企業再生ではよくDES(債務の株式化、デット・エクイティ・スワップ [Debt Equity Swap])が使われます。
中堅・中小企業がDESを使った再生を行うケースも増えているんじゃないかと思いますが、そんな中で、昨日スキームを検討していて思いついた話。(まだ未検証の部分を含みますことをご了承ください。)
問題はDESを行うと、ドーンと資本金が増えて、多額の登録免許税がかかってしまう点。例えば、5億円DESをすると、新株の発行ですので2分の1しか繰り入れないとしても資本金が2.5億円増加。登録免許税(増加した資本の金額の1,000分の7 =0.7%)だけで175万円。20億円のDESだと1,400万円、200億円だと1.4億円にもなります。。(上図の(2))
さらに、中堅・中小企業の場合、資本金が1億円を超すと外形標準課税の対象にもなってくることもあり、増資した後にわざわざ減資することも。登録免許税分だけ全く意味のないコストになってしまうわけです。(上図の(3))
「DES額の35ベーシス分くらいほっとけ」、という見方もできるかも知れませんが、DESをするような企業というのは、1円でも経費節約しなきゃいけないモードになっていることが多いわけで、100万円とか1000万円でも、おろそかにはできないかと。
案その1:新設法人に債権を現物出資
そこで、合併を使う手段を一つ思いついたわけです。
まず、新設法人を設立して、そこにDESしたい債権を現物出資します。(上図(2))
現物出資の対価は、要項を適当に定めた優先株等の種類株式を想定します。
DESの実務では、ご案内の通り通常、債務の額面の額をもって出資額とします。(券面額説) 出資される企業側からすれば、5億円債務があったのが資本に振り替わるわけですから、いずれにせよ資本の部が5億円増加するという意味では5億円の価値があると言って間違いないわけですが。
一方で、債権者の側から見ると、DESが必要なような企業に対する債権の価値が、額面分もあるわけはない。回収可能性や将来返済される可能性のあるキャッシュフローの現在価値として考えれば、額面よりはるかに小さい金額でしか評価できないのが通常です。
ということは、上記の新設法人に現物出資する際の額は、(資本充実の原則で)、額面よりはるかに小さい金額で出資せざるを得ません。
まったく同じ債権の現物出資なのに、債務を直接負っている会社でDESするのと、他の企業に現物出資するのとで、まったく額が異なるというところが面白いかと。
また、この違いのせいで、合併で債権債務が「混同」すると、消滅して「益」が出ます。(この部分は資本剰余金である「合併差益」ではなく、利益剰余金ですよね?・・・ということで、繰越欠損金と相殺されます。)
ちなみに、合併時に増加する資本金をゼロとすれば、被合併会社である新設法人の純資産だけ合併差益(資本準備金)にすればよくて、資本増加に対する登録免許税はかかりません。
冒頭の例より、債権額面の35ベーシスだけコストが抑えられるわけですが、一方で、法人の新設の登録免許税や定款認証費用など40万円前後がかかったり、合併の登記費用などがかかるので、2億円程度のDESの場合には、あまり合併を使ってコストの節約ということにはならないかも知れませんが、それ以上の規模だと、メリットは大きくなってくると思います。
また、DESをやるような会社は、債権者の債務切り捨てなど「痛み」を伴うので、説得や調整がただですら大変なので、こうした「ややこしい」話を殺気立った中でうまく説明できるかどうかもよく考える必要があるかと思います。
ただ、DESをするような会社は、100万円でも節約しなければいけない状況になっているはずなので、他の与件が同じなら一番コストが安くなるスキームを採用すべきという話は説得力を持つかも知れませんね。
また、会社法施行後は、DESの際の現物出資の額の証明は(帳簿価格以下であれば)不要になるので、別会社に現物出資をして必要になる証明のための報酬のコストも考慮する必要があります。
(追記[メモ]10/10 16:39:利益出すだけなら、現物出資の額を小さくすればいいだけかも知れないですね。差額は受贈益?資本金の増加額はゼロにはできませんが。)
案その2:利益は出したくないケース
前項のスキームでは、債権の額面と出資額の差額が「利益剰余金」になるケースでしたが、再生計画によっては、利益を出したくないケースもあるかと思います。(追記[メモ]:10/10 16:39、古い繰越欠損金が使い切れずに税務上expireする場合はともかく、通常は利益が順調に立ち上がる計画なら、資本剰余金にしたほうが得なはず。)
つまり、債務超過はいやなので自己資本は増額させたいが、資本金が増えると登録免許税などのコストがかかるし、利益剰余金が増えると税務の問題が出てくるという場合には、資本剰余金を増加させるということになります。
以前、「インボイスの転換社債と自己株式(第2回)」でも触れましたが、実質的には同じ増資でも、「新株を発行する」のと「自己株式を処分する」のでは、会計処理が異なってきます。
新株発行の場合には、半分までしか資本準備金に繰り入れられませんでしたが、自己株式を処分して資金調達する場合には、自己株式の簿価と処分額の差額は「自己株式処分差益」として、「その他資本剰余金」になりましたよね。資本準備金と違って、取り崩すのに債権者保護手続も必要でなく、配当可能利益にも算入できるという、非常に使いやすくて、しかも税額に影響を与えない自己資本の増強策になります。
適当な自己株式があればいいのですが、実際、DESを行うような企業は配当可能利益が無いことがほとんどで、「買い受け」によって自己株式を準備しておく、というのは難しいはず。
以前から持っている自己株式がある場合もあるでしょうけど、DESに応じる債権者のニーズに合った種類株式として設計する必要があるはずで、普通株式を持っていてもダメです。
そこで、また合併を使ったらどうか、というアイデアですが。
(注:会計上、自己株式[薄紫]の表示は資本の部のマイナスだが、便宜上、資産側に記載してます。)
上記の通り、前項と同様、新設法人を設立します。設立時、または設立してすぐに第三者割当増資により、DESに用いる優先株を発行します。
この後に合併契約書を締結するわけですが、ここで優先株主は合併に反対し、買取請求権を行使するというところがアイデアですが。これで、配当可能利益がない会社でも自己株式がもてます。
合併契約書には、この新設法人が保有する自己株式(優先株式)にも、存続会社の同様の内容の優先株式を割り当てる、と書いておきます。これで、合併により優先株式の自己株式が生まれることになるんじゃないかと思ったんですが。
被合併会社がその会社の株式を保有していた場合に、それに合併新株を割り当てていいかどうかという点については、企業会計基準適用指針5号「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準適用指針(その2)」42にも、「被合併会社の保有する当該会社の自己株式に合併新株を割り当てることについての可否についても、商法上明文の規定はないが、一般に可能であると解されているようである。」という記述があり、可能という解釈のようですが、
はたして、被合併会社が保有している被合併会社の自己株式に対して、合併新株を割り当てていいのかどうか。前記の割り当てが許されるなら、割り当ててダメという理由もなさそうな気がしますが。
さらに、来年4月からの「会社法」だと、第749条(株式会社が存続する吸収合併契約)1項3号には、
前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
とありまして、カッコの中は、どうも合併による自己株式の発生を認めないための規定にも見えます。いずれにせよ、来年4月以降は使えなくなるかも。ここまで読んでいただいておいてなんではありますが、譲渡制限の決議をして買取請求権を発生させるなどして自己株式を発生させる方法の方がいいかも知れないですね。
いずれにせよ、簿価と時価の差額等を「資本剰余金とする方法」と「利益剰余金とする方法」の両方を持っていれば、再生計画において、法人税を考慮しても、柔軟なキャッシュフローの設計ができるかと思います。
会社法以降のDES等については、また今度。とりあえず本日はこんなところで。
(ではまた。)
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MUFJ
こんばんは。
いま、今日の勉強を終えて帰るところです。
なので短く。
磯崎さんのブログ でDESの登録免許税に関する考察を読んでみたり、
今日の会社法の授業でUFJと東京三菱銀行の合併(三井住友から横取りした件)に触れたり、
私のなかで会社法関係がギ..
「資本充実原則」の呪縛〜
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