ライブドアの価値(「弥生」編 第2回)

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本日は、弥生のたどってきた資本政策的歴史について、開示資料からおさらいしてみたいと思います。
「(11)最近事業年度における業績の動向」を見ると、

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株式会社エイ・ピー・ワンは、2003 年2 月に米国Intuit Inc.社からインテュイット株式会社の全株式を譲り受けており、同年4 月1 日には社名をインテュイット株式会社から弥生株式会社(旧弥生株式会社)に変更した同社を吸収合併し、商号を弥生株式会社(新弥生株式会社)に変更しております。
以上のような企業結合の経緯から第53 期については存続会社である株式会社エイ・ピー・ワン(第52 期中に社名を株式会社コエイから変更)の同期における営業成績、及び財産の状況を表示しておりますが、第54 期における合併により事業内容に大幅な変更が生じたため、営業成績及び財産の状況に大幅な変動が生じております。

と書いてあります。
ホームページを見ると、実態としての弥生は1978年設立の日本オールシステムズ株式会社(日本マイコンの旧社名)、1980年設立の株式会社システムハウスミルキーウェイ、という会社に源流をさかのぼれるようですが、これが米Intuitの参加によって1997年に「インテュイット株式会社」になるわけです。
で、上記の通り「株式会社コエイ」という会社が株式会社エイ・ピー・ワンと社名変更をして、2003 年にインテュイット株式会社の全株式を譲り受け、合併してます。
図で示すと、以下の通りですが、
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まず、アドバンテッジパートナーズさん他が、株式会社コエイという、すでに50期以上の歴史のある休眠会社を買ってきたのでしょう。(先に掲げたとおり、株式会社コエイの第53期の決算は、売上高ゼロ、当期利益が19万円くらいのマイナスですので、おそらく休眠会社かと。)
なぜ、こんな会社を使うか、ですが、
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おそらく、インテュイット株式会社の株式を取得するときに、商法上の「事後設立」に該当しないように、設立後2年以上経った会社である必要があるから、ということかと思います。
(推測ですが)この、コエイから社名変更した株式会社エイ・ピー・ワンは、インテュイット株式会社を取得するための資金をレンダーから借り入れ、
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親子会社が合併することで、このローンは、買収した(旧)弥生株式会社に承継される、ということになります。
で、平成16年になって、ライブドアが弥生の買い手として現れるわけですが、まず、ライブドアは11月15日に優先株式により増資します。
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なぜ、これから株式を取得しようというときに、増資したんでしょうか?また、なぜ、普通株式じゃなくて優先株式だったんでしょうか?
増資をしたのは、ライブドアがアドバンテッジパートナーズ等の株式を約半分買い取るための資金を、「弥生自身を担保に」借り入れようということなので(下記プレスリリース参照)、もし、以前株式会社エイ・ピー・ワンがインテュイット株式会社の株式を取得するための借入金も残っていたとすると、自己資本比率が下がりすぎで貸せない、ということになるので、だからかと思います。

4. 株式等取得の対価
当社は本件株式等譲渡の対価として、弥生株主に対して金10,000,000,000 円を支払います。本件株式等譲渡対価支払原資の大部分は、弥生の将来収益を主な担保及び返済原資とする借入金にて調達する予定でございます。

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上図のように、ライブドアは弥生を買うための借金を弥生に背負わせる、ということをしたと思われるわけですが、その借金は、今までの総資産額以上の額になるので、いくら弥生のキャッシュフローがストロングでも、すごい重荷としてのしかかってきますし、自己資本比率が半分以下になるわけですから、レンダーとしても怖くてそのままでは貸せない。で、増資してくれ、ということになったかと思います。
(後述の通り、借り入れはライブドア本体で行った可能性もありますが、いずれにせよ経済的実態としては、上図のとおり考えられます。)
ここまではいいとして、優先株式にしたのは、なんででしょうか。
(1) 単純に普通株式で増資すると、既存の普通株式の1株当たり純資産額が倍以上になり株価算定に影響するから、(例えば、優先株の定義で残余財産分配に優先権があれば、普通株式の1株当たり純資産額には影響を与えません。)というのも考えたのですが、あまり重要な話じゃない気もします。
(確かに一瞬1株当たり純資産は増えますので、その後の株式交換の比率に影響すると言えばしますが、すぐライブドアに取得されちゃうわけですし。優先株式にしておいたほうが、そのへん明確になるのは確かかと思います。ディールの額も大きいので、念のため、ということも考えられます。)
(2) むしろ、「この借金を返すあて」があるとしたら、弥生の資本が過大になるので、その場合は、消却できるような規定にしていた、ということでしょうか?
それも、100%子会社なんですから、単純に減資すればいいだけの話のような気もします。
(3) 一連のディールが、まずこの増資から始まるので、何らかの理由で全ディールが予定通りクローズしなかった時のために、何か権利を行使できるような条件を優先株式に付けておいた、ということでしょうか?
(ちょうど、イーバン○と和解したのと同時期でもあり、いろいろ懲りていたりして。)
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いずれにせよ、上図のように弥生が借り入れた(と思われる)資金をライブドアに回して、その金でアドバンテッジパートナーズさん等から株式の約半分を買い取り、
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次に株式交換で、残ったアドバンテッジパートナーズさん等の株をライブドア株と交換して、ライブドアが全株式を取得したわけです。
Yoshiさんから、昨日のエントリにコメントいただきました。

LDの会社案内の関連会社情報ではやはり現在は1000万円です。
http://corp.livedoor.com/company/group.html
元々20億円で30億円増資し、現在1000万円の資本金?
ますます混乱してきました。会計は素人で申し訳ございません。。。

(会計のクロウトでも混乱すると思います。)おそらく、未公開企業なので、そのへんテキトーで、昔の1000万円の資本金の時から修正を入れずにそのままになっている、か、100%子会社なら数十億円もの資本も不要なので、減資したか?(前者のような気がします。)
第10期第1四半期(平成16年12月31日現在)のライブドア単体のB/Sには、前述の100億円の借入金を含むと思われる長期借入金が載っています。財務諸表規則では、関係会社長期借入金については区分して掲記しなければいけないことになってるにも関わらず、単なる「長期借入金」となってるんですけど、これはライブドア本体でファイナンスし直した、ということなんでしょうか?
それとも、もともとライブドアで借り入れて、その担保が子会社である弥生の将来収益等を担保にしてたんでしょうか?優先株で増資したのは、弥生自体の倒産確率を減らすためにレンダーからついた条件、ということでしょうか?(ライブドアの場合、今や、「ホントは関連会社借入金なんだけど、そのへんあまり誰も深くチェックしてなかった」という可能性もあるので、ややこしいです。)
この弥生を買うための100億円もの借金は、ニッポン放送株買収の際の800億円のMSCB発行をうながす圧力の一つになったんでしょうか?借金をゼロにするためにエクイティファイナンスをするというのも、バランスが悪い気がしますが。ROEとかより、見かけの利益を少しでもよく見せたいというインセンティブはあったかも知れません。
結果として、MSCBでゲットした800億円+フジテレビからぶんどったとの提携で得た450億円がキャッシュとしてライブドア本体に入りましたので、当然、平成17年12月末では借金はきれいになくなっています。
(つづく。)

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1 thoughts on “ライブドアの価値(「弥生」編 第2回)

  1. ご解説頂きどうもありがとうございました。弥生本体を担保に、で確かに自己資本増強の
    目的というのはおっしゃるとおりですね。自分でもう少し調べるべきでした。
    申し訳ございません。
    優先株の件はいきなり元々の資本金(20億)よりも額の大きい普通株を発行すると、議決権の観点から
    その後のディールで何らかの問題が発生した場合、ややこしくなるので弥生側が保険として優先株を望んだ
    のか、と単純に思っておりました。トンチンカンでしたらすみません。。。