昨日の日経夕刊3面より。
日本企業の自社株買い定款変更、英機関投資家が反対、取締役会の独断危ぐ。
英大手機関投資家ハーミーズは六月末に集中する日本企業の株主総会で、自社株買いを株主総会ではなく取締役会で決めるようにする定款の変更議案に反対票を投じる方針を決めた。株主の関与が薄れ、自社株買いの決定過程が分かりにくくなると判断した。米機関投資家も同様の対応を検討し始めた。
(中略)
発行済みの株式を企業が買い戻す自社株買いは過剰な発行済み株式を吸収し資本効率を改善させ、一株利益の増加につながるとして、欧米の投資家も積極的に求めてきた経緯がある。ハーミーズも自社株買い自体には反対していないものの、新制度が取締役会の独断につながりかねないと判断した。
例えば、より有効な資金使途があるのに自社株買いに手元資金を使えば長期的に株主価値を損ねるとみている。
うーん。
そりゃそうですが、そもそもそれは、取締役を変えたほうがいいかも知れませんねえ。
株主総会での議決権行使について機関投資家に助言する米国のコンサルティング会社、ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシズ)も一部の企業には自社株買いの定款変更に反対票を投じるよう顧客投資家に助言し始めた。例えば、持ち株比率が五〇%近い大株主がいる企業の場合、取締役会が決めた自社株買いで発行済み株式数が減っていくと、一般株主の知らぬ間に、大株主が実質五〇%以上を握ってしまう場合があると説明している。
(ロンドン=田村篤士、ニューヨーク=藤田和明)(以下略)
基本的には、株式の発行(増やすほう)については、株式譲渡制限のついていない会社は、「授権枠」(最大で発行済株式数の4倍)まで自由に発行できてしまうので、自社株買い(減らすほう)も、ある程度自由にできてもいいと思うんですけどねえ・・。
毎年株主総会で特別決議を経るというのも、実務としてはしんどい。
改正商法でも、以下のように、配当可能利益の範囲という制限もありますし、TOBまたは市場での買いつけでやらないとだめですから、すべての株主に平等ではあります。
第二百十一条ノ三
会社ハ左ニ掲グル場合ニハ取締役会ノ決議ヲ以テ自己ノ株式ヲ買受クルコトヲ得
一 其ノ子会社ノ有スル自己ノ株式ヲ買受クルトキ
二 取締役会ノ決議ヲ以テ自己ノ株式ヲ買受クル旨ノ定款ノ定アル場合ニ於テ第二百十条第九項本文ニ規定スル方法ニ依リ自己ノ株式ヲ買受クルトキ
� 前項ノ決議ハ買受クベキ株式ノ種類、総数及取得価額ノ総額ニ付之ヲ為スコトヲ要ス
� 前項ノ取得価額ノ総額ハ最終ノ貸借対照表上ノ純資産額ヨリ第二百九十三条ノ五第三項第一号乃至第四号ノ金額及同条第一項ノ規定ニ依リ分配シタル金銭ノ額ノ合計額ヲ控除シタル残額ニ同条第三項第五号乃至第七号ノ金額ヲ加算シタル額ヲ超ユルコトヲ得ズ
� 第一項ノ決議ニ依リ自己ノ株式ヲ買受ケタル場合(同項第一号ニ掲グル場合ヲ除ク)ニ於テハ其ノ決議前ニ終結シタル最後ニ招集セラレタル定時総会ノ終結後ニ買受ケタル自己ノ株式ノ買受ヲ必要トシタル理由並ニ其ノ株式ノ種類、数及取得価額ノ総額ヲ同項ノ決議ニ依ル買受後最初ニ招集セラレタル定時総会ニ於テ報告スルコトヲ要ス第二百十条
� 第一項ノ決議ニ基キ株式ヲ買受クルニハ市場ニ於テスル取引又ハ証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二章の二第二節ニ定ムル公開買付けノ方法ニ依ルコトヲ要ス但シ第二項第二号ニ掲グル事項ニ付決議アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
同じ面の記事で、NTTドコモは、
改正商法に対応した定款変更に加え、昨年同様、六千億円の自社株買い枠設定の二つを提案する。平田正之常務は「定款変更は不測の事態に備えるため」と説明。それとは別に従来方式を使って「平時の利益配分方針を株主に明示する必要がある」と語る。
(中略)
株価安定や円滑な総会運営を意識し、NTTドコモ方式を検討する企業が相次ぎそうだ。
とのこと。
枠の法的意味はなんなんでしょうか。
決議までしなくても、方針を明示するだけでいいような気もしますが・・・。
(ではまた。)
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はじめまして。
いつも大変参考にさせていただいております。
同社が定株において「枠」を取ることの法的意味というのは、まさに、株主に方針を明示することだと、私は考えます。
「来年の定株終了時までに、6,000億円取得得して、みなさんに利益配分する予定です。」と。
自己株取得というのは、配当と同等の機能を持っているので、株主さんとしては、会社がどのような戦略を持ってやるのか、というところは、とても気になると思うのです。
それを、「機動的に」とか「随時」と括られてしまうと、ハーミーズでなくとも胡散臭さを感じる株主さんはいらっしゃると思います。
ただ、定株決議を取ると、実際に自己株式を取得するかしないかにかかわらず、決議した金額が中間配当財源から控除されるので、実は会社にも株主さんにもデメリットだ、というのはあるんですが、それでも、自己株取得のポリシーを総会ではっきりさせておく、というドコモさんの姿勢は好感が持てます。
>決議までしなくても、方針を明示するだけでいい
定款に定めがあっても、定株までに具体的な取得予定がある場合は、定株の決議
が必要だ、というのが実務界の解釈なので、定期的な取得を計画している会社であれば、こういう例は、他にも出てくると思います。
mimoriさん、こんにちは。
(遅レスですが、)
確かに、商法は自己資本を減らす方向には異様に制限が厳しい(のがだんだん緩和されてきている)ので、そんなとこかも知れないですね。
委員会等設置会社は、一定の条件の下で利益処分も取締役会で決定できることになったので、委員会等設置会社(ガバナンスが一定レベル以上の会社)が一定の条件を満たせば、取締役会決議だけで自己株買取するので問題なしという解釈にしていただけないもんでしょうか。
(ではまた。)
自社株買いが銘柄選択に与える影響
自社株買いのメリット
自社株(自己株式)とは会社が保有する自社の株です。企業は…
初めて投稿させていただきます。
今、話題のライブドアvsフジテレビジョンですけれど、フジテレビ側は防衛策として、ニッポン放送保有のフジテレビ株の一部または全部を自社株買いで買い取ることはできなかったのでしょうか?
佐藤秀さん、
ニッポン放送がフジテレビに売却すると、売却額の半分近くが法人税等で持って行かれてグループ外に資金流出してしまうからだと考えられます。
ご参考まで。
磯崎様、だとすると、今言われている焦土作戦、ポニーキャニオン株をニッポン放送が売ったとしても売却額の半分近くが法人税等で持って行かれませんか? それとも売却先がグループ内のフジテレビジョンなら相殺されるということなんでしょうか?
自社株買いを行うと、株主にとってデメリットはありますか?よろしくお願いいたします。