過激な条件のMSCBは商法違反ではないのか?

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MSCB(転換価額修正条項付転換社債、Moving Strike Convertible Bond)について、いろいろ見てきましたが、過激な条件のMSCB(例えば、毎日、前日の株価で転換価額が下方にのみ修正され、しかも下限が無いもの)などは、商法違反になることもあるのではないでしょうか?
転換社債(転換社債型新株予約権付社債)を発行する際の公告には、下記のようなことが記載されているのですが、

本新株予約権の発行価額及び本新株予約券の行使に際して払込をなすべき金額の算定の理由
新株予約権は、転換社債型新株予約権付社債に付されたものであり、本社債からの分離譲渡はできず、かつ本新株予約権が行使されると代用払込により本社債は消滅し、本社債と本新株予約権が相互に密接に関連すること、並びに、本社債の利率及び発行価額等のその他の発行条件により得られる経済的な価値と市場環境等を勘案した本新株予約権の価値を考慮し、その発行価額を無償とした。また、本新株予約権付社債が転換社債型新株予約権付社債であることから本新株予約権1個の行使に際して払込をなすべき額は本社債の発行価額と同額とし、当初転換価額は2004年9月21日の東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値を47.08%上回る額とした。
(10月19日に発行される日立製作所のCBの例。途中2回のみ転換価額を修正。)

公開会社の最近のCBは、額面どおりの価額で発行され利息も付かないことが多いので、すわなち、新株予約権のオプション価値が、その企業が新株予約権の付かない普通社債なら支払うべき利息の代わりに、新株予約権を付与しているというのが経済的実体かと思います。
また、こうした転換社債の発行は、ほとんどすべて、取締役会(または委員会等設置会社において権限を委任された執行役)が決定しているわけですが、

第三百四十一条ノ三
� 第二百八十条ノ二第三項第四項及第二百八十条ノ二十一第一項ノ規定ハ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ノ新株予約権ヲ付シタル新株予約権付社債ヲ発行スル場合ニ之ヲ準用ス

ということで、新株予約権付社債の場合においても、「特に有利なる条件」で第三者に対して新株予約権を発行することになる場合には、商法280条ノ21を準用して、

第二百八十条ノ二十一
 株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ新株予約権ニ付テノ前条第二項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第三百四十三条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ取締役ハ株主総会ニ於テ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルコトヲ必要トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス

株主総会の特別決議(出席株主の3分の2以上の賛成)を必要とすることになってます。
つまり、オプションの内容が「特に有利なる条件」になっているにもかかわらず、株主総会決議を経ないで発行した転換社債は、商法違反であり、「無効」ということにもなりかねないと思われますが、どうなんでしょうか。
(続く)

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1 thoughts on “過激な条件のMSCBは商法違反ではないのか?

  1. はじめまして。いつも興味深く拝見させていただいています。
    CBにおける、特に有利なる発行条件については、平成13年11月改正の際に相当な議論があったところです( http://www.jsda.or.jp/html/oshirase/CBWGreport.html 参照)。このあたりの議論を意識していれば、発行価額無償としていても、ある程度評価の裏付け等をとってやっているのだと思いますが、なかには実際の訴訟事例がないので、とりあえず当初転換価格が時価を下回っていなければいいといった程度の認識のところもありそうですね。
    ただ、新株予約権付社債については、無効の訴えができないという判決が東京高裁で出てしまったので(東京高判平成15.8.20金商1196号35頁)、実際に争うことは難しそうです。(この判決もかなり問題が多いと思いますが・・・)
    下限のないMSCBについては、ご指摘のような問題のほかにも授権枠保留規制(222条の2第3項が準用)との関係も問題となり、最悪、新株発行ができなくなるという事態すら起こり得るのですが、ファイナンスの実務では余り意識されていないようです。
    何れにせよ結局紛争が起きないと、こうした点は検証されずに終わってしまうのですよね・・・