切込隊長氏がかなり日本振興銀行に興味をお持ちのようで、同行の「内紛劇」に対して、関係各方面にヒアリングしてブログにコメントを書かれていましたが、これに対して木村剛氏から「事実に基づかない風説である」旨の反論が行われて(盛り上がって)ます。
切込隊長BLOG「木村剛2 〜クイズ17人に聞きました」
http://kiri.jblog.org/archives/001251.html
週刊!木村剛「切込隊長、本当に残念です。でも、ありがとう。」
http://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2004/12/post_20.html
どちらのおっしゃることが本当なのかというのはあまり私の関心事ではないのですが、ベンチャーの資金調達に関連する仕事をしている者として、「既存の銀行の貸付対象先とならない中小企業への資金供給」や、日本振興銀行のビジネスモデル(がうまくいくのかいかないのか)には以前から興味がありました。
以下、上記の切込隊長BLOGからの引用です。(また、この引用には木村氏が「事実に基づかない風説である」と主張される部分が含まれる可能性がありますので、その点ご了承の上、お読みください。)
○ 無担保で貸付をする業態について
経済紙記者「日本振興銀行については初めから採算性に疑問符がついていました」
山本「それは無担保であり不良債権の発生を防ぐ方法がなかったからだということですか」
経済紙記者「それだけではなく、むしろ金利面や審査面でやはり不利だからというのが大きいですね」
山本「それは、信用保証協会つきで5%前後で1,000万までは借りられるからですか」
経済紙記者「話としては、やはり中小企業総合対策の時限立法が消化されて、借りづらくなったからだという意見もあるが、実はこの手のノンバンクも従来の金利で借りてくれる層の筋が悪くなってきて、不良債権率が上がってきたというのが大きい」
山本「日本振興銀行の設立に前後して、ほかの大手ノンバンクが銀行設立の申請を検討したという話に関連するでしょうか」
経済紙記者「ひところの『目玉を売れ』騒ぎが落着してみれば、充分な金利の取れる優良な貸し先のロールオーバーを地銀や信金にかなりもっていかれた」
山本「追い貸し状況が継続していると言うことですか」
経済紙記者「だから、保証人や担保設定をできるところがこれらの銀行より高い金利を設定されて借りに来るはずがないという判断があったのではないだろうか」山本「無担保で大手から資金を借りることのできない中小企業に貸付をやるというのは、そもそも誰の方針だったんですか」
関係者「私はきちんと担保なり保証人をつけて、ノンバンク的な手法を銀行に持ち込むことが新しいと思って日本振興銀行を立ち上げようとしていたんです。パートナー制度だって、ほかの方法だって、従来の銀行がやりたくてもできない債権回収という手段をどう容易に実施するのかというノウハウを考えてのことだったんですよ」
山本「なるほど。で、日本振興銀行が無担保で貸付を行う方針に固執していた方はどなただったんですか」
関係者「木村氏。うまくいくはずがないでしょう。中小企業なんて長期貸付したって返せませんよ、そんなもの。うち(オレガ)だって貸付をしたその場で引き当てを全額やる。だから不良債権なんて出るわけありません。少しでも不良債権が出るようなやり方は新銀行にとって命取りだ。第一、自己資本だって満足にあるわけじゃないんだから」
山本「それじゃあ15%という金利(註:金融庁が指導する銀行法に基づく最高金利)では融資側がリスク丸被りですしね」
関係者「そうそう。だって中小企業なんて長期で貸付したら年間37%は貸し倒れる。それを債権回収のもっともむつかしい無担保融資なんて業態で、しかも金利15%が上限なんて回るはずがない。リスクを銀行側が過剰に負う仕組みになっている、そういうことですよ」
この「関係者」氏がおっしゃる「中小企業向けの15%以下での貸し付けというビジネスモデルがうまくいくはずがない」というのは、全く当たってないとも言えるし、非常に当たっているとも言えると思います。
銀行以上商工ローン未満の金利の成功例
実は、「銀行以上商工ローン未満の金利」のゾーンでのビジネスは、非常に成功している事例があります。まずオリックスさんが始め、その後三井住友銀行さんも同様の商品を出されたと認識しておりますが、ビジネスモデルの基本コンセプトは、「今までの支店別・地域別の融資ではなく、日本全国の様々な業種の中から本部がポートフォリオ(リスク分散)を考えて指示した多数の企業に分散して融資する」という点。(三井住友銀行さんの商品は詳しくは存じません。)
従来の銀行融資では、地域ごとの支店が様々な「しがらみ」の中で融資を行っており、銀行の資産はいわば「ボトムアップ」的な貸付金の集合体になっていたわけですが、「ボトムアップ」で融資を積み上げれば自動的信用リスクが銀行全体の自己資本で負える範囲に収まるかというと、基本的には収まるわけがないわけで。
これに対して、まず本部で「全体のポートフォリオ像」を考え、「それに合わせた貸出候補先」を営業マンにアタックさせる、というところがミソその1です。
金額についても、銀行融資というのは、数百万円から数千億円までまちまちなわけですが、それも「○千万円まで」といった形で「小口化」するところがミソその2。
「アウトバウンド(&ピンポイント)」が基本?
そして、「融資を申し込みに来た客には貸さない」というのが、最大のミソかと思います。
商工ローンが社会問題化する以前ですが、私、商工ローンマーケットの調査を担当したことがありました。全国の各社にインタビューして、旧日栄や旧商工ファンドにもインタビューを申し込んだところ、(課長さんクラスの方あたりにお話を伺えればと思っていたところ)、松田会長や大島社長が直接出てらっしゃったのでビックリした記憶があります。
そこで、みなさん共通しておっしゃっていたのは、「来店する客に貸せるわけがない」という点。
消費者金融が、ティッシュやテレビなどの広告で集客して「来店した客」にお金を貸す業態であるのに対し、商工ローンは広告は一切打たず、「本部」が信用情報等から抜き出した候補先を、ひたすら営業マンに開拓させる方式を採ってました。
(電話帳にも広告を載せるどころか、フォントを太字にすらしていない・・・)
また、消費者金融は、各社ともすべて基本的に同じビジネスモデルであるのに対し、日本各地の商工ローン業者は、1社1社ビジネスモデルがちょっとづつ違い、それぞれ、営業方法や回収方法に工夫をしてるところが非常に興味深かったですね。
「オーダーメイド」で審査をする既存の銀行型の融資や、「大数の法則」で均質に処理できる「大量生産型」の消費者金融と違って、中小企業向けの金融では「セミオーダー」というか、一定のモデルで準定型的に処理できるセグメント(というかニッチというか切り口)がいくつかに分かれるから、ではないかと思われます。
「ポートフォリオ全体」で見たリスク管理
ということで、商工ローンやオリックスさん等の新型ローンに共通するのは、「本部主導型(結果的にポートフォリオの形重視)」であり、来店客は受け付けない「アウトバウンド(&ピンポイント)型」というところではないかと思います。審査ももちろんするわけでしょうが、恐らく、既存の銀行融資ほど個々の企業の中身を詳細に見ていくというよりは、全体のポートフォリオとしての産業分布とか地域分布とか金額の分散度合いの方が重要かと思います。また、「本部」に「頭のいい」スタッフを置いて全体のリスク管理を行い、現場は「単なる手足」的であるというところも、商工ローンやオリックスさんのビジネスモデルに共通するところかと思います。
旧来の銀行融資が、支店ごとに「インテリジェントな」機能を持っていたにも関わらず、結果として銀行全体で「インテリジェントじゃない」不良債権の積み上がりという事態になってしまった、というのと非常に対照的でおもしろいかと。
また、不良債権問題によって、既存の銀行の内部管理が、「とにかく不良債権が1円でも増える案件はダメ」という状況(貸し渋り、貸し剥がし)に陥ってしまっていたわけですが、実際には、金利を十分に取ってそれが貸倒損失や経費を上回って儲かればビジネスは成立するわけで、そこにアービトラージのチャンスというか、非常に大きな市場の「ゆがみ」が存在することにもなったわけです。(つまり、「不良債権が発生するビジネス」=「悪いビジネス」ではない。)
日本振興銀行さんがどういう審査や営業をされていたのか私は全く存じませんが、そのへんをどうされていたのかというのに非常に興味がありますね。
BIS規制やバーゼル2などに向けて、メガバンククラスの信用リスク管理の手法は、バブル期よりは格段に高度化されていると考えられます。
(参考:三井住友フィナンシャルグループ「信用リスク管理」)
このへんは、木村氏は当然、得意中の得意でらっしゃるはずかと思われますので、そういったノウハウがうまく新銀行に取り入れられていたのかどうか、ということですが。
ちなみに上記の引用で「関係者」氏がおっしゃる「15%」というのは利息制限法上の制限のことですね。以前にも書きましたが、図解すると以下の通り。
「ステルス型」のビジネスモデル
上述のとおり、「銀行以上商工ローン未満の金利」のゾーンでの融資ビジネスは、基本的に「アウトバウンド(&ピンポイント)」であり、マス広告を基本的に一切しないものだとすると、その特徴はおのずと「目立たず、非常に地味な」ものになります。井上和香や安田美沙子は登場しえない世界なわけですね。
結果的に、そういう業態が成立することは、一般の人はもちろん、当の中小企業もアプローチされるまでは そうした融資商品があることを知らなかったりするわけです。
新規参入の難しさ
というわけで、「銀行以上商工ローン未満の金利での中小企業向け融資ビジネス」が必ずしも成功しないわけではありません。一方で、やはり、新規参入する銀行には難しい要素があることも事実かと思います。
オリックスさんも三井住友銀行さんも、従来からのリースや融資の膨大な顧客データがあり、日本全国に多数の支店というインフラがあるからこそ、こちらから「アウトバウンド」で攻めることもできるし、日本全体・全産業に分散して、貸倒リスクを統計的に一定の範囲内に封じ込められる「ポートフォリオ」を比較的容易に形成することが可能だと思われるわけですが、新規参入で顧客ベースがない銀行がこれをやるというのは、(加えて、「困ってる企業への融資」を社是としていながら、実態としては「飛び込み」で来る企業には貸せないことがほとんどだとしたらなおさら)、非常に難しい面があるのではないかと想像されます。
「儲かるニッチ」を貸し出しを行う側から摘みに行くのと、「貸し渋りで困っている中小企業に貸します」というの(公益的な香りのするスタンス)はまったく対極の概念とも言えます。
ただし、そうした「公益」と「収益性」が合致するニッチが絶対存在しませんよ、ということを申し上げているわけではありませんので念のため。
(ご参考:「グラミン銀行と小規模融資のビジネスモデル」https://www.tez.com/blog/archives/000091.html)
最後に、このビジネスモデルについての切込隊長(山本)氏の金融庁の方とのやりとりについての続きも資料として引用させていただきます。(繰り返しになりますが、この引用には木村氏が「事実に基づかない風説である」と主張される部分が含まれるかも知れませんので、その点ご了承の上、お読みください。)
山本「日本振興銀行の無担保方針についてなんですが、これは当初からその予定でお話があったのでしょうか」
金融庁幹部「どうしても無担保でやりたいという話ではなかったようですが、途中から様相が変わって、担保のない中小企業が資金繰りに苦しいから設立した銀行なのでその方向でいきますというお話はありました」
山本「それはいつごろでしょうか」
金融庁幹部「設立準備会社が設立された直後のことですので、10月ごろではなかったかと思います」
山本「所轄としては、それで問題なし、と?」
金融庁幹部「まあ、要するに天の声というか、実験的措置という説明だったので、審査の体制はしっかりしてくださいというお話はしましたけどね」
山本「開業後、すぐに営業の不振が明らかになりました」
金融庁幹部「5月に社(註:金融庁のこと)で問題になりましたが、まあそういうことになるだろうと思っていたので、説明があったときも、はい、そうですか、という感じでした」
山本「何故です? 貸し倒れる可能性が高いから営業が上手くいかなくても良かったと?」
金融庁幹部「うーん。それもありますが、あまり触りたくなかったというのが正直なところですかね、選挙後に体制が変わるかどうかとか、上の人事とかもありましたんで」
山本「無担保の方針について、誰の主導だったかは分かりますか」
金融庁幹部「私どもとしては、代表の小穴さんと木村さんぐらいとしかお話していないので、銀行全体の方針だと思っていました。誰主導とか、そのあたりの認識はありませんね」
山本「担当レベルで具体的に審査体制について指導しようとかそういう動きはあったんでしょうか」
金融庁幹部「そのあたりはお話できません、すいません」
山本「分かりました」
「天の声」があったかどうかはともかく、こういう「チャレンジしてみないとニッチが存在するかどうかわからない」ベンチャー的なビジネスモデルに免許を出すかどうかというのは、監督官庁さんとしては難しいところですね。
一般の事業なら「原則、参入自由」でまったく問題ないわけですが、銀行の場合、預金の保護に「税金」が投入される可能性があるというところがビミョーではあります。
以前は、全く銀行業への参入の門は閉ざされていたわけで、参入を促して競争を促進することは、基本的にはいい話。しかし、現場レベルでは技術的に(「態勢」等で)要件を満たしていないとツブす口実はいくらでもあるでしょうから(トバッチリを受けるのは結局現場。)、「開放」という政策であれば、ある程度「天の声」がないと、ボトムアップだけに任せておくのも無理があると思われます。といっても「天の声があったから、適当に参入させた」、では困る・・・・「公益」っぽさもないと、「ただの貸金業でやりゃあいいじゃない?」ということにもなってしまうので、採算性とは必ずしも合致しない要素も求められることになってしまう・・・・・ということで、そのへんのバランスが非常に「ビミョー」なわけですが・・・。
(ではまた。)
(追記:切込隊長blogのトラックバックのタイムアウトエラーで、何回もトラックバックを送ってしまいました。すみません。)
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問題は、切込隊長が引っ込めた出自ではなくて、振興銀行が採用しているビジネスモデルと、振興銀行の組織としての正常性の2点ですよね。そちらに進みそうにない反論だったのは残念です。
まあ先手の次の手待ちですが。
コメントありがとうございます。
本文にも書きましたが、このビジネスモデルは「ステルス」的で一般の人には非常にわかりにくいし情報も無いので、ネットで議論するのに非常に向かないテーマですね。
自ずと「ゴシップ的な部分」がクローズアップされてしまうわけで・・・。
(では。)
中小企業融資の成功モデル
本日は新聞休刊日のため、ネット上になにかネタはないかと探していたところ、私が愛読する会計士の磯崎哲也氏のisologueというブログに、中小企業融資のビジネスモデルに関する興味深いエントリーがありました。 非常に簡単に、引用を交えつつ、エントリーの要旨を私なりぎ..
案の定見当外れの木村剛叩きが散見されるので事態の簡単な解説など
明日あたりやじうまWatchとかで紹介されて経緯を知らない人が更に大勢やってきたりする前に、簡単に解説など。 あと、的外れなはずかしい便乗叩きのトラックバックを…
磯崎さん、お久しぶりです。西武の件が気になり、ROMさせて頂いておりました。今回の日本振興銀行に関しては大変勉強になりました。ありがとうございます。過去にご紹介頂いております、グラミン銀行のビジネスモデルも面白いですね。
私見ですが、このビジネスモデルはソーシャルキャピタルと深い関係があるからではないかと感じました。「信用」が自分の生存するコミュニティそのものと一体となっており、貸し倒れは、場合によってはコミュニティからの排除、つまり生存の危機を意味するからだろうと思います。江戸時代の五人組のように連帯責任も背負っている、という要件もかなりポイントなのかも。また、勉強させて下さい。では。
どうもです。
なるほど、「信用」というものを「capitalize」して考えてみると、「最貧の人たち」にも「失うもの」があったということで、そこを担保に取った、とも言えますね。
お返事ありがとうございます。おっしゃるとおり、最貧の人が失うものは生存権ではないでしょうか。人のブログを勝手にトラックバックするわけには行きませんので、紹介という形でここに転載させて下さい。http://reflation.bblog.jp/
まもなく、藤原書店から「年金とは何か」が出ます。そこでは、無年金者の方々の生活を考察する機会を得ました。先進国の極貧層は、この社会関係をも喪失していますので、発展途上国の方々よりも、さらに悲惨な状況あるのではないか、と考えています。
信用創造の金融
私は今まで金融ということに就いて、深く学んだことも無いし、関心も余り持っていま
「中小企業向けの15%以下での貸し付けというビジネスモデルがうまくいくはずがない」という発言は、無担保であるという前提の上に成り立つもので、かならずしも「銀行以上商工ローン未満の金利での中小企業向け融資ビジネス」を指すものではないと理解しておりましたが、無担保という前提の上でも「銀行以上商工ローン未満の金利での中小企業向け融資ビジネス」と言えますかね。
お返事遅くなりまして。
「無担保でもうまくいくケースが考えられるのか?」というご質問の趣旨でよろしいでしょうか?
オリックスさんも三井住友銀行さんも、両方、基本が無担保(当然、代表者保証は付くことがあります。)ですので、無担保での15%以下の貸付でもうまくいくケースは存在すると言えると思います。
ただ、本文でも書きましたとおり、顧客ベースや全国ネットの基盤を持たない新興金融機関がうまくいくかどうか、というのはまた別の話かと思います。
ご参考まで。
オリックスの無担保ローン「ビジネス・パートナーズ・ローン」を開発したものです。isologueの愛読者から、掲載されている旨、お聞きし本日拝見いたしました。磯崎さま、お褒めのことば(と理解させていただいてよろしいでしょうか?)ありがとうございます。我々も必死の努力をして立ち上げ以来5年弱で数千件の実行してまいりましたが、三井住友銀行さまには数段の差をつけられております。三井住友銀行ビジネスセレクトローン推進本部の担当の方々の努力とノウハウには頭が下がります。
オリックスの無担保ローンチームと意見交換を希望される方は、磯崎税理士経由でご連絡ください。お互いに切磋琢磨しながら、効率的な金融を目指し、意見交換をお願いいたします。
>お褒めのことば(と理解させていただいてよろしいでしょうか?)
もちろんでございますとも。
ちょっとトラフィックのピークはすぎちゃって、ここのコメント欄を読む方はあまりいらっしゃらないかも知れませんので、意見交換のご期待に添えるかどうかわかりませんが・・・コメントどうもありがとうございます。
ではまた。
理想を失った日本振興銀行
日本振興銀行は中小企業のための銀行であり、それらの企業と日本振興銀行がどこまでも共に歩み、応援していく様子・・・週間!木村剛に記載された、この文章が空々しく思えるのは俺だけだろうか?