「供給者側の」ストックオプション阻止の論理
krpさんが「米国ストックオプション会計の実施が遅れるかも」で、米国でのストックオプションの費用計上が遅れるかも知れない要因について紹介されてます。
ここで紹介されているのは、
・FASBが7000ものコメントを評価するのに時間がかかりそう
・企業サイドからも適用の延期を求める声がある
・反対意見が根強いハイテク業界と中小企業のロビー活動を受けて、下院でFASB案を骨抜きにする法案が承認されていること
等、主として「供給者側の論理」からの要因ということになるかと思います。
投資家側の論理では
これに対して、日経ビジネスの最新号(7月5日号)では、「需要者(投資家)側の論理」からは、費用化の流れは変えられないという事例を紹介しています。
強烈なのは、春以降のハイテク大手でのストックオプション費用化の株主提案が、インテルのグローブ会長やIBMのパルミサーノCEO等の熱弁にもかかわらず、軒並み早期導入せよという議案が可決されていること。
(出所:日経ビジネス2004年7月5日号、%は賛成票の割合)
技術的な問題はともかく、「導入せよ」という株主様のご意向はもはや止められないようです。
同誌では一方で、「多額の選挙資金を要する大統領選挙を目前に控え」(つまりは企業側からの献金で)「議会がどう動くかは無視できない。」という、「供給者側の論理」も紹介しています。
「一度導入したらおしまい」
krpさんは、「評価方法は実務指針のようなものに任せて、基準を確定し、適用を開始するようにして欲しいと思います。」と希望されてますが、「フレキシビリティのある基準」というのは、以下のような理由から、結果として「最も厳しい基準」と同じになると考えられるので、「供給者側」としては、とにかく導入自体に大反対してくるんでしょうね。
というのも。
昨日もある会社に監査法人さんをご紹介して、どういう会計処理(当然ストックオプションではないですが)にするかを検討していたのですが、その会計士さんは、私が知る限り最もフレキシブルな頭を持つ会計士の一人であるにもかかわらず、久しぶりに議論をしてみると非常にガードが固い。
聞けば、「最近は、監査法人内の審理が非常に厳しくて・・・」とのこと。
金融庁→会計士協会→監査法人(審理部門)→各社担当の会計士
という厳格な「ガバナンス」体制が構築されてきたため、現場の会計士の裁量で「それで、いいっすよ」と言えるマージンが極めて小さくなってきているようです。
「Aという方法が簡便だから、Aにしましょうよ」と言っても、
「原則はBという方法。Aという方法もアリだが、それが採用できるのは、あくまで原則であるB法と簡便法A法での結果の差異に重要性が無いということが証明できる場合のみ。」
というような論法で押してきます。
差に重要性がないことを証明できるということは、結局、原則のA法とB法の両方を計算しなきゃいけないので、簡便法の意味がないじゃないっすか・・・。
ストックオプションの場合、ブラックショールズ式は、付与期間の最後に1回だけ行使できる「ヨーロピアン」オプションのvalueの計算式なので、「1年クリフで半年ごとに1/8づつ行使可能になる」というようなベスティングの条件がついた通常のストック・オプションの場合、ブラックショールズでの計算式されたvalueよりは、国際会計基準の案のようにlattice model等で計算した「本当の」価値の方が高くなるかと思います。
krpさんがご紹介されていたRubinstein 氏やIntegrated Finance Ltd.が提案した簡便法というのがvalueをどう計算するのかよく存じませんが(←要チェック、メモメモ・・・)、「低く」計算する手法である限り、投資家からは、「もっとちゃんと費用計上しろ」という要求が突きつけられます。
「高く」計算する手法だとすると、経営者は「めんどくさくても、複雑な方法を使え」と言うでしょう。
また、「計算しないとどちらが高く出るかわからない方法」だったら、結局、投資家対応、経営者からの指示等を考え合わせると、会計基準で許容されていたとしても、結局両方を計算することになるのではないかと思われます。
Sarbanes-Oxley法(企業改革法)施行以降、米国でも会計士の態度はかなり硬化してると思いますので、それを見ている企業としては、一旦導入してしまうと、結局一番キツくてめんどくさい方法で計算させられるハメになるのは目に見えていると考えると思います。「トロイ」で門を開けられたトロイがあっという間に全面火の海になっちゃうような恐怖があるんではないかと。
で、「そもそも費用に計上するのがおかしい」という「城外」で必死に防戦してるんでしょうね。
ではまた。
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回る因果は...
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