前回のエントリでは、ライブドアの純資産価値的または清算価値的な観点からの価値を考えてみましたが、ライブドアの大きな特性の一つとして、「株式の一単元が非常に小さく、1株百数十円から売買できる」ということがあるかと思います。
もちろん、1株だけだと証券会社に支払う手数料の方が高くなっちゃうでしょうし、99年の証券自由化前の対面の証券会社だったら(もしかしたら今でも)迷惑がられて非常にイヤーな顔をされたかも知れませんが、オンライン証券会社で気兼ねなく百円だけの買い物ができるようになったのも、ここ5年で日本の証券市場が大きく変わったところではないかと思います。
さて、ライブドアのような知名度が高い会社が事件に巻き込まれているときに1単元が小さいと、前回書いたような会社全体のファンダメンタルな観点から見た「マクロなストラクチャー」と違って、「マイクロストラクチャー」的な効果がいろいろ強く出てきます。ニュートン力学では、ボールがまっすぐ転がるのが当たり前と思っていたものが、ミクロな世界に入ると量子力学的に位置や速度がボヤけた世界になるのと同じでしょうか。(ちゃうちゃう。)
「需給」という観点から理解すると、「100円でなら記念に買ってみたい」というような人が買い注文を出すことで、(売買高はともかく)値は付く可能性が非常に高まります。
「オプションバリュー」という観点からも、(上場廃止寸前のボロ株などによく見られる現象ですが)、「価格変動をする可能性(ボラティリティ、σ)」によるバリューが、会社の純資産といった「イントリンジックな([intrinsic]、本源的な、実体のある)」価値より高まってくるわけですね。
100円近辺で1日に10円も株価が動けば、すごいボラティリティで儲けのチャンスもあるわけですので、これにオプションバリューを認めるというのも、非常に経済合理的な話ではあります。
前回のエントリではどちらかというと悲観的な観点から純資産または清算価値[上図の青い線]の観点から考えてみましたが、粉飾決算の疑いがあるということは、需給による価格の不確実性のみならず、開示された純資産の(イントリンジックな)額についても不確実性が発生するわけで、(市場として全く望ましい姿ではないですが)、経済学的にはオプションバリュー計算式的な観点からの「実態」が出てしまうことになります。(上図の紫色の線でバリューが示されるイメージ。)
「株主総会出席権(券)」として
ライブドアの株主は、今、約20万人いるそうですが、「記念に一株くらい残しておこうか」とか、「株主総会で役員を糾弾してやる」とか、「応援したい」とか、「ホリエモンが挨拶に来るかも」とか、今まで株主でなかった人が「紛糾する株主総会を見てみたい」ということで、1株くらい買っておこうか、というニーズは結構ありそうです。
株主が、あと10万人増えて30万人になって、うち3万人株主総会に来るとすると、もうホテルの宴会場とかで入るところは無いはずなので、東京ドームくらいでしか株主総会が開催できなくなると思いますが。(笑)
ライブドアさん、昨年の中頃までは、登記上の本店が新宿区歌舞伎町になってたんですが、今見たら六本木ヒルズに移ってました。
現行商法ですと、招集地に関する規定が、
第二百三十三条 総会ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外本店ノ所在地又ハ之ニ隣接スル地ニ之ヲ招集スルコトヲ要ス
となってまして、(定款に定めてない限り)、港区本店だと文京区の東京ドームは使えないはず。新宿区なら文京区はお隣だったんですが・・・。(追記:ライブドアは、定款で全国どこでも株主総会を開催できるようにしたようです。コメント欄参照。)
4月からの会社法では、招集地に関する規定が削除されてますので、新社長の取締役選任などのために臨時株主総会を開催するのは4月以降と大胆な予測をしてみたりして。
(または、ホテルの宴会場等で、会場に入りきれない株主が、会場周辺で怒号を飛ばす、という姿か。)
いずれにしても、信託銀行の証券代行部さん等の想像を超えた前代未聞の株主総会になる可能性は、かなり高いかと思います。
もし、東京ドームとか同様のクラスで「歴史的なイベント」が行われるとしたら、その入場券が113円(本日終値)というのは、めちゃくちゃ安いですね。
マスコミの方々なども、各部・各番組などで1株づつ買うんじゃないでしょうか?
(ではまた。)
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いつも楽しみに拝見させてもらってます。
去年の株主総会も会場に入りきれなくて,別会場からテレビモニターを通じて質問なんて感じでしたね。
今年はネットでも質問を受け付けてほしいものです。
ライブドアの定款には
(株主総会開催地)
第11条 当会社の株主総会は、東京都及び全国都道府県の県庁所在地のいずれかをその開催地とする。
おいおいすごいね。いっそ沖縄県那覇市なんて選択肢は?交通費もバカに出来ません。
ふと見つけましたが
(役付取締役)
第20 条 取締役会の決議を以て、取締役の中から、社長1 名を選任し、必要に応じて、副社長、専務取締役、常務取締役各若干名を選任することができる。
新社長を取締役以外から選任しましたがええんじゃろか?
(代表取締役)
第21 条 社長は、当会社を代表し、会社の業務を統轄する。
2 取締役会の決議を以て、前条の役付取締役の中から会社を代表する取締役を定めることができる。
「前条の役付取締役」になっていないk氏に代表権与えちゃいましたね。
定款で全国どこでも開けるようにしてるんですね。ご教示、ありがとうございます。
取締役じゃない人が社長になるのは、商法上は別に構わないですが、定款で「取締役の中から」と書いてある場合に問題になるかどうか・・・・。当然、こんな時期なので、弁護士さんには相談しながらやってるんでしょうけど。
「K氏には、”対外呼称”として社長を用いさせることとする。」てな決議でどうでしょうか?
会社法 期末試験はこれだ!
こんばんは。
磯崎さんの isologue に面白いコメント がありました。
無断ながら、引用させていただきつつ、
会社法の期末試験案とさせていただきます。
株式会社ライブドア 2006年1月24日付け発表「代表取締役および役員の異動ならびに今後の新体制に関ぎ..
そういや下方硬直(性)とか昔から言いましたねぇ。
バブル崩壊後でも200〜300円、業績ぼろぼろでも100数十円以下にならなくて
底の時期に仕入れとけば数倍にもなって儲かったモンでしたが、
財務諸表不信の時代になって、ばんばか下がって100円、50円切りまくって、
挙句の果てに倒産するとこが結構出て、かなり損出たなあ。
それ以来100円とか旧額面50円以下になんないとかの伝説は信じなくなりました。
そんな経験からも、もうすぐ10年になりますね・・・
月日が経つのは早い。
「取締役じゃない人が社長になるのは、商法上は別に構わない」とは、どういうことなんでしょうか?
ライブドア新経営陣もアヤシイ!?フジテレビとして考えるべきこと
●ライブドア新経営陣にご用心!
フジテレビがもし、ライブドアへの再建を考えるのであれば、今の新経営陣の顔ぶれにも注意が必要だと思う。(必ずしも本当にアヤシイとは限らないが注意した方がいいという意味。)
平松新社長には、代表権がない。なぜなら、「社長…
平松社長は、法律上、代表権がないけど、肩書きとして「社長」の名前をもらったということなんですね。これで本当に、ホリエモン色を払拭した経営陣なんでしょうかねえ。。。。
ライブドア新社長平松氏は表見代表取締役か?
ライブドアは、新社長に取締役ではない平松氏を据え、代表取締役に熊谷氏を据えました。
ヒラ取締役が社長を名乗るのは聞いたことがありますが、取締役でなく、かつ(子会社の代表者ではあるが)社員でもなかった人が社長を名乗るケースは日本初ではないでしょうか。
さ…
はじめまして。専門的なことはさっぱりわかりませんが、いつも楽しく(というのはBlogの趣旨に合わないでしょうか)読ませていただいております。
ponpipi様が上のコメントで書かれていた
(株主総会開催地)
第11条 当会社の株主総会は、東京都及び全国都道府県の県庁所在地のいずれかをその開催地とする。
ということであれば、推薦したい場所があります。
幕張メッセ駐車場です。たまにロックバンドが駐車場でライブを開くと「20万人動員」とニュースになります。主催者発表が出処なので、粉飾されているでしょうが、ライブドアのお化粧よりは実数に近いでしょう。
所在地も千葉市ですから、県庁所在地の条件を満たしています。
いろんな意味で日本をゆるがせた会社が開く、(たぶん日本初の)野外スタンディング株主総会。いかがでしょう?
なるほど、めちゃくちゃおもしろい視点ですね!
私も一株買おうかな?
…こうして磯崎さんは、ライブドアの株価維持に貢献したのであった。w
>しつもんさん
「社長」は商法上の法的な役職名ではなく、慣習上用いられている肩書きに過ぎないため、取締役でない者を「社長」としても商法上の問題は生じないということです。他方で、代表取締役というのは、商法上の法的な役職名であり、取締役の中から選任しなければならないものとされておりますので、仮に取締役でない者を代表取締役とすることは商法上認められないこととなります。
>ぶらさん
ライブドアとしては、ホリエモン色を払拭するために平松さんを代表取締役としたかったけれど、平松さんが取締役ですらなかったために、代表取締役とすることができなかったというところではないでしょうか?平松さんを取締役にするには、わざわざ臨時株主総会を開催しなければならないことになりますし。
マスコミにとっては裁判の傍聴券を手に入れるのにバイトを手配するコストを考えれば、113円というのは、メチャメチャお買い得ですね(不謹慎?すいません)。
>ライブドアさん、昨年の中頃までは、登記上の本店が新宿区歌舞伎町になってたんですが、今見たら六本木ヒルズに移ってました
私も5%ルールとか開示資料を見ていて、「なんで歌舞伎町なんだろう?」と違和感がありました。もしかしたらそのエリアで成り立つご商売でもやっていらっしゃるのかと・・・。そういえば八重洲を散歩していたら、「ライブドアチケット」という店があり、びっくりしたことがあります。ビジネスモデルは、あの大●屋さんとご同業で、八重洲界隈では珍しくはないのですが、先生もご存知のようにあのテの業種は特定の方々との関係が問題になって、パチンコホールと同様にIPOではタブーとされております。ですから、「上場企業が(関係会社であっても)こんなんやってていいんかいな?」と、思った次第です。
歌舞伎町二丁目って、なんでもないところです。念のため。
もんもんとしているのは一丁目。
その定款規定が本当なら取締役会決議は定款違反ということになりますが・・・
もしこのことによって会社に損害が生じた場合取締役の損害賠償責任の問題となると思われますが、実際これのみをもって「損害」というのはなかなか考えにくいですな。
ただ、コンプライアンスを重視するといってるはなから定款違反ではまったくコンプライアンスの基本すらできてないということで・・・なんともかんとも。
あと、監査役の任務懈怠でもありますけど。
それと、こういう取締役会決議に瑕疵がある場合の平松氏の行為の効果は?とか考えるとこの問題は司法試験や会計士試験にぴったりな材料を提供してくれてるように思えますw
機関設計:ライブドアに見る“執行役員社長”とは?
おかげさまで体調は快方に向かっております。早めの投薬が功を奏したようです。
さて、今日は予告どおり「執行役員」について。ライブドアに「執行役員社長」という一見不思議とも感じられる役職が誕生しましたが、これについて見て生きたいと思います。
そもそも執行役…
ええと、リアルオプション研究者として、議論の本筋にあまり関係ない瑣末事とひとくさり。
>粉飾決算の疑いがあるということは、需給による価格の不確実性のみならず、開示された純資産の(イントリンジックな)額についても不確実性が発生するわけで
不確実性の源泉を粉飾決算に求めるのであれば、変動は下方にしかいかないと思いますので、描かれたグラフのような時間価値は生じないのではないかと思います。ああいうグラフは、上下双方に変動する可能性のある場合のものです。(ちなみに、原資産の価値がゼロのときにはオプションの価値もゼロになるので、グラフ左端のY切片はゼロになるはずです)
一般に、企業の将来キャッシュフローには不確実性がつきものなので、別に粉飾決算の可能性を指摘しなくとも、オプションバリューを主張することに支障はないのではないでしょうか。決算の問題を切り離しても、そもそもライブドアという会社はかなり将来の流動的な会社ですし。
失礼いたしました。
ご教示ありがとうございます。
>不確実性の源泉を粉飾決算に求めるのであれば、変動は下方にしかいかないと思いますので
粉飾決算に限れば、確かにそうですね。おっしゃるように、粉飾決算の可能性を指摘しなくてもオプションバリューはあると主張できるかと思いますが、その他モロモロの要因を含めて、ということであります。
新聞(タブロイド紙)を読んでいて、ライブドアの株価が純資産価値に比べて割安だとか、どーこー書かれていたことに違和感を感じていたのですが、そのモヤモヤした気持ちがわかりやすい分析のおかげでですっきりしました。
で、ふと思ったのですが、ホリエモンが所有している大量のライブドア株を今後、会社に追わせた損害を賠償させるためにライブドアが徴収することってできないのですかね?
ダイエーの中内さんは、最後は個人の財産もほとんどすべて、ダイエーの債務返済のために徴収されていましたし、そういうこともできないことはない気がするのですが。
ホリエモンの持つ株をライブドアが全部取り上げて自己償却してしまえば、純資産価値もずいぶん上がる気もしますし、大きな含み損を抱えつつもライブドア株を保有し続けている投資家たちもかなり救われる気がするのですが…
以上、素人考えで書いてしまってすみません。
さようなら、ホリエモン。
旬でない話題が好きなこのブログですが、、、いくつか読み比べて
みたものがありますので、防備録として残します。
強制捜査直後にyutakamiさんの書かれた記事。
堀江貴文ダイヤリーにアップされている逮捕直前の記事。
逮捕後にrose-kさんの書かれた記事。
スパイ…
量子物理学的経済事象
isologueさんのエントリーで面白いのを発見。
「ライブドアのような知名度が高い会社が事件に巻き込まれているときに1単元が小さいと、前回書いたような会社全体のファンダメンタルな観点から見た「マクロなストラクチャー」と違って、「マイクロストラクチャー」…