本日の日経新聞朝刊一面「山之内やヤフー、株発行枠を拡大——M&A・株分割に備え」という記事。
月曜日だし別にいいんですが、授権枠の設定って一面に載るような記事なんでしょうか??
株主総会で株式発行可能枠を拡大する企業が相次いでいる。山之内製薬や日立建機が二倍強に広げるほか、ヤフー、バンダイも拡大した。事業拡大や企業の合併・買収(M&A)をにらみ、増資などで機動的な資本戦略をとれる体制を整える。体力低下で資本増強が必要な建設会社や商社が枠を広げた昨年に比べ、今年は攻めの戦略に備えた動きが目立つ。
と、このあたりは参考になりますので、ニュース価値がないと申し上げてるわけではないのですが、
株式発行可能枠は「授権株式数」といい、その範囲内なら取締役会の判断で株式を発行できる。変更には株主総会での決議が必要になる。
ちなみに、「授権枠」とか「授権株式数」というのは通称で、商法上の正式名称は「会社が発行する株式の総数」(商法第166条�三、他)といいます。(念のため。「会社が発行する株式の総数」というと、会社が既に発行している株式数なのか、これから発行できる株式数なのかが普通の人にはわかりにくいので、「授権株式数」の方がいい名前?だと思います。)
来年四月に藤沢薬品工業と合併する山之内は、合併を機に八億株の株式発行枠を二十億株に拡大する。世界的な競争のなかで研究開発投資や事業拡大に備える狙いだ。
これもちなみに、合併の際に授権枠を広げる際には、合併契約書にそのことを記載する必要あり。
第409条
合併ヲ為ス会社ノ一方ガ合併後存続スル場合ニ於テハ合併契約書ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
1.存続スル会社ガ合併ニ因リ定款ノ変更ヲ為ストキハ其ノ規定(以下略)
タイトルには「M&Aに備え」とあり、M&Aの例はこれしかないのですが、上記の山之内製薬と藤沢薬品工業の例はM&Aに「備えて」いるわけじゃなくて、M&Aと「同時に」授権枠を拡大するということですよね?
さらに、ちょっと記事ではよくわからないのが、以下のヤフーに関する記述。
株式分割も念頭に置いているとみられるのがヤフー。同社は一九九七年に株式公開して以来、株式分割を九回実施。個人投資家が買いやすくなるよう最低投資単位が五十万円未満になるまで分割を続ける考えだ。
株式分割を念頭において授権枠を広げるというのは具体的にはどういうことなんでしょうか。
平成13年10月に施行された改正商法で、株式分割の割合に応じた授権株式数の変更については、取締役会決議により行うことができるようになってます。
第218条
会社ハ取締役会ノ決議ニ依リ株式ノ分割ヲ為スコトヲ得
2 前項ノ場合ニ於テハ第342条ノ規定ニ拘ラズ取締役会ノ決議ヲ以テ定款ヲ変更シテ会社ガ発行スル株式ノ総数ヲ株式ノ分割ノ割合ニ応ジテ増加スルコトヲ得但シ現ニ2以上ノ種類ノ株式ヲ発行シタル会社ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
ということで、分割のためにあらかじめ授権枠を広げておく必要は必ずしもないと思うんですが、どうなんでしょうか。これも、自社株買いの定款変更と同様、あえて上記の商法の規定は使わず、株主に「枠」を明示して、その中でしか分割しないというような運用に制限するということなんでしょうか?
確かに、主として分割による(フィナンシャルな)時価総額の上昇を狙って株式分割を連発する企業も出てきているので、株主としては「方針」を明示し、そのへんに歯止めをかけてほしい、というニーズはあるかも知れませんね。
法律上は「株式分割」の反対の「株式併合」という手もあるにはありますが、実際はほとんど業績不振企業等しか使わないと思いますので、分割しすぎで株価が下がりすぎちゃった、という場合には実務上は使えないでしょうから、安易な株式分割は長い目で見ると非常に危険です。
(追記:6/29,12:37)
krpさんから「過剰流動性による株価下落への対抗策としては、『自己株式取得+消却』もある」とご指摘いただきました。
自己株式取得も考えたんですが、本エントリーの趣旨としては、「分割の非可逆性」みたいなことを申し上げたかった、というのが一つ。
もう一つは、krpさんがおっしゃるとおり「財源」も必要になりますので、こと「分割による(フィナンシャルな)時価総額の上昇を狙って株式分割を連発する企業」さんの株価が激しく下がったことを想定した場合、その上キャッシュまで大量に出て行くのでは、M&A戦略を取るのがキツくなり、スパイラル的に株価が下落していってキツいだろうなあ、と思いまして、書くのをやめてしまいました。
ご指摘のとおり、その手もあります。
自己株を取得するだけでいいのか、消却したほうが株価に好影響なのかどうか、というのはちょっとデータで検証してみたいところです。(メモメモ・・・)
ご指摘ありがとうございます。
(ではまた。)
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分割の反対は...
私の「授権株式数の変更」は、磯崎哲也さんの「授権枠の拡大」と被ってしまいましたf(^^;)。磯崎さんは「M&Aへの備え」にもしっかりつっこみを入れておられますし、株式分割でもわざわざ株主総会で授権株式数を変更する理由について、突っ込んだ分析をしておられます。…