日経ビジネス2004年7月19日号の特集「人気弁護士ランキング」で税務部門第1位になった鳥飼重和弁護士の鳥飼総合法律事務所のホームページに、東京高裁ストックオプション訴訟の判決文(平成16年8月4日)が載りました。
東京高裁の判決文(PDF)
http://www.torikai.gr.jp/zsoshou/stock/news/stock040804.pdf
日本のコンパック株式会社の従業員だった人(被控訴人)が米国コンパック社からもらったストックオプションを一時所得でなく給与所得であるとして更正処分をされたことについて争っていたものです。
前記の判決文を読むと、「ストックオプションとは何か」「ストックオプションから得られる所得というのはどういう性質の所得なのか」「日本におけるストックオプションの歴史と、税務署がストックオプションに対してどういう指導をして、その指導がどう変遷してきたか」、というのがよくわかって非常にためになります。
8月5日の日経新聞朝刊の記事は以下の通り。
ストックオプション(株式購入権)で得た利益は所得税法上の「一時所得」か、税額が約二倍になる「給与所得」かが争われた訴訟の控訴審判決が四日、東京高裁であった。秋山寿延裁判長は「労務の対価として使用者から受ける給付に当たり給与所得に該当する」との判断を示した。
その上で、国税当局の課税処分取り消しを求めた米コンパック・コンピューター(現ヒューレット・パッカード)日本法人の元監査役の請求を認めた一審・東京地裁判決を取り消し、請求を棄却した。
同種訴訟の地裁レベルの判断は分かれているが、高裁判決は今回が五件目で、いずれも給与所得と判断して国税側が勝訴している。
まあ、確かに広い意味での労働の対価として付与されているのは明らかですからね。
ただ、ひどいのは、税務署は昔はストックオプションを一時所得として指導してきたのに、平成10年頃から給与所得であるという風に指導を変えてきて、被控訴人はそうした指導に従って申告したのに更正処分をされた点。
高裁判決はこの点について、「ま、怒るのもわかるけどね」(P40)と言いつつも、理屈としてはやはり給与所得だし、他の人は給与所得として申告してるのだから、
「課税処分が信義則に違反して違法となるためには、このような租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお、被控訴人の信頼利益等を保護しなければ正義の要請に反するといえるような特段の事情が必要であるというべきである」
が、被控訴人にそれほど特段の事情もないので、これを給与所得として課税しないと
「給与所得として申告し、納税した者との間に著しい不公平を生ずることになり、かえって正義に反する事態が生ずるといわざるを得ない」
ということで、あっさりうっちゃってます。
鳥飼総合法律事務所の高裁判決に対する反論
http://www.torikai.gr.jp/zsoshou/stock/news/040818.html
では、この信義則違反をどうしてくれるんだ、という点と、ストックオプションの行使益は親会社じゃなくて株式市場からもらったもんだし、親会社もストックオプションを費用計上してないじゃないか、という2点について反論しています。
2番目の反論も、ストックオプションの費用計上問題でちょっと弱含みですが。
前にも申し上げましたが、やはり、今後は「税務署の人が書いた本にこう書いてあった」とか「税務署に聞いたらこう言ってた」ということでなく、法律そのものをよく読んで、理論的にはどう解釈できるんだ?ということを考えないといけないようですね。
大変参考になりますので、ご興味のある方はぜひ、ご一読を。
(では。)
[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。
ストック・オプション会計基準は平成18年4月1日以降から適用で調整
e-トーマツより :企業会計基準委員会(ASB)のストック・オプション等専門委員
遅ればせながら、ストック・オプション課税判決について(1)
ちょっとネタとしては新鮮さを欠くのですが、遅ればせながらストック・オプション課税訴訟の最高裁判決の原文を読みました。
それにしても、これだけ大きなインパクトがあって、かつ、社会的にも注目されている判決として、こんなにシンプルでいいのか(・・・しかも`..
租税法律主義
先日掲載しましたが、「ストックオプション裁判 最高裁判決」について追記します。
この事件の問題点は、
・行政庁が、いったん公式に合法と認めていた解釈を、昔にさかのぼって否認したこと
・最高裁が、それを認めてしまったこと
です。
この判決の問題点に関…
こんにちわ。
>今後は・・・「税務署に聞いたらこう言ってた」ということでなく、
>法律そのものをよく読んで、理論的にはどう解釈できるんだ?ということを考えないといけないようですね。
とのこと、「役所の言うことは必ずしも信用できるというわけではない」という意味になりますが、残念ながらそのようですね。
TBいたしました。