昨日の長文の最後に、1月17日にフジテレビはニッポン放送のTOBを発表し、そのTOBの公開買付代理人である大和証券SMBCさんが、その直前の1月4日に(報道では鹿内氏から)ニッポン放株8%を取得したのって「アリなの?」と思う方も多いのではないかというお話をいたしました。
つまり、これって、「インサイダー取引」にはならないのでしょうか?
(追記2006/06/12:「ニッポン放送」「インサイダー」で検索すると、このエントリーが上位に来るので、大和証券SMBCさんの名誉のために追記いたしますが、これ以降のエントリでも記載してますが、このスキームは生の株式を売買したものではなく、鹿内家の保有するニッポン放送株式に信託受益権設定をして、その信託受益権[≒株式の経済的価値]だけを、半年以上前にすでに取引していた、ということのようです。このへんの経緯は、「ヒルズ黙示録」に詳しいです。)
TOBに関するインサイダー取引とは
「公開買付」にかかわるインサイダー取引は、メインの証券取引法166条とは別に同167条で、
(1) 公開買付等関係者や公開買付等関係者から重要事実の伝達を受けた者は、
(2) 公開買付等事実を知って、
(3) その公開買付等事実が公表される前に、
(4) 株式等の特定株券等の売買(開始前には買い、中止前には売り)をしてはならない
と規定されています。
大和証券SMBCさんは、おそらく1月4日の時点ではTOBについての相談をフジテレビから受けていたでしょうから(1)(2)には該当するでしょう。1月4日はTOBの公表前ですから(3)にも該当しますし、開始前に買ってるわけですから(4)にも該当するように見えます。
例外規定
ただし、同167条第7項前段に、
第一項に規定する公開買付け等の実施に関する事実を知つた者が当該公開買付け等の実施に関する事実を知つている者から買付け等を取引所有価証券市場若しくは店頭売買有価証券市場によらないでする場合
という例外規定があります。
つまり、売り手も買い手も両方TOBの事実を知っていて、納得の上、市場外で売買するのであれば、インサイダー取引にはならない、ということですね。
鹿内氏がTOBの予定をちゃんと知っていた上で売却したのであれば、大和証券SMBCさんのケースはこれに該当するので(「少なくともこの条文に関しては」)、「OK」ということかと思います。
(追記)証券会社の場合
・・・と、ここまでは一般人にも適用されるインサイダー取引の規定ですが、「証券会社の場合、さらに『法人関係情報』を用いた勧誘や自己勘定での売買はできないことになっているんじゃないでしょうか」、というご指摘を読者の方からいただきました。
おっしゃるとおりで、証券取引法第42条第1項第9号および証券会社の行為規制等に関する内閣府令第4条第10号で、
九 有価証券の売買その他の取引、有価証券オプション取引等、有価証券店頭オプション取引若しくはこれに係る媒介、取次ぎ若しくは代理(以下「有価証券店頭オプション取引等」という。)、有価証券店頭指数等先渡取引若しくはこれに係る媒介、取次ぎ若しくは代理(以下この号において「有価証券店頭指数等先渡取引等」という。)又は有価証券店頭指数等スワップ取引若しくはこれに係る媒介、取次ぎ若しくは代理(以下「有価証券店頭指数等スワップ取引等」という。)につき、顧客に対して当該有価証券の発行者(有価証券オプション取引等又は有価証券店頭オプション取引等にあつては、オプションが行使された場合に成立する売買に係る有価証券の発行者、有価証券店頭指数等先渡取引等にあつては、当事者があらかじめ約定した数値としての価格に係る有価証券の発行者、有価証券店頭指数等スワップ取引等にあつては、当事者の一方が相手方と取り決めた価格に係る有価証券の発行者)の法人関係情報(法第百六十三条第一項 に規定する上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であつて顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められるもの並びに法第二十七条の二第一項 に規定する公開買付け(同項 本文の規定の適用を受ける場合に限る。)、これに準ずる株券等(同項 に規定する株券等をいう。)の買集め及び法第二十七条の二十二の二第一項 に規定する公開買付け(同項 本文の規定の適用を受ける場合に限る。)の実施又は中止の決定に係る公表されていない情報をいう。以下この条及び第十条において同じ。)を提供して勧誘する行為
十 法人関係情報に基づいて、自己の計算において有価証券の売買(オプションが行使された場合に成立する有価証券の売買を除く。)、有価証券オプション取引、有価証券店頭オプション取引、有価証券店頭指数等先渡取引又は有価証券店頭指数等スワップ取引をする行為(取引一任契約に基づきこれらの取引をする行為を含む。)
ということになっており、この規定の場合には、売主と証券会社が双方TOBが行われることを知っていた場合にも原則として違反になります。
上記令第4条9号における、TOBの「実施又は中止の決定に係る公表されていない情報」というのの「に係る」という表現は微妙ですが、(この条文とは違いますが)、証券取引法第166条第2項の「行うことについての決定をしたこと」という表現は、取締役会等の最終決定だけではなく、それを実現するための準備等を会社の業務として行うことを決定したことも含まれると考えられているようですので(平成11年6月10日最高裁)、仮に「17日まで機関決定されていなかったので、1月4日の時点ではまだ”決定”ではなかった」という理屈だとしたらちょっと苦しい気もします。
このため、例えば、TOBをやっている部門または担当者と、鹿内氏から買い取った部門の担当者の間に「チャイニーズウォール」が敷かれていてお互いに情報を知らずに取引をしてしまったとか、「証券会社の自己の計算」ではない取引(例えば鹿内氏が直接TOBに参加できない何らかの理由があって、TOBで得た資金は基本的にすべて鹿内氏に戻されるというような契約の上での取得など)として行われたとか、ということでないと問題になるかと思います。
道義上
さすがにフジテレビやニッポン放送にないしょで鹿内氏から買ったのだったら、法律的にどうかということはさておき、ビジネス倫理上は「おいおい」ということになるでしょうけど、さすがにそこは両社了解の上なんでしょうね。
いくらで取得したのか?
TOB資料には、
本公開買付けの買付価格5,950円は、ニッポン放送株式の東京証券取引所における平成17年1月14日までの3ヶ月間の終値平均値(4,937円)に約21%のプレミアムを加えた価格であります。
とあり、売買時の市場での価格とTOBの価格に大きな開きがありますので、大和証券SMBCさんは鹿内氏から「いくらで」株を取得したのかという疑問がうかびます。
鹿内氏もTOBの予定を知っていたのであれば、さすがに20%も安い5000円を切る値段じゃイヤでしょうし。また、一般のブロックトレードとは違い、TOBが控えていてマーケットインパクト無く売却できるわけですから、通常であれば(TOB撤回のリスクを大和証券SMBCさんが負うにしても)、鹿内氏としては本来、TOBの買付価格である5,950円に限りなく近い値段で売却するのが合理的なはず。
1月4日の相場とTOB価格にも相当開きがありますが、税務上はどうなんでしょうか。
鹿内氏はなぜTOBに直接応募しなかったのか
なぜでしょうね?
前述のとおり、証券会社側としても「自己の計算」で取得することはまずいとすれば、やはり、(例えば、鹿内氏側が何らかの理由でTOBまで待てないとか、急遽資金が必要等の事情で)、先に大和さんが取得しておいて、実際TOBされた価額で精算をするというような取引だったのかも知れません。
大和さんのプレスリリースでも、「取得」とだけ書いてありますね。
ただ、前回のエントリーの最後の方で引用した1月8日日経新聞13面の記事では、
大和SMBCは「経済合理性にかんがみた純投資で、ニッポン放の経営に参画する意図はない。タイミングを見て売却していくことになる」(経営企画部)としている。
と、自己勘定での取引であるようなことをおっしゃってます。
まあ、この時点で「鹿内氏がTOBまで待てないので」というようなことを言うわけにもいかないでしょうし、
記者さんが、「経済合理性にかんがみた取引で」と聞いたのを、「純投資で」と補足したのかも知れませんが・・・。
うーん。ナゾですね・・・。
なぜ7日まで公表しなかったのか
1月4日に売買していながらなぜ7日まで公表しなかったんでしょうね。
適時開示する義務はない事項と考えられますので、別にいいといえばいいのですが。逆に、なぜ開示したんでしょうね?(前述の記事にもありますが、大量保有報告書は提出する必要があります。)
ちなみに、年末は5,000円ぴったりくらいの株価で推移していたのに、大発会以降200円程度株価があがっちゃってますね。大和さんの7日の発表で、さらに週明け11日からは株価が跳ね上がりました。
思惑を呼ぶ話なので週の途中では開示しないことにした、ということでしょうか。
・・・と、なぞはちょっとかなり残りますが、本日はこれにて。
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本日の日金の最終面に、昨年五月末に信託設定した証券を取得とありましたねぇ。それがポイントなんですかねぇ。
法への自由、否、法からの自由。
「法律は言葉としては退屈すぎる」
アイザイア・バーリンはこう考えた。
至極最もである。
俺の気持ちを適切に表してくれている言葉。
もちろん、法律は必要である。
めちゃめちゃ必要である。
最強の公共財である気もする。
でも、自分はそれに携わる仕事は.
ニッポン放送買収に神田うの暗躍?
恐るべし神田うの元モデルのセンスも手伝ってか、
ファッション事業が好調な神田うの
ビジネスのセンスもあったらしい
(参謀が有能なのか?)
まあどちらにしても、ただのワガママ女ではなかったようだ
新築中の豪邸は「パンスト御殿」と呼ばれているが、
先日の…
>大和SMBCは「経済合理性にかんがみた純投資で、ニッポン放の経営
>に参画する意図はない。タイミングを見て売却していくことになる」
>(経営企画部)としている。
とありますが、これほど流動性があり、かつTOB価格より高値で推移して
いる状況で売却しないということは、大和がコンプライアンス上とっている
ポジションに微妙に影響しませんでしょうか?
ライブドアーフジー神田うの
更新された社長日記が変に静かです。
つかの間の休息なのか、あまり書き込みたくない状態なのかは分りませんが。
市場が休みだというのに、またまた、ライブドアネタになってしまいます。
今日はこんなのがありました。
…
すごいこと言ったよ!
本日のサンデープロジェクトで
ホリエモンがすごいこと言った。
「大和SMBCがTOB前に鹿内家の株式を買受け、保有している。」
検索してみると→あった。
これって完璧インサイダーだよね?
三井住友銀行と大和證券の合併大丈夫
ライブドア堀江社長の真意
ライブドアのニッポン放送株取得に関するニュースが、この数日メディアをにぎわせている。が、その報道の内容はライブドアvsフジTVの対立の構図とか、株が上がった下がったとかに終始するあまり、けっこう重要なことが抜け落ちているような気がしてならない。
例えば、2月
脱税のにおいがプンプンする
差額は裏で回して貰っているんじゃねーの?
もちろん税のかからない金額を
インサイダー取引 リンク集
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「実質的に会社の意思決定と同視される決定」
かなり出遅れましたけれども、関連記事についてのエントリです。あれ、引用判決、1年違うんじゃない?と思った方もいらしたのではないでしょうか。
中日新聞
経…