ブルドックソースの買収防衛策に学ぶ「授権枠」

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細部を見れば見るほど面白くて勉強になるブルドックさんの買収防衛策ですが、本日は「授権枠」について。
ブルドックソースは、今回、株式の四分割とほぼ同じ経済的実態を持つ株式の発行をしたわけですけど、株式分割と違うことの一つとして「授権枠」の変更があります。
株式分割の場合には、分割比率の範囲内なら株主総会の決議なしに定款の授権枠(「発行可能株式総数」)の部分を変更することが可能ですが(会社法184条2項)、株主割当てした新株予約権に関連して株式を発行した場合にも授権枠を倍率分増やしていいとは書いてないので、新株予約権型の買収防衛策の場合に発動後、「次の矢」が打てるように授権枠を拡大するためには、株主総会で決議する必要があるかと思います。


今回ブルドックさんが、この点をどうされたのか、ですが、以前のプレスリリースを見ると、買収防衛策の決議をしたのと同じ株主総会で発行可能株式総数を含む定款変更を行ってらっしゃいます。(P14。)

第2章 株式
現行定款
第6条 当会社の発行可能株式総数は、78,131千株とする。
変更案
第6条 当会社の発行可能株式総数は、200,000千株とする。

授権枠が発行済株式の4倍以上あってもよかったのか?
このリリースを見ていてまず疑問に思う方がいらっしゃったかも知れないのが、「なぜ授権枠が発行済株式の4倍以上あったんだろう?」という点かと思います。
買収防衛策発動前の発行済株式数は19,018,565株で、現在の授権枠78,131千株の4分の1(19,532,750株)より51万株ほど少なくなってます。
「発行可能株式総数×0.25」<発行済株式数<「発行可能株式総数」
という式が必ず成立するという理解をしていると、「?」と思ってしまうわけですが、同社の有価証券報告書をよく見ると、9年前に自己株式の消却をしていまして、

平成10年8月4日
△1,869,000株
(注) 利益による自己株消却による発行済株式総数の減少であります。

現在の授権枠78,131千株に1,869千株を足すと、ぴったり8千万株。
つまり、旧商法では、株式を消却するとその分授権枠が減るとされていたので、もともと8千万株だった授権枠から自己株式の消却分が減ったとみなされている状況が発生しており、過去10年間の定時株主総会のいずれかのときにでも、78,131千株に定款変更していたのではないかと思います。
(ご参考)
会社法であそぼ。授権資本制度
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50357979.html
発行可能株式総数(授権枠)と株式の消却の関係 大和総研制度調査部 堀内勇世氏
http://dmzweb.dir.co.jp/research/report/law-research/commercial/05093001commercial.pdf
発行済の4倍以上となる定款変更は可能だったのか?
ここでまた「ん?」と思うわけですが、定款変更する際に、
「発行可能株式総数」<「発行済株式数×4」
となるような定款変更をしちゃってよかったんでしょうか?
これはやっちゃってもよさそうですね。
会社法だと、

(発行可能株式総数)
第百十三条  株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができない。
2  定款を変更して発行可能株式総数を減少するときは、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数を下ることができない
3  定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合には、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
4  新株予約権(第二百三十六条第一項第四号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第二百八十二条の規定により取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式(株式会社が有する自己の株式をいう。以下同じ。)を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。

と、「増加する場合には4倍まで」(3項)という定めがありますが、2項では「減少する場合は、発行済(1倍)以下になっちゃだめよ」という決まりはあっても、「減少するついでに4倍以下にしろ」とは書いてないですね。
旧商法でも、

第三百四十七条 会社ガ発行スル株式ノ総数ハ発行済株式ノ総数ノ四倍ヲ超エテ之ヲ増加スルコトヲ得ズ(以下略)

と、拡大する場合の決めはありますが、縮小する場合のことは書いてありません。
なぜ、発行済の4倍にしなかったのか?
ブルドックさんの株主総会では2億株まで授権枠を増加させてますが、買収防衛策発動後の発行済株式総数69,774,401株(注)の4倍にするなら2.7億株くらいにしてもよさそうなのに、実際にはその2.87倍にしかしていません。なんででしょうか?
(注:本日付の登記簿 [8月9日変更、同日登記反映分。] による。
Yahoo!ファイナンスには、本日現在、「発行済株式数75,920,263株」と書いてありますので、時価総額等の数値も正確ではないことになります。)

4倍ギリギリまで拡大しなかった理由はいくつか考えられると思うのですが、(私の勝手な想像だと)、一つには、今回の買収防衛策は、「極力多くの賛成を集められる」条件に配慮しているので、その流れで「4倍、目いっぱい」という変更を避けたのかも知れません。
(ISS、機関投資家などは、「授権枠を発行済の3倍以上にする定款変更案には反対する」ようですので。)
また、定款で買収防衛策は定款で決議する旨を決めてしまいましたので、もう一回、買収防衛策を発動する場合にも、いずれにせよ株主総会を開催する必要があると思いますので、なんであればそのときにまた変更を検討すればいい、ということもあるかと思います。
「条件付授権枠変更」の可否
今回のブルドックさんの授権枠の定款変更は、

なお、第6条の変更については、平成19年10月1日時点における当社の発行済株式の総数が5千万株以上であることを条件として、効力を生じるものとします。

という条件付になってます。
2年ほど前に買収防衛策と授権枠の関係について検討した際に、

(このプランの新株予約権が行使等されて発行済株式数が増加した場合に限って)、定款記載の発行可能株式総数を行使等前と後の発行済株式数の比を乗じて得た数に増加する

といった「停止条件付」決議をしておくというのはどうかなあ?、と書かせていただいたところ、葉玉さんから、

残念ながら、ご指摘の「停止条件付」決議は、会社法でも認められないと思います。

というコメントをいただき、47thさんからは、

授権枠の停止条件付拡大決議は現行法の下でも、しばしば使われる手段ですし、条件の客観性や明白性(更に妥当性も?)という「解釈論上」の問題は残るものの、きちんと株主が情報を開示された上で、そうした定款変更を承認するのであれば、ア・プリ・オリにできないということにはならないような気もします。

というトラックバックをいただいたのですが、今回のブルドックソースの授権枠拡大の決議は、この議論に関連してどう解釈すればいいのでしょうか?
参照URL:
https://www.tez.com/blog/archives/000556.html
https://www.tez.com/blog/archives/000558.html
今回は、「買収防衛策の発動」を条件とせずに、「平成19年10月1日時点における当社の発行済株式の総数が5千万株以上であること」という客観性が高い条件の書き方にしたからOKなのか、
それとも、「本株主総会第○号議案に基づき発行された新株予約権の行使または取得により、発行済株式の総数が5千万株以上となった場合」といった条件でもOKだったのか、
はたまた、(事前に法務局等にご相談されているとは思いますので可能性は低いと思いますが)、これを10月に登記しようと思ったら登記できないというリスクが存在するということなんでしょうか。
前述のとおり、今回のブルドックさんの場合は授権枠がもともと4倍超もありましたのでクリティカルな問題ではなかったかと思いますが、授権枠に余裕が無い企業、取締役会決議で新株予約権型の買収防衛策を発動する可能性のある企業などは、このへんの解釈で明暗が分かれることも無きにしもあらずかと思います。
(ではまた。)

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2 thoughts on “ブルドックソースの買収防衛策に学ぶ「授権枠」

  1. いつも興味深く拝見しています。
    停止条件付き総会決議は、葉玉先生は、新株(予約権)の発行・無償割当の取決もまだしていない段階の、いわば二重の停止条件付きは無理、とも仰ってるようですので、今回のようなケースは問題ないのでないでしょうか。
    5000万株という数値を示したこと(条件の客観性や明白性)や、5000万株・2億株という数値の妥当性(授権資本枠規制をないがしろにするものでない)という点で、法務局からO.K.を貰えたのではないかと思います。
    停止条件付き総会決議については、法律関係の安定性と法律の趣旨の潜脱という2つの観点があるようです。

  2. コメントどうもありがとうございます。
    しかし、これがOKなら、どんな買収防衛策でも、まずは4倍以内の希釈化を図るんでしょうから、「(その4倍以内の具体的な数値)以上であることを条件として、効力を生じるものとします。」と書けば、それもOKになる気もします。
    「平成19年10月1日時点における」という判断時点の指定も重要だったんでしょうか?
    本日(8/22)の勉強会のエントリにも書きましたが、基準日を取締役会で決める(より「良い」)スキームを考える場合、その「判断時点の指定」を入れるのが難しくなるんではないかとも思います。
    (ではまた。)