イー・アクセスの信託型買収防衛策(全体像)

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(23:59追記あり。)
前回に続いて、イー・アクセスさんの信託型のライツプランについて。
企業価値向上新株予約権(eAccess Rights Plan)の導入について
http://www.eaccess.net/press_img/2705_pdf.pdf
このプレスリリースには図がついてないので、スキームの全体像を図示してみました。
image002.gif
1.新株予約権の付与
まず、イー・アクセスが有限責任中間法人ミナト・ライツマネジメントに新株予約権を付与します。「有限責任中間法人」というのは、証券化や流動化に係わってらっしゃる方は見慣れてらっしゃるわけですが、一般の方のために平たく解説しておきますと、平成14年4月の「中間法人法」の施行から使えるようになった「株主のいない有限会社」みたいなもんです。連結から切り離したり倒産隔離したりといった資本関係を宙ぶらりんにしたいときによく使われるわけです。
この新株予約権の条件の主要なところをピックアップしますと、以下の通り。
・新株予約権の目的となる株式の種類及び数:新株予約権1個あたり当社普通株式1.5株(〜2倍)
・発行する新株予約権の総数:180万個
・発行価額:1個あたり1円
・行使に際して払込みをなすべき額:(時価の)5分の1
現在の発行済株式数が1,365,240株(Yahoo!ファイナンスによる)。この防衛策が発動されると、株式数は約2.5倍〜(ただし買収者を除く)となるわけです。
2.新株予約権の信託
有限責任中間法人ミナト・ライツマネジメントは、三菱信託銀行(日本マスタートラスト信託銀行との共同受託)に、この新株予約権を信託します。
3.特定株式保有者が現れたときに新株予約権を交付
議決権の20%以上を取得する「特定株式保有者」が現れた場合、その60日後に信託銀行が新株予約権を株主に交付します。ただし、買収者(特定株式保有者)は新株予約権をもらえません。
当然、社外取締役で構成される「企業価値向上検討委員会」が認めた(友好的な)買収者の時には、この新株予約権が消却されるので、買収者は影響を受けないわけです。
株価への影響
これ、買収者以外の既存株主には極力影響を与えないように非常によく考えられたスキームではあると思うのですが、発表(5月12日)後の株価は・・・・以下のとおり、あまり好感されてないようです。
eAccess_chart_20050525.gif
(買収防衛策一般の特性と、この方式固有の問題点を含めて)、一般株主の方の気持ちを想像するに、下記のような感じでしょうか?
(1) なんやようわからん。(→わからんものは売り。)
(2) 新株予約権を発行するってことは、とにかく売りだ。
(3) (ライブドアのような)買収者が買収できないということは株価が上がるチャンスがそれだけ減るということじゃないか。→売り。
(4) よく考えると、実際、このスキームが使われることになったら、課税関係が生じるというウワサで、ややこしそうだ。→売り。
(5) 買収者以外の一般株主には影響を与えないと言いながら、時価の5分の1の金額(×1.5株分)は払い込まないと希薄化してしまう。(そのときにそれだけの資金があるかどうかわからないし。)
米国では、ライツプラン(ポイズンピル)の導入が株価に与える影響は中立だ、という研究があるとか無いとか。ポイズンピルというのは買収する場合には事前に交渉のテーブルに着いてくださいねと言う「紳士的な脅し」であって、米国でも(間違って使われたケースを除けば)実際に使われる例は皆無ということなので、(このスキームがアメリカの一般的なものと違ってまだ課題がある点を考慮するにしても)、ここまで下げ要因にならなくてもいいんじゃないか、という気もします。(わざわざ「企業価値向上新株予約権」ってな名称も付けられて株価にも配慮されているんじゃないかと思いますが・・・・あまり役に立ってなさそう。)
実際、こういう買収防衛策が入っていると、例えば、ライブドアによるニッポン放送株取得のケースを考えてみても、
「35%も取得するんだったら、時間外取引を利用して6,050円で取得するなんてケチなこと言わずに、6,300円くらいでTOBかけてフジテレビと株価のつり上げ合戦を演じてくださいよ」
といった交渉も可能だったはずで、必ずしも株価を押し下げる要因だけじゃない(というか本来、委員会は株価をつり上げる方向に行動するはず)と思うんですが。
「社外取締役が株主のためを考えて決定します」と言ってるのに、日本ではまだ社外取締役が中立の立場で行動するという信用というもんが無いんでしょうか?
他の買収防衛策を導入される企業も、こうした実際のケースにおける株価の動向には注目せざるを得ませんね。
(ということで、本日はこれにて。続く・・・・予定。)
(追記:)
おとといあたりまでバタバタしてまして、他の方のブログを良く読まないで書いてましたが、同様のことはすでに(当然)、他の方が書いてらっしゃいますね。
47thさん、
http://www.ny47th.com/fallin_attorney/archives/2005/05/post_6.html
HardWaveさん、
http://blog.livedoor.jp/hardwave/archives/21934611.html
小林雅さん、
http://venturecapital.typepad.jp/blog/2005/05/post_3a2e.html
(では。)

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8 thoughts on “イー・アクセスの信託型買収防衛策(全体像)

  1. 自分も石綿先生の図を参考にして書いてみたんですが、イー・アクセスの
    決算説明資料のP14に図がある事に後から気付きましたよ。
    http://www.eaccess.net/ir/pdf/final-pdf_050512.pdf
    イメージしている書き方ではありませんでしたが。
     
    ところで、何故、SPCを挟む必要があったのでしょう?
    西濃運輸は直接信託方式を採用していますが、信託するのにあえてSPCを挟む
    必要性がないのであれば、西濃の方式の方がコスト的に安いように思うのですが。
    どなたか、お差し支えなければご教授いただけると幸いです。
    信託銀行の方に聞きたいのですが、親しい人がいないので。
     

  2. >決算説明資料のP14に図がある事に後から気付きましたよ。
    あ、ほんとですね。HardWaveさんがかなり詳しく書き込んでらっしゃいましたね。失礼いたしました。
    >ところで、何故、SPCを挟む必要があったのでしょう?
    一つには、税務上の挙動の違いがあるからかな、かと思いました。
    予定では、明日あたりその辺を深掘りして見る予定です。
    ではでは。

  3. 私如きのブログにTB、リンクまでして頂いて申し訳ございません。
    次回の解説を楽しみに待っております。

  4. こんばんわ。私もHardWaveさんと同じ疑問を抱いております。ただ、私なりの勝手な解釈をしますと
    ひとつめの理由は、信託契約の性質からして「委託者は誰に新株予約権を付与すべきか」という点が問題となりますが、発行企業が直接(付与の対象者を)指示するか、SPCが指示するかということで、SPCであれば外形的には権利発行企業による「株主平等原則違反」の意味が希釈化するということ、ふたつめの理由は、大量の株主への瞬時における予約権発行ですから、株主の特定などにミスが発生することが予想されますが、付与における手続き上のミスが、予約権発行全体の瑕疵と評価されないための対策ではないか、と推測しました。イーアクセスが買収対象者には「新株予約権は付与しない」としているのに対して、SPCをかまさない西濃運輸は「新株予約権は買収希望者にも一応付与するけども、ダブルスタンダードで判断したうえで行使させない」というスキームをとっているので、「直接信託口座へ放り込んでもいけるで」と判断されたのではないでしょうか。
    SPCの税金のことは、私よくわかりません。。。
    的はずれでしたらゴメンなさいです。

  5. イー・アクセスが信託型ライツプラン!

    昨日、イーアクセスが「企業価値向上新株予約権(eAccess Rights Plan)の導入について」を公表した。(eAccess Rights Plan #1)
    定時株主総会にて承認を受けることを条件に制度導入し、3 年毎に定時株主総会において存続について承認を得ることとするなど株主の意思を反

  6. >>ところで、何故、SPCを挟む必要があったのでしょう?
    >一つには、税務上の挙動の違いがあるからかな、かと思いました。
    >予定では、明日あたりその辺を深掘りして見る予定です。
     
    ライツプランの税務上の取扱いについては、4月28日開催の自民党の企業統治に関する委員会において、国税庁が基本的考え方を明らかにしています。
     この時の説明では、ライツプランを以下の3つに分類しています。
    �事前警告型ライツプラン
     ライツプランの導入については事前警告のみ行い、敵対的買収者が現れた時点で新株予約権を付与する方法
    �信託型ライツプラン(直接型)
    �信託型ライツプラン(SPC型)
     税務上の取扱いは、最後にまとめましたので、それを参照していただければと思いますが、結論としては、税務の観点から考えるとSPC型は、��より不利な扱いになります。
     それでは、イー・アクセスが何故SPC型にしたかの疑問が残りますが、それは投資信託法上の疑義があったことによると思います。
     4月28日の自民党の委員会では、投資信託法上、信託銀行に直接、新株予約権を発行できるかどうかが不明確との話がでており、金融庁の見解を示してもらうことを宿題にしていました。
     5月12日の自民党の委員会において、金融庁から回答が示され、投資信託法上、可能ということになりました。すなわち、投資信託法第5条の2に抵触しないということです。
     イー・アクセスのライツプランのプレスリリースは、5月12日ですので、金融庁の投資信託法上の見解が出る前に、スキームを作ったことから、SPC方式を選択したものと推定できます。 
    (税務上の取扱い)
     株主に対する課税関係は、�と�の場合については、法人株主については、新株予約権の付与時に時価相当額の受贈益が生じ、個人株主については、行使時に株式の時価と権利行使価額との差額に課税されるとしています。また、�については、法人株主、個人株主ともにSPCから株主へ新株予約権を譲渡した時点で、時価相当額の受贈益・経済的利益が生じるとして課税対象になります。
    �のSPC型であれば、個人株主に対する課税が取得時点であり、�、�の行使時の課税よりも早く課税され、税務上不利な扱いになっています。
     この違いは、所得税法施行令84条3号の規定自体が商法280条の21第1項(新株予約権の有利発行決議)に基づき発行された新株予約権は、課税時期を権利行使時と定め、収入金額を「権利行使時の株価−(新株予約権の取得価額+行使払込額)」と定めていることに関係します。
     商法280条の21第1項の新株予約権は、譲渡禁止の新株予約権であり、権利行使をしなければ経済的利益を享受できないと国税庁は考えています。ところが、SPC型は、SPCから株主へ譲渡することを前提にしていますので、付与時の課税にならざるを得ないと国税庁は考えたものと思います。 

  7. にゃるほど〜  懇切丁寧に有難うございます。
     
    しかし、これでは税務上、投資家にとって大きな問題点が
    あると言う事のように思えますね。
    発動しない事を前提でお役所は考えているようですが、
    万が一にも発動してしまうという事はないと言えるのでしょうか。。。。
    もし発動した場合、一般株主は希薄化されるのを避ける為には、
    課税されることを承知で交付を受ける、或いは権利行使しないと
    いけないわけで、納税資金を調達する為に当該株式の売却を
    行ったりして、株価が更に暴落する恐れがあるかもしれない。。。
     
    ほとんど株主割当に近い一定類型の新株予約権スキームの
    一連の流れを完全に非課税とするか、新株予約権付株式の
    発行と現行普通株式の交換を株主に負担掛けることなく
    出来るようにするか、法整備して欲しいものですね。