暑苦しい初夏に暑苦しくがんばっております

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ネットを検索していたら、たまたま Asymmetric-BLOGというブログを発見。
ここしばらく話題にさせていただいている日本証券業協会のIPO規制について書かれてらっしゃいます。

日本証券業協会の上場引受に関する自主規制案が意味不明過ぎて…夏(
(数字部分は元は丸数字ですが、文字化け回避のために算用数字にさせていただいてます。)

このうち、特に「」に書かれている未上場株式詐欺のモデルケースについては(どういうソースの情報を元に書かれているのかは謎ですが)参考になるんじゃないかと思います。

特にリアルなのは、
「上場予定(嘘)企業の顧問(的な立場の人)」が勧誘をする
というあたりと、
「一回の出資で騙されるわけじゃなくて、一度儲けさせて、次にドカンと大きく騙す」
というあたり。

 

詐欺の要件

そもそもですが、刑法上の「詐欺」というのは、「騙す意思があった」ということが要件になっています。
つまり犯人の「心の中」を立証しないと有罪にできないわけですが、外形的な証拠から騙す意図という「心の中」を立証するというのは、一般論としては非常に大変です。

(昔書いたエントリーで、

「『少年よ大志を抱け』で有名なクラーク博士はサギで訴えられたことがある(88へぇ)」
という例をご紹介して、「詐欺」と「投資において、努力はしたけど失敗した」というのは本質的に区別しにくいものであり、そういったものを「信用」するために、歴史上どういった工夫(会計監査など)が行われて来たか、といったことを書きました。ご参考まで。)

 

そこで、犯罪を立証する側としては、「形式的にこれをやったら犯罪」という外形的で客観的な基準を作れれば、非常に楽であるのは確かです。
(このために、法令や規則がどんどん細かくなって、誰も分からない世界に入ってしまうという弊害も発生しておりますが。)

例えば、株式会社の場合、会社の役員や従業員以外の(金融商品取引業者でない)人や会社が株式の募集や私募に携わったら、それだけで金商法違反になる可能性があります。

私のところにも、数年前に「未公開株を買いませんか?」というDMが某丸の内のレンタルオフィスの住所の会社から届いたことがあります。もちろん、証券会社等ではなく一般の事業会社。
これは、対象となる会社と別の会社が募集を行っているので、「金融商品取引業者(証券会社)」の登録を受けずに株式の募集を行ったということで、金商法違反になるという可能性が高いかと思います。

 

なぜ「顧問」か

上記の、Asymmetric-BLOGさんの例では、まず、「顧問的な立場の人」が接触してくるとのことです。
この「顧問」というのは詐欺師にとっては絶妙の立ち位置なんじゃないでしょうか。

顧問というと、一般の人からは、
「偉い立場にある」
「会社からちょっと離れた客観的な位置付け」
と響く名前ですが、実は法律上「顧問」という役職が定義されているわけではありません。
株式会社の役員や職員による株式の「自己募集」は、現行法では金融商品取引業者でなくてもできることになっていますので、訴えられた場合には、毎月給料を払っている単なる従業員でした、ということにすれば、金商法違反は免れられるということなのかなあ、と。

つまり、もし金融商品取引業者の登録を行わずに第三者が募集を手伝っていたら、それだけで捕まえられると思いますが、そうでなく「役職員です」ということになれば、詐欺の原則に返って 「騙す意図があった」ということを捜査側が立証しないといけなくなります。

 

「批判への批判」へのコメント

Asymmetric-BLOGさんは、基本的に今回の日本証券業協会の規制には反対でいらっしゃるんですが、一方で、反対してる人達の態度も必ずしも快く思っていただいていないようで。

日本証券業協会の自主規制案批判への批判

以下、この「日本証券業協会の自主規制案批判への批判」へのコメントをさせていただきます。

 

マクロで考えれば「量」が必要

まず昨日も書きましたように、ベンチャーはもちろん質も大事なのですが「量」も重要です。

日本の戦後はずっと銀行からの借入がファイナンスが中心でしたが、銀行からの借入というのは、基本的には銀行1行の中で審査から融資まで、すべてが完結します。

これに対して、エクイティでのファイナンスというのは、弁護士、会計士、税理士、エンジェル、ベンチャーキャピタル、引受証券会社、証券取引所、機関投資家など、非常に多くの種類の主体が係ってはじめて、全体が回る仕組みになっています。

シリコンバレーなどだと、例えばVCが大量の金をベンチャー企業に投資し、弁護士が1時間700ドルをベンチャー企業にチャージする、といった生態系がすでに成立しているようですが、日本の場合には、ベンチャー支援をしている方々に伺っても、特に創業間もないころは、ボランティアに近い状態で係られているご様子。
会えば「儲からないねー」という話になるわけですが、ただベンチャー企業のエキサイティングさ、目がキラキラしてるところ、これからの日本はこういうやつらがもっとどんどん増えないとあかんのじゃないか、単純におもろい、といった「思い」から係っているというケースが多いんじゃないかと思います。

だから、日本証券業協会の例の規制が原案通り導入されたって、ベンチャーの数がゼロになるわけじゃありません。繰り返しになりますが、私も個人から投資を受けることを推奨しているわけではなく、むしろ非常に危険なことになるケースが多いので(一般論としては)警鐘を鳴らしているわけですし、実際に私が係った会社は、役職員以外の個人からは入れずにVCや事業会社からのみのファンディングというケースも多いです。

だから専門家に頼むようなマインドを持っているような一部のイケてる企業だけをミクロに考えれば、今、創業期などのベンチャー企業に関わっている人(私を含む)が食って行くだけであれば、どういう規制が入ってもなんとかなるのではないかと思います。
むしろ規制がややこしくなったり、規制を回避する必要がある方が、コンサルティングのニーズは高まる可能性があるくらいです。ミクロに短期的に見れば。

しかしもっとマクロに長期的に、起業自体を増やそうといった場合には、「量」も必要になってきます。

起業(特に創業期に近いところ)に関わって、そうした実態に詳しい方ほど、「なんとかしなくちゃ」という思いは強いのではないかと思います。

 

日本全体の経験量はまだまだ足りない

日本のベンチャーファイナンスにおいては専門家も不足しています。

基本的には1行の中でファイナンスが完結する銀行と違って、頭取や企画室の号令一下、人材教育予算を取って一斉に勉強させて、というわけにもいきませんから、個々の専門家等が、日常の仕事の中で少しずつ勉強していくしかありません。つまり、そういう種類の仕事が発生しないといけない。
日本では、IPOまで考えたベンチャー企業のエクイティファイナンスを見られる専門家というのは、非常に少ないし、ましてや優先株式等などが入って来ると、とたんに一桁専門家の数が減ってしまうことになります。

未公開株式詐欺だって、未公開株式の実務を体験したことがある人が身近にゴロゴロいれば、騙される確率も(ゼロにはならなくても)減って来るというもんではないかと思います。

ベンチャー企業が増えないと専門家も増えないのですが、専門家がいないとベンチャー企業も増えません。
いわんや、本格的なファイナンスをするベンチャー企業の数が何割も減るような施策を取られてしまうと、「生態系」自体が発展していけません。

よくネットバブルが批判されますが、やはりあそこで「量」も増え、いろんなプラクティスやひな形、法解釈等が定まって来たし、ベンチャー企業の実務がわかる専門家の層の厚さも、20世紀までとは段違いになってきているのではないかと思います。

この層がもっと厚くなる必要があると思います。

また、上場したベンチャー企業の経営者の方々で、なんとか後進を育てよう、そのためには投資もしよう、という方も増えて来ていると思います。

 

日本だけ孤立してやっていけるのかしらん?

先ほども海外の弁護士と昼飯を食っていて、
日本ってstart-upsに投資するにも優先株も使えないってんで、外国の投資家はみんなバカにしてますよ。それなら韓国や中国に投資しちゃった方がいい、ってね。」
てなことを言われまして、
「おっしゃるとおりでごんす。」
としか返す言葉がなかったわけです。

繰り返しになりますが、それだって、一部のイケてるベンチャー企業だけミクロに見れば、「別に海外から投資を受けなくてもいいわい。外国人は去れ!国内だけでもいかようにでもなる」とも言えるわけです。
1兆円投資してもらおうというのであればともかく、通常のベンチャー企業に必要なファイナンスはせいぜい数億円程度ですから、その程度であれば、国内にいくらでも金はあるわけでして。

しかし、2番目の論点です。
もし、「エンジェルはダメ」「海外投資家はダメ」ということで、投資対象の選択肢がどんどん絞り込まれていくと、相対的一般論的にベンチャー企業の交渉力は弱くなって、より不利な資金調達しかできなくなってしまうわけです。

「日本で上場できないならKOSDAQとかに上場すりゃいいじゃん」といった意見もよく見かけるのですが、海外でIRする「コスト」がどうかという以前に、海外でしか上場できないのと、海外選択肢にある、のとでは違うわけです。

 

不確実性の存在は企業価値を下げる

また3番目の論点として、将来のIPOに不確実性があれば、内容は同じベンチャー企業でも、現在価値は下がってしまいます。このため、不確実性を取り除く必要が出てきます。

例えば、海外で上場を経験して財産もある個人投資家が日本の企業に1億円投資しましょうか、というときに、専門家に調べさせたら、当然、「日本ではこういう規制があるので、個人で投資するとIPOに不確実性が出てしまう」ということになります。

ところが、ファンド等のスキームを組んでコスト的にペイさせるには1億円程度というのはちょっとサイズが小さい。(数百万円しかコストがかからなくても、それだけで数%利回りが下がるわけです。)

 

不確実性の解消プロセスがボトルネックになる

個人投資家が投資できない場合にはIPOができない可能性があるという規制が導入されても、日本証券業協会で事前確認制度のようなものを作ってくれて、投資を受ける際にチェックが受けられて、それがうまくまわればいいのですが、考えてみるとこれはうまくいかない。

もともと詐欺を防止するのが目的なので、協会も何も見ずに「お金持ちだったら上場申請のときに必ず通しますからOKですよー」といった安請け合いをするわけにはいきません。
その会社が明らかに実態がIPOする感じでなかったら困るわけです。その会社のビジネスモデルのチェックや、関係者に反社会的勢力がいないかどうかのチェックなど、結局は上場申請時に準ずるようなプロセスを踏まないとOKは出せないでしょう。

例えば、設立したばかりの会社が 500万円程度調達するのに、上場申請時と同様の(へたすると数百万円から1千万円以上コストがかかるような)プロセスを踏むというのは難しいでしょう。

協会のほうも同様です。
協会はもともと取引所と違って上場審査の体制は基本的には無いと思いますし、そもそも個人から資金調達する可能性のある会社の数は、上場申請する会社の数の、何十倍、何百倍と存在するわけです。その何割かから事前確認申請をもらっても、とてもじゃないけど審査できないはずです。

「資本主義の死」という言葉がお気に召さなかったようですが、こうした表現を用いたことも同義です。

ここの最後の方にも書きましたが、日本証券業協会がいくら優秀な組織であっても、そこが、「いいベンチャー」「悪いベンチャー」を区分するのは、上述のように投資プロセス上のボトルネックになってしまうわけで。

もちろん、資本主義の死といっても、「経済が死滅する」のとはわけが違います。

資本主義(市場経済)というのもいろんなタイプがあると思いますが、そもそも「主義」というくらいで「考え方」のお話です。
資本を調達するのに、役所に準ずるような公的な組織にいちいちお伺いを立てないといけず、そこがボトルネックになるというのは、どんなタイプの資本主義の考え方とも異なるのではないかということです。

 

暑苦しくてすいません

上記のとおり、日本のベンチャー企業をサポートする仕事は、まだとても「ビジネス」とはとても言えないことが多くて、「金儲けのため」というよりは、何らかの「思い」にかられて手伝ってるケースが多いんじゃないかと思います。
(少なくとも、私が交流させていただいている方々は。)

ということで、そうした「思い」から、暑苦しい感じの書きっぷりになりがちではありますので、表現がお気に召さなかったら申し訳ありません。

 

切込隊長にも「暑苦しい」とお叱りをいただいておりますが、私も早く、涼しげな感じで仕事ができる環境になればいいなあとは思いつつも、上記のとおり、構造上、一朝一夕に問題が解決するわけではなく、あちこちの「卵とニワトリ」が解決しながら、「生態系」自体を盛り立てていかないといけないので、もうしばらく、暑苦しい感じでご迷惑をおかけするかと思います。

今後とも何卒涼しげな感じで見守っていただけますよう、よろしくお願い申し上げます。<(_ _)>

 

(ではまた。)

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1 thoughts on “暑苦しい初夏に暑苦しくがんばっております

  1. アゴラではあんな風に書いておきましたが、香港にしろ、韓国にしろ、その地の投資家を説得できる案件でなくては上場できないわけです。とすると、そうした高度のIRを外国語でできる経営者しか、資本需要を満たせなくなる。日本の市場が必要としているサービス、産業に資本投下されるのではなく、香港・韓国市場の投資家が納得するサービス、産業しか発展しない。日本でコツコツと雇用を創出する、社会的評価の高い会社ではなく、海外の投資家受けがいいベンチャー企業ばかりが得をする(これが一番政治家に分かりやすいかな)。そんな経済社会が出現してしまっていいんですか?...なんて妄想も頭をよぎります。