本日の日経金融新聞の1面記事に、「衝撃三菱基準——財務、自己資本4.0%にも(メガ統合UFJ・三菱東京)」てな記事があったので、ギョッとして読んでみましたが。
税効果資本は、不良債権処理などで生じる税金の過払い分を、将来戻ってくるものと見なして計上する制度。だが、過大計上は、りそな銀行や足利銀行が国有化されるきっかけになったこともあり、大手銀は中核的自己資本に対する比率の引き下げを進めてきた。
このへんはその通りかと思いますが、
先行したのは三菱東京で、三月末の比率は一七%。計上額は約六千五百億円で、上限である「今後五年間で見込める課税所得」を大幅に下回る。
と、このあたりで、この記事を書かれた記者の方の繰延税金資産に対する理解がちゃんとしてらっしゃるのかどうか、ちょっと不安になってきます。
繰延税金資産の上限が「今後五年間で見込める課税所得」だったら大変ですね。繰延税金資産は平たく言うと将来の「節税額」なわけですから、「実効税率(40%+α程度)」をかけないと。
もっと言えば、繰延税金資産は「今後五年間(以内)に見込める一時差異の解消見込額に税率をかけたもの」です。いくら課税所得が潤沢にあろうが、(例えば)「会計上は貸し倒れとして損失計上したけど、5年以内に税務上の貸し倒れになる見込みがないようなもの」は、繰延税金資産に計上することはできません。
ところがUFJは六四・二%と、五〇%を大きく超えている。仮に三菱東京と同じ一七%に引き下げるとすると、約一兆四千億円ある税効果資本を中核的自己資本から約一・二兆円も取り崩さなければならない。
中核的自己資本が減ると非中核自己資本も同額減らさなければならず、二・四兆円が自己資本から消える。UFJの自己資本比率は、九・二%から、国内銀行の基準である四・〇%ちょうどまで落ちこむ。
「仮に」と言えば何を言ってもいいのかも知れませんが、「三菱東京と同じ一七%に引き下げ」ることに何の意味があるのでしょうか?
税効果会計では、明確な基準に基づき、
法人税等については、一時差異に係る税金の額を適切な会計期間に配分し、計上しなければならない。(税効果会計に係る会計基準 第二、一、1)
のであって、企業側の「こんな比率にしたいなー」という勝手な願望によって、計上する額を上げたり下げたりしてはいけないわけです。
つまり、合理的に考えて不良債権処理などで生じる税金の過払い分が将来「回収される」と考えられるのであれば、計上しなければならないし、回収できると考えられないのであれば、計上してはいけないわけです。
金融庁の金融検査マニュアルに「自己資本比率に対する繰延税金資産の比率は極力低くするように」とでも書いてあるのかと思いましたが、金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル:平成16年2月)でも金融持株会社に係る検査マニュアル(平成15年7月)においても、(当然といえば当然ではありますが)、
資本勘定に算入される税効果相当額(=繰延税金資産見合い額)は日本公認会計士協会が公表している「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)等、税効果会計に関する会計基準・実務指針の趣旨を踏まえ適正に計上されているかを検証する。
と、日本公認会計士協会の一般的な繰延税金資産の回収可能性の基準をreferこそすれ、「低ければ低いほどエラい」なんてことは書かれてません。
また、そもそも記事のタイトルだけ見ると「三菱基準」なるものが存在するかのように読めますが、記事をよく読むと、単に三菱東京の自己資本比率に対する繰延税金資産の比率がそうなっているというだけの話で「基準」でもなんでもないですね。
さらに、この記事はUFJと三菱東京の「メガ統合」という文脈で書かれているわけですから、みなさん「統合して、せっかくの三菱東京の健全な財務構造がどうなっちゃうのかなー?」という疑問を持ちながら読んでいるわけです。が、記事を何気なく読んでいくと、
「BIS基準の自己資本比率が、三菱東京13%弱に対して、統合して三菱東京の”基準”に合わたUFJが4%になっちゃうと、両方合わせて8%切るか切らないかギリギリになっちゃうんじゃ??」
というようなあらぬ誤解を生みかねません。
実際には全く逆ですね。UFJと三菱東京が統合すると、三菱東京の安定的な収益のおかげで、UFJの繰延税金資産の回収の可能性も高まる可能性が高いわけですし、特にUFJの税務上の繰越欠損金は適格合併等の場合には引き継がれ、その部分に係わる繰延税金資産は旧東京三菱事業の利益と相殺して消せる可能性が高いわけです。
この記事はその点からも非常にミスリーディングではないでしょうか。
(追記:7/20, 20:07)
繰越欠損金の部分に関する表記に一部不適切な部分がありましたので、表現を修正させていただきました。
この部分は、統合の具体的なスキーム(合併を使うのか、他の手か。適格合併等の要件を満たすか。ホールディングス同士の合併か、銀行も合併するのか、存続会社がどちらになるか、等)にもよりますので、より詳細がわかりましたら、また。
(ではまた。)
参考URL:
UFJ銀行の繰延税金資産と政府のノリツッコミ
https://www.tez.com/blog/archives/000095.html
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合併(企業再編)前の繰越欠損金は持ち越せないんじゃなかったでしたっけ?
コメントありがとうございます。
適格合併等の場合の繰越欠損金は税務上引き継げます。
ただ、エントリー上の表現に適切でない部分があったので、一部修正させていただきました。
どうもありがとうございます。
では。