本日、こんな判決の記事が。
<最高裁判決>妻への報酬は経費にあらず 弁護士逆転敗訴
弁護士の男性が税理士の妻に支払った報酬が税務上、必要経費と認められるかが争われた訴訟で、最高裁第3小法廷(上田豊三裁判長)は5日、経費と主張した弁護士側の上告を棄却した。弁護士側は「『生計を一にする配偶者への報酬は経費としない』との所得税法の規定は憲法違反」と主張したが、判決は「判例上、合憲であることは明らか」と判断した。経費と認めた1審判決を取り消し、請求を棄却した2審判決が確定した。
原告の弁護士は、別々に事務所を構える税理士の妻と顧問契約を結び、95〜97年分の報酬計約290万円を弁護士活動の経費に算入して申告したが、税務署が経費と認めず追徴課税したため、国と都に約60万円の返還を求めた。弁護士側は「所得税法の規定を、夫婦が別々に事業を営む場合に適用するのは憲法違反」とも訴えたが、第3小法廷は併せて退けた。【木戸哲】
(毎日新聞) – 7月5日11時42分更新
その「『生計を一にする配偶者への報酬は経費としない』との所得税法の規定」というのは、以下の条文のことと思われます。
第五十六条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
この訴訟の背景をよく存じないのですが、
3年間で(たったの)290万円、年間100万円弱のお話ですから、仮に夫である弁護士の方の方が稼いでいて税率が高かったにしても、年間100万円を奥さんの方の所得に移して、さほど節税になるわけでもないですよね。
お二人ともが年間数百万円程度の所得だったら、年間10〜20万円程度でも節税できれば大きいかも知れませんが、弁護士さん税理士さん夫婦ということは、もっと稼がれているような気もします。
また、これは(通達とかじゃなくて)「法律」で書いてあることだし、他に読みようもないし、夫婦とも弁護士と税理士ということは、税法の知識がないどころかアリまくりで、この条文は当然ご存じだったハズ。
ということは、必要経費としたのは「確信犯」であり、この訴訟は、「細かい金」のためにやっているというよりは、あえて「これでいいのか?」という社会的問題提起のために訴訟されていたということでしょうか?
ちなみに、夫婦で商売をやっている全国のクリーニング屋さんとか八百屋さんその他の方々は、このニュースを読んで、
「うちのかあちゃんの給料、必要経費にしてたけど、あかんのかいな!」
とちょっとびっくりされたかも知れません・・・が、ご安心下さい。
所得税法の次の条文にはこう書いてあります。
第五十七条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
ご主人がパン屋さんで奥さんが税理士の場合等はさておき、ご主人が弁護士なら、
弁護士法第三条(弁護士の職務)
(略)
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
ということで税理士業務はできるわけなので、お二人の事務所をまとめちゃって、奥さんに青色専従者として堂々と給料を支払うという手もあるんじゃないでしょうか。(大きなお世話ですが。)
右ならOKなのに左はだめよ、というのは、確かに56条はヘンな規定だという気はします。
この弁護士さんは、配偶者控除や配偶者特別控除などと同じく、所得税法56条や57条も、結婚している女性が自立して社会に進出していく足をひっぱっている(等)とお感じなのかも知れません。(良く存じませんが。)
(ではまた。)
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あるふぁぶろがーである磯崎さんのところで、所得税法56条をめぐる事件(「宮岡事件」とか「妻税理士事件」などと呼ばれているやつ)の最高裁判決が取り上げられてる。 原告の宮岡弁護士が最高裁まで争った理由は、磯崎さんも推測されているように、お金じゃなくて`..
いつも楽しく拝見させていただいております。
ところで、この56条の前身となる規定は戦後間もないころできたそうです。当時はまだ「家」制度が色濃く残る時代で、家族に給与を支払うなどという慣行はまったくといってない時代だったそうです。
しかしその後、高度経済成長を経て経済状況は一変し、個人の権利意識なども向上するようになり、家族であっても給与や正当な対価をもらうのは当たり前の世の中になっているにもかかわらず、所得を分割させないという理由だけでこのような規定が存続していることに疑問を投げかけている方は多いようです。
このあたりは山本守之著「税法上の不確定概念」などにもでています。興味がありましたらどうぞ。