買収対抗策←種類株式の充実?

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本日の日経朝刊19面「大機小機、種類株式制度の充実を」(「悠憂」氏)より。
Googleの公開でも話題になった、種類株式による買収防衛策のお話です。
コラムの要旨は、

外資の中には日本の投資ファンドと組んで敵対的なTOBをするやつがいるが、これは一昔前、小糸製作所を襲った「グリーンメイラー」の再来である。
こうした乗っ取り防止の対価は大きく、将来の設備投資や社員の給与が抑制されるのは明白。
近年の商法改正の過程で、わが国固有の経営理念や倫理観が失われている。
市場の変質が明らかなだけに、株主平等の原則にこだわれずに、短期利益に走る投機家の活動を防ぐ手だてを各界がもっと真剣に検討すべきである。(磯崎による要約)

と、かなり敵対的買収に批判的な内容。
そういう活動に注意したほうがいいよ、というのはまあそうかと思うのですが、

(略)差し当たりは種類株式制度を整備充実することで健全な証券市場育成の促進を図ることなどが考えられよう。
日本の産業が確信技術を基礎にして回復しつつあるだけに脆弱化した金融、資本機能によって足をすくわれることのないよう行政、立法機関は株式の制度改革に十分に配慮すべきである。

というところはちょっと注意する必要はあります。
種類株式制度の問題か?
すでに種類株式制度はかなり柔軟になってますので、もうこれでかなりのことはできます。
いつ準備するか、ですが、公開前の準備で、Googleのdual class株式のように、議決権の違う比率のものを経営陣に持たせる方法などは、既に活用できると考えられます。
以前ご紹介した、下記の「企業買収防衛戦略」
image001.jpg
武井 一浩、太田 洋、中山 竜太郎 (編著) 商事法務(2004/04)

では、
「商法222条9項に規定する拒否権や、議決権付き株式への強制転換条項が付されたものが中心となろう。」(58ページ)
というようなアイデアが提示されています。
商法222条9項は、

会社ガ数種ノ株式ヲ発行スル場合ニ於テハ定款ヲ以テ法令又ハ定款ノ定ニ依リ株主総会又ハ取締役会ニ於テ決議スベキ事項ノ全部又ハ一部ニ付其ノ決議ノ外或種類ノ株主ノ総会ノ決議ヲ要スルモノヲ定ムルコトヲ得

という内容。「敵対的買収」に相当する要件を種類株の要項の中に記載しておいて、そのイベントが発生した場合にその実行を拒否するような内容にしておくイメージでしょうか。
「議決権付き株式への強制転換条項が付された種類株」というのは、Googleのdual classのマイルドなやつで、種類株だけど通常は議決権も経済的価値もあまり無いが、「いざ」というときに議決権付き(恐らく経済的価値は付かないか、付いても微々たるものにしておくのがいいかも知れません。)に強制転換されるような種類株のイメージかも知れません。
主流は「ライツ」のようです
ただし、同アイデアの注で、

「注48)米国では、ライツ・プランの普及の前には、種類株式がポイズン・ピルとして用いられることも多かった。」

とありますので、米国では今や、種類株式による買収防衛というのはメインではなく、「ライツ」と呼ばれる敵対的買収時に付与される権利での防衛というのが主流のようです。
同書では、米国では「大半の」企業が何らかの買収防衛策を採用している、とも述べてます。Googleのようなdual classの採用は数%程度のようですが、(こちらのエントリー参照)、その他の買収防衛策は「大半」なんですね。
同書では、日本でライツ・プランに準ずるしくみを提供するのは、新株予約権の付与ではないか、というようなことが書かれています。
種類株式だけの話ではないかも知れないですね。
株主平等原則
米国でも、こうした買収防衛にあたって、敵対的買収をする株主だけを差別するのがいいのかどうかということは過去争われたそうですが、ニューヨーク州などでは「平等原則に反する」という判例が出たあと、立法でそうした差別的条項もOKということにした、とのこと。さらに、デラウエア州では、こうした差別は「株主」の差別であるが「株式」の差別ではない、つまり、例えば15%以上を取得した株主だけ権利行使をできないという条項は、すべての株式に平等についているので、「株式」の平等には反しないのでOKであり、「ほとんど問題にされていないようです」とのことです。(P241など。)
ただし、日本では「株式」の平等が保たれているからいいじゃないか、という論法は、本書に登場される弁護士の先生方のご意見としては抵抗があるようで。
むしろ、株主の平等は「原則」であって、長期的に株主全体の利益になるというような「合理的な」理由がある場合などには例外も認められるという意味での「原則」であるとも解釈できるのではないか、というような説も出されています。
つまり、大機小機の「悠憂」氏のように「株主平等の原則にこだわらずに」というよりは、「こだわった」上で着地点を探す方が現実的なのでは?というのが同書の論旨ではないかと思います。
上場基準の問題
さらっと読んだところでは、同書には論点として出てきませんが、商法や実務がそうした買収対抗策をOKとする場合でも、こちらのエントリーのように、NY証券取引所などでは、公開前からdual classを採用してIPOするのはいいが、公開後にそういう既存株主の権利を侵害する可能性のある施策を行うことはやめてくれ、というのが上場基準になっているようです。このため、既に公開している会社が行う対抗策としては、やはり、何らかの形で「株主全員に」同じ権利が付与される(ただし、敵対的買収を行う者、例えば15%以上の株式を取得した者、はそれを行使できない)というような方式にする必要があるんでしょう。
具体的には、未公開の段階から種類株で工夫をしておいてそれを証券取引所等に認めさせて公開する「Google型」が今のところ日本では一番法的解釈にグレーさがなく、次が新株予約権を使った方式なのかな、という気がします。
前述のニューヨーク州等の法改正の事例などを参考にして、「悠憂」氏のおっしゃるように、立法で株主平等原則に一部制限を加えるようなことも検討してもいいのかも知れませんね。(どこまで具体的に書くのか、なかなか落としどころが難しいような気がしますが。)
(では。)

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1 thoughts on “買収対抗策←種類株式の充実?

  1. NY証券取引所を・・・買うぅぅぅ!?

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