平成20年の新司法試験の問題が、法務省のウェブに公開されました。
http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h20-21jisshi.html
私、今年も中央大学法科大学院で、大杉先生といっしょに「ベンチャーと法」の授業を受け持たせていただいているのですが、なんか今年は昨年より、私の授業の時の生徒のみなさんの視線が熱いような気がしております。
昨年に比べて私の授業のやり方が特に上手になったということはないと思うので、やはり背景としては、司法試験の民事系科目の試験で上場前後のベンチャー実務っぽい内容の問題がここ数年連続していること(今年も第二問にそれっぽい問題が)が大きいのかと思います。
また、昨年の授業で私が学んだことの一つは、やはり日本のロースクールの場合、いくら合格後の実務で役に立つだろうと思って親切でいろいろご説明しても、やはり、目の前に司法試験という大きな壁が立ちはだかってますので、生徒さん方も「受かった後」の話についてはあまり勉強するインセンティブがわかないんだろうなあ、ということであります。
一方、(私は直接にはよく存じませんが)留学経験のある方々のお話を聞くと、アメリカの司法試験は直前3ヶ月で丸暗記で詰め込めば、そこそこの人なら受かる内容の試験となっているとのこと。
つまり、「受験対策」をしても差別化にならないので、アメリカのロースクールの授業は受験予備校的な内容よりも、合格後に「競争力のある」弁護士になれるような話が盛り込まれているかどうかが差別化のキモになっているのではないかと思われます。
競争力がある弁護士というのは、アメリカにおいてはつまりは「金が稼げる」弁護士かどうかということであり、金が稼げるということは、(学術的な内容や訴訟に関する技術といったこともさることながら)つまりは「経済」「経営」的なセンスを身に付けさせられるかどうか、といったことがポイントになるということではないかと思います。
(つまり、単純化して申し上げると、アメリカでは「司法試験が簡単」だから、「法律専門家の間に経済感覚が浸透する」といった結果になっており、そういう意味でも、日本の司法試験の民事系科目に複雑な一見実務っぽい前提条件を盛り込んだ長い文章題があるのがいいのかどうか、といったご指摘をされる留学経験弁護士の方もいらっしゃいますが・・・・それはさておき。)
(注:「日本も司法試験を簡単にすれば、法律専門家の間に経済感覚が浸透する」といった単純な議論をしているわけでもありませんので、念のため。)
taka-mojitoさんのブログで、スタンフォードのロースクール(注:ビジネススクールではなく、ロースクールです)では、Kliener Perkins Caufield & ByersのパートナーのJohn Doerr氏とJohn Denniston氏とか、ブラック=ショールズ・モデルで有名なノーベル経済学賞受賞のMyron S. Scholes氏をはじめとする世界的な(経済界の)人が次々に講演に来られたり、Excelを使って実際にpreferred stockのanti-dilutionの影響をシミュレーションしたり、といった授業があるという記述を読んで非常にビックリしたのですが、そういったあたりが端的な例かと思います。
個人的には、そういった話を聞けるのは垂涎モノなのですが、日本のロースクールでその授業をやったら、まず、半分の方は寝るのではないかと。(なぜなら、司法試験に出ないから。)
昨年の学生さんのアンケートは、(具体的な氏名は教員には伏せられているのですが)、ほとんどのみなさんは好意的なコメントを寄せていただいたのですが、中には、「我々は弁護士を目指しているのに、なんで会計の話なんか聞かないといけないのか。」と書かれていたものがあって、「ガーン!」、となりまして。
私は「会計の話」をお伝えしたかったというよりは、企業というものがどういうしくみで動いているのか?といったあたりを感じ取っていただければ、と思ってしゃべっていたので、その辺の趣旨が伝え切れなかったということが昨年の反省となりました。
ということで、そうした昨年の授業の経験を生かして、今年は私がしゃべる回の冒頭に、「最近の出題傾向を見ると、私が授業でしゃべるあたりの経営実務の話が司法試験に出るかもねー」といったマジック・ワードをちりばめておくことにさせていただいてます。(笑)
みなさん、これを口にした瞬間に「キラーン」と目が輝く気がいたします。
「エサで釣る」ような気がして、最初はなんかちょっとやーらしいかなあとも思ったのですが、結果として話を聞く気になっていただいて、試験を解く際に何らかの参考になったり社会に出てから役に立ったりするのであれば、私としては本望であります。
—
さて、しばらくMacネタに終始してたんですが、
- 「ごくせん」と「法化社会」
- 今週の週刊ダイヤモンド「裁判がオカシイ!」の話
- 最近の買収防衛策報道について考える
- ACGAの発表した「日本のコーポレート・ガバナンス白書」について
といった点についてもコメントしたいなあという気持ちがわいてきまして、(でも、総会シーズンでバタバタしていて、他にも仕事もあるので、つらいなあ、というところでありますが)・・・・あまり期待せずにお待ちいただければ幸いです。
(ではまた。)
[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。