ガソリンの暫定税率がなくなって、「混乱」が発生しているという報道ですので、ガソリンスタンドの店長になったつもりで、どうやったら利益が極大化するかをちょっと考え始めたんですが。
簡単なようでいて、いろいろ考えないといけないことも多いですね。
3月までに仕入れた税金がかかった高い在庫は、いわゆる「埋没コスト(sunk cost)」だから、今更つべこべいってもしょうがない。販管費の額が変わらないとすれば、とにかく粗利の額(販売数量×単価×粗利率)を最大にするような単価を設定して、ガンガン売ればいいというのが基本のはず。
また、そもそも頭のいい店長なら、4月1日に向けて地下タンクの在庫の量は極力絞っていたはずです。(ガソリンスタンドってタンクの構造や制度上あまり在庫を減らせない理由ってあるんでしたっけ?)
「25円下がると、今の在庫の分で100万円くらい損することになります。」とテレビでコメントしていた店長がいましたが、25円で100万円ということは、4万リッター。1台平均20リッター入れるとして2000台分。1日200台来るとして10日分。下がるのがわかってるんだから、ちょっと在庫持ちすぎじゃないでしょうか。
発注のリードタイムにもよりますね。つまり、何日前に発注すればタンクローリーがガソリンを届けてくれるのか。10日も前に発注しないと来てくれないんでしたっけ。
ガソリンというのは、一見、「需要(売上)の価格弾力性」が強そうな商品。
ベンツに乗って50リッター入れに来る人が1円(つまりたった50円)の違いを気にするという、非常に不思議な世界であります。(リッター5kmの車で3km遠くのガソリンスタンドに行ったら、それだけで50円以上飛んじゃうわけですから。)
結果的に見れば、これだけ価格に注目が集まっているので、思い切った値下げをした人が勝者になった可能性が高い。
一方、真の意味でガソリンの需要の価格弾力性は大きいのか?
つまり、「ガソリンが下がったから、ちょっと遠出してみようか。」という人はそんなにはいないはず。春休みも終わりだし。
ということは、4月1日以降のガソリンの需要というのは、経済学の教科書にあるような、きれいな右下がりの曲線になるわけではなくて、「その商圏に存在する車のタンクの空きの量の総計」程度を上限として、投機需要的な性格を持っていたといえるかも知れません。
つまり、「安い!」という雰囲気をかもし出して、そのへんの商圏一帯の車のタンクの空きの部分の需要を他店に先駆けて一気にかき集めてしまったスタンドが勝ち。長蛇の列が1週間以上も続くなんて事はないはずですから。
つまり、下げるなら「一人勝ち」を狙わないとあまり意味が無かったかも知れません。
逆に、「値下げは様子見」という戦略をとったスタンドは、一番あほだったかも。
一方、スタンドというのは完全に地面にくっついている商売なので、地域の同業との関係も重要であります。暫定税率の改廃という一時に確保できるわずかな儲けのために、価格についての地域内での「あうんの呼吸」が乱れるとまずいという判断に傾く地域と、いわゆる「激戦区」では、行動が違ってくるでしょうね。
このへん、野球とかF1とかよりは「競輪」に似た競争かも知れません。
次に暫定税率が復活する局面では、ガソリンスタンドはガソリンを仕入れられるだけ仕入れるておくのが基本でしょうが、消費者も暫定税率復活前日までにタンクを満タンにしておく人が多いでしょう。
理論的には、安い在庫を使って、暫定税率復活日以降もしばらく安売りを続ける手もありえますが、4月1日と違って、今度は消費者のタンクがほぼ満タンになっているから、あまり「投機的需要」は望めないし「一人勝ち」も難しい。
(連休前だと、価格弾力性による若干の「実需増」もあるかも知れませんが。)
価格を下げても大量の集客が見込めないとなると、暫定税率が復活するとともに「地域の、あうんの呼吸」で25円いっせいに値上げされるんでしょうね。
以上が、「管理会計的」なお話。
資金繰り
「資金繰り」はどうでしょう?
何日締めの何日払いなんでしょうか?
在庫を極力絞って、1日に先駆けて値下げして客を集めたスタンドは資金は回る気がしますが、在庫をたくさん持っていた上に、4月以降の集客も集められなかったスタンドはちょっと厳しいのかも知れません。
でも、政府が援助を考えなきゃいけないほどなのかなあ?
会計上の利益
次に、「会計上の利益」の話。
ガソリンスタンドで上場している会社を知らないので、上場している石油会社の有価証券報告書のたな卸資産の評価方法を見てみたんですが、
新日本石油
主として総平均法による原価法を採用しております。
昭和シェル石油株式会社
主として総平均法に基づく原価法を採用しております。
出光興産株式会社
主として後入先出法による原価法(一部低価法)を採用しています。
コスモ石油
主として総平均法に基づく原価法を採用しております。
といった感じで、出光さんが(消え行く)後入先出法を採用しているものの、他は総平均法のようです。
中小のガソリンスタンドでも、シンプルな総平均法で計算しているんでしょうね。
「利益」とは何か
テレビのインタビューで「赤字です」と言っている店長さんが何人もいましたが、どの利益概念をもって「赤字」と言っているのかに、非常に興味があります。
ガソリンの粗利率が10%未満だとすると、1リッター10円ちょっとの粗利でしょうから、25円近く値下げしたら、前月末の在庫より今月の売価が安くなるのは間違いなさそうです。そういう意味では赤字のように思えます。
しかし、この図のように、もし仮に3月末の在庫が通常の1週間分あり、4月に通常の1.25倍の5週間分を仕入れたとすると、6週間分で総平均するわけだから、25円高かった在庫も均されて全体では4.2円高にすぎなくなります。
さらに、暫定税率復活前には安い在庫が残っており、これでまた元の売価に戻ったら、在庫量が期首と期末で同じなら、損得ゼロのはず。
期首の在庫は絞って暫定税率復活前の在庫を多めにしたら、その分得になります。
加えて、月間に売れた分も、いつもの月の1.25倍売れることが予想されるのであれば、リッターあたりの(最新の単価で考えた)粗利を0.8倍まで削っても、月間の総粗利の額は変わらないことになる。
このへんやはり、値下げがどのくらい需要増を呼ぶか、「価格弾力性」の読みの勝負だったかと思います。
(ではまた。)
[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。
少しだけフトコロが満タンに
誤解を恐れずに、乱暴な言いかたをいたしますと、新聞販売店とガソリンスタンドは正社員として勤めていくのには割りの合わない職種であると当時バイトの新聞配達員で…
ガソリン・スタンドはどうするのか
明日でガソリンの暫定税率は一端課税されなくなるようですが、ガソリンスタンドはどう
25円戻し値上げのあと、一ヶ月もすれば、
すぐまた、石油の相場が上がったとかなんとかで、
また値上げでしょう。
事実上含み値上げかもしれませんね。
価格差がおきるとき、商売人は儲かるのが原則なんだけど、
株で損切して、さらに底をついたときに買いなおすということができない、
日本の商売能力の低さがありすぎなんでしょうね。
ちなみに、ガソリンスタンドは、かなり数を減らしてきています。
回転率はよくなってきているはずなんです。
あと、政治的に、
25円戻すのではなく、
20円戻すというところに落ち着いてほしいところ。
まったく下がらないというなら、
国民を愚弄しているとしか思えません。
1円でもいいから下がっていて欲しいですね。
記事;ガソリンスタンドは損をしたのか
■04/2■
isologueのエントリより。
・「ガソリンスタンドの価格戦略 (ガソリンスタンドは損したのか?)」
http://www.te…
磯崎さんも含め世の中全体的に4月以降、今の与党が2/3の再議決で暫定税率25円を戻す、と半ばあきらめムードですが民主党は違うようです。
というのは2/3の再議決は裏を返せば1/3が反対すれば通んないわけです。つまり16人以上の造反者(値上げ法案に反対する)が自民・公明のなかに居ればいいということになります。
今週末も地元に帰る(国会議員は金帰火来です)自民党・公明党の議員の地元でもガソリン値下げに賛成の声はかなり有権者の中に多いはずです。
とくに小泉チルドレンたちは風頼りですからかなりの逆風。
16人くらいは簡単にひっくり返っちゃうと思います。
郵政法案を最初に否決したときの参議院みたいな状況です。
結構おもしろいと思います。
さて、このまま値下げが続いた場合(2/3を使った衆議院再議決がダメだった場合)ガソリンスタンドの行動としてはどっちが正しかったことになるのでしょう。
値下げが続いた場合は逆に在庫があると偽って延々高い値段で売っていたほうが儲かったなんてことにならないでしょうか。
4月1日になった瞬間に、暫定税率を含んでいる在庫であろうが
「安くないのはケシカラン!」と言っているユーザーが、暫定税率終了と同時に
ガソリンが高くなることに納得するとは思えません。
大体、それをユーザーが納得してくれるのであれば、4月1日からの
値下げ競争自体が起こりえないのではないでしょうか?
また仮に5月1日から暫定税率が復活したとしても、還元セール等として
5月1日を過ぎてもしばらくの間は価格競争が起こることが想定されます。
あと、ガソリンを暫定税率の期限ギリギリまで発注しなければ良い、なんてのも
ハッキリ言って単なる机上の理論です。
医療現場で問題になっている「かけこみ妊婦」と同じです。
「病院(ガソリン卸)」からすれば、前もって「入院(発注や準備)」をする
「妊婦(ガソリンスタンド店主)」を優遇するのは当然です。
「ベッド数(ガソリン)」は有限なのに「入院費用(仕入れ値)」を安くしようと
ギリギリに駆け込んでくる「かけこみ妊婦」と、
「入院している妊婦(手配を含めた準備)」は同等ではありません。
それに「早めに発注して頂かないとガソリンはお届けできない(遅れる)かも」なんて
ガソリン卸に脅されれば、GS店主は仕入れをせざるを得ないのです。
いつも興味深いお話をありがとうございます。
ひとつ気になったのが、F1ではなくて競輪に近い競争、
という部分です。
文脈から、なんとなく「感情」とか「人情っぽさ」みたいに
想像したのですが、そういう解釈であってるんでしょうか。
理論どおりにコトが運べば・・・というご意見もあるよう
ですが、もちろん、そういう側面もあるとは思いますが、
原理原則を踏まえて、現実に即したアレンジをする姿勢が
事態を打開するんじゃないかと、私は思います。
5月以降のガソリン関係の続編を期待しております。
いつも更新を楽しみにしています。
4/1以降のガソリン仕入については、やはり元売から「直営店を優先するから、アンタのところには卸せない」みたいなことを言われたところがあったようですね(特に個人の零細スタンド)。そういう中で、苦しい判断を強いられたケースが多かったのでは、と思います。
また、3/31まで給油せずに我慢していた人も多いとすると、4/1以降は1台あたりの給油量も増えますから、想定以上に早く在庫がなくなることも考えられます。「お客さんは来たけどガソリンが無い」という事態を避けるためには、損失覚悟で在庫を持たざるを得なかったのではないか?と思います。
元売各社から店頭価格を下げないように要請?:ガソリン税の暫定税率問題
このエントリーはろじゃあが書いておいたエントリーに一部相方がリンクを加えて公開時
政府自民党は「みなし返品」を認めれば全く問題ないのに、わざと混乱を誘導して、その責任を野党に被せたかったようですが、もちろん混乱など起こりません。
長野県では、普段から高い店も安い店も、一律20円引くという申し合わせが成立し、4月1日から実行されました。
20円安くするということは、旧価格の在庫分が新価格で4回転すれば元が取れるわけで、5日くらいから25円引きにするGSも出ています。
もし衆議院で強行採決が行われた場合、恐らく5月1日からまた一律20円値上げするのかも知れません。
長野県ではGSの価格競争はできるだけ回避するようにしているようですが、それでも廃業するGSは少なくありません。