週刊isologue(第44号)ベンチャーキャピタルの財務諸表を読み解く(各社決算編)

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週刊isologue(イソログ)
                     2010.02.01(第44号)
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■ベンチャーキャピタルの財務諸表を読み解く(各社決算編)
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(追記あり:2010/2/4 8:53)

先週述べたように、ベンチャーキャピタル(VC)の会計は、ベンチャーキャピタル業だけに留まらず、ファンドやSPCという「会社の外」にある宙ぶらりんなものを会計上どのように取り扱ったらいいか、という非常に悩ましい問題を含んでいます。

投資事業有限責任組合(LPS)などのファンドは 投資した証券を共有(合有)しているので、従来は持分に応じて売上や損益を反映させるという方法が一般的でした。
しかし、最近はファンドを「支配」して自由にコントロールしている場合には、ファンドを連結しないといけません。

そうなると、ファンドのVC以外の他の出資者(LP)が保有する分も、連結ですべて資産負債や損益に載って来るので、売上や資産などの会社の規模が非常に膨らんで見えてしまいます。

つまり、ベンチャーキャピタルの会計は「自分と他人を分ける境界線はどこか?」というエヴァンゲリオン的な問題を含んでおり、本質的にややこしいのです。
ベンチャーキャピタルの会計がもし分かりやすいものだったら、エンロン事件もライブドア事件も日興コーディアルの連結の問題も発生しなかったかも知れません。

「会計とは何か?」という哲学的な問いを最も強く発しているのがベンチャーキャピタルの会計だと言えるかも知れないと思います。

そんなことを踏まえつつ、以下、上場している(上場していた)各社の開示資料から、決算内容を見てみましょう。

 

■株式会社ジャフコ

ジャフコも、自分が「コントロール」しているファンドについては連結を一時期していましたが、先週述べた通り、信託を用いて「ファンドを支配してません」ということにして、連結から外すことで、以前の処理と同様の結果になる処理に復帰したわけです。

ジャフコを有価証券報告書の数字から拾って作成したグラフで見てみましょう。

 

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図表1.ジャフコの売上高、経常利益、当期純利益の推移(単位:百万円)

 

上図のように、連結方式を開始した平成19年3月期から、売上高が上がってトガって見えます。

同じくジャフコの貸借対照表の総資産及び純資産の図は以下の通り。

 

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図表2.ジャフコの総資産額及び純資産額の推移(単位:百万円)

 

ジャフコは、会計監査を受けた正式な財務諸表においては、H19年3月期、H20年3月期と従来の方式と異なる方式を採用しましたが、21年3月期には、前述の信託方式を使ってまた元の方式と同様の数字に戻っています。

決算短信や決算説明のプレゼン資料では、「従来方式(自己持分方式)」として、ファンドへの当社自己出資持分のみを反映した連結決算情報を開示してますので、その差を見てみましょう。

下記の図で、「自」と書いてある折れ線が、ジャフコが「従来方式(自己持分方式)」と呼ぶ方式による数値です。

 

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図表3.ジャフコの売上高、経常利益、当期純利益の推移(単位:百万円)

 

これを見て分かるとおり、やはり、平成19年3月期、平成20年3月期の売上が大きく跳ね上がっているのがわかります。
しかし、どちらの方式でも、利益については両者ほぼ同じ数字になっています。

 

2000年ころの「ネットバブル」時期には売上(株式の売却)も利益も大きかったのが、その後下降線をたどり、一時期持ち直したけれど、リーマンショックで大きく落ち込んだ図になっています。

アメリカでのVC投資ボリュームの図などを見ても、タイムラグや額や率の違いはあるものの、基本的にはこれと同じ形のトレンドを描いています。

つまり、日本のベンチャー企業はドメスティックなビジネスモデルが多いので、世界とあんまり関係ないかというとそうではなくて、投資環境は世界(アメリカ)とリンクして変動する宿命にあると思っておいた方がよさそうです。

 

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図表4.ジャフコの総資産額及び純資産額の推移(単位:百万円)
(「自」とあるのが、ジャフコが「従来方式(自己持分方式)」と呼ぶ方式による数値。)

 

一方、貸借対照表の方は、平成19年3月末分だけが総資産額、純資産額ともに、「従来方式(自己持分方式)」と財務諸表の数値が大きく違っているだけで、後は基本的には同じです。
(20年3月末にはすでに新しい信託方式に移行したため、1期分だけが突出している。)

 

参考まで、今期に入ってからの第1、第2、第3四半期の決算の概要を見てみますと以下のようになっています。


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図表5.ジャフコの今期の四半期決算の推移(単位:百万円)

 

つまり、赤字モードは続いています。

 

■大和SMBCキャピタル株式会社

ご案内の通り、大和SMBCキャピタル株式会社は、株式会社大和証券グループ本社が公開買付(TOB)者となって、昨年度、大和証券グループ本社の100%子会社が60%、株式会社三井住友銀行が40%保有する非上場会社になりましたので、現在は上場しておりません。

TOBをして上場廃止をする決定をした際に、大和SMBCキャピタルから提出された意見表明書に、100%子会社化して上場をやめる意思決定をした経緯が書いてあります。

ちょっと長めですが、引用します。(下線・強調は筆者による。)

 

当社の親会社である株式会社大和証券グループ本社による当社株券等に対する公開買付けに関する賛同意見表明のお知らせ

本公開買付に賛同するに至った意思決定の過程

(前半部分略)
 現在、当社の経営環境は、VC投資及びバイアウト投資ともに非常に厳しいものとなっております。平成 18年度に187社を数えた国内の新規上場企業数は、平成19年度に99社、平成20年度には34社へ減少するとともに、新規上場価格も低迷しており、投資先企業の投資資金回収環境の悪化は顕著なものとなっております。さらに、米国に端を発した世界的な金融市場の混乱による株価の下落や急激な為替の変動等の影響から企業収益が急激に低下し、景気が急減速している中、投資先企業の多くにおいても資金繰り状況の悪化及び業績の悪化に伴い企業価値の低下が避けられず、多くのベンチャーキャピタルにおいては、保有するVC投資先の営業投資有価証券に関して多額の引当金を計上せざるを得ない状況になっております。一方、バイアウト投資についてもVC投資同様、株式市場の低迷や企業収益の悪化等による企業価値の低下が避けられず、保有するバイアウト投資先の営業投資有価証券に関して多額の引当金を計上せざるを得ず、安定した収益を上げるのが困難な状況に陥っています。

 こうした状況に加え、現在のところ景気回復の見通しが立たず国内株式市場が低迷する中、新規上場市場を含む株式市場の大幅な回復の見込みは立っていないことから、当社を取り巻く環境の厳しさは、一層強まってくるものと予想されます。当社の経営成績は平成21年3月期連結ベースでの純損失が5,804百万円となり、平成 20年3月期連結ベースでの純損失である 5,485 百万円を上回る厳しい結果となっております。

 このような環境下において、当社は、当社が中長期的な企業価値の向上を実現するためには、機動的かつ柔軟な経営体制の下、投資案件発掘能力の更なる強化、提案力や投資先企業の経営サポート力の一段の強化、 アジアを中心とした海外ネットワークの強化を前提とする海外投資比率の拡大、バイアウト投資の拡大、現在のような新規上場が困難な経済環境下においても安定的な収益源を確保できるような新規上場以外の投資回収方法の確立、さらには新たな投資家のためのマーケティング体制の強化等、企業体質の抜本的な改革を要する施策を円滑かつ迅速に進めて行くことが必要であると考えております。

 しかしながら、当社は、上述のような中長期的な観点での企業価値向上のための施策の実行過程において は、短期的には、施策が軌道に乗るまでの間、コスト負担が先行する等により業績に更なる悪影響を与える懸念があり、特に、アジア地域での展開に関しては、成果が現れるまでには一定の時間を要する上、期待通りの効果が得られるかどうかについて不確実な要素が多数存在するため、当社の業績は相当な期間に亘り不安定な状態が続くと予想されることから、当社の株主の皆様の期待に添えない可能性があると考えております。

 公開買付者からは、当社による上記の各施策の実現のためには、プライベート・エクイティ投資事業の分野における緊密な協力関係を今後も一層強化し、公開買付者グループ及び三井住友フィナンシャルグループの国内外の強力なネットワークや各種リソースを最大限に活用し、当社に対し一層の支援を提供することが不可欠であるとの認識に至った旨の説明を受けております。

 当社としましても、当社が行う投資業務の基盤のさらなる強化が当社の中長期的な企業価値向上のため には不可欠であり、これを実現するためには、当社と公開買付者グループの経営資源をより緊密に連携させることが必要と考えております。

 以上のような認識に基づき、当社は、公開買付者との間で上記の認識を共有し、当社の今後について慎重に検討を重ねて参りました。そして、当社は、当社の業績の不振が昨今の急激な経営環境の悪化に起因するものであり、かつ、この経営環境が当面継続するものと見込まれる中で、当社が中長期的な視点に立った企業価値の向上を実現していくためには、機動的かつ柔軟な経営戦略を実行できる体制を構築することが必要であり、逆に株主が多数存在する場合には、業績の安定性への配慮から抜本的な改革や機動的な施策を打ち出すことができず、かえって株主全体の期待に背く結果を招くと判断いたしました。

 

TOBで上場廃止する場合のオーソドックスな説明と言えるかも知れません。

中長期を考えていろいろやれば企業価値は上がると考えてるけれど、株主が多いと業績の安定性に配慮しないといけないので、かえって迷惑かけちゃうので上場やめます。

という説明。

実務として非常によくわかる気がする一方で、中長期的な企業価値は上がると信じて施策を打というという訳だから、理論的には、少数株主の理解不足を補うようなコミュニケーション手段があれば、上場したままで株価も維持されるはずであり、なんかうまい方法は無いもんかなあといつも思います。

大和SMBCキャピタルさんがそう言っているというわけではないですが、こうしたフレーズを見るといつも、

「少数株主のあんたらはアホだからわからんだろうけど、将来株価(企業価値)は必ず上がるんよ。それがわからんやつは売って。」

と言ってるようにも聞こえます。
(今買えば得だと思うからこそTOBするわけですから。本当に得するかどうかはさておき。)

 

ベンチャーキャピタルが上場する意味

アメリカのベンチャーキャピタルが上場してる例は聞きませんが、そもそもベンチャーキャピタルは上場してよかったのでしょうか?

ネットバブル崩壊から回復、リーマンショックで下落、という前述のトレンドを見ると、ベンチャーキャピタルの決算というのは、そもそも、そうした景気循環に強く影響を受けるものなのであり、やはり個人株主等にはなかなか理解が得られにくい面はあると思います。
大きく下がった時に買っておけば得、という考え方もあるかも知れません。

一方で、ジャフコの株価の推移を見ても、循環的な波はありつつも、10年単位で見るとゆっくり右下がりになっていると見れます。
これは、(例えば内部統制や監査などが厳しくなって上場のハードルが上がるなどの構造変化が進むことで)、あまり起業してベンチャー企業が儲かる世の中ではなくなってきているという認識を反映しているのかも知れません。

ちょっとだけ楽観的に考えれば、ベンチャー企業が成功する道はまだたくさんあるが、ベンチャーキャピタルが儲からなくなってるだけかも知れません。
例えば、ネット系のベンチャーのように、サーバなどの設備投資に必要な資金がムーアの法則などで劇的に減少し、逆にGoogle Adwordsやアフィリエイトなど簡単に売上を獲得する方法が発達した結果、ベンチャー企業の資金需要は小さくなり、VCの出番が無くなって来ているといった構造変化を表しているのかも知れません。

ともかく、上記の本文中に「平成20年度には34社へ減少」とありますが、平成21年暦年では19社しか上場できなかったので、上記の意見表明書にある当面環境が悪いという見通しは、残念ながら今のところ当たっています。

 

決算の概要

さて、大和SMBCキャピタルについても、昨年3月期までの有価証券報告書は開示されてますので、ジャフコと同様、決算を見てみましょう。

まずは、正式な財務諸表の数値ですが、

 

201002011838.jpg

図表8.大和SMBCキャピタルの売上高、経常利益、当期純利益の推移
(単位:百万円)

 


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図表9.大和SMBCキャピタルの総資産額及び純資産額の推移(単位:百万円)

 

・・・といった感じになってます。

 

一方、大和SMBCキャピタルは、ジャフコのような「信託を使った連結はずし」といった手法は取っていないようです。
しかし、「ファンドまで連結なんて、やってらんねえ!」から非上場化するわけではないでしょう。100%親会社の大和証券グループ本社も上場しており、子会社は連結しないといけませんので、非上場化してもファンドの連結問題からは離れられないからです。

 

決算短信・決算説明資料のページの「決算説明資料」を見ると、表紙に、

当社は、2007年3月期より会計方針を変更し、当社グループが運営するファンドの一部を連結 (以下、 「ファンド連結方式」 ) しております。 当期においては、当社グループが運営するファンド61本 のうち、28本(匿名組合1本含む) 、時価純資 産額合計540億円 (外部出資者の持分378億円) を連結しております。 ただし、当社グループの経営成績及び財政状態をより的確に表すため、本資料 「決算概要」においては、外部出資者の持分を含まない、当社グループの持分だけを反映した 「ファンド持分方式」に基づく数値を記載しております。

と書いてあります。

つまり、一般に公正妥当と認められた会計方針は、当社グループの経営成績及び財政状態を、あんまり「的確に表していない」ということですね。(笑)

こういう経営成績や財政状態を的確に表さない会計方針を採用する(採用せざるを得ない)というのは、会計のそもそもの目的に照らしてどういうことなのか?という問いを、ベンチャーキャピタルという事業は突きつけている気がします。

 

ジャフコの自己持分方式と同様、大和でも「ファンド持分方式」と呼ぶ従来方式が、決算説明資料等で開示されています。 
(下記のグラフで「フ」とあるのが、大和SMBCキャピタルが「ファンド持分方式」と呼ぶ方式による決算。)

 

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図表10.大和SMBCキャピタルの売上高、経常利益、当期純利益の推移(単位:百万円)

 

上図のとおり、ジャフコと同様、売上は大きく変わるものの、利益はさほど違いが発生していません。

貸借対照表は以下の通り。

 

201002011957.jpg
図表11.大和SMBCキャピタルの総資産額及び純資産額の推移(単位:百万円)

 

平成13年ごろは、かなり自己資本比率が低い(レバレッジが効いた)財務構成だったのが、昨今でのファンド持分方式による自己資本比率は上がって来ているようです。

 

上場廃止になったので、決算短信も1Qのものしか出していません。
正式な連結財務諸表では、売上高1,718、経常利益△5,233、純利益△2,879
「ファンド持分方式」では、売上高 1,066、経常利益 △2,979、純利益 △2,879
ということで、赤字は続いているようです。

 

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その他、上場していてデータが見られるベンチャーキャピタルには、以下があります。

 

■日本アジア投資株式会社

平成21年3月期でなんと349億円の赤字を計上し、本日時点で時価総額が56億円にまで下がっています。

 

■フューチャーベンチャーキャピタル株式会社

平成21年3月期で、9億円の赤字で、時価総額は本日時点で6.5億円まで下がってます。

 

■SBIホールディングス株式会社

SBIホールディングス株式会社についても、ベンチャーキャピタル事業の様子が垣間見てとれます。

全体としては、オンライン証券等の多様な事業を傘下に持つ同社ですが、有価証券報告書のセグメント情報の「アセットマネジメント業務」というのが、ベンチャーキャピタル業務を行っているセグメントのようです。

 

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図表12.SBIホールディングスの「アセットマネジメント事業」のセグメント情報
(自平成20年4月1日至平成21年3月31日)

 

セグメント情報の注には、

アセットマネジメント事業
当社、SBIインベストメント株式会社、及びSBIキャピタル株式会社等を中心としたIT、バイオ、ブロードバンド、メディア、モバイル関連等のベンチャー企業及びリストラクチャリングを必要とする企業等への投資に関する事業

とあるので、この中にはバイアウト投資なども混ざっており、純粋なベンチャーキャピタル事業がどうなっているのかはわかりません。

しかし、この環境下で利益が出ているので、ちょっとビックリです。

2009年9月末までの第二四半期(累計)でも、利益が21億円も出ているようです。

他社が環境の悪化で苦しむ中、これはちょっと不思議ですね。

 

注記の「会計処理基準に関する事項」を見ると、

トレーディング関連以外の有価証券等
その他有価証券(営業投資有価証券を含む)
トレーディング関連以外の有価証券等 その他有価証券(営業投資有価証券を含む) 時価のあるもの 連結決算日の市場価格等に基づく時価法(評価差額は全部純資産直入法により処理し、売却原価は移動平均法により算定)

とあるので、すでにIPOした投資先の株式を持って含みが出ていても、売却しないと利益には計上されないので、そうしたものを小出しに売却して売上や利益を平準化しているのかも知れません。
(全体の一セグメントに過ぎないため、現在まで見た資料の範囲では、残念ながらよくわかりません。)

 

SBIホールディングスの決算はどうかわかりませんが、有価証券を小出しに売却しながら売上や利益を調整している例を見ると、IFRSで「包括利益」が導入された方が恣意的に決算が作られることが無くていい、ということが体感的にわかります。
「包括利益」って、まさに「ベンチャーキャピタル的なもの」に対応するために生まれた側面がある気がします。

 

今週はこんなところで。

 

(ではまた。)

 

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