株式(の事務)も「電子化」されていない

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本日の日経新聞の社説に、

経済社会の様々な場面でIT(情報技術)が革新し、くらしが便利になっている。だがIT化が遅れている分野もまだある。代表は医療だ。

と書いてあったんですが。
(IT化が最も進んでいる産業の一つだと思われてるかも知れない)証券界も、実はIT化が最も遅れた産業の一つなんじゃないのか、というお話。

今年の一月から「株券電子化」が始まりましたが、あれだけ大騒ぎしたので、世の中のほとんどのみなさんは、株式に係るデータは人間を介さずにすべてネットの中を行き交う未来的なイメージに変貌したと思ってらっしゃるんじゃないかと思います。
私も、「証券ビジネス関係企業間の電子的なプロトコルの仕様が整備され、それぞれの会社の暗号鍵による電子署名等で認証されたデータが暗号化されてネット上を行き交う」といった姿に変貌したんじゃないかと想像していたのですが・・・・先日聞いたところによると、証券会社間の顧客の株式の移動など、かなりの業務はまだ「紙」ベースで行われていると聞いて、結構ビックリいたしました。


つまり今のところ、業務が「電子化」(STP化)されたわけではなく、文字通り「株券」が「電子化」されただけ、ということのようです。(「何じゃそりゃ?」と思われるかも知れませんが。)

それから、前から非常に不思議に思っているのが、信託銀行等の証券代行が行う株主名簿の管理コスト。
株主に招集通知を郵送するのにコストがかかるというならわかりますが、単に(コンピュータ上でデータベース化されているはずの)株主名簿を”締める”だけで1株主当り百円単位の費用がチャージされるというのは、これまた「何じゃそりゃ?」という感じ。
(1万人株主がいたら、百万円単位ということになるかと思います。)
「データをプリントアウトするだけで1行当り百円単位で儲かる」というサービスが存在すると知ったら、金融以外のIT系の人は腰をぬかして驚くと思いますが、株主名簿が1行当り百円単位かかるというのは、(もし「ボッタクリ」でないのなら)、コンピュータ上の処理だけでは済まない、人手の介在するコストドライバーが残っているということかと思います。
こういう企業間にまたがる事務の効率化は、「プロトコル」の話で、一社だけががんばれば改善できる話ではないし、それが検討できる知識やノウハウのある優秀な人たちはほとんど大金融機関の人(サラリーマン)だから、そんな改善を急いで進めるインセンティブはまったく無いんでしょうね。
「(紙の)株券」を発行しないといけない時代には、そういうことをやるためには、店舗網や金庫といった巨額のハードウエアや、偽造を見抜くノウハウをもった人員などを抱えた非常に高コストな業態にならざるを得なかったわけですが、株券の電子化に加え、「プロトコル」も電子化されたら、そもそも、株主名簿管理人をわざわざ企業の「外」に置く必要ってあるのかしらん?
(月額数万円程度のASP的なサービスで、十分いける気がします。)
現在、信託銀行さん等の仕事は、法令チェックや株主総会指導など、多岐にわたる「総合サービス」になってるので、なかなか株主名簿管理部分だけを「アンバンドル」しにくいでしょうから、20年後も(現在の株主がリアルタイムでわかるといったこともなく)、株主名簿を締めるたびにすごい費用が発生するというビジネスモデルは継続しているのかも知れないですね。
監査費用、内部統制、社外取締役など、上場企業のフェアネスを確保するためのコストは今後もますます増大していくと思われますので、このままでは企業が上場を目指すメリットはどんどん低下していくでしょう。
削れるのは前述のような事務コストの部分だけなので、そこに競争が導入されるしくみを考えるのは非常に重要じゃないかと思います。
(ではまた。)

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3 thoughts on “株式(の事務)も「電子化」されていない

  1. 住基カードの制度なんかも「いろんなしがらみ」で電子化されてもあまりメリットがない電子化の例みたいな感じですよね。
    納税者番号制度やら国民投票やら選挙制度やら、いろいろ変革が起こせる制度の土台となりうるだけに、ここにもある「いろんなしがらみ」がもったいないと思いますね。

  2. isologueさん、こんにちは。
    えっ?!株式の電子化ってそういうことだったんですか?
    いわれてみれば、信託銀行の人たち、資料にもSTP(StraightThroughPass)を実現するとかって記載はなかったような・・・。ホフリはセンターで、そのセンターと保有者が契約している証券会社の口座(ブランチにあたる)が電子的に付替えされるのであって、ブランチ同士の移管が電子的付替えでできるシステムではないし、センター&ブランチをクロスオーバーしてスイスイとサイバー空間を行き来できるわけではない・・・ということでしょうかね?
    確かに、株式の名義書換の頻度と異なる証券会社の口座間を同一個人が株式付替える頻度とは、全然違い、後者のことまで電子空間を保証するとしたときのコストたるや・・・ということかも。
    今や金融機関は巨大な装置産業、システムの固まりであり競争力の源泉。プロトコルを一緒にすることは、システム本体にも制約が伴いかねず、各社の創意工夫も減殺され、金融社会主義になりかねないのかもしれませんね。
    証券決済なんか世界中で横串刺した日にゃー、ユーロクリア(JPモルガン系)に、資産管理の方はステートストリートに、とデファクトを握っているプレイヤーの軍門に下りかねないのかな?まあ、それでも社会が効率化しつづければ(寡占化すると進化のスピードが落ちたりして)よいのですが、この手のビジネスは装置産業&税制改正等のメンテでそんな儲からないので、シェアを握るとそれ以上のリソースを投入するインセンティブに欠けるのは否定できませんよね。

  3. 株券電子化になったら、株主総会の招集事務がスピーディーになるものと期待していたのですが、信託銀行での事務処理はほとんど従来と同じで、期間は数日しか短縮されないことがわかり、がっかりしました。
    TOBの最短期間である30営業日以内に、基準日を設定して臨時株主総会を開催できるかなあとの期待があったのですが(そうなれば、現在の買収防衛策の多くは不要になると思われます)、当てが外れてしまいました。