ろいやー君(47th)さんからトラックバックいただきました。ありがとうございます。
ろいやー頭の体操〜資金調達の「新」スキーム(蛇足)
http://blog.drecom.jp/fallin_attorney/archive/30
(略)
最後に、以上を踏まえて、一応私のMSCBに対するポジションを明確にしておくと・・・MSCBは使い方によっては、合理的な資金調達ツールとして、企業価値の向上にも役立ち得る。(特に、リスクに対する評価が(情報の偏在等によって)資金の出し手と調達側で大きく異なる場合には、両者の対立を止揚する手段として機能する)
発行決定持における既存株主からの利益移転の問題は、従来のオプションやCBでもあった議論であり、評価が難しいという理由で、一律にこれを禁ずることは妥当ではない。
発行後の株主間の利益移転については、投資家の予測形成に必要な情報が提供されていれば、投資家の自己責任の範囲の問題であるが、MSCBにおいては、引受手との間でどのような行為規制が約定されているか(いないか)という事前の情報開示と、実際にどのような行動をとったかという事後の情報開示が極めて重要であり、これが提供されない限りは投資家の自己責任を求めることはできない。
従って、この点に関する情報開示が適切になされているか否かが、MSCBの当否を決めるにあたっての根本問題となる。
とのことです。
おっしゃるとおりではないかとも思いますが、理屈としては、今の商法に定められた公告や適時開示規則で定められた開示でかなり十分とも言えますよね。
例えば、
○年○月○日までの30連続取引日(当日を含む。)の株式会社○○証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の平均値で1円未満を切り上げた金額が、当該決定日に有効な転換価額を1円以上下回る場合、転換価額は、○年○月○日(以下、「効力発生日」という。)以降、上記により算出された金額(但し、算出の結果、当該決定日に有効な転換価額の80%未満となる場合、転換価額は当該決定日に有効な転換価額の80%に当る金額で1円未満を切り上げた金額とする。)に修正される。
と書いてあれば、かなりマトモなMSCBではないかと思いますし、
転換価額は、転換前日の株式会社○○証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の90%の金額(ただし、1円未満の端数は切り上げ。)が、その日までの転換価額を下回った場合、その低い金額に修正される。
と書いてあれば、そこは大爆笑するところではないでしょうか。(実在の公告より)
これは、理系の人がオプションプライシングモデルを作ってしこしこ計算しないとわからないというようなものではなく、ちょっとよく読めばわかることですよね?
だって、転換価額が前日1日(だけ)の終値の90%に修正されて、一度下がったら二度と上がらないんですよ?(ぶわっはっはっはっは。)
悪いMSCBの見分け方(まとめ)
ということで、まとめますと、
・転換価額修正の頻度が高いもの(期間中1回だけ<毎月<毎日)
・転換価額の下限が低いもの(80%<70%<まったく下限なし。)
・修正転換価額の算定に用いる期間が短いもの(30日<5日<1日)
ほど、オプションバリューは高く(「ヤバさ」が大きく)なり、
・転換価額が上方にも修正されるもの(下がったっきりにならないもの)
は、オプションバリューが低くなるものと考えられます。
(追記:一般的な多項モデルによるオプションバリューというよりは、空売り等の機会もあると考えた場合の価値、というような意味ですが。)
以前調べたところによると、CBの条件のパターンはいくつかのクラスターに分かれ、上記を含む標準的なパラメータ以外の変則的な条件って、ほとんど無いんですよね。
公告、読んでますか、みなさん?
そもそも、公告というのは文字通り公に告げるのが目的なわけですが、新聞に載っている転換社債の公告を(要点だけでも)読んでいる人って、おそらく全読者の0.01%もいないんじゃないでしょうか。
こんなおもしろいギャグが開示されているのに、読んでもらえないんじゃしょうがない。
つまり、これは開示の問題というより、投資家教育の問題ではないかとも思われます。
とはいえ、一般の投資家が公告を読んで感覚的にオプションバリューがどれくらいになるかをとらえるというのがなかなか難しいのも事実。誰かが「わかりやすく」その内容の要点を解説してあげる必要があるかも知れません。
不肖私のところにも、何社ものマスコミの方々から「MSCBについて記事にしたいんですが」というお問い合わせをいただきます。みなさん私の口から「MSCBは”悪”だ」というような「わかりやすい」言葉を引き出されようとされるわけですが、まことに残念ながら、私はテレビのコメンテーター的な、「けしからん!」「政府も、もうちょっと何とかしてほしいもんですねぇ」的コメントはできませんので、悪しからず。<(_ _)>
以前、某新聞社さんからMSCBの取材を受けたときに、
「MSCBについて投資家がきちんと理解できるようにするためには、何をどう変えていったらいいと思いますか?」
と訊かれたので、
「CBを発行するには必ず2週間前に開示しなければならないので、その開示された条件や過去のボラティリティから、おたくの新聞でCBのオプションバリューを計算して記事にしてみたらどうですか?ほとんどの投資家が読んでるメディアなわけですから。」
と申し上げたんですが、
「いやー、そういうことを書くと、『おまえがやれ』ということで、ボクらにおはちが回って来ちゃうので・・・へへへ。」
ということで、その意見はボツとなりました。
MSCBを分析してくれるベストな「エージェント」は?
新聞社さんがオプションモデルを開示し、そのモデルで機械的にオプションバリューを計算して記事にするということになれば、既存株主に明らかに不利な条件のMSCBを株主総会決議抜きで発行してしまうことは事実上できなくなるでしょうし、「私募債マフィア」なる方々にだまされてヘンな条件のCBを発行させられるということも激減するでしょう。
また、そうしたモデルが「デファクト・スタンダード」になった場合、不利かどうかビミョーな条件のCBをどうしても発行する必要がある場合には、発行体側は、
「○○新聞社の標準モデルによれば、本新株予約権付社債のオプションバリューは△△と算定されますが、これは同モデルで使用するボラティリティの算定の基礎となる当社の過去○ヶ月の株価が□□の理由により大きく変動したことによるものであり、当社の通常の株価変動と考えられる○年○月○日から○年○月○日までの○ヶ月間の株価を元に同モデルで算定しなおすと、オプションバリューは☆☆になると考えられ、商法上の有利発行には該当しないものと考えております。」
というような説明をしなければならないことが明確になります。
金融庁に規制してもらったり、商法や適時開示規則を改正するよりも、それが一番有効な方法だと思いません?
(では。)
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なるほど。衆目監視が有効なのですね。「衆目」として機能するためには投資家教育が必要で、一方で(がんばって投資家が勉強しなくてもそこそこ理解できるように)分かりやすく解説するエージェントも必要だと。
そのエージェント役を誰がやるかですよね。ISSみたいな機関?どこで儲けるか?
あるいは、もっと図解などを多用した、分かりやすい公告を義務づけるとか?
あるいは(思いつきですが)市民オンブズマン的なメディアがあるといいのかもしれません。オープンソース的に、金融のプロがボランティアでいろいろ分析した記事が載っているサイト。NPO法人として経営すれば広告収益で採算が取れそうですよね(笑
私の拙い意見をとりあげていただいて、ありがとうございます。
私が磯崎さんのブログから考えたことは、MSCB固有の問題は、「事後的に」引受人が市場でとる行動(例えば空売り等)によって価値が大幅に変動し得るので、そうした事後的に変なことができるかどうかに関する情報(例えば引受人が取得した株式の一定期間ロック・アップの有無等)がないと、プロですら予測が難しいみたいだが。。。しかし、現行法では、そうした情報は、必要的に開示が求められていないようだし(手元にSRSの様式がなく未確認)、実際に開示も余りされていないようだが、それでいいんだろうか?・・・という点でした。
磯崎さんが書かれているように、転換条件からある程度の「推測」はできるのだと思いますが、見かけの条件が「悪」でも、機会主義的行動が契約上制約されている場合もあるでしょうし、見かけが「良く」ても、何の歯止めがなければ悪用される危険は却って高い場合もあるように思えます・・・その辺りの情報開示については、どのような印象をお持ちなんでしょう?
もっとも、私もMSCBが複雑だから、リスクが高いから、というだけで、これを規制すべきだとか、適切な開示は、常に法律で書かなければいけないとは思っていません(法的に考えても、開示事項として特定されていないとしても、解釈上、material ommission(重要な事項の不開示)の責任は負っていますし)。磯崎さんの仰るように、適切な情報開示のデファクト・スタンダードが確立されて、それにそぐわないものが自然に淘汰されていく筋道こそ、本来なのだろうと思います。
以上、コメントが長くなってすみません。
[finance][livedoor]自分用まとめ:ライブドアをきっかけに、ド素人がMSCBについて調べてみる
ライブドアのニッポン放送株取得が騒がれているわけですが、その資金調達方法として利用されたのが「MSCB」ってやつです。CBの理解すら怪しいのに、MSCBなんて言われてもなんすかそれ食えるんすかモードです。 にも関わらず、磯崎さんが 「うっ・・・。こっ・・・これは`..