契約書の著作権

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以前、大手法律事務所系の弁護士さんと雑談していたときに、
「ところで、契約書って当然、著作権法の保護を受けますよね?」
と聞いたら、
(「当たり前じゃん。契約書も著作権法上の『著作物』に該当するに決まってるし、オレら、それでメシ食っとんねん。コピーして勝手に流用したりすんじゃねーぞ。」と言われるかと思いきや、)
「えっ?えーと、どうなのかなあ。考えたことないなあ。保護されないんじゃないのかなあ。そんなこと言ったら、大手の事務所でも米国あたりの契約書を翻訳してパクって来てたりするのもどうか、みたいな話になっちゃうしなあ。」
みたいなことをおっしゃるので、「えっ」って感じだったのですが。テキトーな仕事をする方ならともかく、大変よく勉強していい仕事をされる方なので、意外感もひとしお。
他の事務所の契約書の文言なんかをお互いに見て、「なるほど、こう来るか」と学習しあっているので、一種の「オープンソース」または「持ちつ持たれつ」的感覚が業界内にあるということなのか。それとも意外に弁護士さんの知財保護的感覚って弱いということなのか。
−−−
一般的にプロフェッショナルな職業って、「紺屋の白袴度」が高いことが多いように思われますが、どうでしょう?
弁護士事務所は、他人の契約書は作るけど、弁護士さんと仕事を始める前に「今回の仕事はこういう契約で」と契約書を結んだ記憶はあまりないですし、
監査法人は人の情報の開示についてはプロなのに、あんまり自分の法人の情報は開示してらっしゃらないですし、
戦略コンサル会社が自分の会社の戦略はあまりなかったり(苦笑)、ITコンサル会社の社内システムがガタガタだったり。(苦笑)
−−−
そういえば、送られてきた契約書のMS-Wordのファイルのプロパティの「作成者」に、他の事務所の名前が入ってるというのも何度かみたことがあります。
もちろん中身を十分理解して流用してらっしゃるならいいんですが、先日、相手方の弁護士さんから送られてきた、「又は」と「または」、「及び」と「および」が激しく混在した契約書を見て、(内容もイケてなかったので)、「これはいくらなんでも、中身をよく検討せずにあちこちからコピペって来たんだろうなあ」と思った次第。
「『又は』と『または』をちゃんと統一しろ!」と厳しくご指導される弁護士さんとか法務担当者の方を多く見かけてきたので、「やっぱり法律の教育をちゃんと受けてらっしゃる方は基本動作がちゃうなあー」と関心することが多かったんですが、必ずしも全員がそういう方ばっかりでもないということのようですね。
(私自身の「紺屋の白袴度」をツッコまれると激しく困るので、本日はこの辺で・・・)

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12 thoughts on “契約書の著作権

  1. たしかに紺屋の白袴ですよね。
    会計士やってますけど、自分を含めてまわりのスタッフはみんな、クライアントのことはクライアント以上に詳しいけど、自分の所属してる監査法人の経営状況はほとんど知らないなんて人ばっかり。。。

  2. ご無沙汰しております。
    著作権法第2条に「著作物」の定義がありまして、曰く
    ” この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
     一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。”
     
     稀には「思想や感情を創作的に表現」するものもあるのかもしれませんが、概ね権利関係の処理に終始する契約書は、著作物には該当しないと、私は解しております。

  3. 契約書については、昔ちらっと考えたときに、minoriさんと同じ理由で著作物には当たらないだろうなぁと思ったことがあります。ただ、ある取引スキームについてビジネス特許や商標なんかを使って独占化できないかという試み自体は、ちらほらと生まれているようです。
    それはともかくとしても、「紺屋の白袴」というか「医者の不養生」というのは、かなり当たっていると思います。私も依頼者が契約するときは、目を皿のようにして重箱の隅をつつくようなコメントをしますが、ネットで買い物するときとか、ろくに規約も読まずに「同意する」とか押してますし(笑)・・・ああ、こわ。

  4. ——の明後日(あさつて)
    ——の地震
    ふむふむ。
    日本だけ? 
    自分に関心がなくて、つねにマスばかり気をつかって。
    あ、どこかのテレビ局もそうだね。

  5. 業界では時々出る話題ですが、米国では契約書(等のリーガルドキュメント)の著作権は存在し、かつ(別途譲渡しない限り)弁護士に帰属することで確立していると思います。「創作性」の要件は非常に低いので、ほぼ問題になりません (499, U.S.340 (1991))。
    日本では契約書の著作権に関する判例は、知る限りありません。米国と違い、「創作性」の要件をかなり高くしている判例もあります(平成8年4月26日高松高裁判決(判例タイムズ926号p207))。一方、たとえば飯村判事は「大抵のものに創作性が認められる」という立場をとっているように思います(東大の講義でもそう言ってました)。判例が蓄積されるまではわかりませんが、「ない」と判断できる解釈上の根拠は見当たらないように思います。
    以上を踏まえて、私自身は、日本でも、契約書の著作権を認める余地があると考えています。ただ、それを正面から認めると日々の業務に不都合が生じるので、「紺屋の白袴」というより、無意識(あるいは意識的)に議論を避けていると理解しています(顧客が質問しても、非常に歯切れの悪い返答があります)。弁護士間では、professional courtesy(職人の仁義)という単語をよく使いますが、契約書の相互利用もその一環と考えています。
    仮に日本でも契約書の著作権が認められると不都合が多いので、「ない」という方向で確立してくれればよいのですが。余談ですが、著作権法にはこの種の不都合が多く、残念ながら「違反をせずに日常生活を送ることは不可能」ともいえる状況で、困ったものです。

  6. 紺屋の白袴例(その?)
    私が勤務する税理士受験指導の専門学校は、簿記会計の専門校であるにもかかわらずその財務諸表は非常にわかりづらく、特に内部資料の月次損益計算書など費用収益がまったく対応していないため、これ何のために作ってるの?というシロモノ。
    学校法人会計は一般の企業会計とはちょっと違うし、月次損益も最後は年次に通算するから関係ない、とはいえちょっとお粗末じゃないかなぁと常々思っております。

  7. コミュニケーションを権利化できるなら私はプレスリリースを押さえますかね。
    数百万投資して例えば200字〜2000字程度の文章を順列組み合わせで作成して現代芸術として公証人役場へ持っていく。
    で、その後出た上場企業のプレスリリースを著作権法違反で訴えて回収。さらに投資して数万字まで以下同様。
    そんな事言うから弁護士は死ねって話になるのでは。権利ってみんな持ってるんだけど。

  8. ISDAの契約テンプレートなどは著作権関連でかなり細かく規定していますね。
    テンプレートそのまま利用する場合は、ISDA会員以外の利用でも問題にしていないのですが、
    変更や翻案、翻訳やなどについては厳しく制限をかけていたかと思います。
    それはそれとして、デリバの契約なんかが、いつの間にかあちこち流れているというのは事実
    のようで、つい先日も、守秘義務契約を結んで受け取った契約案文が、なんとこちらの担当者
    が作ったものと同じだった、、、、なんてことも、あったりしました(^_^;

  9. これから法曹になる敷居も低くなって、個性豊かな弁護士さんが増えてくるだろうから、こういったことが案外洒落にならなくなるんでしょうなぁ、きっと。想像するだけでもやだなぁ、ある日突然脅迫状みたいな内容証明を送りつけられたりしたら。

  10. 著作物とは、
    http://www.soi.wide.ad.jp/iw97/iw97_tut/slides/18/07.html
    よくわかりませんが、オリジナリティーある一般創造物かと。
    と言うことは、磯崎さんのこのisologueに書かれていること全て、
    著作物と言うことになるかもしれませんね。
    たしか、価格.comの投稿文は利用規約により、カカクコムに帰属するとなっていたと思いました。
    よって、このisologueもログインもしくはHPのどこかに、
    「本Blogに書き込まれた一切の内容は磯崎に帰属し・・・」と一文があると、
    投稿文の統計等のデータは磯崎さんのものになる可能性がありますね。
    磯崎さんがここで、間接的なアンケート(誘導的な質問)を発し、その結果を
    投稿文として集めることで、データ集計ができたりして。
    ところで、アンケートと言えば面白いものを見つけました。
    少し古いですが、中国人の大学生の思想アンケートです。
    http://www.kohken-net.co.jp/html/chinese-an.html
    これを読むとけっこう面白いことが書かれています。
    また良かったら参考にしてみてください。

  11. 中国相場と日本市場

    ドル高相場の後については、中国バブルが再燃する可能性があると思っています。 昨年まで一度中国バブルが来襲し、現在の中国人は働くより「金儲け」「金の亡者」となっています。 日本への中国人からの圧力もこうしたモノが相まっている可能性が捨てきれないと思っていま…

  12. はじめまして。いつも楽しく拝見しています。毎日新聞のコメントも参考になりました。
    弁護士と依頼者との契約書のことですが、たしか日弁連で「きちんと見積書も、契約書も作らないといけませんよ」となったような。(ひょっとしたら大阪弁護士会規則かもしれませんが)少なくとも大阪では依頼者との事件受任の際には「見積書」の提示、セカンドオピニオンも有益である旨の説明、書面による契約書の作成は徹底していると思います。
    これからも、がんばってください。楽しみにしています。