「食べログ東京横浜2010」でレストランガイドとビジネスを考える

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食べログさんから「食べログ東京横浜2010」という本を送っていただきました。
(どうもありがとうございます。)

 

食べログ東京横浜2010
食べログ東京横浜2010

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この本、ビジネス的に見ていろんな意味で興味深いです。

 

食べログは、ご存知の通りネット上のレストラン等の口コミサイトですが、昨年10月には先に関西版

 

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おすすめ度の平均: 3.5

4 ミシュランより庶民に合うと思う
1 ネット上では無料ですが
5 使い勝手の良さがいい。
4 日常使いにはよい

 

が出てるんですね。
テストマーケティング的に関西を先行させたということでしょうか。

今回の東京・横浜版は、関西版の倍の厚さのページで発売されるとのこと。

 

レストランガイドとして世界的に有名なのはもちろんミシュランガイド

 

ミシュランガイド東京 2010 日本語版 (MICHELIN GUIDE TOKYO 2010 Japanese)
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です。

ガイドを口コミ的にしたのが、これもみなさんご存知のザガットです。

 

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それぞれの収益構造と関係者のインセンティブを想像する

 

ミシュラン

まずミシュランガイドですが、これは 2,415円もします。

バブルの時代ならともかく、今や、ミシュランに載ってるレストランに年に何回も食べに行く人なんて非常に限られた人じゃないでしょうか。
何部くらい売れてるのか存じませんが、ミシュランは、「自分が実際に食べに行くレストランを探すためのガイド」というよりは、「有名な店の名前くらい知らないと、ね」という教養本的な位置付けなのかも知れませんね。

調査員は数名だそうですが、ミシュランはそれらの調査員の人件費に加え、掲載されなかった店舗を含めて1000店舗以上食べ歩くコストを負担しているわけですから(1店舗平均1万円×調査員2名としても、それだけで2000万円以上)、制作側のコストがものすごくかかったレストランガイドであることは間違いないでしょう。

 

ザガット

ザガットは1,785円

手元に2008年度版しかないのですが、4,790人のレストラン愛好家からの情報を元に作成されていると書いてあります。
また、少なくとも2008年版には写真や地図は載ってませんので、各店舗を回って撮影するコストはかかってないわけです。

口コミの人数はミシュランよりかなり多くなっていますが、この「レストラン愛好家」の人達が、どういう素性の人達なのか、読者にはよくわかりません。(男女比や年齢構成は載ってます。)
コメントを見ると、かなりスノッブな方々なんだろうなあ、という気はいたします。

2008年版には「この本に掲載したレストランでの平均飲食代は8,114円でした。」とあるので、(実際には重複して店を訪れてるはずですが)ザガットに投稿した人が1人あたりそれだけの支出しかしていないとしても、それだけで4000万円くらいの隠れたコストがかかってるはずです。
しかし、ザガット側が編集のコスト以外に負担してるのは、(よく存じませんが、おそらく)、情報提供者への謝礼くらいでしょう。

情報提供者は、自分が投稿した口コミが載っているのを見て「ふっ」と満足感に浸るのかも知れませんが、そのコメントが自分のものだというのは、他人からはわかりませんし、食い歩いたコストを取り返せるほどの謝礼がもらえるわけではないと思います。

 

食べログ

これに対して「食べログ東京横浜2010」は980円と3冊の中では最も安い。
また、食べログは、10万人ものレビュアーが10万軒もの店を食べ歩いているところが特徴です。
食べログに掲載されているのは庶民的な店も多いので平均3000円としても、3億円の隠れたコストがかかってるわけですね。

もう一つ出版物制作のコスト構造的に興味深いのは、「食べログ東京横浜2010」にふんだんに載っている写真には、「©」マーク付きで「©一級うん築士」さんとか「©うどんが主食」さんとか、いつも食べログのサイトでよく見かけるレビュアーの方々の名前がついてる点。つまり、レビュアーが投稿した写真をそのまま使ってるってことですね。

ミシュランの写真はプロの方が撮ってるんでしょうけど、この「食べログ東京横浜2010」のレビュアーの写真も一見何の問題も無いというところがすごい。レフ版とか使って撮ってるわけじゃないのに。
これもマクロに見ると「ムーアの法則」の影響というか、今どきのデジカメの性能がものすごく上がって来ているということかと思います。

ザガットと同様、コメントはレビュアーのものをつないだだけなのですが、ザガットと違ってレビュアーの名前が書いてあります。「誰がそう言っているか」のがわかるのが特徴ですね。

そしてネットの「食べログ」ではそのレビュアー自身に対する評価も行われてます。
ロジックは詳細には開示されてませんが、当然、辛口の点数ばかり付ける人や全部点数が甘い人などがあるでしょうし、サイトの利用者が「参考になった」という意味で投票できるので、それによってそこそこ適正な評価に近づけるロジックは可能なのかも知れません。

テレビでカカクコムの食べログ担当者が解説してたところによると、「レビューを書き始めたばかりの人の評価は反映されない仕組みになってる」とのことです。1000店舗以上食べ歩いてる人の口コミと、ライバル店の人がイヤがらせでアカウント作って書き込む口コミが同列に扱われてしまっては信頼性もへったくれもありませんから、当然ではあります。

本日発売なのですが、データが昨年の11月末というところも興味深い。
3ヶ月もかかったということですが。各店舗に説明したりレビュアーに掲載許可をもらったりする初期コストがかかっているということでしょうか?
ネットに投稿されてる情報を切り貼りするだけだったら次回からはもっと短期間で作成できるのかも知れません。

 

そもそもレストランの評価とは何ぞや?

ツイッターでホリエモン氏に

食べログってアジの良し悪しはあんまりわからないきが。。

というコメントを頂いたのですが、私は、食べログも「おいしそう」とか「はずれっぽい」とか、大まかな傾向をつかむ役には立つんじゃないかと思います。
(「3.5以上ならかなりはずれは無いし、4.0以上だとかなりスゴい」といった感じで。)

料理というのは、そもそも人によって好き嫌いがあるので、「何がうまい料理なのか」という絶対的な基準はあるはずがありません。

ミシュランの評価にケチ付けてる人を見ると「あんた何様だ」という気もしますが、一方でミシュランの評価を鵜呑みにしてる人というのもアホっぽい。

「あえて食べに行くほどでもない」店と「明らかにスゴい」店は何となくわかっても、「3.51」の店が「3.48」の店より「上」なのかどうかということには、あまり意味はない・・・という程度のものではないかと思います。

 

ただし明らかに言えるのは、ミシュランは「少数精鋭の人によるレーティング」で、食べログは(良くも悪くも)多数の人によるレーティングのしくみだ、ということです。

独裁制も民主主義も、計画経済も市場経済も、それぞれメリット・デメリットがあり、どちらもバイアスがあるのと同様、レストランのレーティングも、方式によってそれぞれのバイアスがあるわけでして。
政治と違って両方の方式からのアウトプットを享受できるので、それぞれのクセを理解した上で使うべきなんでしょうね。

 

「食べログ」が本を出す意味

食べログのネット版はネットの特性を活かして網羅性も高く条件検索も多彩なのに、それを書籍にすると掲載できる店舗数はたった352軒になってしまいます。
これではせっかくの食べログのメリットがほとんど削り取られてしまいますし、レーティングが4前後の店が中心になってくるので、庶民がおいそれと食べに行けない店も多い。また、「東京・横浜」では、範囲が広すぎる気もします。食べログを本にする意義というのは何なのだろう?という気が直感的にはしてしまうわけです。

もしかすると「食べログを本にしませんか?」という企画が持ち込まれて「そんなにコストがかかるわけじゃないし、やってみるかー」程度のものだったのかもしれませんが、この書籍化についてあえて考えてみると、以下のようなことが考えられるんじゃないでしょうか。

 

まず、こうした手に届きやすい本が書店に並んでユーザーにリーチすることで、ネットを使っていない人を含めた一般消費者に対する「食べログ」の認知を広められるという効果が一つあるかと思います。

 

もう一つはレストラン等の店舗側にアピールできる「ブランド・イメージ」を構築できるというメリットがあるかも知れませんね。

食べログの「マネタイズ」を進めるためには、レストラン側から受け取るフィーを増やすことが必須になってきます。口コミサイトは当然、悪い評判も書き込まれるので、店舗としては警戒心もある。
「食べログ東京横浜2010」の場合、店によっては電話や地図が「店の都合により掲載できません」となっています。ある意味レストランガイドの役を果たしていないわけですね。(しかし今やネットで検索すれば電話番号も地図もたいていはわかりますので、ほとんどの人が携帯でウェブを見れる現代だからこそ、こういった一見「不完全」なガイドが成立しうるということかと思います。)

店の側からすれば「ミシュランなら知ってるけど、食べログ?何それ?」って感じのところもまだ多いということなんでしょうね。
ミシュランやぐるなび、食べログのサイトには電話番号載っちゃってるんだから、この本に載せてもバチはあたらないと思うのですが、それでも拒否されるというところが現状を物語っているのではないかと思います。

マネタイズのためには「食べログで評価されるような店にならないとまずい」と多くの店舗が感じることが必要なわけですが、そのためには食べログをある程度ステイタスのある「ブランド」化する必要があるわけで、(仮にこの書籍が成功すれば)そうしたブランディングの一助になるのではないかと思います。

 

レビュアーへの感謝状の意味もあるかも知れません。
先日の記事「『ぐるなび』と『食べログ』のビジネスについてのメモ」 にコメントをいただいたTOMITさん(今年1月末で食べログへの口コミ投稿数1622件)も巻末に1ページ使ってページがあります。

そこまでメジャーでなくても、各店舗のページに自分の名前(ニックネーム)入りでコメントが載るだけで、ザガットよりはかなり満足感があるかも知れません。もちろん今までもウェブには名前が載ってたわけですが、「本」という形になったものを見ると、また満足感もひとしおかも知れません。

読者も有名レビュアーのコメントの癖を知ってる人も多いでしょうから、「またあの人があんなこと言ってらあ」といった楽しみ方もあるかもです。

 

上記の3つのレストランガイドの中では価格が最も安いし、制作コスト的にも有利なはずなので、本自体の利益も若干は出るのかも知れません。

いずれにせよ、この本の売上から株式会社カカクコムの時価総額を押し上げるほどの利益が直接的に生まれるとは思えませんが、こうした本でブランディングが行われて、店舗とレビュアーへのインセンティブ付けがうまく図れれば、ソーシャルなネットのサービスと書籍のコラボとしては面白い事例になるかも知れないと思います。

来年、電話や地図が「店の都合により掲載できません」となっている店舗が減っているのかどうかにも注目したいです。

 

個人的には、ミシュランやザガットのエンジ色を見ると、なんか重そうな店が多くて胃もたれしてくるので、サイトのイメージカラーでもあるこのオレンジ色の表紙は食欲がわく感じがします。:-)

 

(追記:)

こういうのを電子出版で地域別に四半期毎くらいに出して、それが200円くらいだったら買っちゃうかも知れませんね。
食べログのせいでミシュランが無くなることはまず無いと思いますが、 一般の「中華街食べ歩き」的ムック本みたいのは、かなり絶滅が近い気がしてきました。

 

(ではまた。)

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4 thoughts on “「食べログ東京横浜2010」でレストランガイドとビジネスを考える

  1. 面白い分析ですね!すばらしい。
    ちなみに、ザガットは情報提供者への謝礼はないはずです。少なくとも私がサーベイに参加した数年前はありませんでした。本を買うと参加できる仕組みだったはず(最初の本はどうやって作ったんでしょう?謎)。サーベイに参加したら本を頂戴できました。これが謝礼相当ですね(でも同時に部数かさ上げにもなる)。
    もう一つちなみに、私のコメントは本には載りませんでした。たぶんスノッブさが足りなかったのでしょう。また、サーベイへの回答は割合面倒くさいので、次の年は見送ってしまいました。
    個人的経験に基づくつまらんコメントです。失礼。

  2.  隠れた費用でいうと、口コミサイトというのは外部費用も発生している気が。外部費用と言うのは、『あれ〜?』という、がっかり感のことです。
     先日、食べログでは泣く子も黙る高評価のお店に行ったところ、これがまぁ・・・ 
     色々評価方法も工夫されているんでしょうが、例えば普段行くお店と違うジャンルに行った人が良い!と高い評価をつけたりした場合、それはどう反映されるのかなぁとか・・・疑問はあります。
     口コミで高評価だから行ったお店ではないので、自己責任なんですが、あまりに憤慨したのでその勢いで激辛評価!をする代わりに、自分でブログを立てました。(すいません、これが言いたかっただけなんです。笑)
     個人のブログほど独善的なものはないんですが・・・
     ところで、クーリエジャポンの今月号はご覧になりましたか?『ミシュラン調査員』への密着取材が面白いですよ。
     

  3. >面白い分析ですね!すばらしい。
    どうもありがとうございます。大崎さんのコメントを載せないとは!
    >クーリエジャポン
    情報どうもありがとうございます。
    (ではでは。)

  4. レストランの評価って難しいと思いますよね。味覚は人それぞれですからね…自分のお気に入りのお店があればいいのですが、それがない人には星の数をつけているレストラン評価本は足を運ぶきっかけにはなるでしょうね。その先にある味の評価は自分の好みの問題でしょうね。