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週刊isologue(イソログ)
2010.02.15(第46号)
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■上場企業の「現物出資」 - 株式会社NESTAGEの事例を中心に
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ここのところブログやツイッター等で上場企業の現物出資に関連する発言を目にすることが多いので、今週は「現物出資」について考えてみたいと思います。
■そもそも「現物出資」とは何か
「お金」を払い込む代わりに株式をもらうのが通常の増資や設立ですが、「お金」の代わりに「お金以外の財産」を払い込むのが「現物出資」です。
現在の会社法になる前の商法の時代には、長らく「現物出資」は非常に冷たくあしらわれてきました。日本の商法では「資本充実の原則」という考え方が強かったので、会社設立や増資の際に、払い込まれる財産の価値が実質的に充たされてないとダメであり、金銭と違って価値がはっきりしない「モノ」の出資を行うには、裁判所に選任を依頼した「検査役」が調査しないといけなかったわけです。裁判所に頼むと、数ヶ月とか数百万円とかのコストがかかるので、使い勝手も悪く、よほど特殊なケースしか現物出資を使うことはありませんでした。
上場企業においても現物出資で増資を行うのは以前はほとんど例がなかったのではないかと思います。
これと表裏一体に「資本金がデカイ会社はエラい」という観念が日本の人々の頭の中にあったことも影響しているかも知れません。
「資本金100億円の会社」と言うとなんかスゴい会社のようにも思えますが、資本金が100億円でも債務超過でボロボロの会社もあるし、資本金が数千万円でも企業価値が数百億円に評価される会社もあります。
企業の財政状態の実態は、ちゃんと財務諸表を見ないとわからないし、さらにはそれを会計監査したりデューデリジェンスのプロセスを踏まないとホントのところはわからないので、資本金がデカいことだけをもってスゴいと思うなんてのは愚の骨頂なのですが、そのあまり理論的に意味の無い「資本金の権威」を守ろうとしていたのが「資本充実の原則」と言えるかも知れません。
ところが会社法になって、資本金1円でも株式会社が設立できるようになった(株式会社の資本金の下限が無くなった)ことで、この資本充実の原則や資本金に対する「信仰」は完全に崩れさった感があります。
また、平成15年の商法改正で、裁判所の検査役だけでなく、弁護士・会計士・税理士等も、その現物出資の調査ができることになっていましたが、会社法ではDES(債務の株式化)の場合にも検査役や調査が不要になり、現物出資の制限については、かなりいろいろな抜け道が用意されることになりました。
■株式会社NESTAGEの現物出資の概要
(以下、株式会社NESTAGEの事例を取り上げさせていただきますが、本稿は同社の取引等の法的な妥当性等を追求することが目的ではありません。あくまで現物出資の事例として教材にさせていただくということでありますので、念のため。)
今回、現物出資で増資を行うNESTAGEは、債務超過等で上場廃止の要件に引っかかりそうなので、それを回避するために増資で純資産を増やすことを意図しています。
NESTAGEの株価は、本日現在までのところ2円と3円の間を行ったり来たりしています。
NESTAGEの貸借対照表を見てみましょう。

図表1.NESTAGEの平成21年11月末と現物出資後の貸借対照表のイメージ
上の左の図は、NESTAGEの昨年11月末の貸借対照表ですが、負債の額が資産の額よりも約10億円(972百万円)も多い「債務超過」状態となっています。
(なかなか見られないすごい形の貸借対照表です。)
そして仮に、この昨年11月末の状態に今回の12億円の現物出資を行うとすれば、上の右の図のように、資本金と資本準備金が12億円増加し(濃い紫色)、資産として現物出資された財産(濃いオレンジ色)が12億円増えるわけです。
従来のペースで進んでいれば現時点では欠損金も42.7億円より大きくなっている可能性もありますが、仮に欠損金が11月末のままだとすると、上図のように、純資産が増えることでかろうじて資産超過を達成することができます。
■現物出資に至る経緯
この増資の詳細は、EDINETの平成22年2月12日付、近畿財務局長宛「臨時報告書」に詳細に記載されています。(同社ホームページには掲載されていません。)
この「臨時報告書」ですが、債務超過で上場廃止寸前なので会社もバタバタしていて内容もテキトウかと思いきや、(形式的には)意外なほど中身が「チャンと」しているので、それにまず軽い驚きを覚えます。
なぜ今回の増資を行わなければなかったかという点については、同臨時報告書の「(6) 大規模な第三者割当の必要性」に詳しく書かれていますので、多少長くなりますが、以下に一部引用します。
(以下、引用部文中の下線、強調、リンクは筆者によります。また文字化けする可能性がある文字は、丸数字を「{1}」等に、「から」を「-」に置き換えました。)
(6) 大規模な第三者割当の必要性当社は、ジェイオーグループホールディングス株式会社(以下、「JOGHD」という。)の子会社であったが、当社の兄弟会社であった株式会社ジェイオー建設(以下「JO建設」という。)の民事再生申請によるJOGHDグループ全体の社会的信用力の低下が、当時JOGHDの子会社であった当社にも波及し、(…途中をかなり省略…)資金不足の状態を改善することは出来ず、またFC本部である当社がほとんど商品供給を行えていないことからFC加盟店の離脱も発生した。
これに対応するべく固定コストの削減を行ったが、収入の低下を補う事は難しく前事業年度末において690百万円の債務超過の状態に陥った。
当事業年度において、この債務超過の解消及び運転資金の調達を行う為、当社は、第6回乃至第15回新株予約権の発行を決議した。
新株予約権の設計として行使価額が初回に3営業日平均株価の90%及び半年毎に3営業日平均株価の90%に修正出来、また修正の下限を付していない事か ら、最大の希薄化の規模が大きく、行使に伴い発行した大量の新株式の市場売却に対する売り圧力、また当社の株価に対する市場の評価が当社の倒産懸念や債務 超過の解消に対する不安などから、新株予約権の発行時の平成21年8月7日には22円を付けていた株価が大きく下落し続け、昨年11月下旬頃より2-3円 で推移する事となった。その間、当社は資金を確保するために度々行使価額を低下させ、本来は株式市場及び既存株主の影響を考慮すれば避けるべきであったが、現在の当社新株予約権の行使価額は最低価格である1円まで低下させた。その結果、株価もジャスダック証券取引所が定める時価総額の上場廃止基準にも抵 触する1円まで低下することとなった。
JO建設の民事再生申請以後、当社の社会的信用力が低下し、(…途中をかなり省略…)等を検討した結果、複数の第三者割当増資を実施した。
(…中略…)
当社は平成22年2月期の第3四半期末現在で971百万円の債務超過の状態にある。
そして前事業年度末(平成21年2月期)において690百万円の債務超過の状態であり、当事業年度末(平成22年2月期)において債務超過の状態が解消されない場合は、前事業年度末から1ヶ年以内に債務超過の解消を行うことができなくなることから、株式会社ジャスダック証券取引所が定める株券上場廃止基準に抵触するため当社は上場廃止となる。
このような状況下で、現在当社は、資金調達のため、平成21年8月7日に有価証券届出書を提出し平成21年8月27日にITイノベーション戦略投資事業組合に対して新株予約権を発行したが、その後当社株式は市場価格が大幅に低下し、市場価格はジャスダック証券取引上が定める時価総額の上場廃止基準にも抵触する1円まで低下した。その間、当社は資金を確保するために度々行使価格を低下させ、本来は株式市場及び既存株主の影響を考慮すれば避けるべきだが、現在の当社新株予約権の行使価格は最低価格である1円とした。
当初同組合は当社の資金需要を鑑みて新株予約権の行使を行っていただいていたが、株価の低迷が続いていることから、これ以上の同組合からの新株予約権の大量行使は望めない状況となっている。
このまま新株予約権の行使が行われなかった場合は、債務超過の解消が行えず上場廃止となるが、当社が上場廃止となった場合は、既存株主の利益は大きく毀損することとなる。
つまり、NESTAGEは、今まで株価が2円とか1円とかいう状態を経由して、行使価格も1円の新株予約権を大量に発行してきたわけですね。
■増資検討の(かなり念の入った)プロセス
今回、「中身が意外にチャンとしている」と申し上げたのは、(債務超過だとか行使価格が1円の新株予約権を発行してきたといったことではなく)、今回の増資の形式上のプロセスです。
今回の増資にあたっては、第三者委員会を作ったり、鑑定評価や証明を取得したり、形式上かなり慎重なプロセスを経て意思決定する形を取っています。

図表2.増資判断のプロセス(筆者作成)
まず、増資については取締役会で意思決定する前に、「利害関係のない弁護士、公認会計士、社外監査役で構成する第三者委員会を組成し、発行価格の算定根拠及び発行条件の合理性について検討を依頼」しています。
(3)発行条件に関する事項
ア.発行価格の算定根拠及び発行条件の合理性に関する考え方
当社は、上記取締役会決議に先立ち、利害関係のない弁護士、公認会計士、社外監査役で構成する第三者委員会を組成し、発行価格の算定根拠及び発行条件の合理性について検討を依頼したところ、以下の意見を得た。
本優先株式の発行条件及び割当先との合意事項は、後記「本優先株式の商品性」のとおりである。
それによると、
{1} 本優先株式は、払込金額の10%に相当する金額を上限として優先配当を受領することができるが、それは、非累積型かつ非参加型にすぎず、かつ、優先配当を受領することができるのは当社が剰余金の配当を株主総会決議により決定した場合に限られる。
{2} 残余財産についても払込金額を上限として優先権があるが、非参加型にすぎない。
{3} 上記各優先権を有する一方、本優先株式に議決権はないとされている。
{4} 本優先株式は、取得条項の適用、取得請求権の行使により、取得の対価として、本優先株式の払込価格を上限として取締役会で定める額を、発行を決定した日の当社普通株式の時価を基準として発行前に当社取締役会で決定する額で除して得られた数値に相当する数の当社普通株式を交付することとされる。そして、 14(8)に記載のとおり、本優先株式の発行を決定した日である平成22年2月10日開催の取締役会において、当社普通株式を発行価格2円で時価発行する旨決議されている。この2円という発行価格は、当該発行決定日の直前日までの直近1ヶ月間(平成22年1月12日から平成22年2月9日まで)に株式会社ジャスダック証券取引所が発表した当社の普通株式の普通取引の最終価格の平均値である1.29円(出来高のあった日の最終価格の合計を出来高のあった日の 日数で除した金額)を参考として、それに1.56を乗じた額である(プレミアム率156%)である。そして、当社と割当先との間では、本優先株式の取得の対価として交付される当社普通株式の数の算定に用いる上記「取締役会で決定する額」については上記普通株式発行価格である2円を下回らない旨の取り決めがなされる予定である。以上からして、取得条項の適用又は取得請求権の行使により、本優先株式の取得の対価として普通株式が交付された場合、当社普通株式を時価に相当する価格で発行したと同視できると判断される。
{5} 取得条項の適用又は取得請求権の行使による本優先株式取得の対価として当社普通株式を交付する場合には、当社株主総会決議を要するとの取り決めがなされており、普通株式の取得に制限がある。
{6} 本優先株式の譲渡には当社取締役会の承認を要するとの取り決めがなされており、投下資本回収に制限がある。
以上の発行条件からして、本優先株式の価値は、当社普通株式の価値を超えるものではないと判断されることから、その発行価格も当社普通株式の時価に相当する価格とすることは一定の合理性がある。
以上の第三者委員会による意見を受けて、当社としても本優先株式の発行価格1,000,000円は合理的であると判断している。
また、上記の発行条件は法律専門家の意見を聞きながら作成されたものであり、第三者委員会もこれを確認していることから、合理性があると判断している。
なお、会社法上、金銭以外の財産を出資の目的として募集株式を発行する場合には、原則として、裁判所が選任する検査役による財産価額の調査が必要と規定されているが、例外的に上記財産の価額の相当性について弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。)を得られた場合にあっては検査役の調査が不要とされている(会社法207条第9項第4号)。
当社は、債務超過解消のため本年2月26日までの本優先株式の発行を目指しているため、裁判所の選任する検査役の調査では目標とする期日に間に合わないと判断し、上記会社法207条第9項第4号の定めに基づき、次のとおり、不動産の価値を評価した。
文中にもあるとおり、今回の増資は「A種優先株」という名称の種類株式で行われます。
優先配当権も残余財産分配権も、債務超過の状態ではあまり意味がないですし、議決権も無く、普通株式に「転換」(種類株式を取得して普通株式を交付)するにも株主総会決議を必要とするという契約(種類株式の内容ではない)になっているため、この株式の価値が普通株式以上はないというのは比較的わかりやすいので、第三者委員会まで作って意見をもらうというのは、かなり念が入っているなあという印象です。
一方、図表2の右側の財産の価額の相当性をチェックする流れですが、こちらの方は会社法で決められたプロセスに従って進められています。
会社法第二百七条9項四号
現物出資財産について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士 法人の証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。以下この号において同じ。)を受けた場合 当該証明を受けた現物出資財産の価額
ネットの書き込みに見られるのは、今回のこの現物出資された不動産が本当に出資額だけの価値があるものなのか?という疑問です。
同社は会社法の条文どおり、まず不動産鑑定士の鑑定評価を取得し、「税理士の資格を併せ持つ公認会計士」の証明も取っていますが、こういう評価や証明を取得していれば、取締役の責任は免れるでしょうか?その他の関係者の責任はどうでしょうか?
■不動産を現物出資をする場合の関係者の責任
不動産を現物出資をする場合の関係者の責任ですが、出資された財産の価額が出資額より著しく不足している時は、株式の「引受人」と出資に関わった「取締役等」と「証明者」(会計士等)は、連帯して不足額を埋める責任があります。(会社法213条)
例えば、今回12億円として出資する財産が実は5億円の価値しかなかったら、差額の7億円は上記の者が自腹で埋めないといけないわけです。
不動産鑑定士の責任
しかしよく見ると、不動産鑑定士については差額を補塡しろとは書いてないんですね。
証明者の責任
不動産鑑定をうけて証明を行った証明者(会計士等)も、差額があれば自腹で埋める必要がありますので、この現物出資の証明を出すのは一般的には非常にコワいのですが、この責任、昔は無過失責任だったのが、今は「当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。」と過失責任になって若干緩和されています。
会計士と言っても不動産鑑定に詳しいとは限らないので、一般には、不動産鑑定士の鑑定評価のプロセスや説明を聞いて、明らかにおかしいところがないと判断したのであれば、責任を追求するのは難しい面があるかも知れません。
第三者委員会メンバーの責任
今回の第三者委員会のメンバーについても、取締役と共謀している等であればともかく、一般には直接株主に対して責任を負う立場には無いものと考えられます。
取締役の責任
取締役についてはどうでしょうか。
取締役も会社法では過失責任になっています。(会社法213条2項2号)
上記の評価や証明は、法律上必ず取得しなければならないなので、これを取得しただけで取締役の善管注意義務が果たされたということになるわけではありませんが、取締役も一般に不動産鑑定に詳しいとは限らないわけですね。
不動産のプロである不動産鑑定士の鑑定評価があり、その価額をさらに税理士・公認会計士が相当だと評価した場合に、その説明を聞いて常識的に疑問点が無いものであれば、「取締役が善管注意義務を果たしていない」と第三者が立証するのは、ちょっと難しそうです。
「無責任の連鎖」になる危険性
このように、不動産の現物出資は一見たくさんの専門家が関わって慎重に価額等が検討されるしくみのように見えますが、仮に不動産鑑定がいいかげんだったとしたら「無責任の連鎖」になってしまう恐ろしさがあります。
また、「モノ」の価値の評価というのは、見方によって様々であります。
不動産鑑定としての評価は必ずしも間違っていなくても、会社が受け入れる資産としての価値を考えると「?」が付く、ということもあるのではないかと思います。
■現物出資される実際の財産
では、現物出資される資産はどんなものになっているでしょうか?
今回現物出資される具体的な財産は、下記の3つの不動産物件となっています。
そして鑑定評価額、種類株式の発行価額は、
北海道上川郡の物件の鑑定評価額 金519,000,000円
山形県米沢市の物件の鑑定評価額 金454,000,000円
岡山県倉敷市の物件の鑑定評価額 金327,000,000円
上記3物件の不動産鑑定評価額合計 金1,300,000,000円
発行価額の総額は、1,200,000,000円 (資本組入額の総額は、600,000,000円)
となっています。
ネット上でみなさんが注目されている点の一つは、この北海道と山形県の物件は、どうも元「かんぽの宿」で郵政の売却物件らしい、ということ。
住所で検索すると例えばこちらの資料が出て来ますが、これによると北海道上川郡の物件が金166,765,316円、山形県米沢市の物件は金56,000,000円で郵政公社から売却されています。(単純に計算すると、この2物件だけで出資額より7.5億円くらい低い。)
今回の現物出資の価額とはかなり乖離のある数値ですが、「かんぽの宿」で叩かれたのと同様、郵政公社の売却額が低過ぎたということかも知れませんし、もちろん郵政公社が売却してから時間も経っているのでその後不動産価格が上昇したり付加価値が上がったりしたかも知れませんので、それだけで不動産の鑑定評価価額がおかしい、ということにはならないわけです、が。
ちなみに、会社側は臨時報告書の中で、
※元の所有者からクロスビズ株式会社が上記3物件を取得した取得価額については、同社に守秘義務があるため当社では把握していないが、鑑定評価額と大幅な乖離はないと考えている。
としています。
また、
なお本件現物出資は債務超過解消が主な目的であり、当該不動産を活用した具体的な事業計画は現時点では作成していないが、確定次第情報開示することとしている。
といった記述もあり、今のところ会社のビジネスに使う予定もないわけですね。
この会社はゲーム関係の会社なので、こうした僻地の不動産(ホテル)を持っても、それを使って事業がうまくいく可能性は一般的には低そうです。
(もちろん、会社の事業と関係ない不動産を取得したら直ちに違法というわけではないでしょうけど。)
ネット上では、「価値の無い物件を現物出資して、取得した株式を市場で売却して換金するのではないか」という趣旨の書き込みもありましたが、今回発行される種類株式には譲渡制限がついており(ただし種類株式の性質ではなく契約で決めているだけ)、また、この種類株式は上場もしてないのですぐに市場で換金できるわけではありません。
ただし、この種類株式は普通株式に転換することができるので、その後は株式市場で売却できる可能性がありますが、転換には株主総会の決議が必要ということになっています。(ただし、株主総会決議は比較的得やすいと見ているのかも知れません。また、総会決議の必要性に付いても、種類株式の内容ではなく契約で定めています。)
不動産鑑定評価については、「不動産評価の方法」という項に、それなりに詳しく書かれています。
3物件とも同様の文言になっているので、1物件分だけ引用しますと、
山形県米沢市の物件
積算価格(454,000,000円)は、費用性に着目したものであり、具体的には土地(敷地)から価格時点に取得することを前提とし、建物価格を加算して査定している。
更地価格については対象不動産周辺の最近成約した取引事例に路線価、公示地等の近年の地価動向を反映させたもので、その実証性には説得力がある。
建物価格については、対象不動産の個別性を反映させるべく、今日の建設動向を反映させた各々の建物の再調達原価を査定し、これに適切な減価修正を施して査定したものである。
しかしながら、本件では敷地価格(59,500,000円)に対して、建物価格の比率が高く、建物価格(394,500,000円)については税務評価と 同様に単純に減価修正を施せば、市場性が加味されるものではない。特に市場が減退している社会情勢下では注意が必要である。
そこで、他の手法(収益性)の面からの価格とのバランスを十分に考慮し(観察減価、建付減価等)対象不動産の市場性(売却価格)を付与した。
直接還元法(DC法)による収益価格(434,000,000円)は、不動産の収益性に着目したものであり、具体的には対象不動産の状態により、修繕、リノベーション(30,000,000円)をかけることを前提として、貴社より提示のあった資料、客観的・実証的な資料(観光協会、周辺のヒヤリング等)を 査定材料に、ホテルとして運用し、得られる純収益から賃料として負担できる額を実証的かつ保守的に査定した。
還元利回り(10%)については市場での取引利回りに関する資料を参考にしつつ、一般的な不動産投資家の投資態様を十分吟味し、査定している。
しかしながら、本件では豊富な資料から客観的に賃料負担力、還元利回りを試算したものの、未稼働の物件であり、賃貸需要の高い地域ではない点から運営会社をテナントとして誘致することも困難性があると判断され、想定要素が大きいと言わざるを得ない。
DCF法による収益価格(421,000,000円)もDC法同様、不動産の収益性に着目したものであるが、対象不動産が将来生み出すであろうキャッ シュ・フローをシナリオ分析を行った上で具体的に数値化し、これらを適正な割引率で現在価値の総和として割り戻すことで対象不動産の投資採算性を求めてい る。
本件においては、各数値においてはDC法にて用いた複数の予測値等を用いて標準的なホテル事業者が予測するであろうシナリオを採用した。
割引率(10%)については、通常の経営者が採用できる金利(2.5%)と、確保できる自己資本利益率(11.5%)を指標として査定している。
ただし、DC法、DCF法ともに保守的な単一シナリオを採用しており、ホテルのような物件についてはその経営者の手腕により、賃料負担力も大きく上昇する可能性も含んでいる。未稼働の状態での査定数値では収益還元法のみで鑑定評価額とする点に関しては難がある。
三価格がそれぞれ近似した結果となっているものであるが、内容的に重視できる積算価格を本件鑑定評価額(454,000,000円)として採用している。
以上のように、どの物件についても、稼働していない物件の収益を想定したものより高い積算価格(つまりはこの建物を建てたらいくらになるかという再調達原価から減価修正を行ったもの)を採用しています。
同社が仮にホテルのオペレーションをしている会社なら、「自分で建設するのよりは安い」という判断も納得が得やすいところだと思いますが、ホテル経営をしたこともないゲーム会社が現物出資で受け入れる場合、採用する価額として「積算価格」を使うのが適切なのか?という疑問は誰しも思うところではないかと思います。
堅めに見るなら、リノベーションの支出や、従業員の採用、教育訓練等、外部に運営委託する場合にはその運営の条件等を考えた事業計画を作成し、それに基づくDCF法で計算すべきではないかと思います。
ツイッターやブログなどでみなさんが話されている内容や検索エンジンの検索結果を参考にすると、北海道の物件はここ、山形の物件はここにそれらしき写真があります。北海道の物件などは、昨年暮れの状態では壁が壊された状態になっているようです。
確かに同じものを1から建設したら5億円くらいにはなるのかなあという感じではありますが、長年放置されて荒れた物件をリノベーションして、やったこともないホテル事業を行うのは、かなり無理があると言わざるを得ません。
また、ホテル事業として簡単に成立する需要がある物件であれば、「未稼働」ではなく、すでに営業をしていてよさそうです。
しかし、そうしたホテルのオペレーションをしたいという人に物件を転売できる可能性もあるので、上記だけをもって現物出資の価額としておかしい、ということもなかなか言いにくい面もあります。
■まとめ
以上の通り、この現物出資を全体的・経済的に見れば、価値の低いの物件を会社の財産にして、債務超過を帳簿上名目的に解消し、それによって上場廃止の形式基準に引っかかることを防ごうとしているだけに見えます。厳しく見れば、この財産を取得しても維持コストなどで会社の価値を低めることはあっても高める可能性は極めて低いように思えます。
普通株式への転換も株主総会の決議が必要とされてはいますが、なにせ数円の株式ですので、株主総会の出席率も低いと考えれば、大株主数名が賛成すれば決議は簡単に通ってしまう可能性もあります。
しかし、上記で見て来たとおり、本件は、第三者委員会や不動産鑑定士、公認会計士、法律専門家、株主総会といった主体を関与させて、形式上は非常に慎重に意思決定を行うしくみの形を取っています。
「慎重に考えた結果、上場廃止になれば株主に損害を与えるのでやむを得ず」と言われれば、民事訴訟されたとしても、取締役や評価者に責任を負わせるのは、なかなか難しいのかも知れませんし、考えられる追求に対しては、一応の回答が用意された形になっているのではないかと思います。
本件を離れた一般論としてですが、こうした「プロセス」について第三者委員会や専門家の意見を聞いて形式を整えていた場合、「本当に真面目にやっている会社」と「不公正な目的のためにやっている会社」を峻別するのは、結構難しいのではないかと思います。(刑事事件等になればまた別かも知れませんが、ディスカバリといったプロセスもない日本の民事の範囲内でやっている場合、特に。)
仮にそういうことが横行すると、真面目な会社としては、ますます厳重なプロセスを踏まないといけないことにもなり、非常に迷惑なことになっていくのではないかと思います。
また、本件については、「かんぽの宿問題」に続いて、またしても郵政の物件が「評価」の問題として浮上したわけです。まるで同じテーマがキーを変えて再び現れるフーガやカノンのようで、非常に趣きがある感じがいたしました。
今週はここまでということで。
(ではまた。)
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