ドラマ「監査法人」第5回目、録画したけどまだ見てない磯崎です。
(ちなみに、第4回の感想→「小野寺会計士役の豊原功補氏、英語、ウマっ!」
「趣味:英会話」だそうで。)
ご案内のとおり、公認会計士法が改正されて、「大規模監査法人」については監査に係る社員(パートナー)のローテーションが7年から5年になりました。(後掲条文ご参照。31条の11の4。)
これは「公認会計士法」であって、あくまで公認会計士・監査法人側の義務を明確化したものではあります。が、この改正の背景にあるのは、監査人の独立性をどう担保するか、という話ですから、会計監査人の選任議案(等)を考える取締役・監査役としても、考えておく必要があるのは当然中の当然。
会社からの監査法人の独立性を確保するための考え方として、最も厳しいのは、
「(A) 当社は、監査法人の独立性を担保するために、5年毎に監査法人自体をチェンジする。」
といった考え方になるかと思います。
「何でもアメリカの真似して5年でローテーションなんて制度を取り入れやがって…」と、この制度を快く思ってない方もいらっしゃるかとは思いますが、伊勢神宮で式年遷宮を行う国に住む日本人としては、こうして定期的に「けがれ」を取り除くしくみを採用するというのは、心情的にそれなりにしっくりくるかも、とも思います。:-)
しかし、この(A)の監査法人自体まで定期的に交代するといったことまでやる会社はほとんど無いのではないかと思います。(大手の監査法人の選択肢も少ないですし、実務的にも大変そうです。)
他方、
「(D) 法律自体がかなり厳しいので(よほどのことがない限り)社員を誰にするかは監査法人にオマカセします。テキトーによろしく。」
という考え方もあるでしょう。(ほとんどの上場企業は、そんな感じかと思います。)
この両極の間に、
「(B) 監査法人は同じでかまわないが、新しいパートナーは直前のパートナーから外形的に独立性の高い人(例えば部門が異なる)をアサインしてくれ。」
という考え方があるかと思います。(私は、このへんが現実的に最もいいんじゃないかと思います。)
仮に、新しいパートナーが旧パートナーに頭が上がらないような人であれば、「旧パートナーによる院政」とまではいかなくても、以前の監査方法や結果に関して問題があっても文句を付けづらいんじゃないかと想像されるからです。つまり、「後継指名」みたいなことされたら、独立性について配慮した会計士法改正の意義がほとんど失われるんではないかと。
もうちょっと緩めに考えて、
「(C) 同じ監査法人なのに外形的な独立性なんて厳密には担保しようもないので(と、はじめからあきらめて)、監査法人内の独立部門等によってアサインされたという説明を受けたら、一応それで納得する。」
というスタンスもあるかと思います。
パートナーと現場
法律には「社員」しか出てきませんが、実際には現場の主査以下のチームも重要でしょう。
監査意見を出すのはパートナーですので、理論的・法律的な観点からはパートナーだけ変えればいいかも知れませんが、もし仮に、監査の作業の大半を担う実際のチームが企業の現場と癒着していたとしたら、やはりローテーション制度の意義のほとんどが失われる可能性があると思いますので。
(実際には大手の監査法人の若手の方々はめちゃくちゃ忙しいので、「『癒着』してる暇なんかないよ!」とおっしゃるとは思いますが。)
企業のオピニオンショッピングと監査法人の営業の論理
監査法人の側からしてみると、「後継社員」に企業側から口をだされてそれにホイホイ応じてしまうのは、企業に都合のいい意見を出してくれる会計士を選ぶ「オピニオンショッピング」に利用されるリスクがあると考えるでしょうから、あまり口を出されたく無いことが想像されます。
一方で、監査法人と言えど「ビジネス」ですので、放っておけば、ローテーションだからと言ってバカ正直にわざわざ他の部門に案件をくれてやるなんてことするわけがない。「御社の現場への引き継ぎの負担も小さいと思いますよ」てなことを言って、同じ部門内で売上げを抱え込もう(へたしたら、社員だけ取り替えて、主査以下はそのまま)という誘因が働くことは容易に想像されます。
(「個々の会計士の稼働を平準化させる(客に文句を言わせず、空いてるヤツを投入する)のが監査法人のビジネスモデルのキモだ」、とも言えるかも知れません。)
「監査法人内の第三者機関が新社員を選定しました」といったプロセスの説明があればいいですが、前述のとおり、突き詰めれば同じ監査法人内で社員同士がどういう付き合いなのかというのは、(監査法人内に独自の情報源を持ってる取締役や監査役でない限り)、判断しようがないわけでして。
監査法人というのはディスクローズの仕事をしているわけですが、自分の法人の情報の開示については極めて消極的という印象ですし、企業からの個別の要望にも応じてくれないことが多い気がします。それは、「監査法人の独立性や信頼性の確保」といった観点からしかたがない面もあるかとは思いますが、一方で、企業側にとってみると、何も情報無しに(といってしまうと語弊がありますが、担当社員との意見交換や、「会社計算規則第159条の会計監査人の職務の遂行に関する事項の説明資料」といったものだけで)判断するというのも、かなりキツいなあ、というのが正直なところです。
「そもそも、5年経ったら必ず独立性が失われるわけじゃないでしょ?社員が代わってるんだから、それでいいじゃん。」という考え方もあるかと思います。
公認会計士法のローテーション制度は、会計監査全体としての独立性のレベルを向上させようという考え方であって、個々の会計士が会社から独立していることを担保する制度ではない。取締役や監査役が判断すべきなのは個別の独立性であって、(経理部長と毎月いっしょにゴルフに行っているというようなこともなく)真面目に厳しく監査をしているのであれば、法律でやるべき最低限のことさえやってればいい。」とも言えます。
一方、
「本当の意味での独立性なんてわからないからこそ、外形的独立性が重要なのである。」
「このため、5年経ったら元の人から外形的にも独立した人に代わるべきだ。」
と考える場合、監査法人側が新しいメンバーの旧メンバーからの独立性があるということを説明する気が無いのであれば、面倒ですが、やはり監査法人自体を取り替えるしかないんではないかと。
以上のように考えてくると、企業側、監査法人側、双方のメリットのためには、やはり監査法人さんのほうで、ローテーション制度における新旧社員間の独立性の確保について外部の人間も納得できるような内規を整備し、運用、ご説明いただくしかないんじゃないかと思いますが、どうでしょうか?
(以下、資料)
第三十四条の十一の三 監査法人は、大会社等の財務書類について第二条第一項の業務を行う場合において、当該監査法人の社員が当該大会社等の七会計期間の範囲内で政令で定める連続会計期間のすべての会計期間に係る財務書類について当該社員が監査関連業務(第二十四条の三第三項に規定する監査関連業務をいう。以下この条から第三十四条の十一の五までにおいて同じ。)を行つた場合には、当該政令で定める連続会計期間の翌会計期間以後の政令で定める会計期間に係る当該大会社等の財務書類について当該社員に監査関連業務を行わせてはならない。
(大規模監査法人の業務の制限の特例)
第三十四条の十一の四 大規模監査法人は、金融商品取引所に上場されている有価証券の発行者その他の政令で定める者(以下この項において「上場有価証券発行者等」という。)の財務書類について第二条第一項の業務を行う場合において、当該業務を執行する社員のうちその事務を統括する者その他の内閣府令で定める者(以下この項において「筆頭業務執行社員等」という。)が上場有価証券発行者等の五会計期間の範囲内で政令で定める連続会計期間のすべての会計期間に係る財務書類について監査関連業務を行つた場合には、当該政令で定める連続会計期間の翌会計期間以後の政令で定める会計期間に係る当該上場有価証券発行者等の財務書類について当該筆頭業務執行社員等に監査関連業務を行わせてはならない。
2 前項(次条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の大規模監査法人とは、その規模が大きい監査法人として内閣府令で定めるものをいう。
(新規上場企業等に係る業務の制限)
第三十四条の十一の五 金融商品取引所にその発行する有価証券を上場しようとする者その他の政令で定める者(大会社等を除く。)の発行する当該有価証券が上場される日その他の政令で定める日の属する会計期間前の三会計期間の範囲内で内閣府令で定める会計期間に係る財務書類について監査法人が監査関連業務を行つた場合には、その者を大会社等とみなして、第三十四条の十一の三の規定を適用する。この場合において、同条中「監査法人は」とあるのは、「第三十四条の十一の五第一項の監査関連業務を行つた監査法人は」とする。
2 金融商品取引所にその発行する有価証券を上場しようとする者その他の政令で定める者の発行する有価証券が上場される日その他の政令で定める日の属する会計期間前の三会計期間の範囲内で内閣府令で定める会計期間に係る財務書類について前条第二項に規定する大規模監査法人が監査関連業務を行つた場合には、その者を同条第一項に規定する上場有価証券発行者等とみなして、同項の規定を適用する。この場合において、同項中「大規模監査法人」とあるのは、「次条第二項の監査関連業務を行つた大規模監査法人」とする。
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うーむ。現役の監査法人の人間としてなかなか痛いところを衝かれます。現在審査制度が定着して意図した癒着は、まともな監査法人には先ず無いと思いますが、「ビジネス」と言う観点は非常に抗えないところもございますね。会社側(と言うより監査役、監査委員会)が指名するというのは、「会社にとって甘い会計士」と言うよりも、会社を理解する上で最も適したチーム・・・なんでしょうから。下手したら超大企業のチームなんて、5年経過するとチーム内から昇格して「社員が出る」・・・ので、体質が改まらない可能性はありますでしょうし、特殊な業界や大企業グループの新事業ですと、「会社のことを全然理解してくれない(適切な評価や選択すべき会計方針の選球眼を持っていない)チームとずぅっとお付き合いする羽目になりかねないですね。米国は法人名で署名していますが日本は個人名で署名している以上、法人内のWho’s Whoは欲しいですよね。