mousikosさんのコメントで教えていただきましたが、夢真ホールディングスのホームページに、昨日(2005年7月16日)付で、日本技術開発の株式分割への会社の方針(上村達男早稲田大学教授の意見書付き)が掲載されてます。
日本技術開発が主張する対抗措置としての株式分割に関する当社の方針について
http://www.yumeshin.co.jp/ir/new/press/re-ngk_050716.pdf
添付されている上村先生の意見書ですが、「1 公開買付制度の意義」「2 公開買付対象会社のあり方」ときて、「3 日本技術開発による大規模買付ルールの違法性」では、
そもそも同社が法というものをどのように考えているのか、まったく理解を超えている。大規模買付者に大規模買付ルールに従う旨の意向表明書の提出を求め、大規模買付者が提供した情報を取締役会が精査し、不十分であれば必要情報が揃うまで追加情報の提出を求め、大規模買付行為は取締役会による評価機関を経過しないと開始できないとし、さらに大規模買付ルールが遵守されていても買付行為が会社および株主全体の利益を著しく損なうと認められる時には対抗策をとりうるとする。いつからこの会社は立法者になったのかと、ただただ呆れるばかりである。
と、日本技術開発に激しく斬りかかった後、返す刀で、
証券取引法上の公開買付制度がこれほど徹底的に無視されて、規制責任者が何も反応しないとしたら、規制当局としての資格自体が疑われることになる。
と、規制当局にも剣先を突きつけていらっしゃいます。
「4 公開買付期間中の株式分割の違法性」においても、
公開買付制度の意義を全体として喪失させる買付期間中の株式分割が証券取引法違反を構成することは解釈上自明である(ルールが原則自由化した今日、法の解釈の重要性が著しく高まっている。条文に書いてないから良いという発想は証券市場が有する公共財としての国民経済的意義を忘れた反社会的な姿勢であり、証券取引法を交通法規化させる法曹の堕落でしかない)。内閣総理大臣は、今すぐにでもそうした株式分割が行われることを表明する本件大規模買付ルールの破棄を求め、そして実際に株式分割を行われようとする際には、その差し止めを求めて、直ちに緊急停止命令を申し立てて(証取法192 条)、証券取引法の規制責任者としての責任を全うすべきである。行政がこうした臨機の対応をとらないことにより買付の断念に追い込まれ、あるいは買付者が損害を被った場合には、そのことが国家賠償請求の根拠ともなりうる可能性を否定しがたい。
と、熱い文章が続きます。いや、私が過去に読んだ法律関係の文章の中でも、最も「熱い」ものの一つということは間違いありません。ご興味のある方は、是非、ご一読を。
上村教授は買収防衛策を全否定しているのか?
さて、上村先生は、「2 公開買付対象会社のあり方」で、
買収防衛策はそれがいかなる体裁を整えていても、競争的な方法によって正々堂々と時間をかけて買い集める行為に対して有効であることはあり得ない。このことは有事対応であろうと平時対応であろうと変わらない。一般に買収防衛策が意味を有するのは、違法行為ないし反社会的な行為によって出現した株主、競争原理を踏まないで(オークションなしに、社会的認知のプロセスを踏まずに)出現する株主、あるいは短期借金漬け買収であるために買収成功後に対象会社を食い物にする蓋然性の高い株主に対抗するためであり、本件のように株式公開買付というきわめて正当な手段に対してはそもそも、法が定めた手段をもって対抗する以外の防衛策自体があり得ない。
ということで、「いい買収者」でも「悪い買収者」でも、TOBを使って行う買収については妨害してはならないというスタンスであり、「後出し」だからダメで(ホントの)「事前」警告があったらイイとか、社外取締役による検討など経営陣の保身を防止する手段が施されていればOKというようなスタンスではいらっしゃらないようです。
ということは、どんなに「いい」目的のための買収防衛策で、買収者が「悪い」やつであっても、TOBを使った買収をされたら買収されるしかない、ということなんでしょうか。
もちろん「悪い」買収者がTOBをかけることも考えられるわけです。例えば、LBOを行おうとする会社(SPC等)にファイナンスを付ける金融機関等は、買収者と被買収社の合併が成立しなければ、被買収会社の資産やキャッシュフローからの返済が受けられない可能性があるわけですから、議決権が確保できるというハードルをクリアした場合にお金を払えばいいTOBの方が、金が貸しやすい。財務体質の弱い資産売却目的の買収者であればなおさら、市場買付ではなくTOBで買収してくる可能性の方が高いかと思います。
もしTOBの手続きさえ踏めば何でもOKであり、かつ、TOBに希薄化防止条項を付けていいのであれば、TOB期間中に希薄化を発生させる買収対抗策としては、株式分割に限らず、新株発行や新株予約権の発行・行使等、ありとあらゆる方策を無効にできます。
しかし、上村先生の意見書でも、「買収対抗策が意味を有するのは(中略)短期借金漬け買収であるために買収成功後に対象会社を食い物にする蓋然性の高い株主に対抗するため」とおっしゃってますので、すべての買収対抗策を否定されてらっしゃるわけではないようです。
上村先生のお考えに沿うとすると、やはり買収対抗策というのは、相手が(TOBなり市場買付なり手段にかかわらず)一定以上の比率の株式を取得した「後」に発動するようなスキームにしておかないといけないということかも知れませんね。
例えば、20%以上の株式を取得するものが現れた「後」に、その他の株主に発行済み株式数の4倍の新株予約権なり株式なりがバラまかれるなり行使可能になるなりというスキームであれば、TOB期間中はまだその防衛策は発動せず株価も高いままだから、希薄化防止条項の文言を工夫してそうした潜在的な希薄化を先回りして価格を下げられるようにしておいても、実際に買付け価格を5分の1に下げたら誰も買収者に売ってくれないでしょうし、高いまま買ったら買収者は後で損をするわけです。
上村先生が、そうした方策をも否定されてらっしゃるのかどうかはこの意見書だけからはよく読み取れません。少なくとも、ライブドアが採用した立会外取引のようなものは、市場に十分な情報が行き渡らないのでダメというスタンスでらっしゃるようですが、公開買付制度により時間をかけることでどんな場合にも十分な情報が市場に行き渡ると考えてらっしゃるのか、はたまた違うのか。
私は、「悪い」買収者が、「オレはグリーンメイラーだ」とか「資産切り売りが目的だ」なんてことを言って買収するわけはないので、TOBの制度だけで投資家の判断に必要な情報が行き渡るかというと、そうではないと思います。
日本ではヨーロッパのように、「パネル」による買収者の審査といった制度もないわけですし、米国でのオラクルによるピープルソフトの買収でも、ピープルソフトが買収防衛策を採っていたからこそ、オラクルと粘り強い長期間の交渉をして買収価格をつり上げ、結果としてピープルソフトの株主は得をしたわけですから、公開買付制度の情報伝達機能だけを信じて、買われる側はTOBされたら何も手出しができません、というのではあまりに被買収側(の株主)にとって不利かと思いますので。
(ではまた。)
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おはよう御座います。
早大上村先生の意見書を読んで見ました。 確かに上村先生は非常に熱っぽく語っていますね。 「株式買付制度は情報開示制度で充ち満ちており」とか「株式公開買付制度は将来にわたって葬り去られたも同然となる」などと、最近では小説家も気恥ずかしくて用いないような大袈裟な表現もしておられます。
思いますに、一般に言って、学者先生は、公平な第三者を装いたがるようで、意見を求められても、御自分の立場を明らかにせずに、最後には、「更に検討する必要がある。」とか「今後の研究を待つより他は無い。」とかおっしゃって、結局毒にも薬にもならない事しか言わないことが多いようです。 そういう中にあって、上村先生のように御自分の立場を明らかにされ、その熱い思いを公言しておられるのは、内容の当否はともかくとして、御立派なことである、と思います。
以上簡単ですが、雑感まで。
磯崎先生 いつも興味深く読ませていただいております。初めてコメントします。
今、早稲田ローにて、上村教授の講義を受けていますが、先生の講義内容は非常に一貫していて歯に衣着せぬ発言は非常に面白いです。
ライブドアの件についても、本件についても、磯崎先生はどちらかといえば経済的視点で、上村先生は法律家の視点で論じられていて、本当に勉強になります。
夢真は、11日,12日と14日にもリリースをしています。
11日 http://www.c-direct.ne.jp/hercules/uj/pdf/10102362/00035581.pdf
12日 http://www.c-direct.ne.jp/hercules/uj/pdf/10102362/00035628.pdf
14日 http://www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10102362/00035753.pdf
上村先生は最近日経で連載をされておられましたね。物事の根源に立ち返って考える姿勢(クリティカル/ラディカル)の徹底ぶりが顕著な方だと感じました。
夢真と日本技術開発
夢真と日本技術開発のTOB合戦、ライブドアVSフジテレビほど盛り上がってはいま