昨日ご紹介したとおり、ベンチャーファンドは、今までは通常、民法上の組合(任意組合)や投資事業有限責任組合をvehicleとして使うことが多く、匿名組合を使うことはあまりなかったかと思います。
匿名組合方式自体は、「ゲームファンドときめきメモリアル」「新人グラビア☆アイドルファンド」など、株式投資以外の投資を行うファンドにはよく使われてました。
(正確には「ときメモ」ファンドでは、投資家は直接匿名組合出資を持つのでうはなく、ケイマンに作った特別目的会社「ときめきカンパニーリミテッド」の発行する社債に投資し、同SPCが調達した資金を、コナミ自身が営業者となる匿名組合に出資することになってました。)
任意組合と匿名組合の税務の違い
一般的に、投資を行うvehicleで税金が問題になるのは、以下の3点かと思います。
�の「組合レベルで法人税が課せられないかどうか」というのは、民法上の組合も匿名組合も、以下のように法人税基本通達で法人税が課せられない(人格なき社団としては扱われない)ことが定められているので、疑問の余地無しです。
法人税基本通達1-1-1
法第2条第8号(人格のない社団等の意義)に規定する「法人でない社団」とは、多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体のうち法人格を有しないもので、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有して統一された意志の下にその構成員の個性を超越して活動を行うものをいい、次に掲げるようなものは、これに含まれない。
(1) 民法第667条(組合契約)の規定による組合
(2) 商法第535条(匿名組合契約)の規定による匿名組合
�の源泉税ですが、匿名組合の場合、日本の居住者については、匿名組合員が10名以上いる場合には、利益の分配の20%が源泉徴収の対象になります。
つまり、このファンドのように、小口化されて匿名組合員がたくさんいるようなファンドでは、必ず分配される利益の20%は天引きされていることになります。
民法上の組合の場合、特に組合員が何名以上だと源泉徴収しないといけないというような規定はなく、個々の組合員として考えた場合に、法律上源泉徴収が必要なものについては、源泉徴収が行われることになります。
問題は�ですが、法人については、他の所得と同様、法人税等が同じ税率でかかってくるだけで特に問題とはなりませんが、個人は、所得の区分によって処理が違ってきます。
法律上明文の規定がないのですが、個人が匿名組合から受ける所得は、「雑所得」に区分されると考えられています。「雑所得」の場合には、他の給与所得などと合計して総所得金額を計算し課税されることになります。
つまり、個人が直接証券投資を行う場合であれば分離課税となり、未公開株のキャピタルゲインで20%、公開株のキャピタルゲインで10%の税金で済みますし、特定口座にしておけば確定申告もしなくていいところが、雑所得となると、確定申告もしなきゃいけないし、所得税率の高い人だと、他の所得と合算して、20%以上の税金を支払わないといけないことにもなります。
なぜこのスキームが選ばれたのか?
なぜこの匿名組合を使ったスキームが選ばれたのか、ですが。(以下、まったく私の推測に過ぎませんが。)
1つには、小口ということがあるかも知れません。
今まで、投資事業組合の出資というと、一口1億円くらいだったりすることも多かったので、税務上の解釈がちょっとずれても大きな影響が出ることになったわけですが、このファンドは一口100万円。この程度であれば、ちゃんと源泉徴収もしておけば、どういう解釈になっても大して問題にはならない、ということがあったかも知れません。
2つめには、従来、民法上の組合等だと、経費の処理が不明確だった、ということがあるかも知れません。
従来、個人が民法上の組合等を通じて株式に投資をした場合、その組合からの所得が、譲渡所得になるのか、雑所得や事業所得になるのか等が不明確で、組合でかかった経費についても、成功報酬その他については必要経費として認められるのか認められないのかがわからなかったりしており、実務上混乱を招いてました。
しかし、つい先日(6月18日)、経済産業省から国税庁への照会に回答があり、こうした処理の明確化が図られました。
回答
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/bunsyo/02/houzin/2633/01.htm
照会
投資事業有限責任組合及び民法上の任意組合を通じた株式等への投資に係る所得税の取扱いについて(照会)
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/bunsyo/02/houzin/2633/02.htm
これによると、
� 株式等への投資を主たる目的事業としていること
� 各組合員において収益の区分把握が可能であること
� 民法上の任意組合が前提とする共同事業性が担保されていること
� 投資組合が営利目的で組成されていること
� 投資対象が単一銘柄に限定されないこと
� 投資組合の存続期間が概ね5年以上であること
の6つの要件を満たす組合からの所得については、「株雑所得」または「株事業所得」に該当するものとし、GPの成功報酬や監査法人に支払った監査報酬その他の経費が、必要経費として認められることが確認されています。
もし、今回のファンドの組成のスキームをいろいろ検討していたときには、まだ、この事前照会に対する回答が出ていなかったため、小口の投資家の税務上の質問に対して明確な答えができないのもまずいと考えて、こうした点がより明確な匿名組合でGOをかけてドキュメンテーションしちゃったところにこの回答が出ちゃったのかも知れませんね。
3つめとして、以前お伝えしたとおり(証取法改正で「シリコンバレー的ファンド」等の運営に影響が出るか?)、来年4月から証券取引法上、投資事業有限責任組合や匿名組合の出資が「有価証券」として扱われることになることが何か影響しているのかとも考えましたが、政令案もまだ発表されてませんし、これによって税務が変わるということも無いかもしれないので、あんまりそれは関係ないかも知れません。
(ではまた。)
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株式投資共同事業組合方式により出資を募る行為は、法人、個人に関わらず投資顧問業などの資格を有することなく事業として行うことは可能なのでしょうか?。
西野さん、こんにちは。
「ファンド運営と投資顧問業規制」
http://www.tez.com/blog/archives/000224.html
「証取法改正でファンドビジネスの危機は来るか?(速報)」
http://www.tez.com/blog/archives/000220.html
「証取法改正で「シリコンバレー的ファンド」等の運営に影響が出るか?」
http://www.tez.com/blog/archives/000148.html
等にも関連の記事を書いておりますので、ご参考まで。
行政の見解は、「組合っぽくちゃんと運営していれば投資顧問業ではないが、一任的に運用しているのであれば投資顧問業」ということのようです。
いつも参考にしています。
この匿名組合を用いたファンドの税金について、質問します。
�匿名組合の分配金として
「源泉徴収されるのは、組合員が10名以上の時」とありますが、10名未満の時は、源泉徴収はされないのですか?
�またそのときは、(雑所得で)申告する必要があるのですか?
�商品(ファンド)ごとに課税方法が違うのですが、それは営業者(GP)が決定するのですか?
ご教授よろしくお願いします。
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