中国のヤミ金融と「発展段階ごとの規制」

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今週の日経ビジネス(2004.11.22号)の記事、「預金者の銀行離れを防ぐ必死の策か−中国、利上げの深層」(BusinessWeek提携記事)より。
中国の銀行預金の金利は、

10月の利上げ後でも、期間1年の定期預金の金利はたかだか2.25%と、インフレ率の5%を下回る。

と、マイナス金利状態なのに対し、民間の(地下)融資市場は、

厳密に言えば、すべて違法だが、グレーな市場がどんな融資を実行するにせよ、貸し手は8〜20%の利回りを得られる。
20%という貸し出し利回りは、どんな時代でも預金金利を上回る。CSFBのドン氏の資産によると、8月と9月の2ヶ月間でざっと170億ドルの預金−中国のGDP(国内総生産)の1.2%に相当−が公式の銀行から引き出され、ほかへ投資された。

ということで、すごい勢いで「ヤミ市場」に資金が流れ込んでいる模様。
対する銀行は、

今後12ヶ月間で2ポイントほど金利を引き上げる(政府高官らは、その間インフレ率は3%程度まで低下すると予想している。)

ということですが、そううまくいくかどうか、というところ。
見方を変えれば、こうした「ヤミ」市場が発生するのは、(コンプラ的にはともかく)、「経済」としては元気な証拠ではないかと思います。もし、需要も供給も存在するのに、その間に国営銀行がどーんとのさばって、しかるべきところに資金が流れず経済が落ち込んでいくというのは完全に硬直化した経済でしょうけど(他の旧共産主義国は概ねそうなんじゃないでしょうか。)、中国の場合、ちゃんと「オルタナティブな資金供給手段」が生まれてきて、それがちゃんと機能して競争原理が働いているわけで。

国営企業が4大国営銀行から安くカネを借り、その現金より高い金利で民間の借り手にまた貸しすることもザラにある。

というしたたかさ。おまけに、

もう1つ、グレーな融資市場の驚くべき側面は、その相対的な健全さである。(中略)どんな調査報告を見ても、非公式融資のデフォルト(債務不履行)率は非常に低い。貸し手と借り手は通常、仕事上の取引や学校、地域社会を通じてお互いをよく知っている。
また、しばしば親族が担保を差し出すため、デフォルトはまず考えられない。「カネを出した親族がメンツを失うからだ」(CSFBのドン氏)。

ということで、融資スキームの柔軟性だけでなく、審査能力や融資システムの効率としても、「ヤミ」の方が効率がよさそうですね。
以前、「グラミン銀行と小規模融資のビジネスモデル」でも書きましたが、日本でも昔は、「無尽」(講)が日本のあちこちにあり、これが相互銀行になり、第二地銀になってきたわけです。このアナロジーで考えると、中国でも、こういう「ヤミ金融」を法律違反と目くじらを立ててツブしにかかるよりは、むしろ合法化して表に出してやる政策を取る方が、より「毛細血管」が発達し、体(国)も大きくなれるんじゃないでしょうか。
ちなみに、私はもちろん「ヤミ金融万歳」と言ってる訳じゃなくて、経済のフェーズによって、経済のプラスになる規制のしかたは異なってくるんじゃないか、と申し上げているわけです。
今の日本で、消費者や零細企業向けの融資を行う(貸金業登録していない)ヤミ金融には、ほとんど「社会的」メリットは存在しないと思いますが、一方で、仮に米国がヘッジファンドを規制する時期にきているとしても、日本もそうかというとどうなんでしょうか。
証券自由化後5年しか立っていない「共産主義から資本主義に転身中」の日本において、証取法等の改正をしてファンドビジネスに対する締め付けを強化することは、証券自由化後数年でせっかく育ちかけた「毛細血管」を詰まらせてしまうことになるんじゃないか、とも危惧しているんですが、どう思われます?
(ではまた。)

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