4月から突如、海に目覚めてしまったので、TSUTAYAで借りたりして「海猿」シリーズを通しで見てしまいました。
つまり、
海猿(映画1作目)
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海猿 EVOLUTION(テレビシリーズ全11話)
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LIMIT OF LOVE 海猿(映画2作目)
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THE LAST MESSAGE 海猿(映画3作目)
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そして今、劇場で公開している第4作目「海猿 BRAVE HEARTS」
と見たわけですが、見終わって、これは非常によく出来た映画なんじゃないかと思いました。
まず、(特に、小さいお子さんや大きなおっさんである私にとって)、ホンモノの海上保安庁の船が多数登場するところがすばらしい。映画史に詳しいわけじゃないのでよく存じませんが、これだけの金額の資産と費用を使って日本の役所が全面協力した映画って、他にあるでしょうか?
戦争映画としても潜水艦映画としても古典的名作である「眼下の敵」(The Enemy Below)
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は、アメリカ海軍全面協力のホンモノの爆雷投下シーンが物凄い迫力で、公開当時にも話題になったとのことですが、あれは基本的には駆逐艦1隻が出て来るだけ。それに対して海猿は、船や航空機、ヘリコプターの数でも登場回数でも、眼下の敵をはるかに上回る協力度合いです。
結果、(準)ミリヲタ層を呼べる仕上がりにもなっているんじゃないかと思います。
もちろん、この「海猿」公開による海上保安庁に対する広報効果が凄まじいものがあったからこそ、これだけの協力が得られるんでしょうね。
しかも、「いいこと」や「かっこいいこと」ばっかりを押し出すんではなく、どちらかというと、現実の海上保安庁の仕事は苦しいこと、悲しいこと、危険なことなどに満ちあふれていて、決して甘いもんではないという「リスクファクター」的側面を開示しています。このため、一般の人に「命をかけてこうした大変な仕事をしてくれる人がいて、ありがたいなあ」という気持ちを起こさせるだけでなく、映画見てヘラヘラした気持ちで応募してくる若者を事前にフルイにかけてくれるという意味でも、広報的に優れています。(やっぱり、職業を選ぶ際に、映画の影響ってのは大きいんじゃないかと思います。(「マルサの女」も給料の安さなどのネガティブ要因も併せて開示されてましたが)、例えばこの方。)
少なくとも私は、一番好きな役所が、今や金融庁でも国税庁でも財務省でも証券取引等監視委員会でも経済産業省でもなく、「海上保安庁(国土交通省)」になってしまいました。(笑)
この結果もあって、ロケには、各自治体の消防局など、他の役所も数多く協力してくれてます。普通の刑事ドラマなどで、ホンモノの救急車が登場することは稀だと思いますが、海猿はホンモノの消防車や救急車が登場するというところがスゴい。(こうした協力が得られている日本映画、他に何かあるでしょうか?)
ビジネス的に見てこれがどういうことかというと、そうした役所で「○○(部門)の○○さんが映ってるらしいよ」「オレがいつも乗ってる救急車が映ってる」といった口コミが広がるということですね。つまり、役所に勤務している人やその家族が、映画やテレビの潜在顧客になるということです。口コミだけでなく、表の正式ルートとしてもいろいろ広報されるでしょう。(役所が本気でバックアップした場合の情報の伝播力って、スゴそうですよね。)
テレビシリーズは、撮影のしやすさの都合もあったのでしょう、東京から近い第三管区(横浜)が舞台の中心でしたが、映画では、訓練や転勤で、広島の呉、鹿児島、北九州、大阪といった地方都市を舞台にすることで、(NHKの大河ドラマや朝のテレビ小説と同様)、取り上げた地域における需要を喚起することつながっているんじゃないかと思います。
また、アクション映画というのは大抵「暴力」とセットになりがちですが、海猿はアクション映画でありながら暴力シーンが(ほとんど)出て来ない。(やってることが基本的に「人命救助」ですから。)子供にも見せられる映画になってます。テレビシリーズで武器を使用するシーンでも、先制攻撃ができない海上保安庁の(不条理な)立場とともに、武器の使用に懐疑的な登場人物たちの姿が描かれています。
「眼下の敵」が単純な戦争礼賛ではなく、ドイツ軍・アメリカ軍の両艦長とも戦争に懐疑的なプロフェッショナルの立場だったのと同様、バランス感覚的に見る人にもすがすがしい印象を与えるんではないかと思います。
もう一つ。素直に考えれば、海猿は主人公先崎と環菜の出会い・恋愛・結婚・出産・子育てといったプロセスを見せてくれる恋愛映画であり、熱い友情を描いた作品と見るべきだと思いますが、
一方で、これだけ筋骨隆々な男の裸やシャワーシーンが登場したり、男2人がペアになって行動する映画もありませんので(笑)、「ストレート」でない方面の方々や腐女子の方々などの需要も大いに取り込むことができているんじゃないかと。(笑)
つまり、この映画ほどエリアマーケティングや、ジェンダー別のマーケティング的に考えてビシッとキマっている映画は無いんじゃないかと思います。
映画3作目「THE LAST MESSAGE 海猿」は2010年公開の邦画実写映画で興行収入第1位だったそうですが、これは「フジテレビがテレビを使って宣伝したから」という単純な話ではなくて、こうした広範な口コミや役所経由の情報の伝播の経絡が存在したからなんじゃないかなと思いました。
こうなると、ストーリーも「毎回ワンパター(略」ではなく、「フーガのように、同じテーマが繰り返し形を変えて登場する」といった好意的な評価をしたくなります。「ゲーデル、エッシャー、バッハ」ですね(違
つまり、「最初から見ないと話についていけない」ということは全く無く、どこからでも好きなところから見ればいい、ということです。
(私も、TSUTAYAで借りられた順に、「海猿」→「LIMIT OF LOVE」→「THE LAST MESSAGE」→「BRAVE HEARTS(映画館)」→「EVOLUTION(テレビシリーズ)」と、むちゃくちゃな順番で見ましたが、なんも問題ありませんでした。w)
ということで私は、海上保安庁の船艇を見ただけで艦名が言えるようになるまで、もう何回かDVDを見返したいと思いますので、これにて失礼させていただきます。
(ではまた。)
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