郵政民営化は現在、純粋持ち株会社傘下に窓口会社、郵便事業、郵貯、簡保の4会社を置く方向で話が進んでますが、これはイギリスの公社化の方式を参考にしたものと思われます。
前にも書かせていただきましたが、かれこれ15年以上も前に(今は無き)某お役所殿からの受託調査で、ヨーロッパの郵便事業の経営方式の状況について調査しに行ったことがあって、イギリスはその当時すでにこの4分割方式を採用していました。
イギリスの郵政公社にヒアリングに行ったら、かなり上のクラスの方が対応してくださったのには驚きましたが、それよりビックリしたのには、いただいた名刺の名前の前に「Sir」が付いていたこと。(そのとき生まれて初めて見たもんで。)
名刺に「MBA」とは書かないけど「Ph.D」は書いていいように「Sir」っていうのは「名刺に書いていいこと」なわけね、ということがそのときわかりました。ご自宅はやっぱり門から玄関まで車で5分くらいかかるのかしらん、とか、こうした中央官庁で働いてるのは、「noblesse oblige」なのかしらん、それとも、結構家計が苦しくてらっしゃって仕方なく働いてらっしゃるのかしらん、というような失礼な考えが頭を駆けめぐりましたが(0.1秒)、ご本人は絵に描いたような英国のジェントルマンで、極めて親切に対応してくださいました。
そのとき非常に印象的だったのが、「4分割で一番大変だったのが、管理会計制度とそれに必要な契約体系の構築だった」というお話。
つまり、今までは4事業一体だったので会計も「ドンブリ」でよかったわけですが、4事業が別々ということになると、例えば「郵便局で切手を100円販売したら、郵便事業が窓口会社に手数料を10円支払う」とか「郵便物をこのくらい運んだら報酬としていくら支払う」というような、業務委託契約とか運送契約などの「契約」を新たに数万種類(!)作る必要があった、ということ。
役所の方々では全く管理会計がわからなかったので、そうした膨大な体系の構築は「Price Waterhouse(現在のPriceWaterhouseCoopers)に依頼していっしょに膨大な体系を構築していった」、とのことです。
今までの方式は「現金主義」的な会計だったので、切手が非常に売れる郵便局は売上げが大きいが、郵便の配達は非常に多いが切手は全く売れない郵便局は売上げゼロ、というように、収支では郵便局別のパフォーマンスがまったくわからなかったわけですが、4分割して、よく考えられた(普通の民間企業なら締結するような)契約体系を構築すれば、郵便局別の利益が業績を表すようになるわけです。
現在の郵便公社の管理会計がどこまで進んでいらっしゃるか存じ上げませんが、4事業への分割のいいところは、このように自ずと各郵便局別の採算性があぶり出されてくるところかと思います。現在の郵便局ネットワークを過疎地域などでもそのまま残すかどうかはまた別の話ですが、少なくとも、ある店やある地域のネットワークを維持するのにどれくらいのコストがかかっているのか、についてはガラス張りにした上で議論する必要があるかと思います。
しかし、あれから15年以上・・・。あまりにノロい歩みとも言えますが、日本もやっとここまで来たか、という感じで感慨深いです・・・。
(ではまた。)
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