池永朝昭弁護士のブログでのご意見について:その2

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池永朝昭弁護士のブログのシリーズ(その1その2)でご意見をいただいておりますので、それにお答えしていきたいと思います。

まず、昨日いただいた「その2」でこう言っていただいております。

磯崎氏がご指摘のとおり、磯崎氏自身も守秘義務があり、その範囲でご自身の意見を書かれることは大変難しい側面があり、私としてもそれを認識しております。
そのような困難な状況で磯崎氏が再度ご意見を発表されたことについては大きな敬意を表するとともに、私としても守秘義務からくる意見表明の限界を考慮し、論評するにあたっても、前回のエントリーでも書いたとおり、慎重な配慮と公正さに努めるものであります。

 

どうもありがとうございます。ご理解いただけて助かります。

 

目的は「偏りのない理解」です

同じく「その2」において、以下のようにおっしゃってます。

ただ、一点指摘しておきたいのは、磯崎氏の意図が「特別調査委員会の調査報告書に「反論」することが目的ではなく、辞任の経緯をご説明し、投資家のみなさま等のご理解を深めるための情報を提供することが目的になる」と言う点にあるとはいっても、特別調査委員会の認定事実に対して、「この調査報告書には、上述のような誤解を招きかねない面が多数あると言わざるを得ません。」という言い方になる(あるいはならざるを得ない)以上は、その実質が反論であることは否定しようがないということです。

 

「反論」という言葉には、相手と争い反対のことを言って相手を否定するというニュアンスがあると思います。池永先生のブログの記事にも、「特別調査委員会v前社外取締役」と、両者が裁判で争うかのようなタイトルを付けていただいており、池永先生が第三者として公正な判断をする「裁判官」役を買って出ていただいているのではないかと思いますが、私は、特別調査委員会を論破したいとか、調査報告書の存在を否定したいというわけではなく、私も独立な立場から、特定の立場に偏らない理解が世間に広まることを望んでいるだけです。

私は、この調査報告書には傾聴に値するメッセージが大いに含まれていると考えております。
しかし、この調査報告書はいくつか特徴的な手法;

  • 独立性の確保を重視した結果、報告書の作成にあたって、会社側と内容の擦り合わせを一切行わず、事実誤認の発生が避けられないしくみを、あえて採用していること、
  • 大胆に主観的な推察を取り入れていること、

などから、そのまま一般の方が読まれると、非常に誤解を招きやすいのです。

 

このため、これを社内の意識改革用に利用したり、当局や親銀行向けの報告のベースとして利用するのであれば、大きな問題にはならなかったわけですが、同社がこの調査報告書の全文を説明を加えずにそのまま公開してしまったことで、(私がブログの記事を書く前から)、雑誌、新聞の記事や法律専門家の間にも、「この調査報告書の論理は飛躍しているのではないか」「主観的に過ぎるのではないか」といった批判が出ており、結果として、調査報告書自体の信頼性を損ない、特別調査委員会の皆様にもご迷惑がかかる結果になってしまっているのではないかと思います。

もちろん、こうした手法をとられた以上、特別調査委員会の方々は、そうした批判が出ることは覚悟された上かもしれませんが、池永先生がおっしゃるように、守秘義務もありますので、特別調査委員会はそうした言説に反論するのは容易ではないわけです。このため、私も、できるかぎり中立で公正な立場から、コメントをさせていただければと考えております。

 

調査報告書のスタイルに関わる経緯

この種の調査報告書においては、調査した事実を一つ一つ積み重ね、そこから客観的・演繹的に導出できることだけを記載するというスタイルが取られることが多いと思います。一般的に、こうした調査委員会は、弁護士や会計士の方が委員になられることが多いですが、いわば、検察が証拠を積み重ね、起訴して裁判にも耐えられるようなしっかりとした論理を構築したり、監査法人が監査証拠を積み重ねて意見を形成するといったのと同様のパターンのものと言えるかと思います。

実際、独立社外取締役2名が、元検事である外部の弁護士ら多数の支援を受けて作成した調査報告書は上記のようなスタイルで作成されております。こうした調査を数多く手がけられてきたプロフェッショナルな弁護士チームによって、連日の徹夜も辞さず、徹底的な調査や改善策案の提言をしていただきました。

この内容は、特別調査委員会によっても再検証していただき、調査報告書の前半に継承されており、この前半部分の内容について両報告書の間で大きな隔たりはありません。

 

後半部分が今回の調査報告書のオリジナリティが強く出ている部分ですが、この部分は、上述のような一般的な調査報告書とは明らかに異なるスタイルとなっています。

すなわち、前の調査報告書と全く同じことをやっても意味がありませんので、特別調査委員会の調査では、組織風土といった、より抽象性の高い対象を取り扱っており、具体的な証拠を積み重ねるだけでは必ずしも到達できないような領域の提言にまで踏み込んでいただいております。

特別調査委員会に作成いただいた今回の調査報告書のミクロな部分だけを見て、マスコミ等で特別調査委員会が「論理が飛躍している」といった批判を受けるのは、公正さを欠く面があるかと思い、補足させていただく次第です。

 

池永弁護士の疑問:「なぜ別の調査委員会が設置されたか」

池永弁護士の「その2」では、「社外取締役を中心とする社内調査委員会が調査を行っているにもかかわらず、なぜ特別調査委員会が必要とされたか」という疑問を提起していただいております。

当局の調査がどうだったのかということについても触れられてますが、当局の調査の内容を開示するのは適切ではないので控えさせてください。ただし本件は、元従業員とその友人の個人犯罪(課徴金対象)として課徴金納付命令の勧告が出ていますので、こうした当局の調査に明るい方であれば、具体的に当局のどの部門がどの範囲の調査を行ったか想像はつくかと思います。

すなわち、特別調査委員会の設置が行われたのは、あくまで親銀行の要請によってと考えていただければと思います。

 

同社の今後のコーポレートガバナンスについて

同じく「その2」に、以下のようなコメントがあります。

すでに、いろいろなブログで、カブドットコム証券のガバナンスは少数株主に留意しないものとなったとか、特別調査委員会の調査報告が親銀行の意向を受けたものとなっているという論調がでております。このような影響が出る以上、投資家の判断に供することが目的であるとしても、反論も事実に即してそれを十分説明したものであるべきであることは、反論の影響度も考えれば当然でしょう。事実の明確な、かつ十分な説明をしない抽象的な表現は、逆にミスリードしてしまう危険があります。
この点について、磯崎氏は慎重に筆をはこびながらも、「親銀行の事件発覚後の管理・監督が強まる過程で経営の透明性が失われ、少数株主の利害を考慮すべき社外取締役の職責をはたすことことが難しい状況になった」という説明をされており、私はこの説明が不明確で不十分ではないかと考えております。

 

私が出席した最後の取締役会においては、「独立社外取締役2名が辞任することで、当社が世間から少数株主を尊重していないと見られる可能性が高まったので、これが今後の大きな宿題となる。」という問題提起をしていただきました。

親銀行も同社も、本質的にアンフェアなことを志向するような会社ではないであろうことはみなさんご納得いただけるところかと思います。今回、様々な経緯の中で、少なくとも私にとっては親銀行の意思決定が同社にどう影響するのかがよくわからなくなってしまいましたが、他の5名の取締役の方々は親銀行内の意思決定の流れについても理解されているので、その方々にとっても状況が不透明ということはないと思いますし、今後、同社が少数株主の利益をも考慮するための施策を取っていただけるものと信じております。

しかし、当然ですが、これは今や同社に関わっていない私が保証できる話ではありません。
私が社外取締役に留まったままでは、こうした点に永久に光があたらないかも知れないと考えて今回の決断に至ったわけですから、株主や投資家の皆様には、引き続き厳しい目で同社を見守っていただければと思います。

 

「親会社と少数株主の利益の考慮」について

池永先生が、「その1」で下記の点について触れています

1.磯崎氏の第1点「親会社と少数株主の利益の考慮」について
磯崎氏の主張は、少数株主の利益を代弁する社外取締役の意見を聞くような環境がなくなったという言い方であって、もしそうであるとすると、金融庁としては統制環境が別の意味で悪くなったという評価になり、業務改善命令下の改善計画の評価の上で考慮されることになります。つまり、そのようなことを社外取締役であった者が主張することは、会社に一定のリスクを生じさせるおそれがあります。
しかし、それがどのような事態をさしているのか、ブログには説明が十分なされているとはいえず、これだけでは良くわかりません。

 

当局が同社の統制環境をどう評価されるかは、私が論ずべきことではないと思いますが、前項のとおり、今後の同社の対応次第だと考えます。

また、私の判断の前提となっている事態の詳細については、非常に多岐にわたり、(誰が何を言った、どこに何が書いてあった、といった)詳細な点を総合的に判断したものですので、この場で開示するのはなかなか難しいということをご理解いただければ幸いです。

 

しかし、池永先生の疑問の元の一つになっているのが、

これ等の事情からすれば、磯崎氏が主張するような個々の取締役の変化がおこったとすれば、6月以降のわずか2回くらいの取締役会ではなかったかと想像されます。

 

と、極めて少ない回数の会合によって私が判断したのではないかと考えられているようですので、この点については説明させていただきます。

 

一般の上場企業では、社外取締役は月に1回 取締役会に出るだけ、という活動状況が普通かも知れませんが、同社はネット系の会社ですので、ちょっとスピード感が違います。

取締役に対しては、日次、週次、月次で同社から定期的なメールでの報告がありますし、突発的な事態が発生した場合にも適宜報告があります。また、日本ではまだまだシニアな経営者の方々の中には、自分ではメールを見たり返信したりということができない方も多いかと思いますが、同社の場合には、社外取締役は全員メールもちゃんと見ていましたし、疑問があればメールで直接質問をしてきていました。

 

同社における私の活動ですが、まず私は、社外取締役、監査委員会の監査委員の他に、会社法第405条によって選定された監査委員(以下「選定監査委員」といいます。)でもありました。

通常、同社に実際に出向くのは、それぞれ毎月1回ペースで行われる取締役会と監査委員会の他、週次で選定監査委員と内部監査室の打ち合わせを行い、同じく週次で選定監査委員と執行役を中心として出席する週次報告会で執行役からの報告を受け、質問、ディスカッションなどを適宜行っておりました。
この他にも、月次決算報告会、全社員研修会等に適宜参加しておりました。

 

上記の平常時の会合に加え、M&AやTOB等、親会社や執行部門と少数株主のの利益相反が予想される事態の場合には、少数株主への配慮するため独立社外取締役に対してはいつも真っ先に相談があり、独立社外取締役は意見書等の作成で時には連日徹夜や半徹夜という状況になりました。

今回の事件発生後も執行部門が中心となった調査では問題があると判断されたため、独立社外取締役が外部の弁護士ら多数の支援を受け、連日、同社又は法律事務所でのミーティングや、メール、電話での報告・打ち合わせ、報告書草案のチェック、コメント等の作業を行っていた次第です。

(他の会社では、そうした場合でもスタッフが作って来た書類にハンコを押すだけで済んだりするのかも知れませんが、同社は東証一部上場とはいえ100名弱の会社ですので、そうもいきません。もちろん、徹夜したり意見書や報告書を作成した分、余分に報酬がいただけるわけでもないです。:-)

このため、私が申し上げている諸々の判断は、「わずか2回くらいの取締役会」のみの情報をもとに行われたものではなく、事件発生後現在までの数ヶ月にわたる上記のようなやりとりの中で判断されているものです。

(また、こうした社外取締役としての何年もの膨大な活動を、特別調査委委員会の1時間程度のヒアリングですべてわかっていただけたとはとても思えないわけです。)

 

親子会社間の非常時のコミュニケーションとコンプライアンス

池永先生に、親銀行がいつの時点からどのように関与して来たかの疑問をいただいておりますが、この場で申し上げるのは適切でないと思います。ただ、池永先生が考えているよりはかなり早い時期からとお考えいただいた方がいいと思います。

 

今回、痛切に思うのが、非常時のコミュニケーションとコンプライアンスの関係についてです。

同社は、前述のとおり、報告・連絡・相談を非常に重視する会社で、親銀行との平時のコミュニケーションも非常に円滑だったと考えますが、ご案内の通り、本件のような事案の場合の当局の調査においては、事件に関する情報交換を社内・社外と行うことが当局によって厳しく制限されます。

親銀行から見れば、管理・監督責任も問われかねない最もコミュニケーションが必要な時期に、親銀行に報告や相談をを行うことがまったくできなくなってしまったわけです。

普通の事業会社の感覚であれば、当局から何を言われようが、こっそり親会社にも詳細を報告してしまうのかも知れませんが、ご案内の通り、金融の世界というのはそういうことをすると大変なことになりますし、同社もコンプライアンスに対しては非常に真面目な会社なので、当局に言われたとおりに情報をコントロールするとともに、親銀行に対して早期に報告をさせて欲しいということを粘り強く当局と交渉しておりました。

今回の事案は、今まで述べて来ましたように社長の経営判断なのかどうかといった詳細な説明を要する込み入ったものであるため、事件の一部だけが伝わった場合には非常に疑心暗鬼を招きやすい事案だと思います。

しかし、(当局も調査上の都合があることとは思いますが)、この親銀行とのコミュニケーションに関する許可がなかなかおりなかったため、当局から許可が出た時点ではすでに親銀行の不信感は絶頂に達していたのではないかと思いますし、それが、今回のすべての「ボタンの掛け違い」の原点になっているのではないかと思います。
おそらく、早期に親銀行のキーマンに詳細で適時な報告を社長の口から直接が行えていれば、独立社外取締役が設置した調査委員会以外に別の特別調査委員会が設置されるといった一連の事態にも至らなかったのではないかと思います。

 

当局にとっては「単なる通常の行政罰案件」であっても、企業側にとっては天地がひっくり返るような大事件であり、加えてそれによる情報遮蔽が発生し、それに、銀行の管理・監督義務、子会社上場とコーポレートガバナンスといったことが絡み合うと、非常に大事(おおごと)になりうるということですね。
これは、ここ数年で急速に強まっているリスクではないかと思います。
広く、行政、金融関係者にも認識し、考えていただきたいところであります。

 

(ではまた。)

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