今週の週刊ダイヤモンドの記事「UFJ問題の思わぬ波紋 大和証券が米国上場凍結へ」
より。
大和証券グループ本社は、ニューヨーク証券取引所(NYSE)への株式上場計画のために会計監査などに年間1億円も追加コストをかけてきたそうですが、
エンロン事件をきっかけとして、米国では二〇〇二年七月に企業改革法が施行された。同法では、経営者が会計報告書に間違いがないことを宣誓しなければならない。仮に虚偽記載が認められれば、最長で二〇年の禁固刑という厳罰が処せられる。
という状況になってきたため、
「毎年一億円も払って、なおかつ逮捕されに行くようなものだ」と同社幹部は本音を打ち明ける。
ということで、NY公開計画を打ち切った、という記事。
公開企業のみなさん、および、将来株式公開を考えてらっしゃるみなさん。一般の会社ならともかく、公開のサポートがご本業の会社が(ご本業の会社ですら)そうした判断をする、というのはよく考えてみるとスゴいことですよ。内部統制のしくみを整えたり、取締役が適切に経営判断したりするといった、「逮捕されない(程度の)」コーポレートガバナンスの仕組みを構築するのも(実は)かなり難しいと判断されている、ともとれるわけですから。
では米国上場せずに日本だけで上場していれば安心か、ということですが、幸か不幸か、日本でも確実に米国と同様の状況になっていきますので、念のため。
(ではまた。)
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企業の社会的責任に対する投資家や社会の関心は高まる一方なので、その責任追及を恐れて上場しないという選択は、対処療法的な印象を拭えないですね。
米国の基準をクリアする勢いで経営陣がコーポレート・ガバナンスに取り組んでくれれば安心出来るのですが、逮捕されないために上場しないと言われると、じゃあ逮捕されるような可能性が常に潜んでいるんだなと疑いの目を向けたくなってしまいます。
こんにちは。コメントありがとうございます。
この記事の読み方はいくつかあると思います。例えば、
1.具体的に「やましい」ことがあるわけではないが、「紺屋の白袴」で、自社の内部統制システムには今ひとつ自信が持てないので止めた、という見方。
2.真実を深く知る「プロ」だからこその決断であるという見方。普通の会社は、あまりコーポレートガバナンスに関するリスクなど考えないと思いますが、大和證券さんは、そのへんを非常に深く考えているからこそ、(日本で公開していれば資金調達等にはとりあえず支障がないわけで)、リスク・コストとリターンを考え合わせて合理的な選択をした、という見方です。
確かに、日本では大手証券で行政当局ともツーカーでいらっしゃるので、リスクは一定の範囲内にコントロールできるかも知れませんが、専門家とはいえアメリカでは当局との距離は日本よりはあるでしょう。
また、1万人以上の企業集団の活動を集計する会計システムを経営者個人が適正に保つことが必ずできるのかどうか、ということを理論的に考えていくと、全知全能の神ならぬ人間としては「絶対」というのは非常に難しいわけで。
代表訴訟など経済的なリスクは、取締役保険などでヘッジできますが、刑務所に入るのは保険ではどうにもならないですし。
3.(おっしゃるように)実際に、たたかれるとホコリがでそうな具体的事例がいろいろ思い当たったのでコワくなってやめた、という見方。
などなど、かと。
(では。)