ちょっと不思議な公告を見つけました。
本日の日経朝刊12面の森電機の「新株予約権発行に関する取締役会決議公告」です。
参考URL、日経総合企業情報:
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20040411/04040074.pdf
この会社さん、東証二部上場なのですが、今どきめずらしいほど全く情報がありません。
(ホームページなし、EDINET開示なし、日経の記事も2年で6件ほど。それも、ほとんど決算の囲み記事などで会社の内容に関する情報なし。ちなみに、「森精機」さんとは全く別の会社です。)
業績は、前期(2003年3月期連結)で売上7億円、当期損失22億円、株主資本7.9億円。しかし、株価は金曜日の終値が19円、発行済株式数が166,701,964株で、時価総額が31億円。(・・・・。)
参考:Yahoo! Japan Finance http://quote.yahoo.co.jp/q?s=6993&d=1y
で、本題ですが。
増資とか新株予約権付社債というならわかるのですが、新株予約権だけを単独で発行しているというのは、非常にめずらしいかと思います。(他に記憶がありません。)
発行価額は2500万円×2と2種類発行。
(条件は全く同じですが、一つは、Maxlink Grobal Ltdという会社が引き受けることになっていて、「ユーロ円建」と書いてあります。「ユーロ円建」として別に分けて公告の料金を倍にする必要はあるんでしょうか? このMaxlink Grobal という会社についてもwebでは見当たらないです。「Grobal」というのは「Global」のスペル違いでしょうか?もう一つの「ユーロ円建でない」新株予約権を引き受ける株式会社バネットという会社もwebでとりあえず見当たりません。)
「10.新株予約権の発行価額及び新株予約権の行使の際の払込金額の算定方法」は、以下のとおりとなっております。
新株予約権は行使価額が当社株価により修正され、また部分行使が可能であることから、新株予約権の発行価額を決定するに当たりオプション算定モデルであるブラック・ショールズ・モデルは適切でないと判断し、当社が今後の事業展開に必要となる運転資金及び事業資金を安定的かつ継続的に確保するために株式会社バネット(Maxlink Grobal Ltd)を新株予約権の割当先として発行する必要があること、本新株予約権及び同時に発行する2005年3月満期新株予約権(ユーロ円建新株予約権)の行使により1株あたりの価値が相当程度希薄化すること、資本増強により財務内容の安定性が期待できるので将来ボラティリティが下がること、及び過去13年間配当していないこと等により財務リスクがあること等を総合考慮し、本新株予約権1個の発行価額を250,000円とした。また、行使価額は平成16年4月6日の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の100%である20円を当初行使価額とし、その後は13.に規定するように行使期間中いつでも修正されることとした。
来年の3月までいつでも行使でき、新株予約権の部分行使も可能、というオプション権者にとっては比較的有利な内容で、新株予約権1個の行使により50万株の株式が購入できるので、1株あたりのオプション価格は0.5円、株価20円として2.5%ということになります。
新株予約権は行使価額が当社株価により修正され、また部分行使が可能であることから、新株予約権の発行価額を決定するに当たりオプション算定モデルであるブラック・ショールズ・モデルは適切でないと判断し、
というところまでは、「いつでも行使できる”アメリカン”オプションで、ブラック・ショールズ・モデルだとオプション価格が安すぎるので、格子モデルなど他のモデルを使って計算しました」と言うのかと思ってちょっとワクワクしますが、実際には「・・等を総合考慮し」ということで価額を決定されてます。
同時に発行するもう一種の新株予約権により「1株あたりの価値が相当程度希薄化すること」というのはどうでしょうか?市場価格程度で行使する権利なわけですから、希薄化しないとも言えると思うのですが。
「資本増強により財務内容の安定性が期待できるので将来ボラティリティが下がる」というのもどうなんでしょうか。新株予約権の行使で最大20億円全額が払い込まれれば確かに安定するかも知れませんが、そもそも、これはあくまで「オプション(権利)」であって、行使するかどうかはまだ決まってないわけですよね。「事業資金を安定的かつ継続的に確保する」というなら、増資の決議をしてしまう方が投資家にはわかりやすいと思うのですが、新株予約権では本当に行使してもらえるのかどうか、この情報だけではよくわかりません。情報がほとんどない割に、売買高もかなりあり、Yahoo!ファイナンスの掲示板も活発なところを見ると、現在のボラティリティは、PERやPBRからは説明が付かない株価をベースに投機的な売買により発生している要因も大だと思われます。
極めつけが、12.(2)「行使価額の調整」のところですが、
「行使価額は、行使期間中いつでも、当該日に先立つ株式会社東京証券取引所における当社の普通株式の普通取引の終値(気配表示を含む)がある5取引日(当日を含まない)の終値の平均値の1円未満を切り上げた金額が、当日有効な行使価額を下回る場合、当該金額に修正される。
という、すごい条件がついてます。
先日の横浜銀行の転換価額修正のスーパー強化版という感じです。
参考:isologueバックナンバー:https://www.tez.com/blog/archives/000041.html
横浜銀行のが30営業日なのに対して、こちらは5取引日で、しかも気配値でもOK。横浜銀行の転換価額はマイナス20%の下限が付いていましたが、こちらは下限の無い「底なし」です。(というか、下限1円。)
しかも、行使価額は、一度下がったら その後どんなに株価が上がっても二度と上がらない条件と読めます。
来年の3月までずっと20円以上で推移すれば総額20億円の行使で1億株で、発行済株式の約37.5%になるわけですが、仮にこの期間中に1回でも5日間連続で(昨年5月の株価並の)8円ぐらいの株価になってしまったとすると、全部行使で2.5億株、発行済株式のちょうど60%、6円でちょうど3分の2、1円だと92.3%になります。(もちろん、授権枠の制約はありますが。)
本銘柄は貸借銘柄にはなっていませんが、相場により、既存の株主の権利が大きく変化する可能性がある内容となっているかと思います。
(小型株なので、比較的少ない資金で大きく相場が変動する可能性がありますし、EB債などと同様、相場が動くことによって、関係者の利害が大きく影響されるスキームです。もちろん、恣意的な相場形成を行うことは違法[証券取引法159条等]ですし、記録はすべて残るので万が一そうした取引を行った場合、発覚する可能性も大ですが。)
新株予約権の「有利発行」の時は株主総会決議が必要ですが、この新株予約権は取締役会決議で発行しています。会社としては、「特に有利なる条件」ではない、と判断されているのだと思います。
(なお、このblogの他のコメントもそうですが、本コメントについても、一般に開示された情報を題材に、財務、会計、商法等の理解の参考等にしていただくことを目的としており、投資のための情報提供、投資の勧誘、株式の売買を推奨する目的のものではありません。また、本コメントは筆者の属するいかなる組織の意見でもなく、筆者個人の意見であります。)
参考:
商法第280条ノ21
株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ新株予約権ニ付テノ前条第二項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第三百四十三条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス
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