「法と経済学を司法試験科目に」に大賛成!

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成蹊大学の安念潤司教授が、本日の日経経済教室に「法と経済学の視点」シリーズの中編として、

試験で釣るやり口は洗練されているとはいえないが、法と経済学を司法試験などの選択科目として導入することも、もはや現実的な課題であろう。

と結んでらっしゃいますが、これに大賛成するものであります。


 
前期、中央大学法科大学院で講師をやらせていただいて、先日それに対する生徒の感想のアンケート結果が届いたんですが、ほとんどは「役に立った」等、ポジティブなコメントでひとまずホッといたしました。
しかし、中には、

我々は弁護士になりたいのであって会計士になりたいわけじゃないのに、なぜ会計の勉強をしなければならないのか。

という趣旨のコメントをいただいた学生さんもいました。
(さらに、アンケートには書かないけど、「試験に関係ないのに〜」と思っている学生さんも結構いたのではないかと思います。)
授業の初回にも申し上げたんですが、私は別に「会計学」を教えたかったわけじゃなくて、普通の企業や会社員が、何が「得」で何を「損」と思っているかを理解してもらえればなあと思っていたわけです。
5年以上前までは、「法律家のお世話になる」ケースというのは殺人とか窃盗とか横領とか背任とか離婚とか借りた金を返さないとか、社会的には比較的「マージナルな」領域の話が中心だったと思いますが(もちろん、そういう領域での活動もすばらしいですが)、そういうセグメントの「リーガルコスト負担能力」(つまりマーケット規模)はおのずと限界があるはずです。
司法試験合格者数が今後も急増していった場合、マクロ経済全体を見回して最も付加価値を生み出している領域が最もリーガルコストの負担能力があるはずであり、最も付加価値を生み出しているのは”普通の”企業活動なわけですから、そこが、これから司法試験に合格するみなさんのメシの種のうちで最も大きな領域になるのは当然。「企業は何を求めているのか」というニーズが理解できないとビジネスにならないということも当然なのであります。
企業の最大の目的は「利益」ですし、従業員も収入が多いほうがうれしいわけで、利益とかキャピタルゲインいうものが何なのかがわからないと、ニーズもつかめない。
ただ一方で、目先の試験という障壁がめちゃくちゃ高くて、試験に直接関係ないことを学ぶインセンティブに乏しいということも非常によくわかります。長期的には社会のため自分のためになるとわかっていても積極的に学びにくい構造になっているわけですから、試験科目に「法と経済学」を入れることで社会的厚生が改善されるというのは、まさに「法と経済学的」に考えて当然なのであります。
ちなみに安念教授の「選択科目として」というご提案も現実的でいいですね。
以前の公認会計士試験は経済学が必須科目だったんですが、これほど不人気な科目はないだろうというくらい不人気な科目で、ほとんどの人は、「合格と同時に経済学の教科書は叩き捨てた!」「もう一生、経済学の教科書は開かない!」と豪語してました。(苦笑)
より「経済」的な仕事である会計士ですらそうなわけで、嫌いな人に勉強してもらっても効率が悪いかと思います。
先日、学生さんの租税法研究会に出席した話を書きましたが、選択科目で租税法が入るだけであんなマニアックなものを熱心に勉強する人が出てくるわけですから、それで当面十分ではないかと。
Welcome to the “Dismal Science”!
−−−
P.S.
「ついで」的で恐縮ですが、10月31日日経朝刊の「大機小機」欄「社外役員資格の不思議」にも、(遅ればせながら)おおすぎ先生と同様、「おっしゃるとおり!」と賛同申し上げさせていただきます。
(ではまた。)

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8 thoughts on “「法と経済学を司法試験科目に」に大賛成!

  1. 論文試験であっても厳しい制限時間の中でいかに「正解」を書くかという試験になっているので、法と経済学は試験が作りづらいかもしれませんね。もし選択科目で入った場合には限られた論点だけ出題するようにして楽勝科目にすれば選択者が増えるかもしれませんね。

  2. 磯崎先生
    いつも有益で楽しい記事をありがとうございます。毎日楽しみに拝見しております。
    私は企業法務系の大手事務所に属する弁護士(3年目)なのですが、コーポレートファイナンス論や会計の考え方がちゃんと理解できる、「企業行動を数字で理解できる弁護士」になりたいと日々思っているところです。先生の以前の記事にも「会計のわかる弁護士さんがもっといてくれたらいいのに」的な記載がありましたので、そういう弁護士になれればと思っています。
    ただ一方において、「本当にそういう弁護士の活躍の場があるのか?」という疑問もあります。まわりの弁護士を見渡してみると、経済的なものの考え方ができる人はかなり少なく、それでも十分に活躍しているように見えるのです。逆に「経済的なものの考え方ができないとやれない案件」というのに、あまり出会ったことがありません。はっきりいって、企業の方が弁護士に依頼してくる時点では、論点がそれなりに整理されていて、「数字のわからない弁護士でも扱える状態」にしていただいている場合がほとんどです。せいぜい、「税務がわかれば税務訴訟ができる」「会計がわかれば、裁判の証拠書類に会計帳簿がでてきたときに便利」という程度のイメージしかありません。
    そこでお聞きしたいのですが、「企業行動を数字で理解できる弁護士」が活躍できる場がどんな場なのでしょうか?会計士である先生の立場からご助言いただけるとありがたいです。

  3. はじめまして。数年前から楽しく拝見させていただいております。初コメントで緊張気味ですが、同業者の方のコメントもあったので思うところを。
    私は5年目の弁護士で現在アメリカのロースクールに留学中です。私もビジネスが分かる弁護士になりたいと思い、学生時代にビジネスモデルを策定した上で企業家の前でプレゼンするコンテストに参加したり、実務に入る前からコーポレートファイナンスをかじったりしていたのですが、アメリカに来てアメリカのトップレベルの弁護士はコーポレートファイナンスの議論などは知っていて当たり前という雰囲気があるのを目の当たりにしました。
    例えばコーポレーションを教えているデラウェア州裁判所の元裁判官なども授業中に効率的市場仮説やDCFの話をさも当たり前のようにぽんぽん話します。振り返って日本を見てみると、つい数年前のライブドア判決でさえ新株予約権のバリュエーションの争い方が非常に稚拙(二項モデルやブラックショールズでバリュエーションされていない)だったりします(新株予約権の有利発行性が適切なバリュエーションをベースに争われるようになったのはつい最近のことです)。
    また、国内の法務DDに関して言えば、実務上様々な事務所のDDレポートを拝見する機会があったのですが、法的リスクが指摘されっぱなしなままのことが多かった(よって交渉の際に当該リスクをどのようにバリュエーションに織り込むかクライアントが頭を抱えることになる)印象があります。私はDDレポートでは法的リスクをできる限り数値化して報告するようにしていました。なぜならビジネスの方々は数字で動いている人々だからです。ビジネスの世界に生きるクライアントがどのような価値基準・ロジックで活動しているか理解しない限り、クライアントに対して最良のアドバイスは提供できないと思います。
    弁護士は法律さえ知っていればよいという風潮が日本ではまだ強いと感じますが、今後弁護士の数が増えて業界内の競争が激しくなるにつれ、「企業法務の弁護士であればビジネスのことはある程度知っていて当たり前」という時代が(近い将来ではなさそうな気がするものの)来るかもしれないですね。
    アメリカに来てから開設したブログにもそんなことをちょっろっと書いてみました(http://yutakataka.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_d9bf.html)ので、ご興味がおありでしたらのぞいてみて下さい。

  4. はじめまして。いつも楽しく勉強させていただいております。
    某有名毒舌ブロガーさんの、司法研修所の科目に経済学を入れろという御主張を思い出しました。
    ところで、個人的には司法試験の選択科目に法と経済学を入れるのは面白いと思います。
    しかし、法学と経済学では根底から違うので、他の法律を学ぶよりコストが高くつくと思われます。試験をゲーム理論的に考えると、合格の利得も合格する確率も同じなら、ほとんど選択されないのではという感じがします。(それでは意味がない。)制度改正された会計士試験での選択率がどうなったのかが参考になるのかなと思うのですが。どうでしょう。
    経済学のようにモデル化して考えるというのは、現実を捨象するので、センスが問われて面白い反面厳しい世界ですが、法律学ではどうも総合的利益衡量(ブラックボックス?)が重要視されているという感じがします。利益衡量に特定の価値観が反映しているのではという疑問を感じる人も出始めてきたのは心強いという感想も持っています。

  5. みなさん、コメントありがとうございます。
    お返事が長くなったので、別エントリを立ててみました。
    「旧試口述発表待」さん曰く、
    >他の法律を学ぶよりコストが高くつくと思われます。
    わたしもそう思ってたんですが、租税法を熱心に勉強する学生さんの姿をみて、「(もちろん人数は多くはないだろうけど)こりゃいけるのかも」、という気になった次第です。
    (租税法こそ、会計や財務の知識がないと理解するのがかなりツラく、追加で学ばないといけないことが多いと思われるんですが、ロースクールに通いながら簿記の検定を受ける人までいてビックリ、です。)
    (ではまた。)

  6. お手数おかけしますが,法と経済学のお勧めの教科書を紹介していただけないでしょうか。なお,当方はローの学生です。よろしくお願いします。

  7. そこ、私がぜひ聞きたい質問であります。
    最近の本ではありませんが、「会社法の経済学」
    http://www.tez.com/review/k199902.htm
    なんかは、いまだに法律の論文等で参照されているのをよくお見かけします。
    最近不勉強でキャッチアップしてないですが、東大の柳川先生の本などは、よさげだと考えております。
    「司法試験科目に」と申し上げたのも、(受験生がローエコを学ぶということもさることながら)、司法試験科目になることで、日本語で読める良質なローエコの本が増え、授業が増え、そうした本が売れて、ローエコで食っていける「マーケット」が拡大することで、立法や行政や司法や実務界など、各方面に非常に大きな波及効果があるのではないかと思ったからです。
    (ご参考になるかどうかわかりませんが。)

  8. ありがとうございます。早速読んでみます。
    法学部出身ではないこともあり,ローの授業は非常に面白く,特に基礎法学や学際の科目を今年後期だけで5コマ取っています。(下手すると実定法の単位が足りなくなるかも。)