金融危機の「構造」はなぜ事前にはわからないのか?

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本日の日経新聞朝刊「経済教室」欄に載っていた、藤井眞理子東京大学教授の論文「再考 金融危機の真因(上) 再証券化リスク拡大招く」に書いてあったURLの先にあった、藤井眞理子教授(他)の論文のpdfファイルのURL。(メモ)

証券化と金融危機?ABS CDOのリスク特性とその評価(PDF:1,376K)
http://www.fsa.go.jp/frtc/nenpou/2008/08-1.pdf

複雑な数式がたくさん出て来ますが、結果として導出されている図は、(複雑な数式がわからないと理解できないというようなものではなく)、直感的に考えてもすんなりイメージできるものなのではないかとも思います。

 

この論文の主張でもあると思いますし、週刊isologue(第2号)「AIGの経営危機のディープな記録とその示唆」にも書かせていただいたんですが、
問題は、こういう「後知恵では『あたりまえじゃん』というたぐいの話」に対して、なぜ事前には誰も(有効に)ツッコめなかったのか、ということではないかと思いますし、その構造を明らかにし、そうした構造に対する対策を考えることは非常に大切ではないかと思います。

「変化の激しい世の中では、神ならぬ人間が、事前にこうした『システマティック』(またはシステミック)なリスクを必ず見抜けるようなアルゴリズム(マネジメントあるいはコントロール)は存在しないんだよ。」
ということなのかどうかも含め。

 

(ではまた。)

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9 thoughts on “金融危機の「構造」はなぜ事前にはわからないのか?

  1. こんにちは、isologueさん。
    “「後知恵では『あたりまえじゃん』というたぐいの話」に対して、なぜ事前には誰も(有効に)ツッコめなかったのか?”ですが、”有効に”ツッコむことは極めて困難です。
    社会的に有効にツッコめるほど影響力のある人が、この問題に気づいてたら、この問題は「わかば」になる前に摘まれているでしょうし。
    でも、社会の片隅ぐらいでは、事前にツッコミしていた人は結構いると思いますよ。
    私自身の経験でも、いくつか思い当たりますから。
    信用リスク管理のモデルの導入を研究していたときは、分散投資してもシステミック・リスクは制御しきれないので、与信量自体をβコントロールするとか、試みてました。
    顧客アカウントには、不動産のエクィティとノンリコは極力いれないように画策するとか。どうしても、入れざるを得ないとき(顧客要望)は、いづれか片方にするとか。こうしないと、不動産のキャッシュ・フローを手数料を払ってアンバンドリングした意味がなくなるからです。
    汐留のオフィスビルのエクィティと新横浜のマンションのノンリコを一緒のファンドに組み入れたんじゃ、結局不動産投資やったのと変わんない。「コンパウンド・インデックス(意図せざるインデックス)」投資を予防するためです。
    CDOも短期金利+αのリターンを要求する顧客がいましたが、同僚はCDOを企画してましたが、こっちは複雑すぎる仕掛けに、デリバティブと同じニオイ(※)を感じて、長短リスクという単純なリスクテイクのプロダクトを提案しました(結果は1勝1敗でしたが)。
    ※…エキゾチック・オプションは仕組みを複雑化してマージンを高くした”ぼったくり”プロダクト。プレーン・バニラの方が投資リスクをコントロールする上で、肌感覚でマネージできるのでお得という、経験則。
    いずれにしても、直感でワカッテた人はかなり多いと思いますし、少しは手を打っていたと思いますよ。
    でも、この歴史的事実が現出しています。
    その意味では、ヘッジファンドのレコード・バイアス(生き残っているファンドの成績を統計化しても、本来のリスク・リターン特性の”自然な姿”は把握できない)と似ているのかもしれません。

  2. コメントありがとうございます。
    私も、おっしゃるような構造だと思うんですよ。
    >「直感でワカッテた人はかなり多いと思いますし、少しは手を打っていたと思いますよ。」
    ということだと思うんですが、そういった「賢い」方がいても、結局、マクロで見ると、それで世界全体が不況になった場合のインパクトは回避できないと思うんですね。
    日本企業は、「ニオイを感じて」今回の金融危機の引き金になったような金融商品にはあまり手を出していなかったと思うんですが、だから経済パフォーマンスがよくなったかというと、全く逆でして。
    これが資本主義の宿命だとすると、我々はいったいどうすればいいのか。
    何十年前と違って、今や共産主義に走るという選択肢も全く現実的でないわけでして。
    ・・・とったあたりを引き続き考えていきたいと思います。
    (ではまた。)

  3. 磯崎様、いつもこちらのブログで勉強させていただいております。
    コメント欄でのご挨拶は久しぶりです。
    実は、わたくし、この臆病者でして、貞子ブログでは、2006年後半時点では、アメリカ不動産バブル崩壊への警鐘を鳴らしておりますし、2007年秋時点で「海外株は売る!」と叫び、2007年末には、中国バブル崩壊の警鐘を鳴らし、さらには2008年初頭前後の時点でも、資源バブル崩壊の警鐘を鳴らしており、2008年夏には、アメリカ・シティーの経営危機についても幾度も警鐘を鳴らしております。
    経済学の基礎知識である「金利とマネーサプライとGDP」の3点を見ているだけでも、景気循環のおおよその予測は可能です。
    けれども、こういった基本的な警鐘は、たいていの金融関係者や行けユケになってしまった企業にとっては、「耳が痛い」話なので、かき消されるというか、マイナーな存在になってしまいます。
    私は実はここ2年以上、売って売って売りまくって、ただひたすら「売りの貞子」だったのです。私が「ダイナミックな売り」から、二年ぶりに「ちょっこしずつの回数を二度に分けての買い」に転じたのは、2008年末からです。でも、まだ量としては、ほんの「ちょっこし」です。
    私のブログは、名古屋トヨタFS証券時代の比較的リベラルな管理下の時代から、極めて分かりやすい言葉で記しておりますので、「権威」を感じたい一般読者の方々には、評価が低かったようです。
    女性のブログですと、全国区になりますと、「頭おかしいんじゃない?」といった感想やコメントは多いですね。(^^;
    私は2008年1月にはふたたび東京に戻りましたが・・・。
    実は、この貞子ブログは、内容および質については、当時の名古屋時代のトヨタFS証券の経営陣様や本社スタッフ様や、最後はFS証券の顧問弁護士様からも「太鼓判」を頂いておったブログなのですが・・・。
    今となっては、やっぱり、もっと表だって「権威や当時は草木もなびいていたブランドをもっと上手く利用する」というのも、ブログのマーケッティングでも、とても大切だったのだと、私自身もとても反省しております。
    TB二件、送らせていただきます。

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    今日の…

  7. 「頭おかしい」とは全く思いませんが、私も含め「バブってる」ということを言ってた人は大勢いたと思いますし、この2年間「売り」で儲けた市井の方も非常にたくさんいらっしゃいます。
    問題は「予言」が(たまたま)当たるかどうかではなく、(つまり、「Survivor’s Bias」で、勝った人を事後的に見て、「予想が当たっていた」というのは、あたりまえの話であって)、「事前に」バブルの発生原因の企業や政府等に、それを打ち消すアクションを取らせられる手段(権力・論理力等)を持っているかどうかこそが重要なんではないかと思います。
    (ではまた。)

  8. 『「事前に」バブルの発生原因の企業や政府等に、それを打ち消すアクションを取らせられる手段(権力・論理力等)を持っているかどうかこそが重要なんではないかと思います。』とのことですが、
    それでしたら、やはり竹森俊平氏の「資本主義は嫌いですか』の第二部の「学会で起こった不思議な出来事」
    をサーベイされたら、だいたいの論点は既に整理されていると思います。
    2005年8月時点の世界の政策担当者た金融関係者が集った会議で、インドの経済学者ラグー・ラジャン氏が当時のグリーンスパン政策を論理的に整然と批判し、今回のような「ナイトの不確実性」が起きそうな時の対応策を提示しておりますし、このラグー氏の提案もその後はサマーズも遅ればせながら受け入れております。。
    あるいは、他の書籍(「投資銀行バブルの終焉」などなど)でも、既に日本国内で多くの識者から紹介されておることですが、やはり「BIS規制のもとでは、長短金利差の逆転」が「将来の不況を予告している」といった「経済学こ古典的な理論」が、やはり、「21世紀の大不況でも証明された」のだから、こういった「長短金利差が逆転し始めた時期」に、「ほんのちょっとのボラティリティーで大きなレバレッジを掛けずにはいられないような個別の金融機関(あるいは個別のファンドマネージャー)が、それぞれがそれぞれの利ザヤ拡大を目指す集団行動をコントロールできるように、それぞれのCEOなどの巨額な成功報酬の中に、自社株買いの割り合いをかなりの割合まで引き上げる規制を施す」ことなどが、いろいろ紹介されております。
    ここらあたりは、私も去年のブログ記事で記したのですが・・・。
    磯崎様ならもうご存じだったでしょうから、私などが磯崎様に、差し出がましいことを申しまして、申しわけありませんでした。
    僭越すぎたと反省しております。