資の制約から逃れたい」ということがあるのではないかと思われます。
この限られた予算の中で大規模な設備投資を行わなければならない苦労が非常によくわかるのが、昨年4月にソフトバンクモバイルの宮川潤一氏へインタビューした、下記の日経トレンディネットの記事。
「基地局4万6000局達成の裏に苦労あり! 孫社長を支えるソフトバンクモバイル宮川潤一CTO」
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20080422/1009741/?P=2
とりあえず、形だけ作らなくてはならない。10月にMNPがあるのはわかっており、MNPまでには何とかしたい。そこで、『なんちゃって基地局』で良いから早く作れと指示をした。
鉄塔をつくろうとするから時間もかかるし、手こずってしまう。そこで、コンクリートポールを建てまくった。電柱の用地交渉は簡単で、この場所だけをかしてくれといってOKがもらえればいい。こうすると、工事開始してから設置まで1カ月かからない。
それまで1万8000局しかなかった基地局を、厳しい予算制約の下、2年で約束どおり4万6000局にしてしまったというのですから、(「業界」の常識との対立やトラブルはあったにせよ)、とにかくものすごい実行力です。
このインタビュー時点では、
データユーザーを一人満足してもらおうとすると、ホワイトプランを使っている通常ユーザーの何人分にも相当するトラフィックになる。計り知れない破壊力なんです。
と、パソコン向けの定額制には社内で宮川氏一人が反対していたとのこと。
基地局等の設備投資のスピードや財務制限条項の金額的制約の下では、パソコンユーザに定額制でガンガン利用してもらう設備投資をするのは厳しいという宮川氏の見解が示されているかと思います。
今年2月3日に、ソフトバンクがイー・モバイルと提携してパソコン通信向け定額制サービスを開始する検討が行われることがマスコミで報じられましたが、提携によってソフトバンクが設備投資無しにサービスを提供することは、財務制限条項の投資制約の縛りをくぐり抜けて、孫社長の「携帯のインターネットマシン化を図る」というビジョンを達成する、うまい手(または窮余の一策)なんではないかと思われます。
■一人当たり売上は改善しているか?
買収時に孫社長が示した4つのコミットメントは、「営業」「端末」「ネットワーク(基地局等)」「コンテンツ」の4つ。
「コンテンツ」については、2009年からソフトバンク端末からしか見られないお笑いの大会「S-1バトル」も開始され、(「M-1グランプリ」「R-1ぐらんぷり」が、それぞれ優勝賞金1000万円、500万円なのに対し)「毎月」賞金1000万円が出るとともに、年間チャンピオンには1億円が出るという、「破格」の賞金体系になってます。
これがどれだけ営業に寄与するかはまだこれからを見ないとわからないかと思いますが、CDOの損失で750億円出したり、貸倒引当金が800億円になることに比べたら、1000万円や1億円は(お笑い芸人にとっては無視できない金額だと思いますが)、ソフトバンクにとっては屁でもない金額、ということかと思います。
「未だに、ドコモやauに比べると繋がりにくい場合がある」「iPhoneなどの高性能機種はともかく、普通の機種は、ドコモやauに比べると見劣りがする」といった意見も聞かれないわけではないですが、それでも契約者数純増1位をキープし続けているわけで、CMの好感度などとあわせて考えると、よほどユーザーを裏切るような不祥事等がない限り、(CDOの損失とか財務制限条項がどうこうといった、専門的知識がある人しかわからないような要因では)、一般大衆から急にそっぽを向かれるといった事態は考えにくそうです。
一方で、ソフトバンクのポジティブな発表も慎重に見なければならない面もあります。
たとえば、以下の図は、決算説明会で用いられていた「1人あたりの支払額が伸びている」という図ですが、
図表9 一人当たり月額支払総額(決算説明会資料より)
図の一番上の「端末割賦請求分」(ウェブ版で黄緑色の部分)というのは、契約時に総額で売上計上した携帯端末の割賦債権を回収しているだけですから、(もちろんキャッシュフロー的にはプラスですが)、「売上」(損益計算書)に計上される数字ではありません。
また、いわゆる「ARPU」(アープ。Average Revenue Per User=一人当たり売上)にも含まれない概念ということにもなるかと思います。
携帯端末の代金は契約時に総額を売上に計上しているわけですから、図の黄色+紫のところ(いわゆるARPU)だけで考えてみると、引き続き下降トレンドに見えますし、あまり楽観的にはなれないかと思います。
■ソフトバンクモバイルは本当に儲かっているのか?
決算説明会やソフトバンクの開示資料では、結論的な携帯電話事業全体の損益計算書等の全体像は示されていないと思いますが、携帯事業を行うソフトバンクモバイルという会社は本当に儲かっているのでしょうか?
ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)は非上場会社なので、通常であればこの決算内容を知ることはできないことも多いのですが、旧ボーダフォンが元々上場していたので、未だに有価証券報告書を提出しています。四半期ごとには報告書は提出されていませんが、半期報告書も提出されています。
通常、TOBして非公開化すると、買収したSPC(特別目的会社)などと合併させて元の法人格を消滅させ、有価証券報告書の提出義務もなくなるのが普通ですが、おそらく、旧ボーダフォンは電気通信事業の免許を持っていた関係上そういうスキームが取りにくかったからか、とにかく、現在も有価証券報告書を提出しています。
レンダー(借金の貸し手)に対する開示としては任意の監査でも構わないという考え方もありますが、有価証券報告書に虚偽記載をすると厳しい刑事罰もあるので、単なる契約違反とは重みが異なってくるという効果もあるかと思います。
このソフトバンクモバイルの有価証券報告書は、ソフトバンクやソフトバンクモバイルのホームページ上にも載せられていないようですが、金融庁のEDINET
で、提出会社「ソフトバンクモバイル」で検索すると見ることができます。
この有価証券報告書と半期報告書の損益計算書から拾った数字が下記の損益計算書です。
図表10 ソフトバンクモバイルの連結損益計算書の概要(単位:百万円)
これを見ると、トップラインの電気通信事業の営業収益は、買収2年後の平成20年3月期までは下降ラインをたどっており、平成20年9月の中間期では若干上昇に転じています。「ARPU」の下降で収益が圧迫されていたのが、ARPUが下げ止まって、やっと契約者数の増加が効果を得て来た、というところでしょうか。
営業利益ベースでは順調に利益を伸ばしているようですが、その内訳にはいろいろ不思議なところもあります。
2月の決算説明会の孫社長によると、「携帯電話の販売自体は販売奨励金などをたくさん支払わないといけないので、うまみのない事業だ」とおっしゃってますが、附帯事業営業収益の大半が携帯電話の販売だとすると、平成20年3月期に利益が2000億円も出る非常においしい商売だ、ということになります。
(もしそうだとすると、上述の通り、プラス要因として説明されるユーザーの買い替え期間が伸びることは、本当にプラスになるんでしょうか?)
また、この期はその前の期に比べて、 携帯端末の販売などを含む附帯事業営業収益が1000億円も上昇したのに、附帯事業営業費用はむしろ下がっているというのも不思議です。(以前の決算説明会等で説明があったかも知れませんが。)
そして、平成20年9月期ではまた附帯事業営業収益が900億円下がり、営業費用は元に戻っています。
電気通信事業の費用の内訳を見ても、(投資の内訳は見ていませんが)、それなりに投資はしているのに減価償却費はむしろ下がり気味というのも不思議。
何より、平成20年9月期の中間決算では、営業費が単純年間換算で1000億円も下がっているのが不思議です。
中間連結損益計算書関係の注記で、
従来、販売奨励金は全額を電気通信事業営業費用に計上しておりましたが、電気通信事業会計規則の改正に伴い、当中間会計期間より販売奨励金の一部を附帯事業営業費用に計上しております。 この変更に伴い、電気通信事業営業費用は30,993百万円減少し、電気通信事業営業利益および附帯事業営業費用は同額増加、附帯事業営業利益は同額減少しております。
とありますので、年間600万円程度はそれで説明が付くと思いますし、 それを加味すると附帯事業は平成20年3月期と同程度の利益率になりますが。
■ソフトバンクの「経営風土」は大丈夫なのか?
ソフトバンクさんのこれらの決算が、実は「一般に公正妥当と認められない」ものである、といった可能性は低いのではないかと思います。
一方で、破綻したアメリカの通信事業者ワールドコムが、「EBITDA」といった公的に定義が定まっていない指標と会計の表示を使い分けたり、設備投資の際にリースや減価償却といったものの性質を使い分けていたことを考えると、会計上の利益で情報通信事業の経営実態を見抜こうとする場合には非常に注意しなければならない、ということは言えるかと思います。
もう一つ、前述の通り、ソフトバンクモバイルの貸借対照表には、平成20年9月30日現在で810億円もの貸倒引当金が計上されています。
この巨額の貸倒引当金の繰入額を計算に入れても利益が伸びているので、それはそれで大したものですが、そもそも前述の通り、これらが利用者による不正な「短期解約」によって回収が見込めないものだとすると、そもそも「売上」に計上された数字というのは何だったんじゃい?ということにもなります。
(つまり、売上や契約者数は、その分、膨らんでいたわけです。)
もちろん、これが架空取引といった会社ぐるみの悪質なものである可能性は低いと思いますが、財務制限条項の制約から、契約数の確保が最優先されるという風土が背景にあったことは事実でしょうし、それによってソフトバンクの目が届かないところで販売代理店等が無理な販売をしたといった面もあったかも知れません。
アナリスト説明会で「振り込め詐欺などの犯罪に使われる携帯は、ソフトバンクが一位」といった指摘もなされていましたし、この810億円のすべてではないにしても、相当な金額が「反社会的勢力」に流れたことも想像されます。だからこそ、警察と一体になって、入り口の「審査」を厳しくしてきたということでしょうけれども。
また、前述の通り、先日4月10日にCDOの損失で750億円の特別損失を計上することが発表されました。
「織り込み済み」ということもあったのか、株価はあまり反応しませんでしたし、財務制限条項のEBITDAは特別損失は含めないことが多いと思いますので、この損失が財務制限条項に直接影響するということもないのかも知れません。
(EBITDAは公的に基準等が定められている概念ではないので、具体的には契約書上の定義を見る必要があり、注意は必要です。)
とにかく、ビジネスが兆円単位の巨大なものですから、ある程度庶民感覚と違うのはしかたがないにしても、810億円とか750億円といった額の損失を出したら、普通はトップが交代したり、担当者が処分を受けたりするのではないかと思います。ソフトバンクモバイルでは、契約者数が増え最終利益やキャッシュフローが目標を上回っていればすべてOKということで、誰も「おとがめ無し」だったのでしょうか?
役職員全員がそういう荒っぽい感覚で経営を行っているとしたら、経営風土に関するリスクとしては、非常におっかないものがある気がします。
■ソフトバンク本体の資金繰りは大丈夫か?
以上で見て来たことをまとめますと、主力の携帯電話事業における投資の制約が厳しそうではあるものの、長期で資金が確保されていることから、一部の方が心配されるような、目先ですぐに財務制限条項に引っかかる事態の兆候は明確には現れていないのではないかと思います。
また、携帯電話事業以外の財務制限条項のうち純資産額に関するものは、どの事業も利益が出ているのでヒットしないはずです。
このため、心配なのは、財務制限条項下での携帯事業以外のソフトバンク本体などの資金繰り、ということになります。
ソフトバンクは、携帯電話、ヤフー、固定電話など、各セグメントで大きな利益を計上していますし、全体でも「黒字」なのですが、携帯電話事業子会社で稼いだ資金は前述の通り勝手に「親」が使うというわけにいかないですし、ヤフーも上場会社なので、「子供」の金を「親」がむしり取るというわけにはいきません。それなりに、双方にメリットがあるという「理屈付け」が必要です。
ソフトバンクは多額の社債の償還を控えているので、いろんな手で資金を調達する必要に迫られています。
本年2月19日に、ヤフーにデータセンターを営む子会社株式を売却して、450億円の資金を「吸い上げ」ることを発表しているのも、そうした動きの一環と考えられるかも知れません。
次世代インターネット事業の戦略的基盤構築に向けた当社子会社株式のヤフー株式会社への譲渡について
http://www.softbank.co.jp/ja/news/press/2009/20090219_02/index.html
イー・モバイルとの提携も、前述の通り、財務制限条項の制約のもとで、設備投資をせずに「データARPU」を引き上げる方策、と考えることができます。
社債の償還資金については、アナリスト説明会でも「手当をしている」と説明されていますが、もちろん、調達方法が完全に決定されたわけではないと思います。
ソフトバンクの事業は全体でも個々の主要事業ごとにも「黒字」なわけですが、会計上の利益が黒字かどうかと「資金」の問題は異なります。経済環境が普通の時には、黒字の企業が資金繰りに詰まるなんてことは考えられないわけですが、今の金融環境は「普通」とはとても言えないと思いますし、ソフトバンクの資金需要に応えられる先は限られますので、大いに注意は必要かと思います。
他の銀行や事業会社は、増資や劣後債の発行、安定した他社との資本提携などで資本力の増強を図っていますが、ソフトバンクさんも今後、そういったアクションに出るのでしょうか。それとも「黒字」で業績が絶好調なので、リスクを恐れないソフトバンクさんとしては、このまま突っ走るのでしょうか。
以上のようないろいろな問題意識を持つと、来週30日のソフトバンクさんの決算発表会を、興味深く見られるのではないかと思います。
(ではまた。)
【以下、参考資料】
ソフトバンクの有価証券報告書の連結貸借対照表の注記として開示されている内容は以下の通り。
(平成20年3月31日)
※11 財務制限条項
当社グループの有利子負債には財務制限条項があり、当社グループはこの財務制限条項に従っております。主な財務制限条項は次の通りですが、これらに抵触した場合には当該有利子負債の一括返済を求められる可能性があります。(複数ある場合は、条件の厳しい方を記載しております。)
(1) 事業年度末および中間会計期間末における当社の貸借対照表に表示される純資産の部の金額 (ただし、繰延ヘッジ損益および新株予約権の金額を除く)が、前年同期末における貸借対照表に表示される純資産の部の金額比75%を下回ってはならない。【筆者注:この項目は、平成19年3月期の注には付いてますが、平成20年3月期の注では削られています。】
(2) 当社の各四半期末における純資産の額は次の[1]および[2]のいずれか大きい方を下回ってはならない。
[1] 最近事業年度末における当社の純資産の額の75%
[2] 平成17年3月31日現在における当社の純資産の額の60%
(3) ソフトバンクBB(株)およびソフトバンクテレコム(株)の事業年度末および中間会計期間末における貸借対照表において債務超過とならないこと。また、BBモバイル(株)の連結会計年度末および中間連結会計期間末における連結貸借対照表において債務超過とならないこと。
(4) 次の対象会社(以下「対象会社」という)は、後述の例外規定を除いて、2013年満期ユーロ建普通社債の払込日である平成18年10月12日以降、原則として対象会社以外からの債務負担行為(注)および優先株式発行ができません。
(対象会社)
(a) 当社
(b) ソフトバンクBB(株)
(c) ソフトバンクテレコム(株)
(d) ソフトバンクモバイル(株)
(e) モバイルテック(株)
(f) BBモバイル(株)
(g) (株)テレコム・エクスプレス
(h) (株)ジャパン・システム・ソリューション
(i) SBBM(株)
(例外規定)
主な例外規定は次の通りであります。
イ 当社のコミットメントラインに基づく借り入れなどは、借り入れ枠2,000億円まで許容される。
ロ ボーダフォン(株)(現 ソフトバンクモバイル(株))買収に係る借り入れ(その借り換えを含む)は、元本総額1兆4,500億円まで許容される。
ハ 対象会社のうち移動体通信事業セグメントに属する会社((d),(f),(g),(h))の設備投資に関する債務負担行為(注)は、元本総額4,000億円まで許容される。
ニ ソフトバンクテレコム(株)の借り入れなどは、元本総額1,750億円まで許容される。
ホ 対象会社の平成18年10月12日(本社債の払込日) 現在の債務についての借り換えなどは、同債務と同額の元本総額まで許容される。
ヘ [1]対象会社のリースおよび[2]対象会社以外の当社子会社がリースを調達する場合に当社がリース会社に対して行う保証などは、[1][2]を合計して元本総額4,000億円まで許容される。
ト 当社の行うヤフー(株)株式を用いた寄託取引は、原則2,000億円まで許容される。
チ イからト以外に、本社債と同順位の債務負担行為(注)は1,500億円まで許容される。
(注) 債務負担行為には、新規借り入れ、リースなどが含まれます。
(5) ソフトバンクモバイル(株)は、WBSファンディング(注1)から金銭の信託を受けた特定金外信託受託者たるみずほ信託銀行(株)(貸主)からのローンの借り入れ(以下「SBMローン」)を行っております。
当該SBMローンの契約上、ソフトバンクモバイル(株)は、原則として事業経営における一定の自由度が許容されております。ただし、同契約に定める財務に係る一定のパフォーマンス基準(累積負債償還額、修正EBITDA(注2)、レバレッジ・レシオ(注3))や事業に係る一定のパフォーマンス基準(契約者数)を下回った場合、その重要性や期間に応じて、ソフトバンクモバイル(株)の事業に対する貸主の影響力が強まり、設備投資の支出制限、新規サービス展開についての事前承認、過半数の取締役選任、さらにはソフトバンクモバイル(株)株式を含む担保提供資産に対する担保権行使等の可能性があります。
なお、平成20年3月31日現在、当該財務制限条項には抵触しておりません。
(注)1 WBSファンディング
WBS(Whole Business Securitization:事業証券化)スキームにおいて資金の出し手である国内外金融機関から調達した資金総額1兆4,419億円を、特定金外信託受託者を通じてソフトバンクモバイル(株)に対するSBMローンに充てることを目的とするSPC(特定目的会社)。なおソフトバンクモバイル(株)は、WBSファンディングが調達した総額1兆4,419億円から金利ヘッジコストや金利リザーブ等を差し引いた1兆3,660億円を特定金外信託受託者たるみずほ信託銀行(株)から借り入れました。
2 修正EBITDA
EBITDA(Earnings Before Interest,Taxes,Depreciation and Amortization)に、営業経費に計上される支払リース料を減価償却費と同様に調整した額
3 レバレッジ・レシオ
負債残高÷修正EBITDA
なお負債残高には、設備ファイナンス、当社グループおよび Vodafone Overseas Finance Limitedからの劣後ローン、既存社債を含まない。
(6) ソフトバンクテレコム(株)の各中間連結会計期間末および各連結会計年度末における連結貸借対照表の 純資産の額は、次の[1]および[2]のいずれか大きい方を下回ってはならない。
[1] 最近連結会計年度末のソフトバンクテレコム(株)の連結貸借対照表における純資産の額の75%
[2] 平成17年3月31日現在の旧ソフトバンクテレコム(株)の連結貸借対照表における純資産の額の60%
【筆者注:上記の引用部分で、ウェブ版に伏される太字、下線の強調などは筆者によります。また、機種依存文字である丸数字は[1][2]といったカッコ付き数字に、株式会社を表す外字は(株)に変換してあります。】
【お詫びと訂正】
前回第2号の記載で、
「AIG Financial Products Corpには、今年2月18日現在で、122億円分の想定元本分のCDSが残っているとのことです。」
とあるのは、正しくは、
「AIG Financial Products Corpには、今年2月18日現在で、122億ドル分の想定元本分のCDSが残っているとのことです。」
でした。
お詫びして訂正いたします。
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