本日の読売新聞朝刊1面に、「新日鐵・住金・神鋼 特許相互利用締結へ−拒否権条項 買収防衛も狙う」という記事が載ってます。
要するに、これらの鉄鋼三社が、クロスライセンス契約を締結する際に、3社のうち1社が第三者に買収された場合、残る2社は買収者に特許の利用を認めないという条項を盛り込んでおくことによって、交渉なしに敵対的に買収する気をそぐ、という方法です。
日本で、こうしたchange of control(資本拘束条項)を、買収防衛目的で積極的に活用しようというのはめずらしいかも知れませんが、「契約の譲渡の禁止」をはじめ「合併や○%以上の株主の変動等の際に、サービスの供給者が一方的に契約を打ち切れる」というような条項は、ごく普通の契約書にもよく入っている特にめずらしくもないもの。(例えば、外資系のソフトウエア会社の契約書など。)
change of control条項のデューデリ
合併や買収の際には、買収側の弁護士さんが法務デューデリで、こうした重要な契約書についてチェックをして、change of control条項のチェックをかけていくのも、フツーの話です。
ところが、敵対的買収の際には、こうしたデューデリは行えません。今回の鉄鋼三社さんの場合は、あえてこうした条項の存在をアピールして、「事前警告」する意図なんでしょうけど、そうしたことを公言していない会社でも、そうした条項が隠れている可能性は大いにあるわけです。敵対的買収を行う買収者は、何が入ってるかわからない「福袋」を買うようなもんで、そうした条項のうち被買収会社の経営に重要な影響を与えるものが存在しないだろうという推測に合理性があったということでないと、善管注意義務違反に問われてもしかたがないかも知れません。
あのニッポン放送買収の時には、「ライブドアに買収されたときには、フジテレビからのコンテンツ提供等を打ち切ることも考える」ということがアナウンスされました。しかし、フジテレビからニッポン放送やポニーキャニオンへのコンテンツ提供等については、「グループ内にいるから供給する」という合意が両者間にもともと存在したと考える方が自然でしょう。「コンテンツ等を供給しない」というのは「有事」の買収防衛としての策としてそういうアナウンスをしたというよりは、もともとそういうネイチャーの会社だったとも考えられます。
契約書というものをあまり重視してらっしゃらないギョーカイなので契約「書」がないだろうという推測にはかなりの合理性があったかも知れませんがw、「契約」自体が存在しなかったかどうかが事前に外部から合理的に推測できたかどうかは大変微妙。そのへんを考えずに買収に走ったとのだとしたら、かなり「度胸ある行動」だったと言えるかも知れません。
change of control条項と株価
こうした「change of control」条項を買収対策で公言するのはいいんですが、契約にそういう条項がついているということは、その分、企業の価値としては下がる、という考え方もできるわけで、株価にはあまりいい影響を与えないかも知れないですね。
ちなみに、本日の株式市場は、(このせいかどうか存じませんが)3社とも下げて始まっています。
敵対的買収と企業規模
いつの間にか日本技術開発に対する夢真ホールディングスの買収劇も終わってましたが、あの買収劇の一つの大きな特徴として、「金額が小さい」ということがあったのではないかと思います。
買収がアナウンスされる前の日本技術開発の時価総額は40億円弱。過半数を取るとして「たった」20億円。この程度の金額であれば、いろいろ買収対抗策がほどこされていても、中身がよくわからなくても、”シャレ”で敵対的買収をしかけてくるところが現れてもおかしくないかも知れません。
しかし、企業価値が数百億円とか数千億円ともなると、それを買収する資金は、株式の上場やファンドの投資家から集められているわけで、そこの代表者は、株主や投資家に対して注意義務を果たす責任を負っていることを理解しているはずだし、デューデリも行うはずです。(普通は。)
数十億円規模の会社の買収でも、失敗したら社長が辞任することになるんですから、いわんや、もっとでっかい企業の買収なら、デューデリしないで敵対的に買っていくことが許されるケースは まれ なんじゃないかと思いますが、どうでしょうか。
(ではまた。)
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敵対的買収が増えると言われていること、そして、世間に言われているような防衛策が本当に必要であるのかという点については、私は基本的に賛成なんですが、若干の疑問がないわけではございません。DDをしないでも敵対的買収に価値があると見いだせる状況というのは、きわめて特殊な状況に限られているのではないかと。そして、そのような状況の場合の防衛策として、何も、今話題沸騰中のポイズンピルをいれなくても、その状況に応じた適切な対策があるのではないかと。例えば、ライブドアのケースについて、ホリエモンは、DDをせずとも確実にフジテレビ株が手に入ればいいと考えていたのではないかなと思われるし、また、ニッポン放送側の防衛策としては、別に平時からポイズンピルを導入してなくても、単に、あのいびつな資本構造を変えていればよかった(つまり、ニッポン放送が保有するフジテレビ株を他に移転させてから、グループの再編をすればよかったのではないかと。税務コストがかかりますが、実際に起こってしまったことに比べたら安いもんだと思います。)のではないかなという感じがします。
さらにいえば、今話題の防衛策というのも、行政がガイドラインを出したに過ぎず、裁判所が必ずしも、それに従うという保障はないわけだし(裁判所が従う可能性は高まりますが。)、そのガイドライン自体が、妥当な防衛策とは企業の個別事情によって異なると言って逃げているような感じもすることから、いまいち、企業としては、多額のリーガルコストを出して、ガイドラインで言われているような防衛策を導入する意味がどこまであるのかなという気がするのです。(もちろん、個々の企業レベルではなくて、買収実務全体を考えると、防衛策がどんどん普及していって関連の紛争も増えないことには、判例・学説の蓄積もありえないわけでして、その点からすると、防衛策が定着していってほしいというのはありますが。)