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週刊isologue(イソログ)
2010.03.15(第50号)
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■日本経済新聞社の平成21年度決算を読む
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日本の大手新聞社は、読売新聞を除いて、実は有価証券報告書でかなり詳細な決算を開示してるのですが、マスコミ各社は(照れもあるのか)自分たちの決算内容を詳細には報道しません。
また、普通の大企業であれば証券アナリストなどの企業分析のプロの方々に分析されることも多いですが、非上場企業の分析をしてもあまり商売にならないので、新聞社の経営分析というのは、さほど多く見かけないんじゃないかと思います。
「週刊isologue」では、過去に何度か新聞社のビジネスについて取り上げたのですが、
第13号:新聞業界は今、どうなってるか?(問題意識編)
第14号:新聞業界は今、どうなってるか?(朝日新聞社編)
第15号:新聞業界は今、どうなってるか?(毎日、産経、日経編)
第23号:「紙メディアの無い世界」の覇者は誰か?(前編)
第24号:「紙メディアの無い世界」の覇者は誰か?(後編)
今回は、先週「決算短信」を発表した日本経済新聞社の業績の推移について考えてみます。
■決算の概要
日経の決算は、「決算短信」の名前でこちらのサイト
http://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/company/financial.html
に過去3期分開示されてます。(通期、中間期)
これは、法律上の義務である決算公告や有価証券報告書と異なり、 日経さんが任意で開示されているものかと思います。
上の表のとおり、21年12月期は、営業利益段階ですでに37.8億円の赤字で、当期純利益では132億円もの赤字となっています。
通期では初の赤字とも言われていますが、昨年9月に開示された中間期では、下表のとおり、すでに損失が発生していました。
中間期は6ヶ月、通期は12ヶ月で表示されます。
つまり、下半期の業績は見ただけではわからないので、差額を計算して、6ヶ月毎のトレンドをみたのが以下です。
まず売上高ですが、

図表3.連結、6ヶ月毎売上高の推移(単位:百万円)
こういった感じで、平成20年以降、下降トレンドをたどってます。
今回、「(通期で)初の赤字」で、当期純利益もマイナス132億円なので、確かにショッキングな数字ではあるのですが、グループ全体での売上の下げ止まり感は出て来たという感じの図にはなっています。
次は営業利益、経常利益、当期純利益の推移。

図表4.連結、6ヶ月毎利益の推移(単位:百万円)
こちらはまだ下降しそうな勢いですが、下落スピードは若干減速してきたかな、という感じですね。
今回の日経の決算に対する同業各社の報道は、
「新聞や雑誌の広告収入の落ち込みが響き」(朝日新聞)
「景気低迷による広告収入の落ち込みで」(東京読売新聞)
「景気低迷で企業が広告を減らしたのが響いた。」(産経新聞)
となってますので、広告収入が減ったことが原因ということになっているようです。
■半期毎の数字でビジネスモデルを考える
日経新聞の事業構造を想像してみると、特に新聞事業については、記者が取材したり、輪転機や印刷機を回したり、配送したり、といった「固定費」が中心で、売上に比例してかかる変動費の割合は小さそうです。
半期毎の売上高、営業利益、経常利益、当期純利益のそれぞれの差を取ってみると分かりやすいと思いますが、

図表5.連結、前の6ヶ月からの変動額(単位:百万円)
上図のように、売上高の減少額と営業利益、経常利益、当期純利益の減少額は、概ね一致してますね。
もし広告収入の減少が業績悪化の主要因だとすると、広告収入の限界利益率はすごく高そうですから、売上の減少額がそのまま営業利益、経常利益の減少に繋がっていることはうなずけます。
しかし、これは連結ですので、日本経済新聞社グループのいろいろなビジネスが混ざってますし、固定費が完全に横ばいということではなく、営業経費の削減も行われているようではありますので、もうちょっと詳細に見て行きましょう。
■「押し紙」の決算に対する影響を推測する
この中で目を引くのが、平成21年6月の中間期の売上高減少額が突出している点です。
以下、一般論ですが。
冒頭に掲げた過去の「週刊isologue」の新聞関係の号を書いたあと、新聞社の関係者の方から、
新聞社の売上には「押し紙」が含まれているから注意が必要だよ。
というご示唆をいただきました。
「押し紙」は、新聞販売店とどの程度合意したり、どの程度売れないことがわかっていて押し付けているのかといった現場の実態がわからないと、会計処理としての悪質さがよくわかりません。
ある新聞社の経営層の方から「新聞社の経営者ですら実態がわからない部分がある」という話を伺うにつけ、この問題はかなり根深い問題だという気がします。
日本の会計基準は、売上の計上ルールがさほど明確ではありませんので、この押し紙分を売上に計上しても、(実際には売れなかった分の損失が先送りされるといったことがなければ)、会社法上や金融証券取引法上、必ずしもいわゆる「粉飾」に該当するということではないかも知れません。
しかし、広告を出稿する広告主は部数から広告効果を期待して出稿するわけですから、売れていない部数を水増しするのは、少なくとも広告主に対しては重大な背信行為です。
不況でもあり、広告主からの押し紙に対する突き上げも厳しくなっているとも聞きますので、新聞業界としてはこうしたことを是正しなければならない局面に来ているということかと思います。
つまり、ここ数年で新聞業界各社の売上が減少しているのは、
- 広告収入や新聞の売上部数が本当に下がっている「実態」の部分と、
- いわゆる「押し紙」をやめたり売上の計上基準を変えたりした部分が
の両方含まれている可能性があるわけです。
しかし、日本経済新聞社については、有価証券報告書をざっと読んだ限り、平成21年6月中間期の日本経済新聞社の連結の注記でも売上高の計上基準が変更になった旨の記述は見当たりませんし、「業績等の概要」の新聞事業についての記述でも「広告収入は…大幅な減収」ですが、「新聞販売収入は、微減収」としか書かれていません。
有価証券報告書の虚偽記載は懲役刑もある重大な犯罪だということは日経さんもよくご存知でしょうから、この中間報告書に記載された「新聞販売収入は、微減収」という記述を信じてもいいとすると、日経さんの場合、売上部数はあまり変わっていないということになります。
日経新聞は、他の大手新聞社より新聞販売店とのパイプは細そうですから、そもそも販売店との力関係上で「押し紙」的なことができるのかどうか?、といったことも併せて考えると、上記のH21/6期の売上高の大幅な減少は、売上部数の低減や、押し紙の解消によるものではなく、報道されているとおり広告費の減少が中心なんだろうという仮説が考えられるかと思います。
■単体決算のジグザグな推移
次に、日本経済新聞社の「単体」の決算内容を見てみましょう。
この単体の業績推移を6ヶ月毎に分解してみると、不思議な挙動が目につきます。

図表8.単体、6ヶ月毎売上高の推移(単位:百万円)
売上高については、6ヶ月毎の推移を見ても、上記のとおり、H20/6に突出があるものの、だいたい連結と同様の右下がりのトレンドに見えます。
しかし、6ヶ月毎の利益の推移は、ちょっと不思議なジグザグ運動をしています。

図表9.単体、6ヶ月毎利益の推移(単位:百万円)
つまり、
上半期(1-6月)の決算は良くて、下半期(7-12月)の決算は悪い
というトレンドが見て取れますね。
前の6ヶ月の数値との差を取ると、以下のようになります。

図表10.単体、前6ヶ月からの変動額(単位:百万円)
平成21年6月期の売上の減少額もわずかで、やはりここだけ、売上の減少に対して利益は増加しています。
素直に考えれば、「新聞事業というのは、何らかの季節変動要因があって、1-6月の売上が大きくなり、7-12月の業績が悪くなる傾向にあるのかな」という仮説が思い浮かびます。
しかしちょっとうがった見方もできます。
上期は半期報告書として開示されますが、通年の業績では下期だけの業績は開示されません。つまり、こうしてわざわざ差分を取らないと一般には下期の業績は見えにくい。
だから、 上期は稼いでいるように見せてグループ会社等に押し込み販売的なことを行い、下期にそれが元に戻るというようなことをやっているということはないか?ということも疑われるわけです。
ということで、同業他社の状況も調べる必要があります。
朝日、毎日、産経の三社の6ヶ月毎の経常利益の推移を見てみたものが下記ですが、

図表11. 他3社連結、6ヶ月毎経常利益の推移(単位:百万円)
上記のとおり、やはり、各社そろって利益はジグザグ運動をするようです。
上記の三社はすべて3月決算ですが、上期が業績が悪く、下期が業績がよくなっています。
12月決算の日経新聞の場合と逆ですので、これはやはり、「上期をよく見せよう」といった意図的なものというよりは、1-3月の広告出稿量が多い、といった季節変動要因の可能性が強そうだという仮説が考えられます。
■新聞関連事業セグメントの状況
今回開示されたのは「決算短信」で、事業セグメント別の情報はついてません。
事業セグメント別の情報が載っている有価証券報告書の開示は、日経の場合、毎年、3月末ギリギリに開示してるようですので、平成21年下半期のセグメント別データはそれまでのお楽しみとなります。
その予習として、平成21年上半期までの新聞事業の6ヶ月毎のデータを取ってみますと、以下のようになります。

図表12.単体とセグメント、6ヶ月毎売上高の推移(単位:百万円)
新聞事業セグメントと単体の乖離が徐々に小さくなっているように見えますね。
昨年の有価証券報告書の「事業の内容」によると、日本経済新聞社と関係会社の関係は、下図のようになってます。
つまり、新聞事業については、図の真ん中の株式会社日本経済新聞社(単体)の他に、新聞関連事業34社があって、「印刷」「新聞編集・制作」「新聞販売促進」「広告代理店業務」といった業務が、関係会社で行われています。

図表14.単体とセグメント、6ヶ月毎利益の推移(単位:百万円)
親会社単体よりも連結の新聞事業セグメントの数字の方が、関係会社間の在庫の入り繰りや取引等が相殺されるので、「新聞事業」としての実態をよりよく表しているはずです。
朝日、毎日、産経の三社ではグループ全体を表す連結で利益がジグザグしていたので、日経の場合に、セグメントで連結した数字が滑らかに右下がりというのが、ちょっと謎です。
機会があったら、もうちょっと深堀してみたいと思います。
■セグメント別の状況
週刊isologue 第15号「新聞業界は今、どうなってるか?(毎日、産経、日経編)」に掲載した図の再掲ですが、日本経済新聞社(グループ)は、他の新聞社に比べて、多角化が進んでいると考えられます。

図表15.各社連結売上高(単位:百万円)
朝日、毎日、産経はH21年3月期、日経はH20年12月期
売上(外側の円)と営業利益(内側の円)を見ると、

図表16.日本経済新聞社のセグメント情報
(平成20年12月期、外側:連結売上高、内側:営業利益)
上図のとおり、情報関係の利益への寄与度が、非常に高くなってます。
情報関連事業も他の事業と同様、急速に売上・利益が減少してはいますが、平成21年6月期(半期)のセグメント別利益で見ると、
- 新聞関連事業:-5,446百万円
- 出版関連事業: -1,584百万円
- 情報関連事業: 4,784百万円
- その他事業 : 1,414百万円
という感じで、他の事業と比べると、日経グループ内では存在感をより強めています。
(新聞と出版の利益がマイナスに転落したので、円グラフで書けなくなってしまいました。)
■まとめと展望
以上、今回は、細かい科目別の財務分析というよりは6ヶ月毎の業績トレンドを中心に、日本経済新聞社の業績の推移をざっと見て参りました。
読者の方のもっぱらのご興味は、こうした下降トレンドの中、日本経済新聞社が、「電子出版元年」と言われる今年以降どうなっていくかがではないかと思います。
日本経済新聞電子版も3月23日火曜日から開始されますので、詳細についていずれまた機会があればコメントさせていただければと思いますが、上記の分析などもあわせて、現時点で言えることをまとめると、以下のようなことが言えるかと思います。
- 日経は日本における「電子出版プラットフォーム」ですでに成功している会社、と見ることもできる。「日経テレコン」は、他の新聞や企業の信用情報などを集めたトータルなビジネス情報のプラットフォームになっており、ネットワーク外部性や「ロックイン」も発生している。
- その日経テレコンやQUICKなどを含む情報関連事業も売上や利益の急速な低下に見舞われている。日経電子版が立ち上がっても、情報関連事業がグループ全体の急速な利益低下を補うほどの規模にすぐに成長するとは考えにくい。
- 有価証券報告書等の記述を見る限り、日経新聞の発行部数自体はあまり減っていない模様。 つまり、日経の減収減益の要因は、広告費の減少によるものが中心。
- また、日経グループのコストの大半は固定費的なものだと考えられるため、広告費の減少が、仮に紙媒体に対する恒久的なトレンドではなく景気悪化による一時的なものだとすると、景気が回復して広告費が戻れば黒字化といったことも考えられないではない。
ただし景気や広告需要が回復しない場合には、赤字が続くことになる。 - 日本経済新聞社は連結で2686億円、単体でも2053億円の純資産があり、仮に今のペース(経常利益で37億円、純利益で132億円)で赤字が続いたとしても、債務超過といった事態になるには、十年以上かかることになる。現金同等物も単体で979億円、単体の現預金+有価証券で300億円超を保有している。
つまり近々財務的な側面から日本経済新聞社の経営が傾くということは、(いい意味でも、危機感が生まれにくいという悪い意味でも)あまりなさそうだ。 - 他社の6ヶ月毎トレンドを見ると、1-3月は毎年利益額は増える傾向にある?
- 連結の売上高は下げ止まったように見えるが、単体の売上下落は下げ止まってないように見える。
今年の1月以降の業績を予想するためにも、3月末発表の有価証券報告書では、新聞事業のセグメント業績に要注目。
電子新聞や、有価証券報告書の開示を踏まえた続きは、いずれ。
(ではまた。)
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