(追記あり:12:03、18:43)
私が子供の頃にみんながイメージしていた「21世紀の未来」というのは、人類が月や火星まで自由に行き来し、超音速旅客機であっという間に地球上のどこへも行けて、都市では高層ビルの森の中を抜ける空中の透明なチューブの中を車が走っているという姿だったんではないかと思います。
ところが、1969年には既に「♪アポロ11号は月に行ったっていうのに」人類はまだ地表からわずか数百kmあたりをうろちょろしてるし、 超音速旅客機はなくなっちゃったし、透明のチューブもない(笑)。
パソコンやスマートフォンといった情報通信系は想像をはるかに超えて発達したものの、実際の21世紀では、想像していた乗り物系の未来は、ほとんど実現していません。(ETCやカーナビ、SUICAなどの「乗り物系IT」は、ちょっとだけ子供のころの想像を上回っているかも知れませんが。)
本日は、神奈川県横須賀市の追浜の日産のテストコース「GRANDRIVE」で開催された、今月20日から発売される日産の電気自動車「リーフ」の試乗会にお招きいただいたんですが、やっとちょっとだけ「乗り物系の『未来』が見えた!」という感じがしましたので、レポートさせていただきます。
追浜に向かうため、うちの奥さんの運転で高速湾岸線を一路横須賀方面へ。
(うちの奥さんは「(自称)ラリー経験者」なので、我が家の運転はたいてい奥さんまかせなのであります。)
ちなみに我が家の車も、一応、某社のハイブリッドカー(大型わんこも乗れる大きめのやつ)であります。
首都高速湾岸線の杉田出入口の手前あたりにある「日本超低温」社。
「AKIRA」が眠っているとしたら、絶対この地下に違いないと踏んでます。
(以下、写真はクリックで拡大するものもあります。)
ちょっと早めに着きそうなので、野島を対岸に望むローソンの駐車場で海を見ながらおにぎりほおばりました。
野島は横浜市の端ですが、完全に「漁村」の風景。
江戸時代の横浜はこんな感じだったんだろうなあと思わせる、いいところです。
日産のテストコースは、この写真右奥になります。(が、まだあと3kmくらいある)
日産の工場を大きく迂回すると、テストコースの入り口が見えて来ました。
ここが入り口です。
これ以降、テストコース内は、許可された場合を除き撮影禁止なので、テストコース全景はGoogle Mapでお楽しみください。
テストコースの真ん中にあるイベントホール。
イベントホール室内に展示されている「リーフ」が鼻先を開けて充電中。
奥さんは、この姿が「ディズニーの『リロ&スティッチ』の『スティッチ 』に似てて、かわいい!」と大いに気に入りました。
ドアラにも似てるとすると、この風貌は、トヨタの牙城、名古屋近辺を攻めるのに強力な助けになるかも知れません。
拡大するとこんな感じ。
左が高速充電用、右が普通の充電用です。
この型を世界に輸出する予定とのことで、各国語で説明が書いてあります。
ボンネットの中も見せていただけるとのことで、開けていただきました。
ガソリンエンジン(含むハイブリッド)のボンネット内は今まで山ほど見てきましたが、電気自動車のボンネットを見るのは初めて。いったいどんなものなのか。
NASAの研究者が、密かに捕らえた宇宙人の体を初めて開腹する時も、こんなドキドキ感ではないかと思った次第です。
しかし、開けてみると、意外や意外、驚くほどガソリン車のソレと見かけが変わりません。
モーターを冷やすために、ラジエーターがあるのも同じ。
ただし、日産のロゴが書いてあるカバーの下にあるのは、もちろんプラグやシリンダーではなくて、「インバーター」。
その下にモーターがありますが、上からはあまりよく見えません。
右側には普通のガソリン車に付いているのと同じ12Vのバッテリーも見えます。
これは、メーターや照明などの電気系統を動かすための弱電系用で、車を走らせる強電系用のバッテリーはこれではなく、車体の下部に敷き詰められています。
左下のウォッシャー液や右奥のブレーキペダル用のオイルなども基本的に全く同じですね。
カバーの後ろにあるのは「DC/DCコンバーター」で、強電系の300V超の電圧を下げて、12Vのバッテリーに常時充電しているとのことです。
強電系の300V超が走る部分は、すべてオレンジ色になっています。
ハンドル周りはこんな感じ。
カーナビ。
これはFOMAのデータ通信機能が内蔵されていて、月額千数百円のプランに加入すると、「近くの充電場所」等をはじめとするカーナビのデータ類が、いつも最新のものにアップデートされるとのこと。
また、このプランに加入していると、全国2,200カ所の日産のお店でタダで充電させてもらえます。
アクセル・ブレーキをはじめ、操作はほとんどガソリン車と同じなんですが、このシフトレバーだけが未来っぽい感じ。
DレンジやRレンジに入れるところはまあ同じなのですが、パーキング(P)に入れるのは、上のボタンをぽちっと押すだけ。
サイドブレーキは画面右のオレンジの小さなランプが付いているレバーで、機械的に繋がっているのではなく、電子的なものです。上に引くとサイドブレーキがかかり、下に押すとはずれるのですが、アクセルを踏み込むと自動的にはずれます。
なので、初心者がよくやる「サイドブレーキ引きずったまま走っちゃった」といったことは無いわけですね。
後部座席も、想像してたより広かった。
「マーチ」とか「プリウス」とか、あのクラスの車体かと思いきや、一回り大きい。
トランクも、まあこんなもんでしょうか。
右の黒いバッグは、充電用ケーブルが入ってます。
後ろから見た図。
コンセントの形状は下記のような感じ。
「リーフ」を買って家に充電用の200Vのコンセントを付けるときは、セットで10万円くらいで工事してくれるそうです。
これは夜間などに8時間くらいかけて満タンにする普通充電用コンセント工事のお値段で、急速充電用の機械は100万円を超えるとのこと。
ただし、携帯電話と同様、毎日帰って来てコンセントに繋ぐようにしてれば、基本的には急速充電の機械は不要だそうです。
強電用のバッテリーは、上記画面下の銀色の薄いパック状になってます。
(社内では「ボンカレー」と呼ばれているそうで [笑]。)
これが4枚束ねられて画面上の銀色の箱に入れられ、全部で48枚分搭載されてます。
上の写真は、ガソリン車だとエンジンが重いので、どうしても重心が偏っちゃうわけですが、リーフのモーターはガソリンエンジンよりは相対的に軽く、重いバッテリーは床下に敷き詰めてあるので、(ミッドシップのように居住空間を犠牲にしなくても)重心が真ん中に来るように設計でき、操縦安定性能や乗り心地にも貢献する、とのご説明です。
なるほど!
車体上部後ろには、太陽電池がついていて、これで12Vのバッテリーがアガることはまずないそうです。
あまりに静か過ぎるので、低速時には、歩道側のバンパー内のスピーカーから「ひーん」というモーター的な音が出て歩行者に「車が来てますよ」ということを知らせます。
ある程度スピードが出ると、音は自動的に消えます。
上の図は、エコな方はシビれちゃう図ですね。
ガソリン車だとエネルギーのほとんどを熱損失で捨てているけど、電気自動車だとこの損失がほとんど無いので、ガソリン車の3分の1で済む、というご説明。
(追記:18:43)
もちろん、電力の場合には、発電所や送電段階で熱損失が発生していますし、ガソリンだってタンクローリーで製油所からわざわざ運搬してくるわけで、トータルで見てどちらがどれだけエコかというのは、これだけでは判断できません。
ただし、 車段階での熱損失が少ないということは、ラジエーターなどの装置の規模や重量を押さえるといった効果もあるかも知れませんね。
また、ガソリンにかかる税金等を考えても、後述の通り、ガソリンより電気の方が走行距離あたりのコストが10分の1以下だとすると、単純に考えればトータルに見ても電気の方が効率がよさそうだという気がしますが、違ってますでしょうか?
上図左下は、夏の暑い日や冬の寒い日など、車のFOMAの通信経由のリモートであらかじめ車のエアコンをONにしておいて、乗る時にはすでに車内が適温になっているという機能!
コンセントに繋がっているうちにエアコンを作動させておくので、その分走り出してからの電気消費が減らせますので、その分、航続距離もちょっとだけ伸びるわけです。
モーターは、ガソリンエンジンで言うと109馬力くらいに相当、とのこと。
さて、肝心の「燃費」(走行距離あたりのコスト)について質問してみたのですが、
普通充電8時間で、深夜電力の契約をすると、一晩で200円ちょっとくらいの電気代になるとのこと。
これで約200km走れるので、1kmあたり1円!くらいと考えていただければとのことです。
うちの今のハイブリッド車がリッター12kmくらい走るのですが、ガソリンがリッター130円ちょいですから、1kmあたり10円以上かかっているわけです。
それに比べるとほとんどタダって感じですね。
(今後10年単位の未来を考えたら、ガソリン小売系のビジネスはお先真っ暗ですね・・・。)
コストが10分の1以下に下がるというのはなかなか無いことです。
パソコンや情報通信はこの十数年で10倍どころではないコストパフォーマンスの向上があって、多くの産業に多大な影響を及ぼしてますし、日本では証券ビッグバンで1999年以降、証券の手数料が10分の1程度に下がって、業界の構造が激変しました。
自動車のエネルギーコストも、それに匹敵するインパクトを業界に与えるんじゃないかと思います。
(追記)
本体価格ですが、「X」グレードのメーカー希望小売価格(消費税込)が376万円、「G」が406万円。
自動車って、税とかいろいろあって、結局、最終的にどのくらいの値段になるのかがわかりにくいですが、補助金や減税が最大100万円弱付くので、既に同クラスの車よりはちょっと安くなるそうです。
これは最初の一歩なので、現時点での車両の価格というのは、今後を考える上では、あんまり重要じゃないと思うんですね。
基本的に、ガソリン車やハイブリッドより構造はシンプルなはずなので、長期的にEVが優勢になって量産化が進めば、同じグレードなら今より安くなるし、もっと安いのや高級車など、いろんなバリエーションも登場するはずです。
おまけにエネルギー代が激安なのでランニングコストが年間十万円単位で違って来ますし。
ちなみに、この「リーフ」、すでに数千台の予約が入っているようで、今申し込んで来年4月以降くらいの納車だそうです。
日産ディーラー2,200店舗に200V充電設備をすべて配置したので、(時間かかってよければ)日本中をリーフで旅をすることができる体制はすでに整っているとのことであります。
ある程度電気自動車が普及すればコインパーキングなどにも充電装置が設置されて行くでしょうから、それ以降は、ポジティブ・フィードバックが働いて急速に普及する気がしますね。
ちなみに、急速充電・普通充電それぞれのコネクタの形状は日本国内では規格がすでに統一されているので、どのメーカーでも同じだとのことです。
マンション住まいの人や駐車場が家に無い人は、200Vの電源を確保するのは難しいかも知れませんが、現在、インターネットを引けないマンションでは困るのと同様、電気自動車が普及してくれば、マンションの地下駐車場等に200V電源がないマンションはヤバいということになってくる気もしますね。
また、カーシェアリングが普及して、そのへんじゅうのコインパーキングに電気自動車がとまっている未来が来るのかも知れません。
私が試乗させてもらった2号車。
奥さんは3号車で車体は「赤」でした。
コースは撮影禁止でしたが、アクセルをベタ踏みできる高速直線コースや「バンク(を横目に見て平らなところを走行しないといけないんですが)」、アップダウン、海越しに八景島シーパラダイスが見えて上空をカモメが舞うコーナーなど、気分はもう gran turismo 5ですよ。
約4kmのコースを2周、約8km走らせてもらいました。
モーターの音も静かですが、風切り音も非常に静か。振動も少ない。
加速も「3リッターの車並み」の加速とのことですが、確かに直線でベタ踏みすると、ぐんと頭が後ろに引っ張られて、あっという間に100kmを超えます。もちろん最高速は出させてもらえませんが、160km/hとのこと。
ハイブリッド車に乗りはじめてからというもの、ガソリン車が交差点で止まった時に「ブルブル」とアイドリングしてるのが非常に不自然に感じられるようになってしまったのですが、走行中にエンジン音がしない世界も、慣れてしまうとやめられない気がします。
また、「電気自動車が普及する未来」というのは遥か遠い未来のことかと思ってましたが、(毎週数百キロのドライブを楽しむといった人はともかく)、自宅に駐車スペースがあって、週に数回、せいぜい数十キロ程度運転するだけの人、セカンドカーとして利用する人にとっては、すでに完全に実用になるものなんだ、という感慨がありました。
業務用の車も同様のはずです。
インターネットで言うと90年代後半Netscapeが登場した段階てな感じですかね。
今後15年くらいで電気自動車が普及して行くプロセスが頭の中に(ぼんやりとですが)描けた気がします。
関係者のみなさま、どうもありがとうございました。
(ではまた。)
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試乗体験、詳しく書いていただきたいへん参考になりました!ありがとうございます。
先の話、と思っていましたが、いよいよ現実味を帯びてきましたね。。