本日は某所で、山形大学人文学部のコーエンズ久美子先生の「証券振替決済システムにおける権利の帰属と移転の理論」というお話を聞いて参りました。
私、あんまり有価証券法理なるものを法学部的にはちゃんと勉強してこなかった人間でありますが、私なりに解釈すれば、
「電子的なネットワーク」が発達していない社会においては「権利」を紙に表章させて「モノ」と同様に(「物権的」に)扱う必要があったけど、ネットワークが発達した社会においては、権利を(準)一元的に管理するデータベースに(時間や場所にあまり制約されず)容易にアクセスできるようになるので、そうした物権的な法理の必要性が大いに低下しつつある、ということが今の時代の背景に存在するんじゃないかと思います。
(金曜日の授業で大杉先生がおっしゃったところの、「昭和の論点」と「平成の論点」。)
インターネットの黎明期(90年代後半)に、伊藤穣一さんあたりが、「暗号化された”情報”が転々と流通するような匿名性のある電子マネーが普及した未来はどうなっちゃうんだろう」的な問題提起をされてましたが、むしろ、世の中の大きな流れとしては、今まで分散して(「モノ」的に)流通していた「権利」が、集中的なデータベースの上に乗る方向の方が必然だった、ということでしょうか。
(つまり、気を付けなければならないのは、匿名性が高まることによるマネロン的なことよりも、過度に匿名性が失われることによって経済が萎縮する危険の方だった、ということかも知れません。株券電子化における「略式質」とか、電子債権制度が普及した場合の「手形割引業者の利用」とか。)
さて、コーエンズ先生のお話は、(私のテキトーな要約で恐縮ですが)、
「特定のモノ(従来の証券)に対する権利の移転においては、そのモノに対する善意取得の制度が必要であった」が、振替機関におけるAさんからBさんへの株式の移動は、株券のような「(同じ)モノ」がA口座からB口座に移るということではなく、「Aの権利の消滅」と「Bの権利の成立」という現象がペアで生じることなので、「モノ」を前提とした善意取得制度といった物権法理・有価証券法理に基づいて説明するのはいろいろ問題がある、ということで、アメリカにおけるUCCや擬制信託(Constructive trust)的な考え方を引きながらご解説いただきました。
電子債権の制度では、「Xという債権」がAさんからBさんへ移動するという概念がまだ明確なのではないかと思いますが、株券の電子化というのは、(もちろん「口座記録」はあるものの)「個々の株式」という概念は完全に溶けて、「発行会社の発行する株式という権利全体」というプールになってしまう、ということなんですね。
追記:
コメント欄で葉玉さんから「溶けません。種類物的取扱いがされるだけです。」と、ご指摘ありましたが、(発表者の意図とは関係なく、また、私の理解不足で)、私の書きっぷりは、日本の株券電子化に関わる実際の法律の法解釈と、一般的な電子化における問題点を混同していたかも知れません。
引き続き、勉強してみます。
エヴァンゲリオン( ヱヴァンゲリヲン)において、「(人類一人一人が他人と自分を隔てる)ATフィールド」を消滅させて、すべての人類を単一の生命(LCL)に還元する「人類補完計画」ってのがありましたが、それと同じというか。
前から「ほふり」という名前の響きがなんか怖いなあ、と思っていたのですが「証券保管振替機構」というのは、実は「証券(ATフィールド)という殻に閉じこもった不完全な株式」という存在を「完全な権利」に人工進化させるための「証券補完振替機構(≒秘密結社ゼーレ (Seele))」だった・・・・ということかも知れません。
(ではまた。)
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>「個々の株式」という概念は完全に溶けて
もちろん、一つの種類の株式だけを発行している場合のイメージです。
(ではまた。)
私所用でお邪魔できなかったのですが・・・。
ATフィールドをなかなか消滅させることができないのは株主が悪いのか・・・それともNERVが悪いのか・・・(苦笑)。
溶けません。種類物的取扱いがされるだけです。
UCCのSecurity Entitlementの考え方は、多重的な信託の発想であるのに対し、日本の社株法は、有価証券法理の延長戦にあるので、両者を混同するのは、あまりよくないと思います。
すみません、私の要約が至らないために発表者の方にご迷惑がかかるとまずいので補足させていただきますと、発表者は日本の法律を解説されていたわけではなく、米国法と比較した場合の問題を提起されるという発表でしたので(と理解しておりますので)、「混同」はしてらっしゃらないと思います。
私の書きっぷりは確かに混同していたかも知れません。
取り急ぎ、御礼まで。
(ではまた。)