課税面から考えた、「GDPを一日で倍にする方法」

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小飼弾さんが、「GDPを一日で倍にする方法(の耐えられない軽さ)」にて曰く;

以下のとおりにすれば、GDPはすぐに倍になります。

1. まずは、お隣どおしペアになって下さい。
2. お隣の家事を全てやってあげてください。
3. それに対してお金を払ってください。

これだけです。

3.においていくら払うべきかですが、これは年間1,200万円とします。月100万円、わかりやすくていいですね。え?多過ぎる?そんなことありません。salary.com によると、合州国における家事の値段は年間$116,805だそうです。日本がそれに劣るわけがありませんよね。え?そんなに払えない?、大丈夫です。あなたの家事を全てお隣さんに面倒見てもらった代わりに、あなたもお隣さんの家事をすべて面倒見てあげたじゃないですか。同額がそっくり返ってきます。ネットではゼロ円です。

しかし、グロスではどうなるでしょう?日本の世帯数は2005年時点で4,906万世帯。これに1,200万円をかければ、589兆円。あっという魔にGDPは倍になりました。

コメント欄で、「税金で大損だ!」という趣旨のツッコミが多数あったので、フォローをしときます。


個人の年収が1200万円上がっても、必要経費も1200万円あるなら所得税額は増えないわけです。
ところが、隣の家事を手伝ってお金をもらうのは、事業所得または給与所得などになりますが、家事を手伝ってもらうことは(例えば介護などで控除の対象になるといった特別な場合を除き)原則としては必要経費等の、税額を減らす要因にはならないかと思います。
つまり、1200万円所得が増えて、ざっくり20%が税金(国税+地方税)だとしたら、税額240万円はまるまる持ち出しになっちゃう。
(589兆円の20%は118兆円程度になり、これを何年か続ければ、日本国及び地方自治体の財政はピッカピカになるので、悪いことばかりじゃありませんが。)
「実態のない経費を支払った事にした場合」も同様で、支払った方は必要経費にはならず、受け取った方は贈与とみなされて贈与税の支払い義務が生ずるということになるかと思います。
 
「国の財政が良くなろうが、税金払うのはイヤだ」という人が大半でしょうから、そういう人はどうすればいいかというと、家事の対価ではなく、何か実態のある必要経費を支払えばいいわけです。
例えば、2軒じゃなくて、ご近所の3軒が組むとします。
 
guruguru.gif
 
BさんがAさんを外注に使ってCさんに対してサービスを提供し、Cさんから1200万円もらって、Aさんに外注費1200万円を支払う。という感じで、みんなで「事業」を行えばいいわけです。
もしこの事業やサービスに実態がないとすると、「それって、架空循環取引やんけ!」というツッコミも入るかどうかということもさておき、前述のように贈与税の課税を受けることにもなると考えられますのでご注意を。
1200万円もの市場価値がある実態のあるサービスを全世帯が供給しつつ、それに対する支払額が必要経費に認められるというのはなかなか難しいと思うのですが、それが仮にできたとして、ですが。
 
これがGDPの増加につながるかというと、つながらないと思うんですね。
GDPの定義は、国内で生み出された(「売上」ではなく)「付加価値」の合計額です。
つまり、中間投入物の額は差し引かないといけない
じゃないとダブルカウントになっちゃうので。)
BさんがAさんに支払った外注費が必要経費として認められるということは、Bさんの「収入」は増加しても「所得」は増加してないわけです。(だからこそ課税されない。)
BさんがAさんに支払う額が「お給料」であるならば、賃金は付加価値なのでGDPを増加させると考えられます。
しかし、受け取るAさんの側から見ると給与所得になるので、最初に戻って、原則としてAさんがCさんに支払う額は必要経費に認められないですね。
まとめますと、弾さんのおっしゃるとおり、GDPを2倍にできる可能性はあります。ありますが、そのためには全部で100兆円くらい税金を支払っていただく、ということになるかと思います。
(これは、細かい税法の規定でたまたまそうなっている、ということではなくて、付加価値が上がるということは担税力も増加しているのが筋ですから、GDPの本質からしてそういうことになるかと思います。)
「税金は払いたくないから必要経費を払って所得ゼロにする」ということであれば、やはりそれは実態として付加価値を生んでいないのであって、(今のGDP統計の集計方法としてこれがどう処理されるかは存じませんが、定義的には)、結局のところGDPは増えないということになるかと思います。
(ではまた。)
 

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