ファンドの外国人投資家への課税「強化」、ですって?

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「ファンドの外国人投資家への課税強化」についてのあちこちで盛り上がってるようなので、遅ればせながら参戦。
(しかし、こんな投資ファンドの税務というようなマニアックな話でブログ界が盛り上がるとは、半年前には想像もつきませんでしたが・・・。日本のブログ界もなかなかディープになって来ましたねー。)
isologueのスタンスとしては、こういう場合、いきなり「課税強化?ざけんじゃねー!」と叫ぶよりは、まずは「原典」に立ち返って冷静に考えてみたいと思います。
以下、長いので要旨を申し上げておきますと、
「みなさん、本件を新たな課税ととらえてらっしゃるようですが、税法上今でもすでに外国人投資家が払わないといけない(誤解を恐れずに平たく言えば「脱税」してるともいえる)税金を払えと言ってるだけじゃないの?
これを考えた方は「低能」どころか、批判を浴びている株転がし的なファンドを含む事業投資的ファンドへの外国人投資家を中心に、日本が取るべき税金をきっちり確保するとともに、VCをはじめとする一般的な株式投資には比較的影響が出ないようにし、さらに税率も過度に高いものとならないことにするという、なかなかうまい落としどころを考えたもんだと思いますし、これで対日投資が減るというような大げさなもんでもないでしょう。」
ということです。
自民党税制改正大綱
そもそもの発端になった、自民党税制改正大綱(平成16年12月15日)の該当部分は以下の通り。
http://www.jimin.jp/jimin/saishin04/pdf/seisaku-027a.pdf(11ページ参照)

非居住者・外国法人に係る事業譲渡類似株式の譲渡益課税について、次の措置を講ずる。
(1)特殊関係株主等の範囲に、非居住者・外国法人が民法に規定する組合契約その他これに類する契約による組合(外国におけるこれらに類するものを含む。3及び4において「民法組合等」という。)を通じて内国法人の株式等を所有する場合における当該民法組合等の他の組合員を加える。
(2)対象となる株式等の譲渡の範囲に、減資による払戻しを受ける場合等(一定の要件を満たす場合に限る。)における株式等の譲渡等を加える。
(注) 上記の改正は、非居住者は平成18 年分以後の所得税について、外国法人は平成17 年4月1日以後に開始する事業年度の法人税について適用する。

民法組合等の組合員である非居住者・外国法人(以下「外国組合員」という。)が受ける申告納税の対象とされている利益(当該民法組合等が国内で行う事業から生ずるものに限る。)の分配について、次の措置を講ずる。
(1)民法組合等の外国組合員が受けるべき利益の分配については、当該民法組合等の各計算期間の末日の翌日から2月を経過する日(同日前に当該利益の分配が行われた場合には、分配が行われた日)に、20%の税率により源泉徴収を行う。
(2)国内に組合事業以外の事業に係る恒久的施設を有する外国組合員については、一定の要件の下、上記(1)の源泉徴収は行わない。
(3)外国組合員が上記(1)の各計算期間に受けるべき利益の分配に係る支払調書制度の整備を行う。
(4)その他所要の措置を講ずる。
(注) 上記の改正は、平成17 年4月1日以後に開始する計算期間に係る利益の分配について適用する。

これを素直に読むと、自民党もファンドのすべてのキャピタルゲインに課税しようというわけではなくて、非居住者や外国法人等の「申告納税の対象とされている利益」について源泉徴収しようというだけというように読めます。
「申告」というのは、当然、「日本政府への」申告のことでしょう。では、外国法人等は、どのような場合に(今でも既に)日本で納税しなきゃいけないのでしょうか。
今でも外国法人等が日本で納税しなければいけない場合とは
税法上の原則では、日本に支店等のない外国法人等は株式の譲渡益には課税されません。そういうことすると、それこそ海外からの日本への投資が減っちゃいますので。
今回の改正でも、投資先企業の25%までの持分を持っているベンチャーキャピタル等が株を売却するような場合には、源泉徴収の対象にはならないと解されるわけです。
ただし、以下の条文のように25%以上の株式を保有している内国法人の株が譲渡された場合には、(今回の自民党税制改正大綱で新たに決まったことではなく、「今でも既に」)、外国法人や非居住者であっても、確定申告して納税しなきゃいけない義務があります。
つまり、ちょっとした株の譲渡じゃなくて、25%も株を持ってるような場合には、そりゃあなた「日本国内で(自ら)やってた」事業を譲渡したのと同じでしょ?、
もしそうなら、それは「日本で儲けたお金」=国内源泉所得だから、日本に税金払うのはあたりまえでしょ?、という趣旨です。

(恒久的施設を有しない外国法人の課税所得)
法人税法施行令第百八十七条
法第百四十一条第四号(外国法人に係る法人税の課税標準)に規定する政令で定める国内源泉所得は、次に掲げる所得とする。(中略)
三 内国法人の発行する株券(株券の発行がない株式及び第十一条第一号(有価証券に準ずるものの範囲)に掲げる端数の部分並びに株式の引受けによる権利及び新株の引受権を含む。)その他内国法人の出資者の持分(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律第一条(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律の一部改正)の規定による改正前の特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律第二条第二項(定義)に規定する特定目的会社の出資者の持分を除く。以下この条において「株券等」という。)の譲渡による所得で次に掲げるもの
イ 同一銘柄の内国法人の株券等の買集めをし、その所有者である地位を利用して、当該株券等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はこれらの者若しくはその依頼する者のあつせんにより売却することによる所得
ロ 内国法人の特殊関係株主等である外国法人が行うその内国法人の株券等の譲渡による所得
(中略)
2 前項第三号イに規定する株券等の買集めとは、証券取引所又は証券業協会がその会員(証券取引法第二条第十九項(定義)に規定する取引参加者を含む。)に対し特定の銘柄の株式につき価格の変動その他売買状況等に異常な動きをもたらす基因となると認められる相当数の株式の買集めがあり、又はその疑いがあるものとしてその売買内容等につき報告又は資料の提出を求めた場合における買集めその他これに類する買集めをいう。
3 第一項第三号イに規定する特殊関係者とは、同号イの内国法人の役員又は主要な株主等(同号イに規定する株券等の買集めをした者から当該株券等を取得することによりその内国法人の主要な株主等となることとなる者を含む。)、これらの者の親族、これらの者の支配する法人、その内国法人の主要な取引先その他その内国法人とこれらに準ずる特殊の関係のある者をいう。
4 第一項第三号ロに規定する特殊関係株主等とは、同号ロの内国法人の株主等及び当該株主等と第四条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のある者をいう。
5 第一項第三号ロに規定する株券等の譲渡は、次の各号に掲げる要件を満たす場合の同項第三号ロの外国法人の当該譲渡の日の属する事業年度(以下この項において「譲渡事業年度」という。)における第二号に規定する株券等の譲渡に限るものとする。
一 譲渡事業年度終了の日以前三年内のいずれかの時において、第一項第三号ロの内国法人の特殊関係株主等がその内国法人の発行済株式の総数又は出資金額の百分の二十五以上に相当する数又は金額の株式又は出資を所有していたこと。
二 譲渡事業年度において、第一項第三号ロの外国法人を含む同号ロの内国法人の特殊関係株主等がその内国法人の発行済株式の総数又は出資金額の百分の五(当該事業年度が一年に満たない場合には、百分の五に当該事業年度の月数を乗じたものを十二で除して計算した割合)以上に相当する数又は金額の株式又は出資の譲渡をしたこと。

6 前項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする。

所得税法施行令にも同様の条文があります。

(恒久的施設を有しない非居住者の課税所得)
所得税法施行令第二百九十一条
法第百六十四条第一項第四号(非居住者に対する課税の方法)に規定する政令で定める国内源泉所得は、次に掲げる所得とする。
(以下同様。)

ファンドの投資家は一人一人バラバラで考えるべきか?
組合というのは法人ではなく、民法上財産も「共有」(民668条)になってます。税務上も、組合の損益は分配割合に応じて(一人一人バラバラに)各組合員(投資家)の損益に加算されて課税されるわけです。
ここまでは問題ないかと思います。
問題は、上述の「25%」という持株比率を判定する際に、一人一人バラバラに考えるべきなのか、ファンドでまとめて考えるべきなのか、ということ。つまり、上述の「特殊関係株主等」の定義にある、「株主等及び当該株主等と第四条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のある者をいう。」の「これに準ずる関係」という文言について組合員があてはまるかどうかですね。
法人税基本通達だと、

法人税基本通達20-2-10(その他これに準ずる関係のある者の範囲)
2-3-20《その他これに準ずる関係のある者の範囲》は、令第187条第4項《特殊関係株主等の範囲》に規定する「その他これに準ずる関係のある者」の範囲について準用する。

法人税基本通達2-3-20(その他これに準ずる関係のある者の範囲)
 令第119条の2第2項第2号《企業支配株式等の意義》に規定する「その他これに準ずる関係のある者」には、会社以外の法人で令第4条第2項各号及び第3項《特殊関係法人》に規定する特殊の関係のある者が含まれる。したがって、例えば、株主の1人及びこれと令第4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人が有する会社以外の法人の出資の金額が当該法人の出資金額の50%を超える金額に相当する場合における当該会社以外の法人はこれに該当する。

という規定がありますが、これらに該当しなければ「特殊関係株主等」に該当しないよ、とは読めません。
個々の投資家がバラバラに投資をしていると考えるのであれば、ファンドとして25%以上を保有していても「個々の投資家一人一人は25%以上は持ってませんから」ということになるのでしょうが、実際にはGPがまとめて投資してるわけですし、株主名簿では「25%の株主」として開示するんでしょうし、(公開株等を保有しているのであれば)大量保有報告書でも「ファンドが25%以上持ってます」と報告してるわけですよね?
であれば、一般のフツーの人の感覚であれば、「個々の投資家一人一人は25%以上は持ってませんから」というのは、むしろ詭弁に聞こえるんじゃないでしょうか。

以上のように、現行の法律の解釈でも、ファンドとして25%以上持っていた株式を譲渡した場合には、そもそも事業譲渡類似株式の譲渡として、外国法人等の利益に課税される可能性もあるかと思います。
ただし、徴税側からすると、確実に組合で合算して考えると読めますとも言いにくい。
ということで、今回の改正案で、そのへんを「明確に」しようということになったのかと考えられます。
外国投資家は既に「脱税」してる?
仮に、上記の通り、現行の法律でも税金を払わなければならないのに、払ってないとしたら、それって「脱税」なわけです。(もうちょっと表現をやわらかくすると、法が予定していなかった形式による、「租税回避」。)
ただ、実際問題、日本の税務当局が海外の投資家のところまで押しかけていって、確定申告しろとか納税しろとか言うというのは相当難しい・・・。
この辺の事情については、大和総研さんの下記のレポートによくまとまっていますので、興味ある方はご一読ください。
2004 年12 月10 日海外用投資ファンドの課税強化 大和総研制度調査部 吉井一洋
http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/tax/041210tax.pdf
結局、今回の税制大綱の立場は、
もともと「脱税」が多かった領域にも関わらず、解釈があやふやだったために取るものも取れなかった点について「明確化」し、そもそも(今でも)日本で納税義務があるんだから、払うものは払ってちょうだい。20%の源泉徴収におまけしときますよ。
ということではないかと思われます。
さらに恐ろしいアプローチ
ファンドの歴史の浅い日本では、「組合」をファンド用の「入れもの」として利用するいうのは、まだ法的にいろいろ確定してない要素も多いわけです。(以前申し上げた「投資一任契約の投資顧問業ではないか?」というような話を含め。)
こうした国際的なファンドのストラクチャリングに詳しい某税理士さんは、
「そこまでやるかどうかはともかく、税務当局がGPをPEとみなす手でチャレンジしてくる可能性も否定できない。」
てなことをおっしゃってます。
すなわち、前項までの議論はあくまで、投資家である外国法人等が、「国内に、支店や代理人などの恒久的施設(Permanent Establishment=PE)を持っていない」という前提でのお話。国内にPEがあるとみなされたら、そもそも株の譲渡に係わる所得も、すべて(何%持ってるかとかに関係なく)、法人税の課税対象なわけです。(法人税法第138条�)
このため、国内にいるファンドのGP(業務執行組合員とか無限責任組合員)が、外国投資家に代わって資産を運用している「代理人」(法人税法141条�)とみなされると、25%以下の持株比率であっても、法人税率で課税されてきてしまうことになります。
それよりかは、現在の匿名組合による源泉徴収のように、20%だけの課税で勘弁してもらえた方がいいという考え方もあるんじゃないでしょうか。
税務上のリスクが無い方が投資が呼び込めるのでは?
そう。任意組合等ではなく、匿名組合を使ったスキームの場合には、外国の投資家への利益の分配は、すでに源泉徴収されてるわけです。(租税条約上、一部の国とケースでは別。)
不動産ファンドなんかは匿名組合スキームを使うわけですが、源泉徴収したからといって、海外からの不動産投資の資金の流入が止まる様子なんてまったくないですよね?「こりゃ儲かる」と思えば、税金が多少かかろうがかかるまいがカネは流れ込んでくるわけです。
それに、課税関係が明確に定まっている方が、対内投資が促進されるという考え方もあるんじゃないでしょうか。
少なくとも、私がファンドのGPだったら、税務上のリスクがあるのに、「ま、大丈夫じゃないすか?」とムニャムニャ言って外国投資家に投資してもらうよりは、税務関係が明確になった上で、「これだけ税金は引かれますけど、これ以上税金で持ってかれるリスクは非常に小さいです」、と説明して投資してもらうほうが気持ちがいいなあ。
源泉徴収の事務はめんどくさいといえばめんどくさいですが、それに何十万円もコストがかかるわけでもない。「もともと払わなければならない税金だった」と考えれば、それを源泉徴収したところで税金は変わらないかまたは逆に安くなるわけですから、それで対日投資が減るわけないとも言えます。
以下、大人の事情(笑)によるコメント
・・・と、以上はあくまで理屈のお話でございますが(へらへら)、私、いろんなファンドのみなさまとシガラミがないわけでもございませんので、日本人はやっぱり和を大切にしないといけませんよねぇ、ということで、最後に声を大にして申し上げておきます。
「外国人投資家への課税強化、絶対はんたーい!」

(追記)・・・と言おうかとおもったけど、私はブログでポジショントークはしないことにしているので、やっぱり、信念に従って、「どっちでもいいです」と申し上げておきます。
(ではまた。)<(_ _)>
以下、主要な(私がたまたま見つけた)ウェブ上での議論一覧
isologue:民法上の組合に関する課税強化(国際取引)(2004年12月6日)
https://www.tez.com/blog/archives/000285.html
堀義人氏:「ダボス会議での憂鬱」
http://blog.globis.co.jp/hori/2005/02/post.html
R30氏:「財務省の役人は救いがたい低能である件について」
http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2005/02/suck_mof.html
diwase氏:「投資ファンドへの課税」
http://hbslife.exblog.jp/1865227/
Richstyles!:「外資とうまく付き合えない日本」
http://www.richstyles.net/archives/2005/02/eaaaaaeaaaa.html
切込隊長氏:海外ファンドへの課税でそっち業界の人が騒いでいる件について
http://kiri.jblog.org/archives/001373.html
小林雅氏:「海外ファンドへの課税でそっち業界の人が騒いでいる件について」
http://blog.drecom.jp/kobayashimasashi/archive/162
ちなみに、同じグロービスの上述の堀さんの記事では、「ベンチャーキャピタル業界に多大な影響を与える」とおっしゃってるのに、小林さんは、「弊社の運用しているファンドは、ベンチャーキャピタルファンドであるため、今回の海外ファンドの課税に関しては、運用上大きな影響はない。 」とおっしゃってます。
(追加)
Bewaad Institute@Kasumigaseki:「バカには正しくバカと言おう」
http://bewaad.com/20050205.html
現役霞ヶ関官僚の方のブログ。

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6 thoughts on “ファンドの外国人投資家への課税「強化」、ですって?

  1. ファンドの外国人投資家への課税「強化」、ですって?

    磯崎さんのブログに「ファンドの外国人投資家への課税「強化」、ですって?」という形で海外ファンドへの課税問題が詳しく書かれています。 (磯崎さんは前職のADL時代に一度会った記憶があります。間違っていたらごめなさい)
    参考資料としては、「2004 年12 月10…

  2. 海外ファンドへの課税強化参考資料

    小林氏が参考資料をまとめておられる。一度まとめて見なくては。 isologue

  3. 外資とうまく付き合えない日本

    日本政府は外国人投資家に対して課税を強化するらしい。 外国人投資家が投資ファンドを通じて日本で得た所得に対し源泉徴収を導入するなどの方針は、与党が昨年12月に策定した2005年度税制改正大綱で打ち出した。これに対しアドバンテッジパートナーズ(AP)やユニゾン`..

  4. やっぱり財務省は人を舐めている

    先日の件で鮮やかなエントリーをR30さんと切込隊長さんから頂いた。その辺は後で触れるが、やっぱり理解できないのは日本政府の方針になんで一貫性がないのかだ。政治家が言ってることと官僚がやっていることが何でこれだけ食い違っているのか知りたい。 競争力がある社会…

  5. [government][law][WWW]続・バカには正しくバカと言おう

    昨日の「実質金利ギャップの検証」の続きを書くべきところですが、「バカには正しくバカと言おう」関連のフォローアップをさせていただきます。何をフォローアップするかといいますと、課税の公平とは何と何の公平なのか、ということです。
    isologueの「ファンドの外国人…