芥川龍之介と日本振興銀行

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

日本振興銀行のビジネスモデルについて考えていて、「これ、何かに似てるなー」と思ってたんですが、わかりました。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」です。
ご案内のとおり、蜘蛛の糸は、御釈迦様がカンダタを地獄から救おうと蜘蛛の糸を地獄に垂らしたにも関わらず、カンダタは糸を独り占めしようとして結局糸が切れ、再び地獄に落ちてしまう、という、お話。
小学校?でこれを習ったときはカンダタを中心に見る視点から、「欲張るといけませんよ」という教訓として教わったわけですが、今になって「お釈迦様」を中心に見る視点から考えてみると、いろいろ違った面が見えてきますね。
まず、なんでお釈迦様はカンダタを救おうとしたのか、という点。
カンダタはまあ放火・殺人・窃盗等を重ねる十分悪いヤツだったわけで、それなりの「判定プロセス」を経て地獄に行くことになったと推測されるわけです。死にかけていた蜘蛛を助けたというならまだしも、「蜘蛛を殺さなかった(それも一回だけ)」というのがそれほど「いいこと」なんでしょうか。(っていうか、他に地獄におるやつは、どんだけ悪いやつやねん?という感じですが。)
そこが、お釈迦様の慈愛の深さ、ということなんだと思いますが。
(貸し剥がしで苦しむ中小企業の方々を地獄で苦しむ罪人に例えるというのも恐縮ですが、そこはお許しいただくとして、)日本の資金供給の中核をなす銀行が不良債権問題で過度にリスクに慎重になり、本当は十分に返済出来るキャッシュフローが期待できたのに資金供給してもらえない企業も中にはあったかも知れません。
しかし、そうした中小企業の経営者は、雨の日がくるときのために経営上の準備をしておく責任はあったわけで、そういう中で「デットIR」しきれずに貸してもらえないというのは、やはり資本主義における「それなりの判定プロセス」を経てそうなっているんだとも考えられるわけです。
木村氏も、どちらかといえば「極楽」におわします方だったわけで、そんなシモジモのことに構う必要もなかったわけですから、恐らく、日本振興銀行の設立に関与した動機は、「中小企業のおやじを食い物に儲けてやろう」というようなことではなく、(金儲けするならもっと楽で儲かることがいっぱいあったはず)、そうした「判定プロセス」のゆがみによって、本来「地獄」にいなくてもいい企業が地獄で苦しんでいるのをなんとかしなければ、というのが率直なところだったんじゃないかと推測いたします。(よく存じませんが。)
しかし、お釈迦様はあくまで「極楽」にいながら地獄に糸を垂らしているわけで、地獄に降りて、血の池に胸までつかりながら本来そこにいるべきでない人を助けようとしたわけではないですね。(つまり、委員会等設置会社の、執行役を兼務しない社外取締役、ということですが。) いえ、それが悪いというわけではなくて。
で、やはり最大のポイントは、お釈迦様ともあろう方が、なぜ他の人に気づかれないよう「カンダタだけ」に糸を垂らすことができなかったのか?という点。つまり、本来返済するのに十分なキャッシュフローが期待できるにも関わらず、そうした「判定プロセスのゆがみによって地獄に落ちている人」だけに対して、「アウトバウンド&ピンポイント」のマーケティングをしなかったのか、という点です。
地獄に糸を垂らしたら、「間違って地獄に堕ちた人」だけじゃなくて、その他の人もみんな糸にすがろうとするのはお釈迦様であれば分かり切ったことじゃなかったんでしょうか。
「糸のキャパシティ」が限られるというのもわかってるはずなわけで、みんながそれに群がれば、「本来助けなきゃいけない人」まで助けられなくなるわけです。
小説ではこの後、お釈迦様は「悲しそうな御顔をなさりながら」またぶらぶらと去っていってしまうわけですが。
●−−−
さて、昨日のエントリーに対し、切込隊長さん(ご本人?)、emerald_blueさんからコメント頂きました。ありがとうございます。
切込隊長blogでもいくつかコメントをいただきました。(私、あんまり他の掲示板等でコメントされることがないので、ちょっとドキドキしますが。)

103 名前: ななしさん :2004年12月16日 17:15 [RES]
TB の isologue 磯崎さんのこの記事への補足修正つっこみぶりが実にいいですね。

おほめいただき、どうもありがとうございます。

110 名前: ななしさん :2004年12月16日 17:51 [RES]
>>103
磯崎という人も微妙に分かってない印象
正しいのは増資の所ぐらいで、
内部監査の下りは明らかに間違い
社外重役が委員で部屋持ってちゃダメよ

そんなことないと思いますよ。
委員会等設置会社の各委員会の過半数は社外取締役じゃないといけないですし、

(商法特例法)第二十一条の八
4 委員会(略)は、それぞれ、取締役三人以上で組織する。ただし、各委員会につき、その過半数は、社外取締役であつて委員会等設置会社の執行役でない者でなければならない。

監査や監督の作業の都合上、(例えば経営方針の妥当性を検討するために人と会うとか、機密性の高い資料を保管する必要があるとかの作業が多いなどの理由で)、鍵のかかる専用の部屋を持つというようなことはOKでしょうし、社外取締役で「会長」というようなことになると、「銀行の会長に個室がないのもなんですなー」という判断になったとしても、「背任」にはならないと思います。
(例えば、ソニーの取締役会議長 中谷 巌 氏は商法第188条第2項第7号ノ2に定める社外取締役の要件を満たしてらっしゃるそうですが、秘書とか机とか部屋とか無いんですかね?)
切込隊長氏のコメントのお返事にも書きましたが、その部屋や秘書を持つという行為が「会社のためになっているのか(私利私欲のためではないのか)」という忠実義務の観点が判定基準となるわけで、単に机があるからダメというわけではないと思います。
ただ、私の個人的趣味としては、「オレに個室もないのか?」というようなことを言う人より「みんなといっしょの場所で十分」というタイプの経営者の方が好きですが。

114 名前: ななしさん :2004年12月16日 18:35 [RES]
磯崎ブログはやはり皆見てるんだ。昔、会社法だの商法だの
中途半端に学んで中途半端にしか理解してないから、読んでいて、
非常に自分がもどかしい。w
 あのコメント欄を見て隊長も普通の言い方ができる真っ当な
社会人なんだと思った。今日のエントリの質問その0までは
人をムカつかせる天才だと思ったので。

117 名前: ななしさん :2004年12月16日 19:22 [RES]
>>114
文章が面白くないのが難点
あんま正確ではないしな

面白くなくってすんませーん。
でも、正確さには気をつかってるつもりでありますので、なにかお気づきの点がありましたらぜひコメントください。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

4 thoughts on “芥川龍之介と日本振興銀行

  1. > 切込隊長氏のコメントのお返事にも書きましたが、その部屋や秘書を持つという行為が「会社のためになっているのか(私利私欲のためではないのか)」という忠実義務の観点が判定基準となるわけで、
    ということではなくて、
    形式上、委員会等設置会社の社外取締役で、免責されているにもかかわらず、実質的には会社の運営にかかわっているのではないか。ということの傍証として、「個室」や「秘書」がとりあげられてるわけで。
    それ自体が「背任」に当たるなんて誰も思ってない。というか、そもそも、社外取締役であれば、背任行為はできないということです。
    いわゆる、コーポレートガバナンスって話ですかな。

  2. 法的にどうこうということじゃなくて、ジャーナリズム的(?)な「それってどーよ?」という批判の「傍証として」ということでしたら、おっしゃるとおりかもしれないですね。
    すみません、私のコメントは、木村剛、切込隊長両氏の議論の「本質」のところについてコメントさせていただいているというよりは、(あえてそこにはふれずに)、法律論としてどうかという観点だけからコメントしてますので、そういう意味では、「微妙にわかってない」感じかもしれません。
    コメント、どうもありがとうございます。
    ではでは。

  3. 法律論、ってことですと、
    形式さえ満たせば見逃してくれるほど、警察も検察も甘くない。
    ってことなんでしょう。もちろん違法な行為があった場合のことですが。
    私のような素人には、その辺はなんとも言えませんが、隊長や他の人のコメンツからは、判例や実務では、「個室や秘書」を突っ込まれるのは常識のようですね。

  4. 理想を失った日本振興銀行

    日本振興銀行は中小企業のための銀行であり、それらの企業と日本振興銀行がどこまでも共に歩み、応援していく様子・・・週間!木村剛に記載された、この文章が空々しく思えるのは俺だけだろうか?