本日の日経朝刊に記事が出ています。(追記あり。12:33)
買収防衛策、国税庁方針、新株交付なら株主非課税—ブルドックに適用も。
(日本経済新聞朝刊11面)
(以下、ざっと考えただけのコメントでありますし、ブルドックソースの株主のみなさん他の税務に関わるアドバイスを目的としたものでもありません。当然のことながら、会社の正式な発表をご覧いただくとともに、具体的な案件は、読者の方の顧問弁護士、税理士等にご相談ください。)
新株予約権を利用した買収防衛策を巡り国税庁は十一日までに、発行企業が買収者の持ち株比率を迅速に低下させるために、権利行使日前に予約権を取得して新株を交付する場合、交付を受けた株主には課税しない方針を固めた。
記事の書きっぷりからすると、これはブルドック側から交渉状況を聞いたものというよりは国税庁側から出た情報に基づくものでしょうか。
今回のは、議決権比率は変わるけど、株主間で実質的な経済的価値の移動が発生するスキームではないので、普通株をもらうだけの株主は、条文上も課税されなくて当然ではあると(個人的には)理解しておりましたが、問題はスティールパートナーズの方の課税関係ですね。
記事には、
国税庁の方針が適用されれば、スティールは譲渡益に対し課税されることになる。
とありますが、もしこの「譲渡益に対し」という書き方が、国税庁の方がおっしゃったとおりの正確なものだとすると、やはり、「みなし配当に対し」課税されるということではない(条文上はそうは読めない)、ということかと思います。
また、「課税されることになる」というのは、当然、「日本で課税されることになる」という意味だと思いますが、スティールパートナーズさんというのが、(よく存じませんが)外国籍のファンドから投資しているとしたら、どういう理由で課税されるんでしょうか。
以前も書きましたとおり、法人税法施行令187条や同旨の所得税法施行令291条では、日本に支店等(恒久的施設)がない外国法人や非居住者が日本で課税される場合について定めており、外国のファンドが日本で暴れまくって大儲けしたのに一銭も税金を支払わない、ということのないよう、かなり網をかける形で改正が行われています。
(恒久的施設を有しない外国法人の課税所得)
第百八十七条
法第百四十一条第四号 (外国法人に係る法人税の課税標準)に規定する政令で定める国内源泉所得は、次に掲げる所得とする。
一 (不動産系、略)
二 (山林系、略)
三 内国法人の発行する株式(株主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。)(略)の譲渡による所得で次に掲げるもの
イ 同一銘柄の内国法人の株式等の買集めをし、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はこれらの者若しくはその依頼する者のあつせんにより譲渡をすることによる所得
ロ 内国法人の特殊関係株主等である外国法人が行うその内国法人の株式等の譲渡による所得
四 不動産関連法人の株式(略)の譲渡による所得
五 第百七十七条第二項第六号又は第十三号(国内にある資産の譲渡による所得)に掲げる株式若しくは出資又は権利の譲渡による所得
六 第百七十八条(国内に源泉がある所得)に規定する所得
2 前項第三号イに規定する株式等の買集めとは、証券取引所(証券取引法第二条第十六項 (定義)に規定する証券取引所をいう。第十項において同じ。)又は証券業協会がその会員(同法第二条第十九項 に規定する取引参加者を含む。)に対し特定の銘柄の株式につき価格の変動その他売買状況等に異常な動きをもたらす基因となると認められる相当数の株式の買集めがあり、又はその疑いがあるものとしてその売買内容等につき報告又は資料の提出を求めた場合における買集めその他これに類する買集めをいう。
3 第一項第三号イに規定する特殊関係者とは、同号イの内国法人の役員又は主要な株主等(同号イに規定する株式等の買集めをした者から当該株式等を取得することによりその内国法人の主要な株主等となることとなる者を含む。)、これらの者の親族、これらの者の支配する法人、その内国法人の主要な取引先その他その内国法人とこれらに準ずる特殊の関係のある者をいう。
4 第一項第三号ロに規定する特殊関係株主等とは、次に掲げる者をいう。
一 第一項第三号ロの内国法人の一の株主等
二 (同族関係者、略)
三 当該一の株主等が締結している組合契約(次に掲げるものを含む。)に係る組合財産である第一項第三号ロの内国法人の株式等につき、その株主等に該当することとなる者(前二号に掲げる者を除く。)
イ 当該一の株主等が締結している組合契約による組合(これに類するものを含む。以下この項において同じ。)が締結している組合契約
ロ イ又はハに掲げる組合契約による組合が締結している組合契約
ハ ロに掲げる組合契約による組合が締結している組合契約
5 前項、第十一項及び第十二項に規定する組合契約とは次の各号に掲げる契約をいい、これらの規定に規定する組合財産とは当該各号に掲げる契約の区分に応じ当該各号に定めるものをいう。
一〜三 (略)
四 外国における前三号に掲げる契約に類する契約(以下この号において「外国組合契約」という。) 当該外国組合契約に係る前三号に規定する組合財産に類する財産
6 第一項第三号ロに規定する株式等の譲渡は、次の各号に掲げる要件を満たす場合の同項第三号ロの外国法人の当該譲渡の日の属する事業年度(以下この項及び第十項において「譲渡事業年度」という。)における第二号に規定する株式又は出資の譲渡に限るものとする。
一 譲渡事業年度終了の日以前三年内のいずれかの時において、第一項第三号ロの内国法人の特殊関係株主等がその内国法人の発行済株式又は出資(次号及び次項において「発行済株式等」という。)の総数又は総額の百分の二十五以上に相当する数又は金額の株式又は出資(当該特殊関係株主等が第四項第三号に掲げる者である場合には、同号の組合財産であるものに限る。次号及び次項において同じ。)を所有していたこと。
二 譲渡事業年度において、第一項第三号ロの外国法人を含む同号ロの内国法人の特殊関係株主等が最初にその内国法人の株式又は出資の譲渡をする直前のその内国法人の発行済株式等の総数又は総額の百分の五(当該事業年度が一年に満たない場合には、百分の五に当該事業年度の月数を乗じたものを十二で除して計算した割合)以上に相当する数又は金額の株式又は出資の譲渡をしたこと。
7 次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、第一項第三号ロの外国法人を含む同号ロの内国法人の特殊関係株主等が前項第二号に掲げる要件を満たす同号に規定する株式又は出資の譲渡をしたものとして、同項の規定を適用する。
一 (分割型分割、略)
二 第一項第三号ロの外国法人がその有する株式又は出資を発行した同号ロの内国法人の法第二十四条第一項第三号 (配当等の額とみなす金額)に規定する資本の払戻し又は解散による残余財産の一部の分配(以下この号において「払戻し等」という。)として金銭その他の資産の交付を受けた場合(略)
8〜12(不動産関連、略)
13 第六項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする。
スティールは、1項3号ロの25%(6項1号)以上持っている株主には該当しませんので、該当するとしたら1項3号イ「同一銘柄の内国法人の株式等の買集めをし、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はこれらの者若しくはその依頼する者のあつせんにより譲渡をすることによる所得」のはず。
まず今回、スティールが行っている株の買い集めが、2項に規定する「証券取引所又は証券業協会がその会員に対し特定の銘柄の株式につき価格の変動その他売買状況等に異常な動きをもたらす基因となると認められる相当数の株式の買集めがあり、又はその疑いがあるものとしてその売買内容等につき報告又は資料の提出を求めた場合における買集めその他これに類する買集め」に該当するのか、(取引所や日証協が報告を求めたら、全部これに該当しちゃうのかどうか。また、実際に報告は求められたのか。)、というポイントがひとつ。
もうひとつは、「その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人に対し譲渡」というのに該当するかどうか、ということもありますね。
スティールのexitは、会社や役員、ホワイトナイト(3項かっこ書きに規定される、「株式等の買集めをした者から当該株式等を取得することによりその内国法人の主要な株主等となることとなる者を含む」に該当する可能性が高いのではないかと思います。)、に譲渡する絵を描いていると思うので、最終的にキャピタルゲインに対して日本で課税されることについてはもともと覚悟してるんでしょうけど、今回の場合は、売りたくも無いのに新株予約権をブルドックに取り上げられるわけで、それで「地位を利用して」と言われたら、ちょっとかわいそうな気もしますね。
(追記:12:33)
加えて、今回ブルドックから付与された新株予約権は、そもそも「株式等の買集めをし」の「買集め」に相当するんでしょうか?
スティールさんからは、「ブルドックが新株予約権を勝手に割当ててきたんであって、うちが好きで買集めたわけじゃない!」という反論がありそうな気もします。
一方で、例えばこういう買集めをしてきたファンドの持っている株が4分割されて、1株に対して3株が交付された場合で、その後、全株式を会社に譲渡した場合、「4分の1は確かにオレが買い集めたモンだけど、4分の3は勝手にくれたものだから日本では課税されないでしょ」、という理屈が通るかというと・・・・それはちょっと難しそうな気がしますね。
(ではまた。)
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