ゴルゴ13には、よく「スイス銀行」の口座が出てきます。(最近あまり見かけないような気もしますが、)本日は、「まだゴルゴの口座はスイスにあるのか?」というお話。
ゴルゴ13の資金はマネロン規制の対象となるか?
世界のマネー・ロンダリングとテロリスト資金対策については、FATF(Financial Action Task Force)という国際機関において、政策が策定されてます。
The Financial Action Task Force (FATF) is an inter-governmental body whose purpose is the development and promotion of policies, both at national and international levels, to combat money laundering and terrorist financing. The Task Force is therefore a “policy-making body” which works to generate the necessary political will to bring about national legislative and regulatory reforms in these areas.
この組織は1989年に設立されたのですが、当初は麻薬に関する資金のマネー・ロンダリングだけを対象としていたのが、1995年のハリファクス・サミットを受けてマネロンの対象犯罪を麻薬関連から「重大な犯罪」に拡大、さらに2001年の「911」の後、テロリストの資金も規制の対象としました。
ということで、ゴルゴ13の資金も現在ではズバリ、マネロン対策の対象に該当することになっています。
日本での対応
日本においては、このFATFの行った「40の勧告」(和訳はこちら)の第26番目の勧告、
各国は、国の中央機関として、疑わしい取引の届出や他の潜在的な資金洗浄又はテロ資金供与に関する情報を受理し(かつ可能であれば要請し)、分析し、提供する役目を果たすFIU を設立すべきである。FIU は、疑わしい取引の届出の分析を含め、その機能を適切に遂行する上で必要となる金融情報、行政情報及び法執行に関する情報に、時機を失することなく、直接的又は間接的にアクセスすべきである。
で、FIU(Financial Intelligence Unit)の設置が義務づけられているのを受けて、金融庁の総務課の中に「特定金融情報室(Japan Financial Intelligence Office)」が設置されてます。
また、金融機関等は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第54条に規定する「疑わしい取引の届出」を行う義務があり、具体的には「疑わしい取引の参考事例」で「こういう取引は当局に届け出ろ」という例が定められています。
こちらにあるように、疑わしい取引の届出件数は急増していますが、下図のように、届け出る業態はほとんど銀行等。
(出所:金融庁特定金融情報室)
特定金融情報室では、マネー・ローンダリング対策に非協力的な国・地域のリストを作っていますが(http://www.fsa.go.jp/fiu/fiuj/fn001.html参照)、過去一年あまりで、バハマ、ケイマン、リヒテンシュタイン、パナマ、イスラエル、レバノン、ロシア連邦、グレナダ、セントビンセント、グレナディーン諸島、グアテマラやウクライナなどの、「いかにも」というタックスヘイブンや国際スパイ小説に出てくるような国も、法律の制定や取り組み体制を作って「協力的」になったとして、次々にリストからはずされていきました。
平成16年7月13日付「疑わしい取引の届出に関して特別の注意を払うべき取引の該当国の削除について」によると、未だに「非協力的」な国は、
クック諸島、インドネシア共和国、ミャンマー連邦、ナウル共和国、ナイジェリア連邦共和国、フィリピン共和国
6カ国だけとのこと。
リビアとかイランとか、いかにもそれっぽい国も入ってませんが、それ以外に「スイス」は「先進国」でもあり、また、仮にも銀行に関する「BIS規制」で有名なバーゼルの国際決済銀行(Bank of International Settlement)ある国でもありまして、「非協力的な国」には入っていないことに注目です。
スイスのプライベートバンキングとマネロン規制
スイス公共放送のサイトswissinfo.orgの「マネーロンダリング取り締まり スイスの実態」という記事によると、
スイスの金融機関はマネーロンダリング防止法により、入金があった場合、組織犯罪などに係わっている疑いがあるだけで、当局へ報告する義務がある。
とのこと。
一方で、スイスでは銀行員は顧客の秘密を漏らすと懲役刑まである他、「脱税」は犯罪ではなく国と納税者の「民事」の話だとして、こうしたマネーロンダリング規制による通報の対象とはしないという話もあります。さらに、スパイ映画等に出てくるスイスのプライベートバンクのイメージだと、銀行側は極力、顧客に都合のいいように「気づかなかった」という解釈を取ることとは想像されますが、さすがに、その資金がマスコミ等で大っぴらに犯罪者のものだとバレてしまった場合には、凍結等のアクションを起こさないと行政処分を受けることにはなっているのではないかと思います。
同記事においても、
マネーロンダリング管理当局は年間、数百件のマネーロンダリングの疑いがある資金の流れを調査しているが、2003年に営業差し止めとなった機関は7件だった。
「件数が実態をあらわしているわけではない」と語るのは、同管理局のディナ・バレギール氏。3年前から、銀行以外の金融機関を担当する。マネーロンダリングとしての事件が管理局から摘発される件数は少ないが、これは「各金融機関が、顧客情報を徹底して集めるようになったため。マネーロンダリングが目的の客は、受け付けなくなっている」と今の制度が効果的に機能していると自信がある。
通常、管理局は企業の届け出リストや新聞などの報道を通して、違法行為を発見しているが、警察などの関係当局および個人の通報も寄せられるという。
と、まだまだ不十分としながらも、スイスのプライベートバンクであっても治外法権ではなく、国際的なガバナンスの枠組みに組み込まれつつあることが伺えます。
また、記事にもあるとおり、実際に、日本の「ヤミ金の帝王」やロシアの石油王等の口座が次々に凍結されているのもご存じの通り。
まあ、ゴルゴ13の場合には、通報したり預金を凍結しようとしたりしようものなら、そいつの眉間に、
「ボッ」
という音とともに黒い穴が開くことになると思いますので、まだスイスに資金を置いているのかも知れませんが。
(ではまた。)
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