本日の日経一面トップ「不正防止へ企業統治監査」で、金融庁が内部統制状況についても監査する制度を2008年にも導入する予定だ、と報道されてます。
具体的に興味深いのが5面の「企業コスト増必至」という関連記事の数値。
PwCが米企業約100社を調査した結果として、内部統制の整備・監査の費用は1社あたり平均10億円、最高75億円に上り、米国の大手会計事務所は04年度の監査関連報酬が前年に比べ75%−110%増加。(その分の人員はどっから持ってきたんでしょうねー。アメリカの会計士の層の厚さゆえか。)
日立製作所のコメントとして「人件費だけで100億円、監査法人にも10億円以上払った」としてます。
日立製作所さんは、
従業員数(単独)35,097人、(連結)320,146人
単体売上2,597,496百万円、連結売上高9,027,043百万円
(Yahoo!ファイナンスによる2005年3月期業績)
といった規模でいらっしゃるので、それぞれ、
従業員一人当たりコスト:(単体)34万円、(連結)3万円
売上高比:(単体)0.42%、(連結)0.12%
といった感じでしょうか。
メーカーの方は製造プロセスでISO9000等を取得するというようなことはピンと来ると思うのですが、公開会社というのは自分の会社(の株式)を「商品」として個人や法人にも販売してるわけですから、その経営管理のプロセス(会社のクオリティ)自体でそうした品質保証のしくみを導入するとしたら、まあ、それくらいのコストはかかるということかと。
一方、「株式を公開するためのコスト」は今後も着実に上昇していくでしょうね。
(この内部統制のコストというのは、公開会社だけに限った話ではなくて、企業全般の経営管理のクオリティを保つために必要なコストですから、必ずしも「株式を公開するためのコスト」とは言えないと思いますが。)
あまり規模の小さい(時価総額100億円以下くらいの)企業が公開するメリットは、ますます無くなるかも知れません。
戦後まもなくなら、不潔な工場で食品を作っててもアリだったかも知れませんが、今や、きちんと衛生管理された工場でないとコンビニにも納入できない、というのと同じ話で、「うまけりゃいいじゃん」という話ではない。その時代の求めるクオリティとして必然的に発生するコストではないかと思います。
(でも、監査のコストの重要性を認識してる経営者って、限りなく少なそうです。)
いまだに「経営者たるもの清濁併せのむことが必要」みたいなことをおっしゃる方がよくいらっしゃるのですが、内部統制がきちんとしてすべてが文書化されてくると、今後(特に公開企業において)は、「清濁併せのむ」という概念は、(良くも悪くも)存在し得なくなる気がします。「濁」のリスクがあまりに大きすぎる。
ベンチャー経営者のみなさん、ぜひ光の中を歩んでください。
−−−
他にも、「次世代DVD」とか、「みずほFGが買収防衛を助言」とか、「EU要望受け金融庁長官が会計基準の差異縮小に努める」とか、「ニレコさんの新株予約権に差し止め仮処分申請」とか、本日は非常に興味深い記事がたくさんありましたが、連休明けリハビリモードのため、本日はこれにて。
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興味深く拝読させて頂きました。
当社では品質保証費の予算を組む際に品質コストマネジメントの手法を教科書通りに計算しております。失敗コストと予防・評価コストの最小化を図るというやつです。なかなかモデル通りにコストが発生してくれないのですが、一つの指標として機能しています。
監査法人さんやコンサルさんから頂く見積書を見ても、人件費の積み上げで妥当な値段なのかよくわかりません。監査に要するコストもいわば予防・評価コストですよね。品質コストを応用してあるべき監査費用をはじけないものでしょうか。お互いに納得できる値決めの指標があればいいなぁ、と。
リスクアプローチというのはこうした考え方じゃありませんでしたっけ?
税務調査、CPA監査、監査室監査、監査委員監査、顧客(官庁、外資)による監査、ISO、CEマーク……もうちょっと減ってくれれば。
失礼致しました。
いろいろ取り上げていただいて有難うございます。連休中は(わたしもですが)いそろぐさんがお書きにならなかったので寂しかったです。このままめんどくさいからやめたっ!なんていわれたらどうしようと思ってましたが復帰されて良かったです(笑)
このテーマは私にとっても大変興味深いですね。アメリカでも状況は同じでして株式上場コストは上昇の一途です。それでも上場によって得られる資本力というものは極めて魅力的であり、敢えてその道を選んだものはもはや後戻りできなくなっています。当然上場基準もどんどん厳しくなっており日本のマザースなんかに出てくるようなへんてこな企業の登場する余地は全くといっていいほど無くなってきました。日本はそのあたりがこれからでしょうかね。
また遊びにきますね。
失礼します。
いつも興味深く拝読させていただいております。
Sarbanes Oxley Actの件、当地アメリカでも数年前から話題になっており、まさに会計事務所は人出が全然足らん状態です。なので、既存の監査クライアントのうち、小規模なEngagement、利益率の小さなEngagement、Riskの高いEngagementなどはバンバンBig4は切っています。早い話、Feeを一年間に40%〜50%くらい上げて払えなかったら切ってもらっていいよって感じです。
まー、アメ人の上司(パートナー)が言ってたんですけど、906条(刑事罰とCEO&CFOが宣誓してるんで今までみたいに知らんやったと言えなくなり個人賠償が課される)が厳し過ぎるので、自分の金じゃねーし、会社の金だからSEC登録企業のCEOとかCFOとかはバンバンSarbanes Oxley Act関係に金使ってるようです。このコンプラコスト下手にけちって、あとで自分が個人責任負わされてアメリカの牢屋に入れられる(たぶん、間違いなくその人の人生終わり&廃人決定)くらいなら、ばんばんコスト使ってるって感じですよ。
確かに、アメリカのLegal CostとかSECのペナルティ(MCI(約700億円)、タイムワーナー(約300億円)、ゼロックス他)のケースを見てると、まじで日本と桁がひとつもしくはふたつは違う状況です。MCI(旧 ワールドコム)のケースはどうしようもないけど、タイムワーナーのケースなんて、日本(日本を離れて3年になるので昔話かもしれませんが。。。)だと一歩間違うと、所詮、売上の期ズレだし、タイムワーナー潰れねーから問題ねージャンって片付けられる可能性すらあることかもしれません。
まー、日本でもリーガルコストがアメリカ並みなれば監査法人としてはおいしい(それだけリスクはあるが)&パートナー報酬最低1億円くらいになるのかもしれません。しかし、現実はそこまでリーガルリスクが日本であるのか、もしくはあるにも関わらず、相変わらず監査報酬の値下げ競争をしているあほなパートナーがいるからどうしようもないって感じだと思います。なんか、906条みたいなものがなければ物真似で終わりそうな気がするんです。アメリカのケースではやはり、アンダーセンをスケープゴートにして現在に至ってる気がします。日本でも、4大監査法人のうち、どこかひとつスケープゴートにして、そこのパートナー全員、上野公園でダンボール生活をさせ、妻と娘に風俗で働かせないと借金が返せないような状況に追い込めば日本の監査業界もリスクということについて真剣に考え直すのかもと思ったりします。
>ベンチャー経営者のみなさん、ぜひ光の中を歩んでください。
なんか、今年になってからライブドアやらJR西やらいろいろあるだけに
この当たり前すぎるくらい当たり前なエールが気持ちいいですね。
ところで、以前、Law Maniacsさんの minoriさんとのやりとりでも話題に
あげられ、その後も必ずしも株価の下げ要因になるわけではないと磯崎
さんがどちらかというとスクエアな立場をとられているMSCBですが、
Nikkei Netの
http://markets.nikkei.co.jp/column/rashin/personal.cfm?genre=q8&id=q8859000_09&date=20050509
で、J.P.モルガン・フレミング・アセット・マネジメント・ジャパンの太田忠さ
んが「自分の魂を売る企業、それで儲ける証券会社」と題して、簡潔なが
ら、MSCBを批判されています(単純な批判というと語弊がありますが)。
確かに以前磯崎さんも、野村證券のMPOとリーマンのMSCBとの比較で
結局、MSCBにおける既存株主への影響については、引き受け先となる
証券会社のモラルが最後はものをいうというのを指摘された上で、スクエ
アな立場を取られたと思います。
が、今回、太田さんの批判を読んで、改めて、最初にminoriさんが指摘さ
れていた、MSCBというのは野放しにしておいてよいのかという問題、
minoriさんの指摘の方が正しいのかなと感じたのですが・・・
また余裕があるときにでも、ライブドア問題が終わった現時点での磯崎
さんのMSCB観とリーマン/ライブドア堀江氏のモラルについて、考察い
ただけたらとすごく読みたいです(ははは、ちょっと無責任)。
私個人は、MSCBの仕組みは必要だけれど、やはり既存株主への影響
が証券会社の胸先一寸というのはちょっとまずくて、今後なんらかの縛りが
必要なのでは・・・?という気がしてきています。
CSR調査の話
今週の『経営財務』に、「CSR(企業の社会的責任)の企業動向の検討」と題し、関西大学教授の大倉雄次郎氏が実施したアンケート調査を基にした記事が出ていました。
大倉氏は会計士でもあり、著作も多数あります。私も読ませていただきました。例によって途中までですぎ..
>自分の会社(の株式)を「商品」として個人や法人にも販売してるわけですから、
そのへんは”as is”の考え方でいいと思いますけどねぇ。
コストを払ってきっちり監査する会社、その辺は切り詰める会社、投資家が選別すればいいと思います。お上が音頭をとって一律にやる必要はないのでは。
>早い話、Feeを一年間に40%〜50%くらい上げて払えなかったら切ってもらっていいよって感じです。
なるほど、その手でしたか。
>そのへんは”as is”の考え方でいいと思いますけどねぇ。
会計を含む開示に関する内部統制の場合、その「as is」がほんとに見かけ通りの「as is」なのかどうかがわからないというところがポイントの一つでしょうか。
当然、小さい企業も一律に10億円かけなさいということではないですし。今までも内部統制全く無くていいよ、ということではなかったと思うんですが。
♪横領
もと歌は以下のアルバムの1枚目の14曲目。
ライブラリー
大貫妙子
横顔に近づきすぎると….
ファンのみなさん、ごめんなさい。
…
本件、一般的な企業の内部統制整備というよりは、日本版SOX法(特に404条対応)始動の話ですよね。
一説には来年度あたりからという向きもありましたが、2008年とは、少し先に延びてしまったのかなという感じです。もっとも、何をどこまで整備すべきか、あまりディーテールまでは詰まっていないようなので、このくらい時間はかかるのかもしれません。
ちなみに米国では、上記、「アメリカではたらく会計士」さんが紹介しておられるとおり、大変な状況のようですが、まあ、エンロンありーの、ワールドコムありーのでしたから、振り子がここまで振りきれるのもやむを得ないことなのでしょう。
ただ、日本ではよほどの大企業でも、SOX法404条の要求する内部統制(特に財務報告に関する)が完全に整備されているところは少なく、今後固まる基準次第では、米国以上に大変な騒動も予想されます。
もちろん、日本企業でもSEC登録企業は、当然のことながら米国SOX法順守の義務がありますから、日立さんのようなことになるわけですが、どうも、文書化やマニュアル作成もさることながら、システムのリファインにかかるコストが半端な額ではなくて、企業によってはアゴが出てしまいかねません。
もともと火元はエンロンやワールドコムなだけに、もう少し振り子の揺れ戻しを期待するのか、それとも虎の威?を借りて、これを機に一気に整備してしまうのがいいか、ちょっと悩ましいところですね。
余談ですが、ネットのヘビーユーザーにとって、この404という番号も何とも皮肉な数字ではあります。
近ごろは米国の真っ当なビジネススクールでコンプライアンスやらCSRやらその手の講義がまじめにあるそうですね、学生も就職先選びのキーワードの一つに”cleanness”があるとか。MBAホルダーの正義感が高まったというよりはクリーンじゃない会社は損したり潰れたりするリスクが大きいという理由からでしょうかね。
日本版SOX法?
金融庁、企業の不祥事対策を監査・会計士に義務付けへ (NIKKEI NET)
おそらく元ネタは企業会計審議会の内部統制部会じゃないかと思う。
議事録が公表されたらどう言う議論だったのか、明らかになると思いますが、現状じゃよく分からない。
内容によっては大騒ぎになる
清濁併せのめ・日本という国の危うさ
「清濁併せのめ」と書こうとしたら、磯崎さんがそういう概念は存在し得なくなるだろう