放送大学 地デジ化のインパクト

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前回に引き続き、放送大学のお話を。
前のエントリでインタビューしていただいた産経新聞の方が総務省ご担当だったので、
「地デジ化というのは、放送大学を他の地上波局と同等にすることによって、他の放送局と日本人全体の知的レベルを飛躍的に人工進化させるために総務省と文部科学省が画策したインボー(セカンド・インパクト)ということはないでしょうか?」
と伺ったら、
「たぶん・・・・・そういったことは全く考えてないと思いますけど・・・」
というお返事でした・・・・・・・が、それはさておき。
 
放送大学で昨年末、岡部洋一副学長と宮田英里アナの「大学の窓『世界の仲間たち〜遠隔教育の現状〜』」という紹介コーナーが流れてましたが、これが、世界の中での放送大学という大学/放送局の位置付け(特異性)をよく表してるんじゃないかと思います。
各国の大学の取り組みとしては、

イギリス:オープン・ユニバーシティ
フランス:国立遠隔教育センター
アメリカ:メリーランド大学カレッジ
    :フェニックス大学
南アフリカ:南アフリカ大学
タンザニア:タンザニア公開大学
中国:中央広播電視大学+各省ごとに数十の公開大学
タイ:スコタイ・タマチラート大学
インド:国立インディラ・ガンジー公開大学
韓国:韓国放送通信大学校

などがあって、
岡部副学長によると、世界の遠隔教育のキーワードは、やはり「英語」である、と。
英語であればコンテンツとして世界に売れることから、英語圏の大学はこれに早くから気づいて、インターネットでの教育にいち早く取り組んで来た。英語圏以外の国では、教育のコンテンツを自分で作る能力が足りないことに加えて、英語の能力を高めたいという国策的なことがあるので、英語の教育コンテンツ全盛になっている。
また、放送大学は9月に韓国放送通信大学校と協定を結んだが、韓国は24時間英語教育をやっている一方で、英語からは比較的独立して自分でコンテンツを作る能力もあるので、他のアジアの国とは違った様相である。20代30代のビジネスマンが多く入学して来ていることにびっくりした、とのこと。
(ということは、現在の放送大学は、おじいちゃんおばあちゃんが公民館のカルチャースクールに行くのと同じニーズ(もちろん、それもすばらしいことです)が中心である、ということなんではないかと思います。)
授業を送るメディアとしては、今やインターネットが圧倒的で、放送の利用は非常に少ない、ということもおっしゃってました。
英国の「オープン・ユニバーシティ」ですら、BBCの枠の一部を借りているにすぎないため、たくさんの講義を流せない。韓国も、教育テレビの枠の一部しかもらっていない。このため、自ずとインターネットに向かわざるを得なかった。
日本の放送大学は逆で、最初から放送免許を持っていたが、インターネット化については遅れていた。現在、ラジオ放送分についてはすでに全部インターネットで流し始めており、テレビのコンテンツも今後どんどんネットで流すようにする。・・・とのこと。
以上のように、放送大学というのは、地上波テレビの放送局免許を持つ世界で唯一の大学ということのようです。
つまり、ホリエモン氏も三木谷氏も世界の他の大学もできなかったことが、はじめからeラーニングの世界でできちゃってる(逆にインターネットへの取り組みが非常にショボい)ということになっているということかと思います。
他の地上波テレビ局の経営に対する影響
私、お恥ずかしながら、今までテレビで見る番組と言えば、バラエティとかお笑い番組がかなりの比率を占めていたんですが、昨年地デジにしてから放送大学が8割くらいになっちゃいまいました。
前回のエントリでも申しました通り、茂木健一郎氏がいう、「脳はアハ!体験を喜ぶ」という話が本当だとすると、放送大学の授業は、NHKや民放のコンテンツよりはるかに「アハ!」度が高い。
いつも難しい本を読んでいる特殊な人が放送大学を見始めるというのではなく、流行の教養バラエティを見ている層の人が、放送大学視聴にシフトする率はそこそこあるような気がします。
今、放送大学の視聴率は測定されているのかどうか存じませんし、測定されていてもかなり低いのではないかと思いますが、今後、5%くらいの視聴率を取る番組が出て来たら、すごいなあと。
放送大学のホームページで放送大学の年間予算が見当たらないのですが、ネットで検索すると、80億円くらいの桁の数字が出てきました。(財務諸表が見当たらないので、総事業費なのか経費から授業料等を差し引いた国庫の負担金額部分のみなのか、よくわかりませんが)。
また放送大学は、(インターネット化をちゃんと行えばあまり必要ない気もしますが)、全国の各都道府県に50以上の学習センターや図書館などの膨大な「箱もの」も保有してます。
(追記:はてブでid:foodsfooさんにご指摘いただきましたが、施設と言っても普通の大学を間借りしてるものも多いようです。でも、担当者が各1人しかいなくて経費が賃料その他合計で平均1ヶ月100万円しかかからないとしても、50カ所で年間6億円。国の予算と考えれば非常に小さいですが、情報伝達コストと考えてWikipediaの年間予算にも該当すると思うと、安いような高いような・・・。)
その分の運営費用を差し引くと、コンテンツ作成費用にかけているコストは、他のテレビ局に比べて、めちゃくちゃ少なそうですね。
おそらく、テレビ東京の10分の1くらいのコスト構造なのかも知れません。
個人的には、「箱もの」等にかけているコストをインターネットに回すとともに、NHKは教育テレビのチャンネルを放送大学にあげちゃって、学科(特にビジネス周りの社会科学系)を増やしていただけるとありがたいという気がいたします。
インターネット化も、自前でしこしこサーバを増強したりしてないで、YouTubeと提携するとかしちゃった方が、コストも小さく、かつ、世界的なインパクトははるかにデカいと思います。
大学経営への影響
普通の大学というのは、実際にどんな授業をやってるのかは外からは伺い知れないので、経営においては「ブランド」が重要だったし、これからもブランドは重要な要素であり続けるとは思います。
しかし、学生が入学した後に、
「うちの先生・授業って、(放送大学の授業に比べて)レベル低いんじゃないか」
と気がつかれてしまう度合いは大きく増すでしょうね。
また、放送大学の講師は専任の先生だけでなく他の大学の先生も多いので、「あの先生に学んでみたい」という、「教授のショールーム」としての機能が増すかも知れません。
eラーニングビジネスへの影響
90年代の終わりから、いろんなeラーニングビジネスを見てきましたが、基本的に儲かっている例はほとんどない。ネット上では、他のコンテンツとの圧倒的な差別化をはかれない限り、超過利潤が生まれるわけもないので、eラーニングというのは成立しないのかなあ、と思っていたら、ソフトバンクさんがはじめた「サイバー大学」は、かなり成功してらっしゃるようで。
ただ「学ぶ」のではなく「学位が取れる」というのは、超過利潤を発生させる要素なのかも知れません。
今は学部の内容がかなり異なっているのであまり影響がないのかも知れませんが、放送大学が今後、提供する学問領域を広げるようなことになると、地上波という圧倒的なパワーによってネットの大学に対する「民業圧迫」ということになる可能性もなきにしもあらずかと思います。
女子アナ界への影響
民放キー局の女子アナを目指すような人は、今までであれば「放送大学の女子アナになろう」なんて思いもしなかったと思いますが、放送大学はなんせ「全国放送」ですので(追記:失礼、CSのスカパーはありますが、地上波は関東圏だけのようですね・・・失礼しました。全国展開の予定はないんでしょうか。)、地デジへの移行が進むと、(放送大学の放送の大半は教授がしゃべってるだけですので、女子アナの出番は非常に限られてはいますが)、全国的な露出の面では地方局の女子アナなんかよりはるかに高くなる可能性もあると思われます。
今回、「大学の窓」を見て宮田英里アナファンになっちゃったのですが、今後も、(放送大学側に採用する気があればですが)キー局並みにお美しい方々が女子アナを勤める可能性もあるかと。
「まず(きれいな若い)女性を引き込む」というのはマーケティングの基本中の基本でして、放送大学が「あこがれの職場」になれば現場のスタッフも出演する先生方のインセンティブも格段に上がってくるはずなのであります。
他の「知識階級」への影響
新聞や雑誌やテレビの記者というのは日本のインテリ層であって、少なくとも今までは国民との間に(時事においても教養においても)圧倒的な情報格差があったのではないかと思います。
しかし、放送大学へのリーチが国民全体で50%を超えてくるようなことになると、(時事について単純に取材した内容をそのまま書く記事はともかく)、社説をはじめとする意見が加わる記事においては、無教養で見識の無いことがバレてしまうリスクが格段に高まっちゃうんじゃないかと思われます。
もちろん、放送大学は他のテレビや新聞のように、広告モデルやサブスクリプションモデルではないので、こうした変化が仮におこったとしても、それがキャッシュフローの面から経営上の影響を与えるということがすぐにおこるわけではないはず。
ただし、中世ヨーロッパの教会がスコラ学や大学といったもので知的武装したように、「権力」は「知」の権威を味方につけている必要があるわけで、こうした「知」のあり方の急激な変化が起こるとすると、それは必然的に権力構造を変化させることになるんではないかとも思います。
国家の「言語戦略」と放送大学モデル
こうして見ると、放送用の電波というのは、まさに公共財的な「教育」にこそ向いているという気もしてきます。
特定の周波数帯を特定の放送局が利権としておさえてバラエティ番組を流して広告収入を得ることに使う必然性もないし、残念ながらNHKの教育テレビがあまり国民の知的レベル向上に役立ってる感じもしないし、民間でやると「日本教育テレビ」というビジネスモデルはいつの間にか「テレビ朝日」になっちゃうのであります。
そして、こうした放送大学によって引き起こされる現象が仮に今後起こるとしても、それは日本でしか起こらないはず。(なぜなら、高等教育機関が地上波を持っているのは日本だけだから。)
世界の国では、自国語での大学・大学院教育がどんどん絶滅していっており、ほとんどの国の高等教育は英語に席巻されていっているとのことですが、仮に「地上波で無料で高等教育コンテンツを流す」というモデルが成功したら、世界の他の国でも、地上波を高等教育に割り当てるところが出てくるやも知れません。
また、インターネットも含めて、優良な教育コンテンツを無料で世界にバラまくというのは、その国の言語を守る、またはより積極的に繁栄させる、ためには極めて効果の高い戦略になるやも知れません。
教育関係者の発想だと、すぐ「日本”語”教育を世界に普及させる」てなことを考えると思うのですが、日本語を学びたいから日本語を学ぶわけではなくて、「マンガをいち早く原語で読みたいから日本語を学ぶ」といった「目的ありき」で、言語を学ぶ意欲が生まれるわけですから。
(実際、日テレ系の「笑ってコラえて!」という番組で、世界の日本語学校を訪ねるという企画があるのですが、どの国でも、日本語学科にいる学生が日本語を学びたいと思ったきっかけを尋ねると、圧倒的に「マンガ」「アニメ」です。)
「コンテンツばらまき戦略をとれば、日本語が世界共通言語になるかも」とは全く思いませんが、フランス語やスペイン語の戦略としては、十分ありえるような気もします。
(ではまた。)

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1 thoughts on “放送大学 地デジ化のインパクト

  1. 放送大学こそワンセグで流して欲しい

    放送大学 地デジ化のインパクト (isologue(イソログ)- by 磯崎哲也事務所)東京に来るまで放送大学というのはほとんど意識したことなかったなぁ。…