ネットによる「国際的制度アービトラージ」の時代とビジネス

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Infoseek楽天ニュースの記事「【ネットと政治】自民、民主がeビジネス振興のための政策について回答」

http://news.www.infoseek.co.jp/special/j-is/e-business_001.html

で、楽天株式会社の三木谷浩史(代表取締役会長兼社長)などが連名で「eビジネス振興のための政策に対する質問状」を自由民主党及び民主党に提出し、これに対して16日までに両党が公式回答を示したものが紹介されてます。

  

両党にぶつけられた質問は、以下の6つ。

  1. IT利活用によるeビジネス振興の位置づけと具体策について
  2. IT利活用を阻む規制の見直しについて
  3. インターネット上の有害情報対策について
  4. 通信・放送融合の時代に向けた行政介入の在り方について
  5. リテラシー教育推進を前提とした諸制度の制度設計について
  6. インターネットを使った選挙活動の解禁について

質問の背後には、そもそも日本にはヘンな規制が多過ぎるので、そのせいでネットの(ひいては日本の産業全体の)成長が阻害されているのではないか?日本がネット時代に応じた成長をしていくには、どうしたらいいのか?という問題意識があるのではないかと思います。

両党の回答は、上記のページを見ていただければと思いますが、(政党のイメージとは逆というか当然というか)自民党はあたりさわりのない官僚答弁的な感じで、民主党の方が規制政策については批判的で具体的なものになっているかと思います。

両党とももちろん、「ガンガンに規制をかけて国内の業者を痛めつけてやる!」てなことは書いておりませんが、問題は、実際に消費者・生活者の保護とか、ネット上で個別の犯罪や問題等が出て来た場合に、それに過剰に反応するのか、「自由こそが産業を育てるのに最も重要なことなのだ」といったプリンシプルに従って行動されるのかというところ。

(実は、この記事の内容も、公職選挙法の関係上、18日以降は書いてはいけないのですが、17日中に書いた記事はそのまま残しておいてもOKという、非常に不思議な規制の下にあるようです。)

——————

これ、今後の日本を考える場合に、本当に重要なところです。

ベンチャー関係の仕事をしていると痛切に感じますが、新しい領域の芽というのは本当にデリケートなもので、ちょっとでも規制があると縮こまって、スクスクとは成長してくれません。

Googleの検索エンジンが日本の著作権法の解釈の下では「違法コピー」として成長できなかっただろう、という事例はよく取り上げられますが、Amazonの140億円の追徴課税を見ても、ネットの時代には、日本で仕事がしやすい環境を作らない限り、「仕事」や「付加価値」はどんどん海外に流出していってしまうわけです。

そして、今朝、ふと思いついて twitterでもつぶやいたのですが、日本のコミュニティビジネスも今、twitterの登場によって大きな国際的制度アービトラージの危機に直面しているのではないかと思います。
例えば、ご案内の通り、日本のコミュニティビジネスは、出会い系サイト規制法に非常に気を使わないといけないことになってまして(なぜならコミュニティ内の言論統制が行えない以上、「出会い」の話をゼロにすることは不可能なので)、18歳未満の入会をどうするかとか、コミュニティ内で交わされる不適切な発言の処理をどうするかといったことに多大なコストがかかっているのが現状ではないかと思います。

twitterはSan Franciscoが本拠地なので日本の法規制は及ばないとすると、(海外の統計ではtwitterはシニアな方々に人気があるようですが)、日本では、今後、twitterが18歳未満も含めて「自由に」発言できる場となっちゃう可能性もあるかと思います。

その中には「援交」等の情報も混じるかも知れませんけど、だからといって日本政府がtwitterを利用することに制約を加えたり、米国政府に規制を要請することになる気は全くしません。(日本政府がGoogleを著作権違反で取り締まろうとしたことがあるとは思えないのと同様。)

こういった、「日本の業者を規制するには十分だが、アメリカにタテツくほどではない」ことの積み重ねによって、国内の産業は成長できないことになり、日本の新たな成長領域はことごとくツブされていく気がします。

以前の記事、「「クラウドコンピューティング」は日本の地位を低下させるのではないか?」で申し上げたかったことは、日本はそういったネット時代の国際競争に打ち勝ってネットの大規模サービスを作り上げる「土壌」自体が欠けているんではないか、ということです。
(今後、ほとんどビジネスが、ネットと関係無しに行えるわけがなくなるのは、自明です。)

Googleが世界的なガリバーに成長してから「検索エンジンの研究をしましょうか」と大量の予算をつけて後追いするような個別的・局所的方法では、ネット時代に勝てないのは当然です。
「クラウド」の時代になっても、ネットによって海外に付加価値を吸い上げられないような「体質」を作るにはどうしたらいいか?ということ自体を考えることが今、求められているのではないでしょうか?

(ではまた。)

 


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3 thoughts on “ネットによる「国際的制度アービトラージ」の時代とビジネス

  1. 変な規制多すぎだから無くした方がいいというのは同意なのですが、それが全部が全部政治家や官僚のせいというわけではないというのが何とも。
    出会い系サイト規制で言えば、「18歳未満が売春に利用してますよー」って言われたら深く考えずに「じゃあ規制しろよ、政府何やってんの」っていう人は多いですし、それなりに考えていてもやっぱり規制しろという意見の人もかなりのものです。アルファブロガーなら切り込み隊長とか。
    なんでそうなのかの具体的な原因を考えるのは難しそうですが(素人がやると「日本人の国民性が〜」みたいなつかみ所のない話になりやすい)、「原則自由の原則」の考え方がない人が多勢だというのは言えそうです。

  2. 言語・文化アービトラージャー

    「アービトラージ」という言葉は「サンクコスト」と同じく日本語で言われても(「アービトラージ」の日本語訳は「裁定取引」)うまく意味が伝わらないなー、と思って…

  3. 三木谷浩史社長は答えられないことを知っていて、あえて質問をしたのでしょうね。出会い系サイトをはじめ、インターネット全体を取り締まる法律がない以上、答えられるハズがありませんからね。
    とはいえ、ネット上の規制はかなり難しい問題だと、私個人的には考えております。出会い系サイトなどの子供に「有害・悪質」とよばれるサイトがはたして本当にそうなのか、それ自体が考えものです。
    性教育を怠り、子供に性を遠ざけることをよしとしてしてきた結果が、今日の晩婚化につながっていると思うからです。
    色々と考えさせていただける記事をありがとうざいました。そして長々とコメント、失礼致しました。
    株式会社アドビジョン 大澤聡