Googleのガバナンス構造の整理

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(しかし、このGoogleの開示資料[S-1]というのは、回鍋肉(ホイコーロー)というか四川風本格麻婆豆腐というか、一皿でごはん4杯5杯は軽く行けてしまうくらい味が濃いですなあ。)
Webでもあちこちで引用していただいているようで、ありがとうございます。
ただ、いろんなblogを拝見している中で、「梅田さんが”民主制”を主張しているのに対して、磯崎は”現経営陣による長期独裁制賛成論者”だ。」と理解されている方もいらっしゃるようなんですが(苦笑)、全く違います。
創業者等の議決権比率が高い今のGoogleの構造でも、ちゃんとガバナンスは働くし、他の会社と同様、経営陣がヘボい時は退陣せざるを得ませんよ、議決権とガバナンスは違います、ということを申し上げているのです。
ということで、今まで申し上げたことと重複する部分もありますが、Googleのガバナンス構造について、再度整理しておきたいと思います。
辞任は議決権割合とは関係ない
そもそも日本でも米国でも、株主総会等での解任という「最終兵器」まで使わないと経営者が引退しないというケースはまれです。
例えばGoogleが時価総額4兆円くらいのときに400億円投資した年金などの機関投資家がいたとして、業績悪化して時価総額が1兆円まで下がり、持株の価値が100億円になっちゃったとします。この場合、年金は、「私らは1%しか株を保有しておりませんので、言いたいこともいろいろありますが、何も申し上げません。」なんてつつましいことは絶対言わないです。だって、300億円も損させられてるわけですから。
現経営陣が退陣した方が業績が上がるのであれば、訴訟という手段も含めて、株主はガンガン要求を突きつけてくるはずです。
また、例えば(例にあげて恐縮ですが)西武鉄道というのは、有価証券報告書の大株主の状況を見ると平成15年3月31日現在、株式会社コクド45.35%、西武建設株式会社7.07%、株式会社プリンスホテル0.98%で、少なくとも53.4%の議決権は堤義明会長の思い通りになると考えられます。
が、だからといって、堤会長は辞任しないという選択肢があったでしょうか?
現代の株式市場では、過半数の議決権よりも株価や社会的責任などの力の方が強いガバナンス力になっていると言っていいのではないかと思います。
リスク開示と唯我独尊は違う
S-1の「OWNER’S MANUAL」(ivページ)に書いてある「As an investor, you are placing a potentially risky long term bet on the team, especially Sergey and me.」という記述は、「オレたちはどんなことがあっても株主権を行使して経営者の椅子にしがみつくぜ」、ということを言っているのではないと思います。おそらく、通常の資本構造と異なるので、一般投資家に注意喚起するために、こうした記述を加えたほうがいいとの弁護士や幹事証券などからのアドバイスもあり、「リスク開示」的な観点(+もちろん「俺たちはGoogleが好きだし、やる気もマンマンでっせ」という観点)から書かれているものであって、「唯我独尊」とは違うのではないかと思います。
例えば、ファーストフードのカップスープに、「熱いのでヤケドをすることがあります。お気をつけください。」と書いてあったからといって、「おまえらは、客にヤケドさせようと思ってスープ売っとんのかー!」とか、「絶対ヤケドしないスープを出さんかい!」と怒るのもヘンですよね。
それは、一般消費者にリスクを開示しているだけだからです。
もちろん、創業者二人はもうすぐ数千億円の大金持ちになるわけですから、心の中で「うっひょひょ〜」という浮かれた気持ちが全く無いだろうとは申しません。
が、それと、将来何をやっても辞任しなくていい構造になっているかどうかは、まったく話が異なります。
辞めるインセンティブもでかい
前述のとおり、Googleの創業者が何かヘマなことをやった場合には、必ず、株価にも悪影響を及ぼしてきます。
彼らが経営を続けた場合、彼らの保有するGoogle株式の価値は1000億円にまで下落するが、経営者を交代したら3000億円の価値になるのであれば、彼らも経営を別の人にバトンタッチした方が全然得なわけです。
組織構造
S-1には組織図は記載されていませんが、中の記述を拾っていくと、Googleの組織構造は下図のようになっているものと考えられます。
image002.gif
委員会
Googleは、取締役会の付属機関として「audit committee」「leadership development and compensation committee」「corporate governance and nominating committee」「executive committee」の4つの委員会を設けていますが、GoogleのS-1を見ても、誰が委員会のメンバーなのかの記述がちょっと見あたりません。
日本の商法特例法では、委員会等設置会社の各委員会は過半数を社外取締役で構成することが要求されてます(商特第21条の8第4項)が、GoogleのS-1でも、役職員の報酬体系を提言する「compensation committee」については、officerや従業員が委員になれない旨が定められており(73ページ)、また、89ページの「Compliance with Exchange Governance Rules」では、Nasdaq や NYSEの同族会社的「controlled company」の例外規定を使って必ずしも「independent director」が委員会をrepresentationしなくてもいい旨を定め、変わって内規によって、取締役会およびexecutive committeeを除く3委員会のメンバーの過半数は、Googleの従業員等でない者としなければならない旨を定める予定であることがうたわれています。(なぜ、Nasdaq や NYSEの原則規定を使わないのかについては、恐らく、買収対抗スキームとして、そのほうがフレキシビリティがあるから、という意図ではないかと思いますが、よくわかりません。)
また、同ページで、定款では原則としてCEOとChairmanは兼務できないが、取締役会の2/3の承認があれば兼務できる旨が記載されています。(現在は、Eric Schmidt氏 が兼務しているようです。)
以上からすると、基本的にGoogleでは、フレキシビリティは残しつつも、社外取締役が過半数入って経営陣の独断で会社の舵取りはできない「民主的な」ガバナンス構造を採用しているように見えます。
将来、会社のパフォーマンスが悪くなり、年金等の株主から経営者の経営責任が問われることになった場合、指名委員会や取締役会が、「それでも創業者を経営陣に残した方がいい」という判断をするにはよっぽどの根拠を示す必要があるし、また、創業者を経営陣に残すことが株主の利益に反すると考えられるにも関わらず創業者を残す決定をした場合、株主からの訴訟も覚悟しないといけないと思われます。
今の社外取締役のメンバーは社会的地位も見識もある方々のように見受けられますので、そうした正当な社会的圧力が強くかかった場合には潔く辞任することを勧め、それでも応じない場合には、創業者たちをdirectorとして選任はしないのではないでしょうか。
共同的な意思決定
「RISK FACTORS」には、Googleは、「run the business and affairs of the company collectively」と、CEOと創業者2名が共同して経営の意思決定に当たることとされています。
「Decisions are often made by one of us, with the others being briefed later.」とありますので、この「collectively」というのは、日本の(あまり使われていない)共同代表制度のように、契約書にまで必ず3人連名で署名するようなイメージというよりも、基本的には3人合意の上で進めていこう、ということだと思います。
この、「すべて3人で相談しあって決める」という体制は、一般のアメリカ企業と比べても、「独裁的」というよりは、かなり「民主的」な印象を受けます。
内部統制
同じくリスクファクターに、「We will incur increased costs as a result of being a public company」ということで、公開にあたって、「Sarbanes-Oxley Act of 2002(企業改革法)」その他で要求される内部統制体制を構築するので、そのためのコストがいろいろかかる、ということが記述されています。
以上のように、Googleは、少なくとも日本やアメリカの一般的な企業よりも経営陣に対して厳しく監督が行われる(または「民主的」な)ガバナンス構造を有していると言えますし、経営陣の椅子も必ずしも「固定的」とはいえないと思います。
(以上)

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