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週刊isologue(イソログ)
2010.02.22(第47号)
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■スタートアップ(ベンチャー)企業の現物出資
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先週の現物出資は「あまりさわやかでないお話だねえ」というご意見を何人かからいただいたので(笑)、今週は新しく設立する会社や設立したばかりの会社が現物出資を活用する「さわやか」なケースについてお話したいと思います。
■現物出資をするニーズ
そもそも一般に、どういう場合に現物出資が利用されるんでしょうか。
私が見聞きしたものを考えてみると、以下のような感じになるかと思います。
(この4つのどれかにきれいに分類できるということではなく、重複するものもあると思います。)
- 債務超過(または資本が過少)なので、増資して自己資本を増やしたい。
- 設立時に金がない。
- 資本金をデカく見せたい。
- 事業で利用したいが、会社に買う金がないから、代わりに株式を渡したい。
1.債務超過の解消
1の「債務超過(または過少資本)の解消」は、まさに先週やったケースですね。
しかし、債務超過に陥ってるような会社でもそうでなくても、本当は「モノ」でなく「キャッシュ」の方が助かるはずです。
「モノ」と違って何にでも使えるからこそ「キャッシュ」というのは重宝されるわけですから。
しかし、債務超過に陥ってる会社が、新たに現金を出資してくれる人を探すというのは大変ですから、背に腹は代えられないということも多いでしょう。
もちろん、債務超過に陥ってる会社にとって、現物出資のすべてがダメというわけではありません。
後述のDES(デットエクイティスワップ)を行って、借金等が資本に振り変わり、返済期限や金利の支払がなくなれば、資金繰りが楽になるかも知れません。
また、どうしても事業に使いたい資産があって、それを現物出資するなら、それもいいかも知れません。(4のケースですね。)
非上場企業の債務超過の場合、例えば社長が持っている会社の敷地等を会社に現物出資して債務超過を解消することができれば、会社は賃料負担が減るし、銀行に見せる貸借対照表も美しくなるので、効果が期待できるかも知れません。
しかし、債務超過になってるような会社の社長の不動産は、たとえ社長名義であっても既に銀行の担保がついてることがほとんどだと思われますので、実際にはあまり調達能力が上がるわけではないとは思います。
ましてや、先週も見たように、事業に使うあてもない資産や転売可能性がないような資産を会社に現物出資しても、それで経営がよくなる効果は小さい。
このように、現物出資には適法であっても経営的には意味が無い増資もありうるので、十分注意する必要があるかと思います。
2.設立時に金がない
ご案内のとおり、会社法では資本金の下限はなくなりました。
昔は株式会社なら資本金が最低1千万円ないと設立できなかったので、手元にあまり現金が無い人が「モノ」を現金の足しに使いたいというニーズは結構あったわけです。
ところが、現在では株式会社の資本金は1円(0円)でもいいわけですから、無理に資本金の額を増やす必要はありません。
ただし、です。
設立と同時に売上が立つならともかく、設立してしばらく売上が立たないということも普通でしょうから、登記費用等を払ったらそれだけで債務超過になる「資本金10円」「資本金1円」といった会社の設立はあまりオススメできません。
会社を設立すると、なんだかんだですぐに数十万円が出て行きます。また、会社を設立するような志のある人なら、普通は30万とか50万円のお金くらいは持ってるでしょうから、最低でもそのくらいの資本金にしておいた方がいいと思います。
(学生がバイトしても、ちょっとがんばればそのくらいのお金は溜まるでしょうから。)
「会社じゃないとビジネスはできない」と誤解してる人もたまにいるので申し上げておきますが、ビジネスは別に個人でやっても構わないんです。
従業員もおらずまだ一人でビジネスしてるような段階であれば、金も無いのに何も無理して会社を設立することはないということがほとんどだと思います。
3.資本金をデカく見せたい
「資本金1億円」とか書いてあると立派な会社だと勘違いする人は多いので、資本金をデカく見せたいという気持ちはわからないではないです。
しかし、そういう「勘違い」を利用するってのは、あんまり正攻法じゃないですね。
志の高いベンチャーなら中身で勝負、です。(科学的な話でなくて恐縮ですが、個人的には中身より「外づら」を気にするベンチャー経営者って、あんまり成功しないことが多い気がします。)
資本金というのは、本来「債権者が資金を回収しやすくするためのもの」です。
資本金が大きいほど、会社に配当できない財産が多く残るはずなので、資本金が大きいということは債権者に有利で株主には直接メリットではないわけです。
つまり、資本金が大きい方がエラいというのは、銀行が中心の社会におけるマインドと言ってもいいかも知れません。
しかし、ベンチャー企業は「株主」を中心に回る世界を意識する必要があります。
(実は、資本金が大きいことで会社や株主の得になることって、あまりないんです。)
例えば、登録免許税も資本金が大きくなれば大きくなります。
登記する資本金の額に対して0.7%で、1件につき設立時は15万円、増資時は3万円が最低金額ですから、設立時2143万円、増資時429万円以上の増資をすると、その金額×0.7%が登記時に税金としてよけいにかかります。
消費税や法人税法上も資本金が小さい方がなにかと有利ですし、会社法上も資本金が5億円を超える「大会社」になると常勤監査役や監査役会、会計監査人を置かなければなりません。
設立や増資の際の払込み等の額の2分の1以下の金額は資本金にしなくていい(会社法445条第2項)ですし、自己株式を持っている場合には簿価と売却額の差額は資本金には入りません(その他資本剰余金になる)。
出資額が同じならなるべく資本金を減らすように考えるくらいでいいと思います。
4.事業で使う資産を「株」で買いたい
これは、現物出資のニーズの中では、最も「さわやか」なニーズではないかと思います。
例えば、社長候補の人とCTO候補の人がいっしょに会社を始めることになったとします。
当面の運転資金として500万円は確保したい。
この事業の成功には「アルファギーク」であるCTO氏の協力は絶対に必要で、CTO氏は設立時の株式の3分の1くらいは持ちたいと言っている。
しかし、社長は1000万円くらいまでなら出資できるけど、CTO氏はせいぜい30万円しか出せない。
ここで、CTOの人が業務時間外にコツコツ作ったツール(ソフトウエア)があって、同等のものを外注すると500万円くらいはかかるし、そのソフトウエアがあれば、1年後2年後に数千万円から億単位の利益の獲得が見込める可能性もかなり高そうだとします。
2人の持株比率を約2:1にするには、例えば社長が650万円現金で出資して、CTO氏はソフトウエアを350万円で現物出資、合計1000万円の資本金の会社にする、といったことが考えられます。
以下、基本的にはこういった「前向きな」企業の現物出資のニーズ中心に、ベンチャーの現物出資の実務を考えてみます。
■設立時の現物出資の手続き
現物出資をする際の手続きは、会社法に細かく定められています。
まず、会社を設立する際の現物出資については
に書かれています。
先週も述べたように、下記のとおり、現物出資をする際の原則は、裁判所に検査役を選任してもらうことになってます。
1.発起人は、定款に第28条各号に掲げる事項についての記載又は記録があるときは、第30条第一項の公証人の認証の後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。
ところが、裁判所に検査役を選任してもらうと、延べ数ヶ月の期間と百万円単位のコストがかかることになると思われますので、大企業が行うような特殊なスキームの場合はともかく、これから創業しようという(あまり時間とお金のない)普通のベンチャーの場合には、まず、この「裁判所の検査官」コースはお勧めできないケースがほとんどだと思います。
この裁判所の検査役を頼まなくていい例外が3つ、同条の第10項に書いてあります。
10.前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。
一 第二十八条第一号及び第二号の財産(以下この章において「現物出資財産等」という。)について定款に記載され、又は記録された価額の総額が五百万円を超えない場合 同条第一号及び第二号に掲げる事項
二 現物出資財産等のうち、市場価格のある有価証券…について定款に記載され、又は記録された価額が当該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合 当該有価証券についての第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項
三 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士…監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産等が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。以下この号において同じ。)を受けた場合 第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項(当該証明を受けた現物出資財産等に係るものに限る。)
つまり、
- 500万円以下の場合
- 上場してる株式などを出資する場合
- 弁護士、公認会計士、税理士などに調査してもらった場合
には裁判所に検査役の選任をお願いする必要はなくなるわけです。
■2のケース:ベンチャー設立で有価証券を現物出資するなんてことある?
これから創業しようというベンチャーが、「2」に該当する市場価格のある有価証券(上場株とか国債など)を持ってるなんてことはあんまりないでしょう。
「父親が大変世話になった上場企業の株で遺言で売るに売れない。しかし資本金も足りないので、新しく作る会社で引き続き保有することにしたい。」
「上場企業に勤務していた時に取得した株式がある。独立後もその上場企業がお得意さんになる予定なので、株は売りづらい。」
といった特殊な場合にはいいかも知れませんが、普通はそんな換金性がある証券を持ってるんだったら、売却して現金にして出資した方が、ややこしくなくっていいはずです。。
しかも最近は上場会社の株券も電子化されてますので、株券をポンと現物出資すればいいわけではありません。名義変更するのにどのようにすればいいか、証券会社に預けている場合には法人の口座を新しく作るにはどうするか等、調べることがいろいろありそうなので、数千万円出資したいというならともかく、50万円くらい資本金の足しにしたいという場合なら、現金で出資しちゃった方が面倒が無いと思います。
そもそも有価証券なんてもんは、(金融関係のベンチャー等であればともかく)、ベンチャー企業の事業にはあまり使わないはずですから、普通は先に売却して現金に換えてから、その現金を出資した方が面倒がないと思います。
■3のケース:弁護士、公認会計士、税理士などの調査
公認会計士等に調査を依頼するのは、裁判所に検査役の選任を頼むよりは、スピーディでコストも安くできると思われます。
しかし、コストがかかることには変わりありません。
そもそも現物出資は他に競合するスキームがいくつかあるので(会社法になってからはさらに増えた)、経済的な観点から考えれば、わざわざフィーを払ってまで調査を依頼する必要があるケースは少ないはずなんです。(特にベンチャーの設立の場合。)
1.現金で出資してから買えば?
例えば、現物出資の代わりに、現金で出資しておいてから、現物出資しようと思っていた資産を企業が購入するのでもいいわけです。
図で説明してみましょう。
現物出資というのは、現物を出資して株式の交付を受けることですから、例えば、現金250:現物750、計1000万円出資をするという場合、公認会計士等の調査を受ければ、下記のような出来上がり図が一発でできるわけです。

図表1.現物出資を使って設立した場合
しかし、わざわざ現物出資を使わなくても、手元にお金の余裕があるなら、まずは自分のお金を出すなどしてまず現金1000万円で出資し、

図表2.現金で出資して設立した場合
現物が必要になったときに会社が現物を買い取ればいいわけです。

図表3.現金で出資してから購入した場合
どうです?
直接現物出資しても、現金で出資してから現物出資したのと同じ財産を買い取っても、基本的に出来上がりの図は同じでしょ?
厳密に言うと、ケースによっては消費税上の取扱いが違って来ます。(少なくとも「出資」の際には消費税は関係ない)
また、財産引受(会社法第28条1項2号)や見せ金に該当しないか、事後設立(会社法第467条1項5号)の株主総会決議をどうするか等について、法律専門家等にご相談いただいた方がいいかも知れません。
法律上の厳密な話はともかく、経済的実質的には、どっちでもほぼ同じ効果が得られますから、わざわざコストをかけて検査役や公認会計士等に依頼するのは限られたケースになるものと考えられます。
2.「会社分割」とも競合する
売買で会社に資産を持たせてしまうと譲渡益が発生してしまいますので(取得価額より高くなっている場合。安くなっている場合には譲渡損。)、それがいやだという場合には、組織再編税制の「適格現物出資」を使うという手も考えられるわけですが、
法人税法第二条(定義) 十二の十四項
適格現物出資 次のいずれかに該当する現物出資…をいう。イ (100%親子会社間の場合)
ロ (50%超100%未満の場合)
(1)当該現物出資により現物出資事業…に係る主要な資産及び負債が当該被現物出資法人に移転していること…。
(2)当該現物出資の直前の現物出資事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該現物出資後に当該被現物出資法人の業務に従事することが見込まれていること…。
(3)当該現物出資に係る現物出資事業が当該現物出資後に当該被現物出資法人において引き続き営まれることが見込まれていること…。
ハ その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人…とが共同で事業を営むための現物出資として政令で定めるもの
「イ」の100%親子会社間の場合はともかく、「ロ」の50%超100%未満の場合、「ハ」の共同事業の場合には、現物出資されるものは「事業」じゃないといけません。
事業を新会社に移して代わりに株をもらうというスキームには会社法の「会社分割」という方法もあります。
会社分割ならわざわざ会計士等に調査コストを払う必要もありませんから、調査フィーの分お得ということになります。
3.「証明」を出す方もおっかない
一方、証明書を出す会計士等の側は現物出資の証明というのは、かなりオッカない。
もし「1億円」という価額が相当であるという証明を出した後に、注意不足で本当はその価値は6千万円しかなかったということになったら、証明した公認会計士等は、取締役等と連帯して、その差額の4千万円を埋めないといけないわけです。
現物出資する資産が「金塊」といった価値がわかりやすいものであれば証明を出す側も安心できますが、前述のように、換金性が高いものであれば「なんで換金してから出資しないの?」ということです。
このため、公認会計士等の証明を取得して現物出資するようなスキームが検討されるというのは、
「事業」
とか
「ソフトウエア」
とか、換金困難で一見して価値がわからないようなものが多くなってきます。
IT産業で行われる粉飾の手口で大きな問題になってるものに「循環取引」があります。
資産である「ソフトウエア」が、見かけはCD-ROMに入ったファイルに過ぎず、第三者にはそれがいくらの価値のものなのかが非常にわかりにくいから、そういうことが起こるわけです。
また、TOB(MBO)して上場をやめる企業で、「TOB価格が安過ぎだ!」と訴訟になるケースも増えてますが、あれも、TOB価格を適当に決めているわけではなくて、企業価値の算定を行う専門家がそれなり算定して決めているわけです。
しかし、かなり慎重に価格を決定しても裁判で負けてしまうこともある。
証明した金額を割り込んだら証明者が差額を自腹で埋めないといけないとすると、そのリスクは監査やTOBの企業価値算定をするのよりもっと高いわけです。
そういう「価値の見方が多様なもの」ほど、公認会計士等も、かなりの金額をもらわないと怖くて証明できないはずなんですね。
このため、飛び込みで「ボクの作ったソフトウエアを現物出資する証明をしてください!」なんてことを言っても、非常に料金は高くなりそうですし、そもそも証明業務を受けてくれるかどうかも微妙です。
■1のケース:「500万円以下」のケースは使える可能性
となると、ベンチャー起業の設立に一番使えそうなのは、1の「500万円以下」の現物出資でしょう。
商法時代は、500万円以下で「かつ」株式数の20%以下の部分しか、検査役無しの現物出資が使えませんでした。
しかし、会社法になって500万円以下であれば設立時の株式の100%であってもOKになったのです。
これなら裁判所の検査役も会計士等の証明も不要で、発起人や取締役だけの責任で現物出資が行えます。
ただし、法律上は可能ですが、次の点に注意する必要があります。
■将来の監査、デューデリに気をつけろ
「うちは絶対にIPOもしないしバイアウトもされない」という方針を貫くとか、株主も社長と取締役1名といった場合には、すぐに倒産したり、よほどひどい価格設定をしなければ、現物出資の価額が問題になるという可能性は低いかと思います。
(もちろん「バレないからいい加減な価額で資本金を膨らませたら?」なんてことをオススメしてるわけではありませんから、誤解無きよう。不正な価格で現物出資をしていた場合には、ケースによっては刑事罰が課せられる可能性もあるかと思います。)
しかしです。
会社法上の大会社(資本金5億円超など)になったり、投資家から投資を受け、IPOやバイアウトを目指すという可能性のあるベンチャー企業であれば、将来、監査法人の会計監査が入る可能性がありますし、IPOの際の上場審査や、バイアウトの際の弁護士・会計士によるデューデリを受ける可能性があります。
この時に、現物出資価格の妥当性が問われることになります。
実際にあったケースなのですが、それまで個人事業でやっていた事業を法人化する際に、少額の現物出資したところ、後に上場準備を始めて監査法人が入ってきた時に、
「この現物出資の価格は誰が決めたのか?」
「この価格が相当だという証明書はもらっているのか?」
という問題が持ち上がりました。
そのケースでは、実際に現物出資するときに、かなりしっかり考えて価格を決定し、算定根拠の資料も残っていたので、きちっとした説明をして事無きを得ました。
こういうこともあるので、現物出資をする際には、公認会計士等の調査が不要な場合であっても、きちっとした価格算定根拠を資料として残すとともに、できれば第三者の算定書を取得して置いた方がいいと思います。
(会社法上の調査ではなく、証明者も差額を自分が補填する義務はないので、[だからいいかげんな算定をしてくれるということは無いですが]、リスクが無い分、フィーもリーズナブルになるかと思います。)
上述のように、「ソフトウエア」や「事業」といったものについては、各監査法人とも「循環取引」等でエラい目にあってますので、慎重になる気持ちもわかります。
法律専門家だけの意見を聞いて、「100万円だったら証明なしで現物出資可能だから、楽勝ですよ」と言われてホイホイ現物出資してしまうと、株式公開を目指すようなことになったときに大変なことになるかも知れないというお話でした。
■増資時の現物出資の手続き
以上が設立時の現物出資の話でしたが、増資時にも同様の規定があります。
今度は会社法第207条。
第二百七条 株式会社は、第百九十九条第一項第三号に掲げる事項を定めたときは、募集事項の決定の後遅滞なく、同号の財産(以下この節において「現物出資財産」という。)の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。
そして、設立のときと同様、裁判所の検査役不要の例外が5つ、同9項に書いてあります。
9 前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。
一 募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の十分の一を超えない場合 当該募集株式の引受人が給付する現物出資財産の価額
二 現物出資財産について定められた第百九十九条第一項第三号の価額の総額が五百万円を超えない場合 当該現物出資財産の価額
三 現物出資財産のうち、市場価格のある有価証券について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が当該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合 当該有価証券についての現物出資財産の価額
四 現物出資財産について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。以下この号において同じ。)を受けた場合 当該証明を受けた現物出資財産の価額
五 現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合 当該金銭債権についての現物出資財産の価額
つまり、設立の時と同様、
2. 500万円以下の場合
3. 上場してる株式などを出資する場合
4. 弁護士、公認会計士、税理士などに調査してもらった場合
といった場合はもちろん、
1. 発行済株式数の10分の1以下の場合
5. 金銭債権を出資する場合(DESの場合)
の場合にも、裁判所の検査役の検査は必要ありません。
■1のケース:「発行済株式数の10分の1以下」
1の発行済株式数の10分の1以下の場合というのは、あまり説明する必要もないかと思いますが、ベンチャーの場合には、資本金が小さいのに企業価値評価が大きくなることがあるので要注意です。
例えば、資本金は500万円だが、増資前の企業価値を5億円で評価してもらえたベンチャー企業があるとします。
その10%ということは、5000万円。
設立時には500万円までしか検査役無しで現物出資できなかったものが、5000万円もの現物出資が検査役がいらなくなってしまうわけですね。(ちょっとおっかないですね。)
また、前述のように、検査役・調査者が不要だからといって、その価格が後から入って来た監査法人等の第三者に認めてもらえるかどうかはまた別の話ですからご注意を。
■5のケース:DES(Debt Equity Swap)
5.は、金銭債権の現物出資、いわゆるDES(Debt Equity Swap)のケースです。
この規定の不思議なところは、会社に対する金銭債権が「(弁済期が到来しているものに限る。)」と書いてあるところです。
DESするような会社というのは、財務的にボロボロなことも多いので、銀行への返済期日が来ても返済できなかったケースがあるわけですから、そういうものを資本に振替える時には検査役はいらないですよ、という会社法の「やさしさ」なのかも知れません。
しかし、検査役がチェックするのは「現物出資される財産が本当にそれだけの価値があるのか?」という点です。弁済期が到来した「ボロ債権」より、弁済期が到来してない債権の方がイキが良くて価値も高いはずですよね?
なぜ価値が高い債権はダメで、価値が低い債権の現物出資だと検査役が要らないのか、よく考えると不思議です。
実は、「債権として価値があるかどうか」というのは会社の外側から見た視点で、会社の内側から見ると、例えば1億円の債務をDESしてもらえば、帳簿上1億円分債務が減るのは確実です。だから、第三者の評価が要らないというのはわかるのですが、なぜ弁済期が到来してないとダメなのかが不思議。
それに弁済期というのは、会社と債権者とでコントロールできてしまうから、「(弁済期が到来しているものに限る。)」という条件はどうにでもなってしまうわけです。
これも図で見てみましょう。

図表4.DESすると負債が資本に変わる
上の図の左側が現物出資前の会社の貸借対照表だとします。
負債が750万円ありますが、これがすべて金銭債権であり弁済期が到来しているとします。
このため裁判所の検査役は不要になります。
これを現物出資すると、上の右の図のように、資本金が750万円増えて1000万円になります。
これがDESです。(←シャレではありません。)
これが可能だということは、実は、今まで見て来た様々な現物出資の制限はすべて実質的に意味がなくなってしまうということでもあります。
下記の図の例で見てみましょう。

図表5.現物出資で増資した場合
上の図の左のように、資本金250万円の会社があるとします。
ここに750万円のモノを現物出資すると、上の図の右のように借方貸方(左右)とも750万円ずつ増えて、資本金1000万円の会社になるわけです。

図表6.現物出資するのと同じ財産を購入した場合
では、現物出資したのと同じ資産を購入したらどうなるでしょうか?
上の図は、購入直後でまだ購入代金750万円を支払っていません。つまり、水色の負債として計上してあるのは、会社に対する金銭債権ですが、まだ弁済期は到来してないわけです。
では、この購入代金は1ヶ月後に支払いますという契約になっていたが、1ヶ月過ぎても代金を支払わなかったとします。

図表7.購入代金を現物出資(DES)した場合
上の図の左の貸借対照表の負債として計上されているのが弁済期の到来した金銭債権750万円です。
これを債権者が現物出資したいということになり、会社(株主総会)もOKすれば、検査役の検査なしで現物出資が行えてしまうわけです。
そして、上の図表7の右側の図をご覧下さい。
これは、初めから現物出資した図表5の右側の図と全く同じ図ですよね?
初めから現物出資したら裁判所の検査役が必要なのに、売買してDESしたら不要になってしまったわけです。
これでは、費用を出してまで裁判所の検査役や公認会計士等に頼む人は誰もいなくなっちゃいそうですね。
もちろん、最初からDESするつもりで売買を行った場合に、現物出資規制の潜脱にならないのか?等については、法律専門家の方の意見をもらっておいた方がいいかと思います。
しかし、最初から意図していたわけではなく、本当に払えなくなってしかたなく「では代わりに株式をもらおうか」ということになったものまで潜脱というのもおかしい。
また、前述の現物出資財産の価額と同様、こうしたスキームの妥当性についても、普通の未公開企業なら問題にならなくても、上場審査や会計監査、デューデリ等が入った場合には、より厳しく見られる可能性もあることを留意しておいた方がいいと思います。
■まとめ
いろんなケースについて述べてきましたが、将来あるベンチャー企業が行う現物出資についてまとめると、以下のようになるかと思います。
- 「なぜ現物出資をするのか」をよく考えること。
- 現金の出資ではダメなのか?もよく考えること。
- どうしても現物出資をする場合には後から確実に説明可能で十分「堅め」の評価にし、資料もしっかり残しておくこと。
- 会社法上必要でなくても、できれば第三者評価を取得しておくこと。
現物出資する財産が実際の時価とかけはなれている場合には、税務も関連してきます。
現物出資者が法人か個人かによっても異なりますし、現物出資財産を受入れる会社の方も、あまり安い金額だと受贈益が発生して法人税の問題に関連してきますが、税務の話は長くてややこしくなりますので、いつの日か必要がありましたら、また。
本日はこのへんで。
(ではまた。)
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